2023年11月に開催した「UNICOLART YUMEKARART(ユニカラートのユメカラート)~ここからはじまるチャレンジドアート展~」とその展覧会のインスタライブの模様をライターさんにレポートしていただきました。
「なんてあたたかい空間なんだろう。ギャラリーに差し込む西陽がそう思わせるのだろうか。」
そこに足を踏み入れた瞬間、私はそんなふうに思いました。でも、今なら分かります。
そのあたたかさは西陽によるものではなく、たくさんの人の夢やその夢を一緒に叶えようとする優しい想いが詰まった空間だったから、ということが。
2023年11月6日から12月6日まで、stage felissimoで1ヵ月間開催された「UNICOLART YUMEKARART〜ここからはじまるチャレンジドアート展〜」。
夢をテーマにしたこの展示。全国の福祉事業所やアトリエなど90点ものチャレンジドアートが集まりました。
今回は発起人である景山さんと、長年フェリシモのC.C.P(チャレンジド・クリエイティブ・プロジェクト)に関わって来られた永冨さんに、どのような想いでこの展示の開催にいたったのかや、開催を終えての想いについて詳しくお話を伺いました。※「チャレンジド」は障がいのある方のポジティブな呼称
私たちが生きている世界とチャレンジドの世界
アートで橋渡しができるのかもしれない
景山さんがチャレンジドアートに興味を持ち始めたのは、社会福祉を学んでいた大学時代の頃からだといいます。当時、障がい福祉の現場へ赴き、チャレンジドの方々と実際に関わる中で、私たちが普段生きている世界とチャレンジドが生きている世界のあいだには厚い壁があることを実感し衝撃を受けたと話す景山さん。
景山さん:私たちはやりたいと思ったことをお金を払ったり努力することによって叶えられるけれど、チャレンジドの方は、頑張ってもそもそも自分のやりたいことが表現できる場所が少ないということを知りました。人との関わりもそうです。例えば近所の方と関わりを持ちたくても、障がいを持っていることで、どこか身構えられてしまってスムーズに関わることができない。置かれている状況が私たちとあまりにも違うことにもどかしさを感じる日々でした。
そんな現状をどうにかすることができないかと考えていたとき、景山さんの心に一筋の光をさしてくれたのがチャレンジドアートでした。
景山さん:ある日、街を歩いていたら若い女性客で賑わうお洒落な雑貨屋さんを見つけたんです。可愛らしい商品に惹かれて私も足を踏み入れてみると、店内のポップに「この店の商品は全て障がいのある方が作ったものです」というコメントが書かれていました。そのとき、どうしようもない壁があると思っていた私たちとチャレンジドの壁を、アートによって縮めることができるのかもしれないと思ったんです。
その後、ファーストキャリアではチャレンジドと関わることのない職種を選んだ景山さんでしたが、「チャレンジドとの壁をなくしたい」という想いは消えることなく大きくなり、その想いを実現させるべく、フェリシモへの転職を決めたといいます。
2003年から20年以上C.C.P(チャレンジド・クリエイティブ・プロジェクト)の活動を続けてきたフェリシモ。その一環でスタートしたユニカラートは、チャレンジドが描いた作品を、プランナーやデザイナー、メーカーが一緒になって、生活者の手元に商品としてお届けするプロジェクトです。チャレンジドと社会をアートでつなぎ、距離を縮め、知り合うきっかけをつくることを目的にしています。売り上げの一部がロイヤリティとして作者の収入になるほか、全ての商品に基金がついており、集まった基金がチャレンジドのアート活動の支援に使われています。
チャレンジドと社会をアートでつなぎ、距離を縮め、知り合うきっかけをつくる。まさに景山さんの想いを実現できるうってつけの場所がフェリシモでした。
しかし、長年ものづくりによってチャレンジドの支援を続けてきたフェリシモが、今回アート展という新しいかたちの支援にチャレンジしたのには、ある意外な理由がありました。
あなたの夢はなんですか?
