こんにちは、フェリシモ基金事務局のfukuです。
お客さまが自分で手づくりした世界で一つだけのぬいぐるみを、子どもたちのもとへ届ける「ハッピートイズプロジェクト」。立ち上げから約30年と長く続くプロジェクトですが、はじまりは阪神淡路大震災後の1997年にお客さまに呼びかけた「おうちに眠っている思い出の布を10cm角にカットして送ってくださいませんか」というひと言でした。すると全国から布が集まり、その数なんと3万枚。集まった布を前に、「この布でぬいぐるみをつくり、そのぬいぐるみでクリスマスツリーをつくったら、神戸のみなさんが喜んでくれるのではないか?」というアイデアが生まれました。
そこから約30年、「ハッピートイズ」は今もつくり手であるお客さまと、貰い手である子どもたちを繋ぐ「笑顔の親善大使」として、66,000体以上が60の国と地域に届けられています。今回は、現在「ハッピートイズプロジェクト」の運営に携わっている湯本京子さんと伊藤正紀さんへ、プロジェクトへの熱い思いと未来について、お話をお聞きしました。
話し手:湯本京子さん、伊藤正紀さん
聞き手:フェリシモ基金事務局
Q1、改めて「ハッピートイズプロジェクト」の始まりについて、教えてください。
湯本:きっかけは、1997年にお客さまへ呼びかけた「おうちに眠っている思い出の服などをカットして送ってくださいませんか」というメッセージでした。すると3万枚もの布が届いたんです。この布を使って何ができるだろう?と考えていたとき、「神戸ルミナリエ」が開催されるという話を耳にし、「私たちはこの布を使って、ぬいぐるみを作ったらどうかしら? それをクリスマスツリーに飾ろう!」というアイデアが、ひとりの社員から寄せられました。「これで神戸のまちの人に灯りと笑顔を届けたい」と、「クマのぬいぐるみを作ってくださる方、大募集!」とお客さまに呼びかけました。すると、1000人を超えるお客さまが「作りたい!」と手を挙げてくださって、1100体ものぬいぐるみが完成しました。ぬいぐるみはハッピーベアと名付け、当時本社を構えていた神戸朝日ビルのピロティにツリーをつくり展示したんです。展示終了後は、神戸の保育園や幼稚園へハッピーベアを寄贈。これが「ハッピートイズプロジェクト」のスタートです。
Q2、素敵なアイデアですね。「ハッピートイズプロジェクト」へは、どのように参加できますか?
湯本:型紙がついた「参加セット」を購入していただいたらどなたでも参加いただけます。お手持ちの布を使ってパッチワークでつくるハッピートイズのほか、2005年からは、お客さまからの要望を受けて編み物でつくる「編みぐるみ」も誕生しました。手づくり初心者の方にも気軽に参加していただけるように、最近では靴下や手袋でつくる「くつした&手ぶくろシリーズ」も生まれました。初めはお客さまから布を寄付していただいていたのですが、4年目からは参加セットを販売する現在のスタイルになりました。できあがった「ハッピートイズ」は翌年の3月まで寄贈を受け付けていますが、クリスマスに間に合った作品は、今年は関西では神戸ファッション美術館、関東ではJR日暮里駅の構内でおひろめ展示を行なっています。みなさん同じ型紙でつくるのに、できあがったぬいぐるみは一つひとつ全く違っていて、みんなとってもかわいいんです。編みぐるみの場合、糸の太さや、強く編むか緩く編むかで大きさも変わりますし、綿の入れ具合で抱きしめたときのやわらかさも違うんです。表情も目の位置ひとつで変わったり、ウインクをしている子がいたり、つくり手のこだわりが感じられます。きっとつくり手の方々は、自分がぬいぐるみを抱っこしていた時代を思い出しながら、どんな子が受け取ってくれるだろうと思いをはせながら作られているんだろうな、と思います。おひろめ展示でずらっと並んだ時の様子には、とても感動します。
Q3、ハッピートイズは、世界で一つだけの作品ですね。毎年、トイズとなる今年のキャラクターが決まっていますが、どのように決まるのでしょう?
