こんにちは、フェリシモ基金事務局のmotoです。
フェリシモには、お買い物をすると貯まる「メリーポイント」を使ってご参加いただける13の社会貢献プログラムがあります。その中で、2003年から続いている「盲導犬育成支援」は、お客さまのお声から誕生し、20年経った現在もメリーポイントで参加いただける基金プログラムのなかで上位に入るご支持を集めています。
視覚に障がいがある方の外出時の安全な歩行をサポートをする盲導犬は、育成のための訓練費用だけでなく、実際に盲導犬としてデビューしたあとのサポート費用なども必要です。ほかにも、盲導犬の存在を多くの方に知っていただくための広報活動など、盲導犬と盲導犬ユーザーさまを幅広くサポートするさまざまな取り組みに対して、フェリシモの「盲導犬育成支援」で集まった基金を活用していただいています。
今回は基金の拠出先である全国盲導犬施設連合会さまと、実際に盲導犬を育成している兵庫県盲導犬協会さま、そしてPR犬のデューちゃんにお越しいただきました。まだまだ知らないことも多い、盲導犬の訓練やお仕事の様子を、詳しく教えていただきました。
話し手:伊東紗知さん、大森千沙理さん(全国盲導犬施設連合会)、濱名さやかさん、小南明日香さん(兵庫県盲導犬協会)、武智直久さん(フェリシモ)
聞き手:フェリシモ基金事務局
質の高い盲導犬を育てるために活動する、全国盲導犬施設連合会
伊東:全国盲導犬施設連合会は、主に、加盟している全国8つの盲導犬協会へ盲導犬育成のための助成をしたり、歩行指導員や盲導犬訓練士の認定機関としての働きをしたりしています。8つの盲導犬協会で同じ質の盲導犬を育成するには、訓練士の知識と技術がとても重要です。連合会は、資格認定だけでなく、各協会が一堂に会する機会を設け情報を交換し、より質の高い盲導犬を育てられるように、サポートしています。
2003年に身体障害者補助犬法が施行され20年が経ちましたが、世の中ではまだ十分に盲導犬について理解されていません。そのため、イベントや広報冊子などを通じて、盲導犬の普及や啓発にも力を注いでいます。
伊東:現在盲導犬を希望している方は、日本に約3,000人いらっしゃると言われていますが、実際に活躍している盲導犬は796頭です(2024年3月時点)。まだまだ数が足りていない状況なんですね。というのも、育成したすべての犬が盲導犬になれるわけではなく、適正審査を踏まえて全体の3〜4割程度の犬が盲導犬としてデビューするのです。そのほかの犬は、キャリアチェンジ犬といってPR犬として盲導犬の広報活動で活躍したり、一般のご家庭で家族として迎えられたりと、さまざまな道を歩みます。今日一緒に来たデューちゃんは、適正審査でPR犬の道に進みました。
武智:先ほど身体障害者補助犬法が成立し20年というお話がありましたが、フェリシモで基金活動をはじめたのも、本当に同じタイミングですね。お客さまからのリクエストで始まった基金活動であり、多くの方の「フェリシモに取り組んでほしい」という想いに応えることは、私たちの考える「ともにしあわせになるしあわせ」の具現化につながっているように感じています。
成功体験を重ねることで、盲導犬の仕事を“楽しい”と感じてもらう
伊東:まず盲導犬は、盲導犬に適した血統を持つ繁殖犬から生まれ、子犬を育てるボランティアのパピーウォーカーさんのご家庭で1歳頃まで暮らします。
濱名:パピーウォーカーさんには、「愛情をもって、メリハリをつけて接してください」とお願いしていて、トイレトレーニングなど基本的なことだけでなく、人間社会の勉強も始めます。デューちゃんは、今日PRコートという黄色いコートを着ていますが、子犬たちも社会勉強の際には、「勉強中」と書かれたパピーコートを着用します。事前に許可をいただいて駅構内やショッピングモールを歩いたり、人間が普段出かける先へ連れて行ってもらったり、総合的に社会勉強をしていきます。そして1歳になると、盲導犬協会へ。犬の素質を見極めるための適正審査を受けます。例えば、急に傘を広げた時の反応やクラクションが鳴った時の反応など、各犬の傾向を測って、総合評価をしていきます。警戒心が強すぎる子や、すぐに攻撃性が表れる子、マイペースすぎる子や、好奇心が強い子は、盲導犬には向いていないのでキャリアチェンジしていきます。
伊東:盲導犬の仕事は、大きく分けて3つあるんですね。一つ目は角で止まって、盲導犬ユーザーに「ここは角だよ」と教えることです。二つ目は、段差で止まること。そして三つ目が障害物を避けることです。木や柱だけでなく、前から自転車や人が来た時にきちんと避けることが求められます。
濱名:この3つのことを徹底してできるようになるために、1年かけて訓練をしていきます。初めはわかりやすい三角コーンとバーを障害物に見立てて、リードを目の前に垂らして避けて歩くように誘導し、練習をしていきます。上手くできたら、「グッド!」と褒め、好きなおもちゃを渡して「楽しかった」と印象付ける。難易度の低いものからはじめて成功体験を重ねることで、この仕事が楽しいと思えるように訓練を進めていきます。犬によって好きなものが違うので、「この犬は何を楽しいと感じるのか」ということを、一頭ずつ向き合って探る力が訓練士には求められます。その判断を臨機応変に迅速にできる人が、訓練士には向いているように思いますね。
