こんにちは、フェリシモしあわせ共創事務局のFukuです。
フェリシモの部活動の一つとして2020年に始まった「ミュージアム部」は、これまでさまざまなミュージアムの魅力を楽しむための視点を、商品を通して投げかけてきました。「ここがおもしろい」というメンバーならではの作品・展示物の楽しみ方や、「ミュージアムグッズを暮らしの中でも楽しんでほしい!」という思いから商品づくりを行っています。
今回は「ミュージアム部」の立ち上げメンバーである、内村彰さんと近藤みつるさんにこれまでの歩みや、情熱がつまった商品づくりについて、お話をお聞きしました。
話し手:内村彰さん、近藤みつるさん
聞き手:フェリシモしあわせ共創事務局
Q1、まずは、お二人の過去の経歴から現在担当されているお仕事について教えてください。
内村:カタログなどのメディア制作部署を経て商品企画へ異動し、レッスンキット「ミニツク」の企画を行なっていました。ある時、写仏を体験する機会があり、「こういう心の整え方があるのか!」と気付かされ、写仏を気軽に体験できる「プチ写仏プログラム」を企画してみたんです。そこから、お寺文化に関わる商品づくりが増えていきました。2014年には「お寺文化から心豊かな暮らしのヒントを探す」というコンセプトの部活動、「おてらぶ」も立ち上げました。現在は生活雑貨事業部で「おてらぶ」と「ミュージアム部」のリーダーを務めています。
近藤:私は、女性用インナーや子ども服の部署で商品企画を経験した後、メディア制作の部署へ異動。雑貨カタログの編集長や、新聞広告・TVCMなどの広告制作を担当後、現在は、ウェブサイトやSNSを中心とした、デジタルコミュニケーションを担当するチームに所属しています。
Q2、商品企画やカタログ制作など、異なる部署を経験してきたお二人が「ミュージアム部」の仲間に。何がきっかけで、この部活動は始まったのでしょう?
内村:実は、「おてらぶ」がきっかけの一つなんです。以前「おてらぶ」にて、仏像関係の企画展からのご依頼で、仏さまの頭髪「螺髪(らほつ)」を立体的に編み上げた「らほつニットキャップ」というものを、ミュージアムグッズとして作りました。この商品の着眼点やクオリティに、多くの方が興味をもってくださり、大変話題になりました。そして、これをきっかけに、仏像関係以外のミュージアムグッズの制作依頼をいただくことが増えていきました。ですが、もともと「おてらぶ」はミュージアムグッズ専門のチームではなく、お寺文化にまつわる活動をしている部。せっかくお声かけいただいても、お断りすることも多くて………。次第に「ミュージアムが好きな人たちを、集めたらいいんじゃないか?」と考えるようになり、社内で興味のある人がいないか呼びかけてみたんです。
近藤:私はミュージアム鑑賞も、ミュージアムという場所そのものも大好きだったので、内村さんの呼びかけに、すぐ手を挙げました。
内村:僕は仏教美術や彫刻などの立体作品が好きで、そういった特別展やミュージアムにばかり通っていたのですが、ミュージアム部設立の声掛けで集まった仲間たちの話を聞いているうちに、いろんなジャンルに興味を持てるようになりました。
Q3、ミュージアム部のメンバーは、どのような方々がいるんですか?
近藤:西洋美術が好きでアートナビゲーターの資格を持っている人もいれば、アートよりも文学に興味があって、文学館や生家を訪れるという人もいます。私は、個別のジャンル以上に、企画展の切り口や視点など”編集の組み方”に興味があります。内村さんは仏像以外に土器のような歴史ある遺物に惹かれるようですし、ミュージアム部とひとくくりに言っても興味の方向性は、本当にみんなさまざまです。
Q4、いろいろな視点が集まる中で、ともに目指していることはどのようなことでしょう?
近藤:まずは、私たちの商品をきっかけに興味を持ってもらうことですね。例えば、実物大を再現した商品を作ることで「こんなに大きいんだ!」という驚きが生まれます。そして、この驚きを興味の入り口にしつつ、より掘り下げた魅力が伝わるように、商品の細部などにこだわって企画しています。さらに、商品そのものだけでなく、付属する情報カードや「note」などのウェブメディアなども使って、ミュージアム部では興味を膨らませていただこうとしています。
そして、最終的には、その作品や所蔵品などを実際に見るために、ミュージアムへ足を運んでほしいと考えています。
Q5、商品は、どのように企画をされているんですか?
内村:最初のころは、週に一度みんなで好きなものを持ち寄って紹介したり、最近見た展覧会や訪れた美術館の話など、いろいろ雑談をしながら、こんなグッズがあったら楽しそうという話をしていました。そんな時「御大典記念 特別展 よみがえる正倉院宝物 ―再現模造にみる天平の技―」展という修復師さんたちの技術に注目する展覧会のお話をいただきました。この商品企画が部として最初の企画でした。
近藤:この企画展の目玉に、正倉院の宝物「螺鈿紫檀五絃琵琶(らでんしたんのごげんびわ)」再現模造もあり、本当にすごく美しいんです。「この感動を毎日の暮らしの中でも感じていたい!」と生まれたのが「模造 螺鈿紫檀五絃琵琶エコバッグ&ポーチ」です。暮らしの中で使えるグッズにすることを大切にしました。この商品は多くの反響をいただき、部の発足後早々に、ミュージアム部の存在を多くの方に知っていただきました。
Q6、宝物は美術館や博物館でしか見られない貴重なもの、というイメージですが、形を変えて日常に取り入れられるようになるのは、おもしろいですね。その後、どのような企画が生まれてきたのですか?
