こんにちは、フェリシモ基金事務局のmotoです。
CCP(チャレンジド・クリエイティブ・プロジェクト)は、障がいのある人たちの能力や個性を、商品作りを通して社会に活かすプロジェクトです。
2003年に、ものづくりを通して障がいのある人たちの可能性を見出していこうと、「社会福祉法人プロップ・ステーション(以下、プロップ・ステーション)」代表の竹中ナミさん、行政(兵庫県、神戸市)、フェリシモがタッグを組みはじまったこの取り組みは、クリエーターさま、メーカーさまなどが協業しながらさまざまな商品開発を手がけてきました。フェリシモでは、これまで120以上の福祉事業所さまとともにおよそ300種類以上の商品を生み出しています。
そして、2016年に「CCPチャレンジド応援基金」を設立。ものづくりに限らず、障がいへの理解を深める啓蒙活動なども応援しています。「障がいのある人もない人も、誰もがボーダーなくつながれる未来を」。その思いを胸に、20年にわたり活動を続けてきた永冨恭子さんにお話を伺いました。
話し手:永冨恭子さん
聞き手:フェリシモ基金事務局
手仕事の価値を見出し磨く
プロップ・ステーションの竹中ナミさんのお話を初めて聞いたときは、“目から鱗“でした。障がいがあっても、その特性を活かして仕事をしたり、オリジナリティのあるものを作ったり、いろいろな可能性を秘めているにもかかわらず、当時はまだ障がいのある人たちの仕事はとても限られたものでした。しかし、竹中さんは「チャレンジドを納税者に」をテーマに掲げ、障がいのある人たちが制度や支援を受け入れる側になるのではなく、能動的に社会に参加して、経済的な自立を目指そうという理念をお持ちでした。その姿勢に私も深く共感しました。そこで、障がいのある方たちが作られた商品を、社会のなかでもっと価値のあるものにしていこうと、フェリシモのマーケティングスキルと、メーカーさまやクリエイターさまとのネットワークを活かして誕生したのがCCPです。
竹中さんが積極的に使っておられた「神様から挑戦する可能性を与えられた人」という意味の「チャレンジド」という言葉をそのままプロジェクト名に採用しました。県下の福祉施設さまに、どんなものを作っていらっしゃるのかヒアリングを重ねるうちに、すごくていねいに作っていらっしゃるのだけれど、アイテムそのものの企画力がないとか、パーツが垢抜けないとかいろいろな課題が見えてきました。また、当時は販路もほとんどなく、おもにバザーでの販売のみでした。価格も安く、時間をかけた手仕事の価値が適正に評価されていないことが悔しいと思いました。だからこそ、ていねいに作られているものの価値をブラッシュアップして、消費者が本当に欲しいと思える商品作りを、フェリシモでやっていこうと思ったんです。
チャレンジドが持っている可能性を開く
当時の福祉事業所は、下請けの仕事がほとんどで、企業やクリエーターなどの外部の人たちとコラボレーションをしてものを作るような取り組みはほとんどありませんでした。また、商品作りにおいては、無償提供された資材でものづくりを行っているケースが多く、細かいパーツにコストをかけて品質を高めるというような意識はなかったんです。「既存商品の一部をおしゃれなパーツに変えるだけで、商品価値が高くなる」とは言っても、販路はバザーのみ。売れる見込みもなく、モチベーションも上がりません。けれど、フェリシモが商品企画を担うことで、障がいのある方たちの刺しゅうや染め物を活用し、商品が売れるようになると「私たちの作ったものがこんなにもすてきな商品になるんだ、売れるんだ!」とよろこんでくださり、少しずつ事業所の方たちの意識が変わっていくような感覚がありました。例えば、手の込んだ刺しゅうはふきんではなく、革づかいのバッグに取り入れる。細やかなガラス細工はキーホルダーではなく、デザインや加工をして大人向けのアクセサリーにしてみる。ユーザーに求められる製品に仕上げることで、つくり手の方の意識が変わったように思いますし、現在では協働した福祉事業所さまの販路も広がり、オンラインや手づくり市などで作家さんと並べて販売できるほどの商品力が身についています。
CCPが大事にしている3つのこと
この20年のあいだに企業とのコラボをはじめ、地域とのつながりも広がり、福祉事業所さまの姿勢がポジティブに外へ開いていって、障がいのある方たちの仕事を自分たちでつくろう、というように変わってきているように思います。手探りで進んできた20年のなかで、ずっと大事にしているポイントが3つあります。一つは、あたたかみのある手仕事、「あったかあじある」と呼んでいます。多少のズレがあっても量産で作っているものにはないあたたかみがあります。2つめは「きっちりきまじめ」。例えばコーヒー豆のハンドピックなどといった途中で雑になってしまいそうな細かい作業も、長時間まじめに集中できて、かつ正確にこなせる方が多いんです。揺るぎない信頼がありますよね。3つ目は「じゆうなかんせい」。どの作業所へ伺っても、感性が豊かな方がいらっしゃって。それをそのまま商品化するのではなく、テキスタイルに落とし込んで商品化する「ユニカラート」というブランドも展開しています。
基金で広がる新たな共感の輪