みんなで夢について考え、壁をなくしたい
奈良県でアートとケアの視点から多彩なアートプロジェクトを実施している福祉事業所「たんぽぽの家」のスタッフ、小林さんのある言葉が、今回のアート展を開催しようと思った大きなきっかけとなっています。
景山さん:企画の段階から小林さんに色々とお話を伺う中で、「障がいのある人たちは支援される立場にあると思われがちですが、人や社会にはたらきかける思いや影響力を持っている。それを知ってほしい。」と仰られて、ハッとさせられたんです。
例えばこんなエピソードがあるそう。コロナ禍で飲食店が大変な状況にあったとき、あるチャレンジドの方が行きつけのお蕎麦屋さんに対し「自分も何かしたい」という想いで、お店に飾るお蕎麦の絵を描き、応援している気持ちを伝えたといいます。
景山さん:うまく言葉に出来なくても、内に秘めた想いをチャレンジドの方はみんな持っていると思うんです。でもその想いは社会の中では見えづらいですよね。だからチャレンジドが秘めている「想い」の部分にフォーカスを当てたいと思いました。
景山さんはたんぽぽの家で「将来の夢」に関するアンケートを実施。夢を聞くことで、その人の人となりや普段考えていることが知れるのではないか?と考えたからです。
景山さん:スタッフのみなさんも、これまで夢について聞いたことはあまりなかったらしく「そんなことを考えてたの?」と、初めて知るチャレンジドの方の想いが沢山あったようです。そんな中で「夢」をテーマにしたアート展を開催したいと思うようになりました。
その後、アートに関する夢を語ったたんぽぽの家の4名のチャレンジドを筆頭に、キュレーターを勤めたダブディビ・デザインの柊さんのサポートのもと、全国から90点の作品を収集。出展者には一人ひとり夢を聞き、鑑賞者が作品と一緒に作者の夢を知ることができる展示にしたいと思ったそう。
景山さん:作品を見ていただくだけでなく、作者さんの想いや人柄を知ることで、チャレンジドとの距離を縮められるきっかけになればいいなと思いました。また、私たち自身も「じゃあ自分の夢ってなんだったっけ?」と立ち返る機会になりますよね。アートを通じて一緒に夢について考えることも、ボーダーをなくすことのできる一つの方法なのではないかと考えました。
夢に挑戦することでまた新たな夢が生まれる
会期中、11月29日に開催されたインスタライブでは、出展者であるたんぽぽの家の西ノ園有紀さん、前田考美さん、松村賢二さん、山口広子さんの4名が実際に会場を訪れ、作品や夢について自分の言葉で語りました。
色鉛筆や絵の具を交互に使用して、お花や食べものをポップに描く画風が特徴の西ノ園さん。
お花をモチーフにするようになったきっかけは、たんぽぽの家のスタッフからお花をプレゼントしてもらったことが嬉しかったからだとか。今では施設内のお花の管理当番までされているそう。
西ノ園さんの夢は、「絵をもっと上達させて、自分の商品をたくさん作ること」だといいます。
これまでもポストカードやハンカチなど、西ノ園さんの作品とコラボした様々な商品が誕生しているそうですが、今回は会場の目の前にある「フェリシモ チョコレートミュージアム」で、西ノ園さん、前田さんの作品をパッケージにしたコラボ商品のチョコレート菓子の販売が実現。まさに夢を一つ叶えました。
実際に会場で、自分の作品が描かれたお菓子のパッケージを手に持ち「これ、私の絵なんだよ!」とアピールしてくださる姿を目にして、私自身も胸が熱くなりました。
景山さん:西ノ園さんはいつも寡黙な方ですが、自分からピースをしたりはしゃいでいる姿を初めて見ました。展覧会には普段から出されている方ではあるのですが、やっぱり自分の作品を人に見てもらうのって嬉しいことなんだなと、実感しましたね。
