こんにちは、日本職人プロジェクトのリーダー山猫です。


日本のモノづくりを通して、たくさんの素敵な物語を伝えるために続けてきた「日本職人プロジェクト」。誰かの「好き」「欲しい」をカタチにした、ここにしかないプロダクトを生み出しています。

2022年冬のテーマは、「pleasure(プレジャー)」。何か素敵なモノやコトにふれる喜び、何かをひと目で好きになるトキメキ、ずっと使い込むことで増していく愛おしさ、いろいろなpleasureを感じられるアイテムを、たくさんの人たちと一緒に作りました。作っている間もすごくpleasureだったので、皆さんにもきっとうれしさやワクワクを感じてもらえると思います。

今回ブログで紹介するのは、金沢の時計工房さんと作った時計。それぞれに全く違う物語を宿した新作が、なんと6点も登場します!

伝統工芸と現代アートが息づく街・金沢にて。

加賀百万石の城下町として栄えた古都・金沢。金箔や漆などの伝統工芸が根付く一方、現代アートが盛んな街でもあります。そんな工芸とアートのまち、金沢にある時計工房さんとは、ここ3年ほどのお付き合い。日本画家としても活躍するアートディレクター・牛島孝さんと一緒に、たくさんの時計を生み出してきました。その第一弾としてデビューした「藍月に見惚れる腕時計」は、予想をはるかに超えて大反響。申し込み受付終了後もリクエストが絶えない、伝説のヒットアイテムとなりました。

時計工房のアートディレクター・牛島孝さんと、初代モデル「藍月に見惚れる腕時計」の文字盤。

山猫が金沢に出張に行く際、同行する日本職人プロジェクトメンバーには、「これまでの色違いを発注するのではなく、思い描いた情景を閉じ込めてもらえるような依頼にしましょう」と伝えました。はじめから「何色の文字盤を作ってください」と発注するより、こちらの想いやコンセプトを伝えて、それを牛島さんにすくい取ってもらって形に落とし込むほうが、表現の幅が広がると思ったからです。文字盤の中にそっと、自分だけの景色や物語を閉じ込めるような……そんなひそやかな楽しみを牛島さんにはきっと理解していただけると思い、山猫はビジュアル資料を作りました(いま思えば、無茶ぶりですね……)。

真剣な表情で打ち合わせをする日本職人プロジェクトメンバーと牛島さん。

偶然という奇跡が輝く、約束のオーロラ色。

そのビジュアル資料の中から、たくさんの「見惚れるシリーズ」が誕生したのですが、一向に進まない企画がありました。それが、「オーロラに見惚れる時計」。北欧の寒空に現れる、世界屈指の幻想的な風景オーロラ。その不思議な輝きを、緑色と青色の2色を使った溜塗で表現できるのではと山猫は考えていました。

これが完成した「オーロラに見惚れる時計」。ただ、ここにたどり着くまでが想像以上の道のりでした……!

でも、実際の打ち合わせの席で、牛島さんから思わぬ答えが返ってきました。「山猫さん、できるにはできますが、1個までです。やってみたのですが、さすがに色と色が混ざり合う分量まで同じものをたくさん作るのは難しいですね……」。溜塗(ためぬり)というのは、透明感のある絵の具をたっぷり含ませた筆で文字盤を着色する技法です。一筆で描き出す、独特のグラデーションが何よりの魅力。筆の運びや水の量、乾くまでの時間などによって濃淡の出方が異なるため、同じものはふたつとありません。溜塗はこの濃淡の違いが持ち味ではありますが、2色を使うとなると、その混ざり具合までコントロールするのは難しいと牛島さん。打ち合わせを終えて我々が帰るときにも、「オーロラだけはちょっと……厳しいですね。本当に申し訳ないです」と謝られたのです。(こちらこそ、と恐縮しました)

いつもは「やってみましょう」と言ってくださる牛島さんが、珍しく「難しい」と言葉を濁した溜塗の2色使い。

それから数ヵ月後、牛島さんからメールが来ました。「山猫さーん、試行錯誤して、なんとかできそうです。一度、試作品の画像を見ていただけますか?」。すぐに画像を開いてみると、たくさんの2色グラデーションの溜塗が! 牛島さん、なんとあれから、何度もチャレンジしてくださっていたんです。どれも理想に近い美しい仕上がりで、まさにオーロラ。感激した山猫はすぐに電話して感想をお伝えしました。「牛島さん、北欧の空に広がるオーロラが見えました!!」

