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とうほくIPPOプロジェクトレポート ― モカフルー 斎藤素子さん(福島県 会津若松市) ―

福島県内を東西に走る磐越自動車道。「宝の山」と言われる会津磐梯山や猪苗代湖を過ぎると、緑まぶしい水田と会津若松の市街地が広がります。この会津若松市の郊外、城西町で、とうほくIPPOプロジェクト第1期採択団体として活動しているのが、雑貨店”zakka market モカフルー”の斎藤素子さん。

お店の前には、「手作りしよう! フラッグ・オーナメント」「ワークショップ開催中」の大きな掲示板と、乳幼児向けおむつとおもちゃを組み合わせた「おむつケーキ」がかわいらしく展示され、楽しい雰囲気を演出しています。

 

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木のドアを開けると…、「こんにちは!」斎藤さんが笑顔で出迎えてくれました。

 

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斎藤さんは「雑貨屋さんのココロ*ウキウキ てづくりプロジェクト」として、同市内を拠点に、手作りのワークショップを展開しています。

このプロジェクトの大きなきっかけは、やはり東日本大震災でした。
福島県は地図でみると3地区に分けられます。太平洋に面し、今回多くの人が津波や原発事故で被災した「浜通り」、新幹線が走る「中通り」、そして古い歴史を誇る自然豊かな「会津」。斎藤さんが暮らす会津地区は、津波や原発事故の影響は少なかった一方で、浜通りの住民の避難を受け入れることになりました。

震災のその日、斎藤さんはお店に居ました。大きな揺れを感じ、棚の書類などが次々に落下。その後しばらく大きな余震も続き、建物の外に避難せざるを得ない状況でした。さらに生活環境も大きく変わりました。近所の住民は”生活の足”である車のガソリン不足に悩まされ、その確保に連日奔走していました。会津若松市内をはじめ、近隣の市町村では、体育館や宿泊施設に避難してきた人の受け入れ態勢の整備、支援や物資確保などで多くの人が活動していました。
そんな状態ですから、斎藤さんのお店モカフルーに雑貨を買いに来るお客さんはほとんどありません。「開店休業」のような状態のなか、斎藤さんはずっと「雑貨屋である私にできることはなんだろうか」と考えていました。

「まずは避難してきた方々の生活必需品の確保をしないと!」
国内有数の仕入れ卸問屋の会社が、ネット上に「被災地店舗要望掲示板」を開設。このサイトを通じて、斎藤さんは避難してきた人の現状を発信しました。すると、これまで取引のなかった全国の衣類メーカーなどからも無償で新しい下着が届きました。斎藤さんは送ってもらった物資を会津若松市の社会福祉協議会や避難所に届けました。避難所の高齢者や子供たちのために「使わない将棋や囲碁セット、ゲームがあったらください」「マンガ本もください」と書いた紙を店の前に次々に貼りました。

そんなときふと、長年連絡を取っていなかった葛尾村の友人のことが頭に浮かびました。「彼女はどうしているんだろう」。
葛尾村も避難指示が出て、住民が会津地方に避難していました。
会津坂下町に開設された葛尾村の臨時役場に問い合わせたところ、職員が友人を名簿で探してくれました。そして柳津町に避難していることが判明。なんとか連絡が取れ、家族全員が無事だということも分かりました。斎藤さんは友人に会いに行きます。

友人には小学生の子どもがいて、一緒に避難してきていましたが、子どもたちの避難の状況がとても厳しいことに気づきました。何も持たずに、着の身着のままで避難している子どもがほとんど。「ランドセルも置いてきてしまったの」。そう寂しそうに話す子どももいました。そこで斎藤さんは、子どもたちに、ランドセルやマンガ本、おもちゃなどを届けてもらおうようと、ブログで提供を呼び掛けました。すると、会津若松の人たちが次々にランドセルを持ってきてくれました。新年度の始業式もまじかだったころで、斎藤さんたちは、子どもたちが学校で使うズック入れ、コップ入れなども、一人一人に作ってあげました。

ランドセルや手作りの袋を手に、うれしそうな子どもたち。斎藤さんは「震災で避難してきても、ほっとできたり、笑顔で楽しい体験をさせてあげたい」。そう思いました。
そこで次に頭に浮かんだのが、子どもたちを対象にした「フェルト・ドーナツ作り」のワークショップ。まだ震災から2週間も過ぎない3月20日ごろ、避難所で共同生活をしていた子どもたちを対象に、ワークショップを開きました。フェルトをドーナツ型にまるく2枚切って縫い、綿を入れて、おいしそうなドーナツを作ります。出来上がるとみるみる子どもたちに笑顔があふれていきました。その後もどんぐりのカレンダー作り、布マスク作り、棚作りなどのワークショップを開催。

斎藤さん、そして小野理恵さんと小島奈美さん、モカフルーの仲間は、この経験を生かし、会津若松市内で生活する被災者と地元の人を対象に、とうほくIPPOプロジェクトの支援を受けて「ココロ*ウキウキ てづくりプロジェクト」をスタートさせます。

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                       ( 左:小野理恵さん  中:斎藤素子さん  右:小島奈美さん)

三角形の布を使って旗のオーナメントを作ったり、雑貨と相性がよく、手入れも少なく扱いやすい多肉植物を育てて、自分だけの寄せ植えを作るワークショップを開催。今年も秋に開催を予定しています。

ブログやメールなどで被災者の様子を発信するうちに、南三陸町の仮設住宅などで活動する団体「MSR」や、「りんご野」、長崎県のメーカーなど、多くの支援団体とのつながりができていきました。避難していた子どもたちは、現在は仮設住宅に移ったり、自宅の再建のために会津地方から引っ越していきましたが、今でも交流が続いています。

「手作りのワークショップは、作品を作っている間も、そして出来上がった作品自体も、たくさんの人を元気に、笑顔でいっぱいにします。本当に不思議な力を持っているんですね」。

お店に広がる暖かな午後の日差しの中で、斎藤さんの優しいほほえみがキラキラと輝きました。

■モカフルーのブログはこちら → http://zakka-mocha.cocolog-nifty.com/

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