伊藤:キャラクターの企画は毎年「クチュリエ」が担っていて、その時々の世相を踏まえた思いを込めて決めています。例えば、どこかの国で戦争があったり、自然災害があったり……悲しい出来事があった年はなおさら、翌年こそ「みんなが笑顔でしあわせに暮らせますように」という想いを込めています。キャラクターの動物は、干支も参考にしています。動物が決まっても、そこから、どのようなデザインにするか試行錯誤。ぬいぐるみ作家の方に何度もサンプルを作っていただき、検討を重ねていきます。ちなみに2023年のキャラクターは「ほっこりおちゃめな アヒルちゃん」です。コロナ禍を経て、次第に世の中が落ち着いてくのではないかという気持ちを胸に、家族のつながりを感じ、あたたかい気持ちになれる動物を選びたいと思ったんです。アヒルは群れをつくって行動するイメージがあり、おしりをふって歩くユーモラスな姿や情景を思い浮かべながら話し合っていきました。
Q4、毎年何体ぐらいの「ハッピートイズ」がつくられているんでしょうか?
湯本:年によって違うのですが、一番多い年は、4000体を超える「ハッピートイズ」が届きました。ちょうど2011年の東日本大震災の後だったと思います。自分の好きなことで誰かを笑顔にできるということが、手づくり好きのお客さまの心に響いたのかもしれません。
お客さまの中には、「ハッピートイズ」にお手紙を添えて送ってくださる方もいるんです。「一つは自分の子ども用に、一つは世界の誰かのためにつくっています。子どもにも『一つはどこかのお友だちのところに届いているからね』と伝えて渡しています」と書かれていたこともあります。今までこの取り組みに携わってきた担当も同じように感じていたと思いますが、私も、参加いただいているお客さまのあたたかな思いと製作いただいた貴重な時間が込められている、大切な預かりものを、しっかりと子どもたちにお届けしなければ、とハッピートイズを見るたびに気合が入ります。
Q5、寄贈先は、どのようなところにお贈りしていますか?
湯本:今年は国内では71ヵ所の保育園や児童関連施設へお贈りしました。お手元に届いたところからは、続々と喜びのお声を頂戴しています。コロナ禍に入ってからは海外への寄贈は難しかったのですが、今年はハワイのマウイ島へ300体の「ハッピートイズ」をお贈りすることができました。
Q6、かわいいです! 本当に1体ずつ、全然印象が違いますね。これまで海外はどのようなところへ、寄贈されているんですか?
湯本:昨年の春はウクライナの子どもたちや、トルコ・シリア大地震の被災地の子どもたちへ寄贈することができました。コロナ禍以前で言うと、2018年にはウガンダ共和国へ、2019年にはレバノンのパレスチナ難民居住区で暮らす子どもたちなどへお贈りしています。パレスチナ難民の子どもたちへは、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)さまを通じて寄贈できることになり、UNRWAの小学校約60校の子どもたちへ、1万1000体をお届けすることができました。この経験から、本当に世界にはまだ知らない現実がたくさんあると、改めて気づかせてもらったように思います。お客さまにとっても社会のできごとを知っていただく小さなきっかけになったらいいなと思いますし、おこがましいですが「自分で何か行動してみよう」というきっかけをつくる役割を、このプロジェクトは担えるのではないかと考えるようになりました。もちろん私たちは戦争を止めることもできないですし、どちらかの側に立つことはできません。でも、その渦中にいる子どもたちを笑顔にすることなら「ハッピートイズ」でできます。笑顔をつくることで、しあわせに生きていくための小さなお手伝いができるのではと思いますし、していきたいです。
Q7、まずは小さな支援から。子どもたち一人ひとりに笑顔や安心を与えられる「ハッピートイズ」の役割は、確実にあると感じます。このプロジェクトの中心として関わるようになって、どのような課題を感じていますか?