2色の混ざり具合にある程度バラつきが出ることを牛島さんは気にしておられましたが、偶然によって生まれるのはオーロラも同じ。何よりその2色の織りなす色が吸い込まれそうなほどに美しく、これでいきましょう!とお返事しました。

とは言え、普通の溜塗より何倍も難しい2色遣い。完成に至るまでは、何度も何度も打ち合わせを重ねました。そしてようやく、思い描いたオーロラの風景を文字盤に表現することに成功! 青色と緑色が絶妙に混じり合って神秘的な光景を描き出し、下地に施した純銀メッキによって、見る角度によって表情が変わります。本当に小さな文字盤ですが、見つめていると、本当に北欧のオーロラが見えてくる、そんな仕上がりです。

この文字盤に、ブラックとブラウンの本革ベルトをコーディネートしました。ベルトの色によって全く印象が変わるので、じっくり迷ってみてください。

ブラックは、オーロラが映える漆黒の夜をイメージ。2色のグラデーションの美しさを引き立て、手もとをキリリとかっこよく引き締めます。

ブラウンは、北欧の森の木々を思わせるナチュラルなカラー。オーロラ色との相性も抜群にで、手もとにやさしくなじみます。

日本画家の牛島さんが技を尽くして描き出したオーロラ色の文字盤は、それだけで幻想的な芸術作品。お手もとに届いたら、ゆっくり眺めて、まずその美しさを堪能してください。そして、オーロラの腕時計を身につけて、この冬最高の時間を楽しんでもらえたらうれしいです。

輝きはまるでアメシスト、古の高貴な色を身に着けて。

溜塗技法による腕時計がもう一点、こちらはアメシストのような紫色です。紫色は洋の東西を問わず、古くから高貴な色とされてきました。日本でも、飛鳥時代に聖徳太子が制定した「冠位十二階」において、もっとも高位とされたのが紫色。はるか古の時代から、紫という色には特別な意味があり、気品・優雅さを象徴する色として珍重されてきました。今を生きる私たちの心の中にも、紫色に対する憧れがどこかにあるように思います。

そんな日本古来から大切にされてきた特別な色を、日本画家でもある牛島さんがどう表現してくださるのか。その結果は、想像以上のものでした。下地に純銀メッキを施した上に、紫色の絵の具を一筆でのせ、透明感のある中にも深みのある色合いを表現。アメシストのように神秘的な輝きに、見つめるほどに魅了されます。

溜塗からインデックスの刻印、針やフレームの取り付けまで、すべての工程が手作業で行われます。

合わせるベルトも、古くから日本で愛されてきた「杜若(かきつばた)」の花の色をイメージ。初夏に美しい紫色の花を咲かせる杜若は『万葉集』にも登場し、美術・工芸作品にも意匠として数多く用いられてきました。平安時代の歌人で、『伊勢物語』の主人公としても知られる在原業平の和歌にも、杜若を詠んだものがあり、これはなんと、各句の頭に「かきつばた」を詠み込んでいます(今で言う、縦読み、みたいな感じでしょうか)。日本の歴史に根付いたこの花の色をモチーフにした本革ベルトは、文字盤との相性は当然ばっちりです。

宝石のような文字盤と細い華奢なベルトの組み合わせは、どこまでも上品。ニットやコートの袖からちらりと見えるだけでも存在感があり、冬の着こなしをワンランク高めてくれます。

日本の美を凝縮した仕上がりは、日本画家でもある牛島さんの真骨頂。アメシストを思わせる神秘的な文字盤と、杜若色の本革ベルトの組み合わせは、ため息が出るほどの美しさです。
ちなみにアメシストの宝石言葉は「誠実」「心の平和」「真実の愛」、杜若の花言葉は「幸運が訪れる」。身に着けていると、何かいいことがありそうな予感のする時計です。