2003年のスタート時から、商品企画や製作に参加してくださっている事業所さまに還元できて、私たちフェリシモの事業としても成立する仕組みを築いてきました。しかし、フェリシモのお客さまやものづくりを行っていない事業所さまにも、もっと活動に関わっていただきたい、そして、障がいのある方たちのいろいろな活動を世間に知っていただく機会を増やしていきたいという思いがありました。そしてはじまったのが、「CCPチャレンジド応援基金」です。これまでお客さまから100万円以上の思いをお寄せいただき、おもに地域で活動している団体さまに拠出してきました。
その一つが、障がいの特性を知ってもらうために、教育現場で啓発・啓蒙活動を行う「特定非営利活動法人クルーズ(以下、クルーズ)」さまの活動です。障がいのある方には世界がどのように見えているのかを知る体験ワークショップを行われています。例えば、手の感覚が鈍い方は細かいものが掴みにくい。それを専用の手袋をはめて体験してみるとか。耳が過敏な方にとって、ざわざわとした教室がいかにうるさくてつらいのか。そういった見た目ではわかりづらい障がいを体験する機会をつくっておられます。そのワークショップを行う資材費などに活用していただきました。また、「NPO法人親子の未来を支える会(以下、親子の未来を支える会)」さまへの支援も行っています。赤ちゃんがまだおなかの中にいるときに、その子の健康診断を行う出生前診断というものがあります。赤ちゃんに病気や障がいがあるという結果を知ったお母さんが、その事実とどのように向き合っていけばいいのかをお手伝いしている団体です。当事者が必要としている情報をわかりやすくまとめ、ものごとのいいわるいではなく、フラットな視点で描かれた冊子です。この冊子を作成するための費用を拠出させていただきました。
日常の「ちょっと困った」に寄り添う
基金とは異なりますが、「スペシャルニーズサポート」という企画では、「株式会社LITALICO(以下、リタリコ)」さまとコラボして、発達障がいをお持ちの方たちの声を取り入れながら商品を企画しています。障がいのある方が抱えている困りごとって、日常的に使うグッズによって解消できることがたくさんあるんです。特に発達障がいの場合は、その日常的なしんどさが重なってうつ病になってしまうなど、社会に適合できないことで悩んでおられる方が多いんです。そこで、発達障害のあるお子さまをお持ちの方のコミュニティ「リタリコ発達ナビ」のユーザーさまとの座談会やWEBアンケート、オンライン会議、モニター調査などを通じて商品企画を行い、発達が気になるお子さまとご家族の要望を伺うことで、本当に欲しいお助けグッズ、「スペシャルニーズサポート」を展開しています。
私たちの日々の暮らしのなかでも、ちょっとしたことを変えるだけで生きやすくなることって、ありますよね。困っている人の声を聞いて商品を作ることで、障がいのある人もない人も、みんな実は不便だと思っているけれど我慢していることとか、気づかなったニーズが浮き上がってきて、最終的に障がいのあるなしにかかわらずみんなにとって助かる商品になっていく。お客さまからも、「これ、欲しかった!」というお声もいただいて。お子さまのランドセルのインナーに使っていたら、担任の先生から「片付けが苦手だったけれど、整理整頓が上手になりました!」と感謝のお手紙を頂いたというご報告をいただいたこともあります。「その子の日々の成長につながるグッズができてうれしいね」とCCPのメンバーみんなでよろこんでいます。
しあわせになりたい気持ちは誰もが持っているから
私たちの願いは、「誰もが違いを認め合えるバリアのない社会」をつくり続けていくこと。障がいのある人もない人もCCPに参加していただく仕組みをもっと充実させて、みなさまとともに商品を作っていきたいと思っています。実は、「クルーズ」さまを創設されたのは、フェリシモのお客さまなんです。ご自身も障がいのあるお子さまがいらっしゃり、CCPの取り組みに共感してくださったことがきっかけで、仲間とともに活動をスタートされたのだそうです。親子の未来を支える会さまは、赤ちゃんのお父さんやおばあちゃんなど、まわりの方に向けた冊子も作成されており、今後も継続して支援をさせていただきたいと思っています。
最近では、障がいのある方とそのご家族の方にも参加してもらえる仕組みとして、リタリコさまとのコラボがスタートし、世間の関心が少しずつ高まっているのを感じています。障がいのある方がどのような生活を送り、未来にどんな可能性を秘めているのか、そしてどのようなサポートが必要なのか。当事者の方たちだけではなく、もっとたくさんの方に知っていただきたいという思いがあります。私はこれまで、お仕事を通じて、いろいろな障がいをお持ちの方と知り合ってきました。よりよく暮らしたいとか、自分あるいは子どもの能力を活かしていきたいという思いは、生きていく上で誰もが持つ普遍的な願いです。だから、フェリシモが媒介することで、障がいのある人もない人も、お互いに知り合うことができれば、私たちが目指している「すべての人がお互いのちがいを認め合ってつながり、ともに成長していく社会」を、きっと実現できると思うんです。
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