湯本:プロジェクトが長く続いている間に、いわゆる発展途上国と言われていたような国々も、どんどん経済発展をしていて、輸入規制が厳しくなっている国も増えました。しかしその国の中にもまだ貧困に苦しんでいる人はいて、そんな子どもたちにも「ハッピートイズ」を届けたいんです。例えば「ハッピートイズ」はぬいぐるみなのでおもちゃの輸入に該当するのですが、各国に衛生面なども含めた規格があるわけです。でもこれは、ハンドメイド品なので工業製品と同じレベルの品質を求められてもむずかしい。10年前は寄贈ができた国でも、今では規制が厳しくなっていて簡単に寄贈が叶わず、どうにか方法がないか、現地の方々と試行錯誤を重ねています。こういう状況もふまえながら、今後どのような形でこのプロジェクトを続けていくか、新しい形で発展させていくか、大きな転換期を迎えていると感じています。
伊藤:国内の寄贈先探しも、課題の一つです。現在WEBサイトでも寄贈先を受け付けていますが、応募してくださる団体さまはまだまだ少ないので、もっとプロジェクトを知ってもらう必要があるし、今はその発展途中だと感じています。毎年、神戸ファッション美術館や東京の日暮里駅でおひろめ会をしているのですが、「神戸に住んでいるのに知らなかった」という声を聞くことも。知ってもらえたらたくさんの方に賛同していただけるプロジェクトだと思うので、もっと努力しなければいけないなと。
Q8、長く続いていても、常に課題を見つけ取り組まれているのですね。では、お二人が続けこられて、個人的にうれしかったことを教えてください。
湯本:海外の届け先の中には、目の前で両親を亡くしたような子どもたちもいるんです。祖国を逃れて暮らしている中で「ハッピートイズ」をもらった時に、初めてその子が笑顔を見せたということを、現地のNGOのスタッフの方からお聞きしました。そのとき、うれしいという気持ち以上に、ほんとうに胸が熱くなりました。あと、忘れられないのが、おひろめ会の準備をしていた時のこと。神戸でも東京でも、通りがかった方々が駆け寄ってきて「かわいい!」と言って間近で見入ってくださったり、「また見に来ます。私がつくった子も、ここに飾られるのかな」など、声をかけてくださるんです。実はプロジェクトの運営を引き継いだ当初、長く続いているからこそ、なぜこれが必要なのか?という声もあり、これまでどおりに続けていくべきかどうか悩んだ時期もあったんです。でも、こうやって関わる方々の声を聞くことで、やっぱり必要だと確信することができました。以前ウガンダへ寄贈する際は、現地からは求められているのにも関わらず、輸送費が想像以上に高いためになかなか実現できなかったのですが、クラウドファンディング型のポイントプログラム「メリーファンディング」を通して、1000体分の輸送費をお客さまへ募ったところ、当時のメリーファンディングでは最速で目標達成したんです。その時お客さまからいただいたコメントが「困っていたならもっと早く言ってくれたらよかったのに」というもので。フェリシモのお客さまは、本当に素敵な方ばかりだなと感激しました。こんなにたくさんの方の思いや応援を受けてきて、関わるみんながハッピーになれる、そんなプロジェクトだから、今はもう、やらなければならない!という使命感であふれています。
伊藤:実際に寄贈する保育園へ届けに行ったことがあるのですが、子どもたちの笑顔を見て本当にうれしかったです。おひろめ会の展示会場では、みなさんがたくさん声をかけてくださるんですね。まさに「ともにしあわせになるしあわせ」というか、つくる人・あげる人・もらう人、みんなが「ハッピートイズ」を通して繋がりしあわせの循環が生まれているんだと実感しています。
Q9、今後は、どのように続けていきたいですか?
湯本:「クチュリエ」でプロジェクトを引き継いだ当初、部長が「ハッピートイズがいらなくなる世界になることが、最終ゴールなのでは?」と話していたことがあったんです。世界が平和でみんなが笑顔になるのが究極の「ハッピートイズ」の役割かもしれない、と。でも最近、少し考え方が変わってきました。この手づくりのぬいぐるみで笑顔になるのは、悲しい思いをしている子どもだけでなく、すべての子どもたちなんじゃないかなって思うんです。スタートが震災後だったこともあり、辛い思いをしている子どもたちのためのものというイメージが、私たちの中にもつくり手のお客さまの中にもあったと思いますが、心がホッとする癒しの存在である「ハッピートイズ」は、大人も含めすべての人にとって意味のあるものではないかと考えるようになりました。だからこれからも「ハッピートイズ」の役割はなくならないのではと考えています。いろんな課題もありますし、未来を考えたときに、贈りものの形はぬいぐるみから変わる日が来るかもしれません。それでもつくり手の方が楽しんで心を込めて手づくりをして、受け取る人もハッピーになる、新しいハンドメイドギフトのあり方を時代に合わせてみんなで一緒に考えていけたらと思います。
Q10、最後に「ハッピートイズプロジェクト」から読者のみなさまへ、メッセージをお願いします!
湯本:「ハッピートイズプロジェクト」は、世界中に笑顔の花を咲かすことを目標にしています。世界地図を思い浮かべた時に、パッパッパッと「ハッピートイズ」が届いた先々で笑顔の花が咲く。その花で地図が埋め尽くされたらいいなと思っています。「うちの保育園でも、もらえるんだろうか?」と応募を躊躇していた方々がいらしたら、ぜひご連絡ください。つくり手の方の思いが詰まった「ハッピートイズ」を届け、笑顔の花束をつむいでいく役割をしっかり果たしていきたいと思っています。
ハッピートイズプロジェクト
全国のみなさまによって手づくりされるぬいぐるみ「ハッピートイズ」。各地でおひろめされた後、国内外の子どもたちに贈られます。あなたの手づくりが世界の子どもたちを笑顔にする、そんなプロジェクトに参加してみませんか。
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