「とうほくIPPOプロジェクト」支援先活動レポートシリーズは、第5期の支援先である「蒸しパンOnce(ワンス)」神山由佳さんに、お話をうかがいました。
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第5期とうほくIPPOプロジェクトにて支援をさせていただいた、蒸しパンのお店「Once(ワンス)」さんは、石巻市から女川町に向かう幹線道路の道路沿いにあります。交通量は多いものの、まだ新しい洋館風の一軒家の周囲は、津波で建物が流出したため空き地が多く、震災当初はほかにお店などはなく、夜になると明りのほとんどない通りでした。神山由佳さんは、2016年6月にこのお店をオープンし、以来ほぼ一人で切り盛りしておられます。
■どうしてこの場所にお店を構えたのですか?
ここがわたしの生まれ育った町だからです。わたしは、もともとこの近くにあった幼稚園で働いていました。この道の向こう側、海のすぐ近くにその幼稚園はありました。津波で、幼稚園の建物は全壊してしまいました。その年の春に入園予定だったお子さんたちの入園手続きの書類も含めて、すべてを失ってしまいました。
震災直後から、一日も早く幼稚園を再開して元通りの運営ができるようにと、諸々の手続きや書類の作成など事務的な作業に日々追われ、園児たちと触れ合う時間も少なくなってしまいました。
そんな日々のなかから、「わたしはこのままでいいのか」と考えるようになったのです。震災で運よく生き残ったからこそ、自分にしかできないこと、自分だからこそできることをしよう、と模索するようになりました。
■蒸しパンのお店というのはめずらしいですね
はい。以前からお菓子づくりが好きだったのですが、震災後、仕事に精いっぱいでお菓子を作る心の余裕すらなかったことに気づいたんです。それに、このあたりは空き地ばかりになってしまったので、ここに住む人たちがほっとする居場所を作りたいと思ったんです。
それで震災から2年ほど経ったころ、思い切って仕事を辞めました。そして、3年間くらい本気で勉強しました。洋菓子作りやコーヒーの淹れ方を学んだり、カフェで働いたり、各地のお店を視察したりしました。始めはカフェを開こうと思っていたのですが、子どもからお年寄りまで、誰もに好んでもらえる蒸しパンにすることにしました。
そこから材料の配分など試行錯誤を重ねました。家族に何度も試食してもらい、時には父に「まずい」と言われたりしながら、ようやくもっちり感とやわらかさのバランスに納得するところにたどりつくまで、1年くらいかかりました。
(取材にうかがった日は、26種類もの蒸しパンが! 季節や日によってかわるのも
楽しみです。)
■すごい熱意ですね。ご家族も一緒になって応援してくださったのですか。
いいえ。始めの頃、両親は反対していました。それでもわたしが3年間研究と修業を続けているのを見て、とうとう根負けしたみたいです。
場所についても、「石巻市の中心部ではなく、生まれ育ったこの土地でやりたい、震災と津波で建物がなくなってしまって、夜になったら真っ暗なるこのあたりに明かりを灯せたらいいんだけど、貸してもらえるテナントがないんだよね、と話していたら、父のほうから、お店を建てることを提案してくれました。
資金のことなどリスクは気になったのですが、「死んだと思えば、何でもできる!」と覚悟を決めました(笑)。『とうほくIPPOプロジェクト』から調理設備などの購入費用を支援していただけたのはとてもありがたかったです。すごく感謝しています。
【2018年秋取材:KY】
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「蒸しパンOnce(ワンス)」
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