見るたびに北陸の冬空を思い出す、文学少女の腕時計。

次は、これまでとは全く違うタイプの腕時計。溜塗や紋切りとは趣の異なる、とてもシンプルな時計です。

日本職人プロジェクトメンバーのプランナーMOEが、初めて金沢の時計工房を訪れたのが12月上旬のこと。北陸ならではの薄くグレーがかった冬空の日でした。金沢を訪ねるのは約20年ぶりというMOE。移動中の車窓から見る金沢の街は、歴史と文化が重なり合う素敵な印象で「文学の香りがする、おしゃれな街だな~」と感じたそうです。

時計工房を訪ねるため、約20年ぶりに金沢駅に降りたMOE。隣は同じく日本職人プロジェクトメンバーのNISHIYAN。

訪れた時計工房でMOEが目を留めたのは、白地の文字盤に、薄く手描きでさっと色付けられた腕時計。透き通るような淡いブルーグレーに、銀色のラメがさりげなく光る文字盤を見て「あ、これは金沢の空だ」と直感が走りました。すぐにMOEは、その時抱いた金沢の空や街のイメージを牛島さんに伝えて、商品化を依頼します。

ブルーとグレーの色の重なりに、チカリと光るラメの輝き。今にも雪が舞い落ちそうな北陸の空のイメージ。

牛島さんは色の濃度やラメの分量を調整し、雪雲から降り始めたばかりの粉雪が舞う冬空を見事に表現。淡い色調や控え目なラメのきらめきが絶妙で、それはまさしくあの日MOEが見た、金沢の冬空でした。

ベルトは、黒に近い藍色を合わせてもらいました。これは、「金沢という街の文化的な雰囲気も表現したい」と考えたMOEが、「文学少女のイメージで」とリクエストして選んでもらったカラー。素朴で愛らしい手描きの文字盤と濃色の本革ベルトが、かわいらしさの中にも芯の強さを秘めた、そんな文学少女の姿に重なります。

黒に近い藍色がおしゃれ。「文学少女」というテーマに、コピーライターさんも「木造の図書館で本を読む少女の姿が目に浮かびます!」と太鼓判。

オフィスなどどんなシーンにも使える、上品かつシンプルなデザイン。学校の制服にも似合うので、入学などのお祝いにも素敵です。

学生時代は作文コンクールで入賞したこともある、元文学少女MOEの想いが詰まった特別な時計。溜塗や紋切り、金箔などで奥ゆかしくもキラリと個性が光る金沢の時計工房の作品を数々ご紹介してきましたが、こんなあたたかみのあるシンプルなものもいかがでしょうか。雪雲を抱いた金沢の冬空を閉じ込めた文字盤は、凛と澄んだ古都の空気を運んでくれます。和装の世界では夏に冬の意匠を着て涼を演出するように、暑い夏もこの文字盤を見れば、ふっと涼しい気分になれそうです。ぜひ一年を通じて、金沢の空を感じてみてください。

岩絵の具×金箔で表現する文字盤は、まるで小さな日本画。

次にご紹介するのは、日本画家でもある牛島さんが提案してくださった時計。天然の珊瑚を使った岩絵の具(いわえのぐ)を塗った上に、金箔を箔押しした文字盤が特徴です。

岩絵の具は、鉱石を砕いて作られた粒子状の絵の具。飛鳥時代に大陸から日本に伝わり、原料や製造・使用方法は1400年間変わることなく受け継がれています。日本画は岩絵具に膠(にかわ)を混ぜて描きますが、この技法を文字盤の上で表現しているのがこの時計です。

貴重な天然の珊瑚を砕いて作った岩絵の具は、まさに本物の「コーラル色」です。そのきめ細やかな岩絵の具に膠を混ぜ、和紙の上に塗り重ね、1点ずつ丁寧に仕上げます。やさしくやわらかな色調は、天然ならではの美しさ。そして、岩絵の具特有の少しザラザラとした表面に金箔の箔押しを施し、繊細な「麻の葉文様」を表現しています。「麻の葉」は古来、魔除けや子どもの健やかな成長を願う縁起の良い模様として愛されてきたもの。この麻の葉文様、実は時間を示すインデックスを兼ねたデザインにもなっています。

箔押しに使われている金箔は「縁付金箔(えんつけきんぱく)」といって、ユネスコ無形文化遺産にも登録されている、伝統的な手法でつくられたもの。金沢の伝統文化が、この小さな文字盤にも生かされています。

