はじめまして。世界の医療団のラオス小児医療プロジェクトの駐在看護師の木田晶子です。私はラオスの現場で、東京の小児科医による専門的アドバイスのもと、15名のチームと活動しています。
ラオスでは、5歳未満で亡くなる子どもが1,000人中42人もいます(2013年WHO)。日本では1,000人中3人ですから14倍の多さです。「子どもが病気になったら病院に連れて行く」という日本では当たり前のことが、ラオスでは違います。「病気になっても病院には行かない/行けない」のです。お金がない、病気に関する知識がない、病院に行く習慣がない、病院や村落にある保健センターまでの交通手段がない、行ってもスタッフがいない、スタッフがいても満足な治療をしてくれない、など理由はさまざまです。
病院に行かないとどうなるか。子どもたちの病状は悪化し、肺炎や下痢など先進国では治療可能な病気で命を落としていくのです。とても悲しいことですが、これは私たちがラオスで直面している現状です。
こうした状況の下、県保健当局からの要請を受け、子どもたちの命を救うため「ラオス小児医療プロジェクト」を立ち上げたのは2012年10月です。既に3年目を迎えようとしている今、私たちの活動骨子は以下の通り大きく3つです。
①病院・保健センターの医療保健スタッフの小児医療知識・技術の向上
②住民の健康に対する意識を変え、行動に繋げること(養育環境改善による予防など)
③保健省とともに導入した5歳未満児の医療費減免政策の運用と改善
活動の場所は、チャンパサック県にあるスクマ郡とムンラパモク郡。ラオスの中でも開発が遅れている南部4県のひとつにあたり、住民の生計向上が喫緊の課題と言われている2郡です。各郡の基幹医療施設に当たる2つの郡病院と10ヵ所の保健センター計12施設への支援とともに、施設周辺の村落で健康教育など村民に向けた活動をしています。
1年目は、対象医療施設の水道設備の設置改善、小児科医療器具の充実を通して、抵抗力の弱い子どもたちにとって重要となる感染症予防対策を進め、医療スタッフ本格育成に向けた準備を整えました。
加えて、子どもの養育に関連した健康トピックを伝える紙芝居型教材の製作に着手し、各村から選ばれた村落健康普及ボランティアへの教育を開始しました。村落健康普及ボランティアは、村民への意識啓発・知識普及を進める重要な役割を担います。
2013年1月には、対象地域すべての5歳未満児の医療サービスがほぼ無料になる医療費減免政策の運用を開始。村民への情報提供を並行して進めた結果、診察のために病院や保健センターを訪れる家族が増えました。村民の経済的負担を軽減することで、格差なく子どもたちが医療サービスにアクセスできる環境が整ったのです。
しかし、医療サービスを無料化しただけでは、住民がサービスを利用し続けてくれるとは限りません。いざという時に足を運ぶという住民の行動は、満足できる医療サービスが提供されることと、家庭への予防意識・疾病知識の普及のバランスが取れることで持続します。住民の意識が健康に向き始めた今、適正な知識と技術に基づいた、より住民のニーズに沿った医療を提供する必要があるのです。
小児医療という概念がほぼなかった3年前と比較し、医療スタッフの小児医療への意識は飛躍的に高まりました。これからが、知識を実践に移していく正念場です。医療スタッフ教育の強化が急がれます。
2014年10月からはいよいよ3年目。ひとりでも多くの子どもたちが5歳の誕生日を迎えられるよう、現場スタッフみんなでプロジェクトの効果を高めていきたいです。
〈主な活動内容〉
基金は、5歳未満児に対する定期健康診断・外来治療・入院治療・処方にかかる費用を住民が窓口負担せずに済む制度(医療費無償化制度)の運用に使用します。また、それに付随する救急搬送費用や医療施設のメンテナンスなどに対しても基金を使用します。経済力の大小によって医療へのアクセス権が阻害されない社会を実現します。
私たちが活動する農村部では、医師不足のため、看護師が治療や処方をします。現地の看護師を指導するためには、私の知識もリフレッシュしなければなりません。そのため、基金を活用し、日本の小児科医から小児医療の専門研修を受講します。日本への一時帰国時の2014年9月に、8日間の研修実施を予定しています。そして、その研修で得た知識と技術を、ラオスのフィールドでの医師や看護師への指導へと反映させていきます。
〈期待される効果〉
ラオスでは一部の地域での試験的導入程度にとどまっている5歳未満児への医療費無償化制度(住民にとって医療サービスが窓口負担なしに実質無料で受けられる仕組み)。本プロジェクトではこの制度の本格導入事例を作り、ラオスの他地域への波及に貢献したいと考えています。
村落では、医療的には必要ない場合でも薬の処方がなければ満足しない住民がいます。副作用を恐れてワクチン接種を倦厭する人たちも少なくありません。住民への継続的な教育啓発なしには、地域の大人が正しい知識を持つことはむずかしいのです。また、医療スタッフは、高次医療施設に患者を搬送する必要性などを的確に判断できなくてはならず、各医療従事者がそれぞれの役割の中で期待される一定レベル以上の知識と技術を持っていなくてはなりません。
この基金を活用し、5歳未満児への医療無償化制度という保健省との協働事例を作るということは、単に経済的支援を行うことではなく、地域の大人たちが子どもたちの命を守るために行動をするよう働きかけ、一定レベル以上の知識と技術を持つスタッフを育て、必要な時に住民のニーズに応える地域医療体制を構築するということです。つまり医療の提供者とサービス利用者(住民)との間に信頼関係を構築するということに他なりません。
住民が「子どもが病気になった時には、何か困った時には、またここに来よう」と思えるようになって初めて地域医療は持続し、ラオスの「5歳未満児の疾病率・死亡率を下げる」ことに繋がると期待しています。
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