柔らかい線と水彩の優しい色を使い、◯△□を組み合わせた抽象画と植物をモチーフにした具象画を和紙に描くのは、前田さん。聞いてみると、抽象画にもしっかりとしたテーマがご本人の中にあり、「たんぽぽ」や「さくら」などのタイトルがつけられています。同じものを見ていても世界の見え方は人それぞれ。前田さんの優しい世界の見方が作品から伝わってきて、とてもあたたかい気持ちになりました。
前田さんの夢は「自分の作品展をすること」と「おやつを持って散歩に行きたい」ということ。普段過ごされている福祉ホームで朝ごはんやおやつ作りもしている前田さん。自分で作ったおやつを持ってピクニックする、そんな素敵な光景を想像されたのかもしれません。日常を優しく見つめる前田さんらしい夢だなと思うのでした。
足を使ってフェルトのコースターやかばんの制作を行うのは、山口さん。
以前は手織りで作品づくりをしていましたが、手を使うことが難しい状況になり、この制作方法に変えたといいます。どんな状況になっても前を見つめ、好きなことを続けられる方法を考える、山口さんのその姿勢からは私も学べることがありました。
山口さんが語った夢は「フェルトで絨毯を作りたい」ということ。実はその裏には、年齢的なこともありフェルトの制作時間が減少していることから、最後に大きな作品を作りたいという想いがあったそう。ご本人のペースで進められているので、今回の展示に絨毯の完成は間に合わなかったのですが、夢に向かって作品作りに取り組む中で、山口さんの中にはまた新たな夢が芽生えたといいます。
景山さん:おそらく山口さんにとって展覧会は今回が初めてだったのではないかと思います。集大成の作品をと考えられていたようですが、次はベストを作りたい!という前向きな言葉を聞くことができました。このアート展が、次の夢を持つきっかけになったなら嬉しいです。
そして美しい書の作品を数多く手がけるのは、松村さん。勉強熱心で物知り。大学卒業資格や調理師免許など、さまざな資格もお持ちだそう。
作品を見て「この文字の意味は何ですか?」と伺うと、とても細かく説明してくださる姿から、書に対する松村さんの情熱がひしひしと伝わってきました。
松村さんの夢は「書芸員二科審査会員になり、自宅で書の教室を開きたい」というもの。会期中には「書を楽しむワークショップ」で講師を勤められ、教える立場になる夢を一つ叶えられました。ワークショップの感想を話す松村さんのとても誇らしげな表情が印象的でした。
実際に会場に足を運んでくれたチャレンジドだけではなく、そのほかの出展者からもとても嬉しいお声が届いたと永冨さんは話します。
永冨さん:障害の特性上、コミュニケーションが取りづらい方がいたのですが、このアート展に出展することになり、作品を作る過程で自分の夢をポツポツと語ってくれたというエピソードを聞きました。アートってやっぱり表現の一つの手段ですよね。
単に作品として飾ったり評価されるのではなくて、誰かに伝えたいことがあって描いているんだということを改めて実感しました。
「かわいい」や「楽しそう」という気持ちの先に
チャレンジドを知る機会をつくりたい
一つひとつの作品の素晴らしさはもちろんのこと、パッと目を引く色とりどりな空間設計にも私は驚かされました。
永冨さん:展示の何ヶ月も前からキュレーターの柊さんとやり取りを重ね、空間からこだわってつくりました。福祉の文脈に特別興味を持っていない人でも思わず入ってしまうほど、カラフルで明るく楽しそうな雰囲気をつくることを心がけたんです。
会場となった場所の目の前には「フェリシモ チョコレートミュージアム」や水族館があり、普段から人通りの多い場所。その狙い通り、会期中にはたくさん足を運んでくれる光景が見られたそう。
景山さん:特にチョコレートミュージアムのお客さんは高校生や大学生など若い世代の方が多く、おしゃれなカップルや今どきの大学生がじっくりと作品を見たり、チャレンジドに興味を持ってくれている姿を見られたことは本当に嬉しかったです。