岩絵の具を塗った上に縁付金箔を箔押しし、麻の葉文様を表現。金沢を代表する素材・金箔を使った贅沢な逸品。

コーラル色に合わせて牛島さんがセレクトした本革ベルトは、東雲色(しののめいろ)。日本の伝統色のひとつで、夜が明け、ほのかに白み始めた東の空を表現した色です。とても肌なじみの良い色で、上品かつやわらかな印象を醸し出してくれます。

おだやかでやさしい雰囲気の中に、繊細な金箔がきらめく奥ゆかしい華やかさ。日本の美意識を凝縮したかのような美しい腕時計は、いつかなりたいとあこがれる女性像にもつながるものがあります。

縁起の良いモチーフを、いつもお守り代わりに。

そして最後は、「紋切り」という技法で作られた時計。こちらも伝統的な技法を使った表現で、日本画家でもある牛島さんの得意分野です。

「麻輪違(あさわちがい)」の文様が立体的に浮かび上がる文字盤は、まず銀箔に世界一薄い紙と言われる土佐典具帖紙という極薄の和紙を貼って下地を作ります。その厚さはなんと0.03mm。銀箔が透けてうっすらとひかり輝く画面になります。そこに、一つ一つ手作業で切り絵のように文様を切り抜いた和紙を貼り重ねることで、見る角度や光の当たり方によって文様の見え方が変化するのが魅力です。

銀箔と和紙を重ねた上に、切り抜いた文様を重ねます。インデックスもいぶし銀の箔を打ち抜いたものをひとつずつ配置します。

2021年に登場して人気を博した初代の麻輪違柄を、今回は都会的なカラーで作りました。和の趣きは残しつつ、日常の着こなしに似合うスタイリッシュな配色にしています。シルバー色のフレームにネイビーのベルトを合わせた、知的で清々しい印象。凛とした佇まいで、背筋もピンと伸びそうです。

麻輪違は厄除けとして使われてきた、円満・調和を意味する「七宝紋」、健康・成長の「麻の葉紋」、繁栄・長寿の「亀甲紋」が組み合わさったスペシャルな文様。そのありがたいパワーを宿した腕時計は、忙しい日常の中でも気持ちを整えるお守りになってくれそうです。

ずっと使うものだから、一つひとつに時間をかけて、丁寧に。

今回も、時計工房のアートディレクターとして、また日本画家として、そのセンスや技術をいかんなく発揮してくださった牛島さん。表現したいものを的確にくみ取ってくださるので、いつもどんなサンプルが上がってくるのか、日本職人プロジェクトメンバーもわくわくします。

時計はすべて1点ずつ手作業で作られるので、同じものをたくさんは難しいと牛島さんはおっしゃいます。でも、同じものをたくさんではなく、1点ずつ手を掛けて作られたものがうれしいと私たちは思うので、これからも一緒に、思いの込もった丁寧なモノづくりをしていけたたらいいな、と思います。お手もとに届いたらぜひゆっくりと愛でて、世界にひとつの時計との時間を楽しんでください。

次回は、日本職人プロジェクトメンバーが発売を熱望した、播州織テキスタイルブランド〈POLS(ポルス)〉のスペシャルアイテムをご紹介します。お楽しみに!

金沢の時計職人が手掛けた 美しいオーロラに見惚(みと)れる腕時計〈ブラック〉

¥22,550

金沢の時計職人が手掛けた 美しいオーロラに見惚(みと)れる腕時計〈ブラウン〉

¥22,550

金沢の時計職人が手掛けた 金箔(きんぱく)輝く珊瑚(さんご)に見惚(みと)れる腕時計〈東雲(しののめ)色〉

¥29,700

金沢の時計職人が手掛けた アメシスト色に見惚れる腕時計〈杜若色〉

¥22,550

金沢の時計職人が手掛けた 冬空に見惚れる腕時計〈深藍色〉

¥20,900

金沢の時計職人が手掛けた 紋切り麻輪違柄に見惚れる腕時計〈紺色〉

¥28,050

日本のモノづくりを通してたくさんの素敵な物語を伝えるために続けてきた「日本職人プロジェクト」。2004年のスタート以来、様々な魅力的な方の想いと共に「物」語るアイテムを誕生させてきました。

プロジェクトリーダー 山猫

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