伊東:盲導犬ユーザーの方に犬との歩行や生活の仕方を教える歩行指導員と、犬の訓練を行う盲導犬訓練士という二つの職業があり、盲導犬ユーザーの方に質の高い盲導犬をお渡しするには、時間をかけて指導員と訓練士を育てることが大切なんです。
盲導犬ユーザーと盲導犬が、お互いのできることを発揮しながら歩いていく
濱名:訓練に慣れてきたら、次第に舞台は街中へと変わっていきます。ただ、街中とひと言で言っても、田舎や閑静な住宅地、都会、と条件はさまざま。徐々に情報量を増やしていき、障害物のレベルが高い都心へと挑戦していきます。訓練を重ねることで、犬も「これはきっと避けるもの」というように自分で判断できるようになるんです。ただ、信号のように色で判断するものは、目で見て判断ができません。彼らは景色を、白黒に青や緑がかかったような色合いとして見ているそうです。そのため、「赤になったから止まる」という判断をすることはできず、まず横断歩道を曲がり角として覚えて、止まるポイントとして認識します。進むかどうかは、ユーザーである人が、車の音や風向きなどの感覚で判断するんです。ですから、たまに車が来ていることに気づかず「ストレート」と、進む指示を出すことがあり、そういうときは盲導犬のほうが危ないと感じて、立止まるんです。これは不服従という動作です。
伊東:訓練を終えたあとは、実際に利用する盲導犬ユーザーの方と共同訓練が始まります。やはり犬と人にも相性があるので、この人とこの犬ならマッチングしそうというペアが決まったら、盲導犬協会に1ヶ月宿泊してもらい、一緒に訓練を重ねていきます。ブラッシングやシャンプーなど日々のお世話の仕方や、歩き方や接し方などすべてを学んで、お互いの信頼を築いていくんです。共同訓練を終えると卒業ですが、1ヶ月という短い間では覚えきれないこともあるので、二人で協力して歩きながら、互いに成長していくという流れになります。盲導犬協会のフォローアップとして、実際に盲導犬と過ごしはじめて困ったことがあれば出向いてサポートしますし、犬の健康管理なども引き続き見守っていきます。盲導犬としてのデビューまでは、とてもながい道のりです。でも訓練をして、犬の個性を抑え込んで盲導犬にするのではないんです。「盲導犬としての仕事が楽しい」と感じる子に、盲導犬としてデビューしてもらうことを大切にしています。
“盲導犬がいることが当たり前”な社会を作るには?
伊東:視覚障害者の方が社会にでるために、盲導犬でなく白杖を使うという選択肢もあります。白杖は歩き方を学べば、障害物や角なども認識しながら歩くことができますし、盲導犬に比べて手軽なんですね。でも盲導犬の場合は、目の前の障害物だけでなく高さのあるものも障害物として認識してくれるので、より安全に街を歩けるようになるんです。ある盲導犬ユーザーの方の言葉でとても印象的だったのが、「風を切って歩けるようになった」という言葉。その方は、以前は一歩一歩確かめながら歩いていましたが、盲導犬を得て、盲導犬が障害物を避けてくれることを信じて歩くことで、目が見えるかのようにスタスタと風を切って歩けるようになったと話してくださいました。これは大きな環境の変化だと思いますし、こう感じていただけるのは盲導犬だからこそだと思います。そのためにも利用できる人を、より増やせるようになりたいと思いますね。
ただ、身体障害者補助犬法が施行されて20年が経った今でも、お店での入店拒否が多いのが現状です。視覚障害者の方が盲導犬を得て、やっと外に出やすくなったのに、盲導犬がいることでお店やタクシーを利用できない。法的には同伴ができるのに、法律自体が知られていないことや、「受け入れなければならない」というネガティブなイメージを持たれることも、まだまだあります。おそらくデビューまでの道のりを理解してくださった方は、盲導犬もユーザーの方も多くの訓練を経てきちんと準備をしていることがわかると思います。お店も、何か特別な対応が必要ということはありません。背景を理解していただき、盲導犬がいる世界がもっと当たり前になったらと願っています。そうすることでみなさんがともにしあわせに過ごせる、そんな社会が一番いいなと思っています。
武智:本日お話をお聞きして初めて知ることもあり、ますは「盲導犬についてお客さまに知っていただく機会」を新たに作れたら、そこから深く関心を持ってくださる方が増え、社会に広がっていくように思います。いつかフェリシモとして、そういう活動もできたらいいなと思います。
伊東:そうですね、本当にまずは盲導犬のことを知っていただいて。もし困っているような盲導犬ユーザーさんがいらっしゃれば、お声がけをしてくださるなど、ユーザーさんも盲導犬も歩きやすい社会になったらうれしいです。盲導犬を通じて視覚障害者の方への理解が深まったらうれしいですし、みんなで一緒に、盲導犬のいることが当たり前の社会をつくっていけたらいいなと思っています。
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