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― こちらに入ると、木の香りがしてとても居心地のいい空間ですね。
建材不足で大変だったのですが、この「ココロとカラダの元気サロン」は、なるべく天然の素材で、と無理をいって建ててもらいました。手に触れるもの、目に入るもの、においも光も、飲んでいただくお茶も、五感すべてに安らげる空間を作りたかったのです。
― 天野さんが行っている活動内容は?
私どもは震災の前は、リラクゼーションやリフレクソロジーのセラピストを養成するスクールを開いておりました。家は若林区にありましたが、仙台市内でもとくに被害の大きい地域でした。生徒さんたちもそれぞれ被災して、家を失ったり家族を亡くした人もいます。
そんな中で、私たちができることは何かと考え、震災後の4月22日には、ベッドとオイルを持って避難所へ出かけ、フットケアやハンドケアを行う活動を始めました。
― そのころはまだ食料やガソリンもなくてたいへんな時期だったのではないですか。
まだ混乱している状況で、活動の立ち上がりとしては早かったと思います。
私たちが不安だったのは、ヘルスケアといってもはたしてみなさんに受け入れてもらえるだろうか、ということでした。でも実際には、「ありがとう」「疲れがとれた」「気持ちよかった」と、たくさんのうれしい言葉をいただきました。
避難所では、手足を伸ばして寝ることも難しくて、そんな中、たとえ30分だけでもベッドに横になってマッサージでリラックスするのは、貴重な時間だったのだと思います。
あれから2年半、ずっと定期的に巡回訪問を続けています。おかげで、今ではみなさんが私たちを娘のように思ってくださっていて、あちらこちらに「お父さん」「お母さん」がたくさんできました。
カルテに蓄積されたデータから、この方は毎年この時期に体調を崩しやすいとか、食習慣の傾向とか、細かいことまでわかるようになりました。糖尿病や高血圧など、さまざまな疾患を抱える方も多いので、ちょっとした体調の変化にも気を配り、必要な場合は医療機関につなぐことも私たちのつとめだと思っています。
― セラピストとしての技術だけでなく、広い知識や経験が重要になりますね。
はい、勉強会が欠かせません。そういう意味では、この活動を通して私たち自身が成長させていただいている、というのが実感です。
これからはからだのケアに加えて、心のケアも重要になってくるのではないでしょうか。震災から時間が経つにつれ、「がんばる」という気力が失われ、先行きの不安で押しつぶされそうになっている方もいらっしゃいます。
ヘルスケアをしていると、いろいろな話がでてきます。「今まで誰にも話したことないんだけど……」というような心の奥底の正直な声にふれることもあります。
私たちは、お話をただただ一生懸命に聞くことしかできませんが、直接からだにふれあい、手のぬくもりを伝えながらケアをしていると、言葉以上に言葉にならない気持ちが伝わってくることがよくあります。ともに歩む、心を寄り添わせる、私たちの行っている手を使った施術には、そういう力があるのかもしれないと思います。
― これから、どんなことをやっていこうとお考えですか。
活動を始めたときに、みなさんが「もう来なくていいよ」とおっしゃるまでやろう、と決めていました。その決心は、今も変わっていません。
でもボランティアの活動を支えるためには、安定した収入も確保していかなければなりません。今、月の3分の1は被災地への巡回訪問に出かけているので、その間、サロンが手薄になっています。今後は、こちらのサロンの営業も軌道にのせ、一人前になったスタッフがプロとして活躍できる場を充実させたいです。また、新規セラピストの募集育成を随時行い、被災地から日本の健康を支えるセラピストを輩出して参りたいと思います。
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「とうほくIPPOプロジェクト」は、責任者・主体者メンバーが女性であることを条件に事業提案を公募し、審査の結果選ばれた個人・団体に支援金を支給して、被災地の産業復興のきっかけづくりにつなげることを目的としています。 詳細は>「こちらをご覧ください。
(取材協力:シュープレス)
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