「かわいい」が先行して入った雑貨屋さんがたまたまチャレンジドアートだったという私の大学時代の経験のように、福祉の展覧会だから見に来たという理由ではなく、かわいいから見てみたら福祉とつながっていた、という見せ方をしたかったんです。
どれだけ理解したいと思っていても、自分の知らない世界に対してはバイアスがかかってしまうもの。景山さんはその事実にまずは自分自身が気づくことで距離を縮めていけるのではないかと話します。
景山さん:やっぱり関わってみて初めて気づくことってあると思うんです。頭では「差別はだめだ」と思っていても知らないことに対しては小さな偏見を持ってしまいます。私もそうでした。きっと社会の中には自分の持っている偏見に気づいていない人がたくさんいます。ますは知って、何か一緒に面白いことができそう!とか、そういった「違い」を楽しめるきっかけにこの展示がなっていれば嬉しいです。
あえてアーティストとは呼ばない
今後も「同じ目線」を大切に活動をしていきたい
これまでユニカラートとして様々なチャレンジドのみなさんと商品をつくり続けてきたフェリシモ。
最後に、今回アート展開催という新しいチャレンジを終え、主催者としての今後の夢をお伺いしました。
永冨さん:C.C.P(チャレンジド・クリエイティブ・プロジェクト)を20年間やってきて、これまで「障がいのある人たちを支援する」という立ち位置になってしまうと、どこかに純粋にフラットになれない違和感を感じることもありました。でも今回のアート展はボーダーがなく、同じ目線でアートと向き合えたことが本当によかったなと。支援する側される側、上や下ということではなく、アートを介して自然に自分と同じ目線で接することができるいい機会になったと思います。
景山さん:ユニカラートでは作者さんのことをアーティストと呼ばないようにしているんです。アーティストと呼んでしまうことによって逆に上に見られてしまって、距離が離れてしまうこともあるのではないか?と。これもたんぽぽの家小林さんの例えなのですが、チャレンジドと私たちがそれぞれ紐の端を持っていて、その紐の長さがチャレンジドと私たちの距離とします。
チャレンジドを「アーティスト」と呼び崇拝すると、チャレンジドは上の立場になるけど、紐の長さ=両者の間の距離は変わらないまま。わたしたちは、その紐の長さを縮められるような活動を今後もしていきたいです。
永冨さん:福祉の絵画展ってどうしても「障がいがあるのに上手だね」とか「障がいがあってもがんばっているね」という風に見られがちなところがあります。それを無くしていきたいですよね。今回のアート展がその実現への第一歩目だったと思っています。「同じ目線」でできることを、模索しながら実践していきます。
後書
「支援するってなんだろう?」
アート展を見ながら、私はずっとその問いの答えを探していました。
一般社会の中で生きていくときに困難な障がいがあるとき、私たちはその人の「できないこと」に焦点を当てた支援を考えようとします。もちろんそういった支援も必要不可欠ですが、果たしてそれだけでいいのでしょうか。
自分の作った作品が展示され、笑顔になっているチャレンジドの姿を目にし、「できないこと」ではなく「できること」や「得意なこと」に焦点を当てた支援がもっともっと必要なのだと私は実感しました。
また、今回のアート展は1823人のお客さまのメリーファンディングによって実現したものだそう。
想いのあるお客さまと一緒に実現させることで、ボーダーを無くせるのではないかと考えたといいます。
きっと潜在的に「自分も何かしたい」という想いを持ちながらも、どういうふうに支援をすればいいのか、どのようにチャレンジドと関わりを持てばいいのかが分からないという人は意外と多いはず。
あなたもC.C.P(チャレンジド・クリエイティブ・プロジェクト)で自分にできる支援を見つけてみませんか?
筆者プロフィール
能勢奈那
兵庫県在住 ライター
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