近藤:ミュージアム部では、基本的に各部員の「好き!」「面白い!」の熱量から商品の企画をします。
私の“好き”を具現化した商品でいうと、思い出深いのが「虎子石もっちりポーチ&おすわりクッション」です。かねてより個人的にファンだった東京の浮世絵専門美術館・太田記念美術館さんのX(当時Twitter)のアイコンだった虎子石。江戸時代、浮世絵師・歌川芳員が想像で描いた珍獣で、愛らしい姿はもちろん「浮世絵師ってなんで自由な発想で絵を描くんだろう!」と大好きな作品でした。そこで、この思いを部の企画会議で発表。虎子石を私に教えてくれた太田記念美術館さんにコラボを申し込み、企画が実現しました。
近藤:このグッズを通じて、虎子石のかわいさはもちろん、そんな虎子石を生み出した絵師の想像力や、浮世絵というジャンルの面白さ。そして、この面白さを発見・発信しているミュージアムにも興味を持っていただきたいと願っています。
Q7、では、内村さんが手がけた商品をいくつか教えてください!
内村:僕は立体作品をもとにした商品を企画することが多いですね。観に行ったものを家に持って帰れるって、すごくワクワクするじゃないですか。特に、ガラスケースに入っていて絶対に触ることができないもの持って帰れたら……?という願望のようなものもあって、「第75回正倉院展」ではミュージアムグッズとして、蘭奢待(らん観にじゃたい)という巨大な香木(沈香)をクッション化してみました。蘭奢待は複雑なカーブがあり難しい形状をしていて、実物はところどころ人の手によって切り取られたような跡が残っています。これはかつて足利義政や織田信長、明治天皇などが截香(香木を切り取ること)したから。そんな特殊なフォルムの本物に近づけようと、カーブなどを含めた再現を試みました。大きさは実物の1/2スケールです。
内村:また、これは日本の土器で一番有名な「国宝 火焔型土器」を商品化したもの。火焔型土器は、縄文時代中期(紀元前3,400~2,400年頃)の中頃に、現在の新潟県あたりで栄えた土器様式です。立体感にあふれた文様や均整の取れた造形がとても美しいんですね。この「国宝 火焔型土器」は教科書にもよく出てきます。原寸であることや文様をなるべく正確に再現することにこだわったのですが、本来土器は煮炊きをするために使われていたもの。この仕様で煮炊きの役割まで取り入れるのは難しかったので、サイズを小さくしてランチバッグもつくってみました。博物館の場合、来場してもらうというハードルと、じっくり見てもらうというハードルがあって、その二つを超えて初めて、「この土器はどうやって使われていたのか?」という興味を持たれる方が多くて。でも先に商品に出会うことで、土器への興味が芽生え「新潟まで実物を見に行ってみようかな」というように、行動につながっていくことがあるんです。商品が、ミュージアムへ足を運ぶ新たな入り口になるんですね。
Q8、作品や所蔵品をもとに企画した商品以外に、ミュージアム部ならではの商品があるんですよね?
近藤:“ミュージアム好きあるある”から企画した商品たちです。部員たちの「ミュージアムへ行くときにあったらいいな」という思いや、お客様へのウェブアンケートなどから商品化しています。「ミュージアムにはおしゃれをしていきたいけれど、ヒールで足が疲れてしまったり、鑑賞中に靴音が気になってしまう」というお声から、「ミュージアム部 美術館に履いていきたい音が響きにくいTストラップシューズ」を企画。おしゃれでありながら、音が響きにくく歩きやすいシューズが完成しました。
近藤:「ミュージアム部 クリアファイルを絵画のように楽しむ マイミュージアムトートバッグ」も、展覧会へ行くと記念にクリアファイルを買ってしまうけれど、結局使い切れず家に眠っている……というミュージアム好きならではの悩みから生まれました。額縁風の外ポケットにクリアファイルを入れることで、大好きな作品と一緒にお出かけできるようになっています。
Q9、ミュージアム部の商品づくりならではの、むずかしいことはありますか?
内村:作品の魅力を伝えるために「実物に近づけたい!」という思いが強いですが、どこまで近づけるかは、いつも悩みどころです。学芸員さんから監修を受けることで、正しい情報を商品に付加することができますが、本物通りにするという姿勢と、暮らしに取り入れられる商品を目指すという姿勢の絶妙なバランスを模索することは、むずかしいです。でも「この素材、この形が限界です」と、すぐ伝えてしまうのは自分も嫌なので、どうにか再現できないか?と、いつも模索しています。
近藤:ミュージアム部の商品は、日々の暮らしの中で楽しんでいただくためのものなので、この落としどころは難しくも重要なポイントですね。
Q 10、では最後に、今後の活動について教えてください。
近藤:まだオープンにはできないのですが、これまでのミュージアム部になかった新テーマの企画が進行中です。ぜひ楽しみにお待ちください!
内村:ミュージアム部の商品は、ふだんは触れない作品の実物大であったり、絵柄の細かいところや筆のタッチなど、作品の特徴を商品を通してより深く体験できることを心がけています。何かしら作品を見るきっかけになるポイントを、一つは必ず取り入れたいなと。それを知ることで、今まで観たことがあった作品だったとしても、また違った見方で楽しむことができるはず。その思考を大切にしながら、日常に寄り添える商品をつくりつづけていきたいです。
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