春から始まる毎日を、少しドラマティックに
こんにちは、日本職人プロジェクトのリーダー山猫です。
日本のモノづくりを通して、たくさんの素敵な物語を伝えるために続けてきた「日本職人プロジェクト」。誰かの「好き」「欲しい」をカタチにした、ここにしかないプロダクトを生み出しています。
次の春に向けたシーズンテーマは、「寄り添う-cuddle」。いろいろな人に会って、話して、物語に寄り添うモノづくりをしています。その中からぜひ、春からの新しい生活を彩る、少しわくわくするもの選びを楽しんでください。
今回ご紹介するのは、滋賀県の時計工房と作った懐中時計と腕時計。春からの毎日をドラマティックに彩る、素敵な時計ができました!
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2年越しの夢がかなった、ハイカラ懐中時計
数年前からお付き合いのある、滋賀県の時計工房VIEさん。何を隠そう、日本職人プロジェクト初の腕時計を作ってくれたのもこちらの工房です。メンバーのNISHIYANと共に何度も滋賀に足を運び、時計づくりの現場を見せてもらううちに、山猫は「日本職人プロジェクトオリジナルの懐中時計を作ってみたい」という思いを抱くようになりました。そのお話をしたところ、実は一度お断りされたのですが……なんと2年を経て、ついに企画が進行することになりました!
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VIEさんの工房は、琵琶湖の湖畔近くにあります。山と湖に挟まれたその場所に、日本職人メンバーで打合せに行くこともしばしば。いつも丁寧(ていねい)に対応してくれる片岡修一さん(写真左)と高山健三郎さん(中央)に、新しい2つの時計へのこだわりを語っていただきました。
時計職人の片岡さんとデザイナーの高山さん、時計にもこだわりのあるメンバーのMOEと共に、あれこれとアイデアを出し合う日々。その中から「アールデコ」というデザインコンセプトに行き着きました。アールデコは1900年代初頭にヨーロッパで流行した装飾様式で、線や記号、幾何学的模様などで構成されたデザインが特徴といわれています。どこかモダンでエレガントな雰囲気が漂うそのスタイルを参考に、洋装にも着物にも似合う、和洋折衷を目指しました。そう、イメージは大正モダンなハイカラさん。
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オリジナルの懐中時計を一緒に企画・デザインしてくれた、時計デザイナーの高山さん。
ポイントは、文字盤やフレームに彫り込んだ図柄。アールデコの特徴である規則性のあるモチーフを美しく表現しました。時間を見るたび手にするものだから、手ざわりも大切。刻印部分にふれたときに、指先に伝わる凹凸にもこだわりました。
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厚みのあるフレームの側面と、文字盤のまわりに施した装飾がポイント。どこから見ても美しい仕上がりです。
文字盤の直線的な数字は、どこかモダンなデザイン。実はこれ、レーザーで何工程もかけて色や陰影を表現しているんです。高山さん曰く、工数も多く、すごく手間のかかる作業とのこと。確かによく見ると、プリントとは違う立体感があります。
作業工程はまず最初に、真鍮の文字盤全体にシルバーカラーのコーティング。数字部分はそのコーティングをレーザー加工で剥がし、金色がかった真鍮の色味を出しています。時間を示すインデックスと数字の陰影は、レーザー加工後、すべて手作業で薬剤を使って黒く染め上げて表現。黒が入ることで数字の直線的なデザインが際立ち、文字盤全体も引き締まります。文字盤中央の葉っぱ模様のレリーフを削り出した後、さらに円形にマット加工を施してつや消し部分を作り、奥行きのある印象に仕上げています。シルバーカラー、真鍮色、黒、つや消しマット。この4種類の色・パターンを小さな文字盤の中に8工程以上の手間をかけて贅沢(ぜいたく)に詰め込み、アールデコを表現しています。
<作業工程>
①真鍮文字盤シルバーコーティング→②数字刻印→③葉っぱ模様刻印→④陰影刻印→⑤インデックス刻印→⑥陰影部分黒染め→⑦インデックス部分黒染め→⑧中央部分マット加工
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工程全体の流れの説明を詳しく聞き、思いのままに依頼したデザインが想像以上に手間がかかるものだったことに驚き、恐縮しました。
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レーザー刻印工程。機械でレーザー刻印されている様子は光のイリュージョンのように美しく、見ていて飽きません。
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レーザー刻印後、工房の別棟で薬剤を使った黒染め工程。綿棒につけた薬剤をひとつひとつ手作業で文字盤に塗布。化学反応で黒く染まります。
懐中時計には男性的なイメージがありますが、MOEのアイデアを取り入れることで、女性に似合うデザインに仕上げています。例えば、アクセサリー感覚で身に着けられるように、チェーンはシャンパンゴールド色をセレクト。シンプルなシャツやニットに合わせるだけで、印象が華やぎます。幾何学の装飾が彩る文字盤も、愛嬌(あいきょう)のある小ぶりサイズ。時計を見るしぐさも絵になります。
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チェーンを短いストラップなどに付け替えて、お気に入りの鞄につけても素敵。裏面には、モノづくりにまつわるヘンリー・フォードの名言をレーザー刻印。
スマホでもなく、腕時計でもなく、懐中時計で時間を見る。アナログなそのひと手間が愛おしく、忙しい日常のなかでふっとリセットできる瞬間を作ってくれそうです。
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子供の頃の懐かしい思い出を、時計で表現
同じ工房で作ってもらった時計がもうひとつ。山猫の思い出が詰まった時計をもとにした、腕時計です。
参考にしたのは、山猫の母が昔使っていた腕時計と、実家にあった振り子時計。母の時計は貝の文字盤で、虹のように不思議な光沢が印象的でした。振り子時計は昔からある古いもので、まさにザ・昭和な感じそのものです。家族の思い出や子供の頃の記憶をたぐり寄せながら、時計職人・片岡さんにそのイメージをお伝えしました。
ちなみに山猫はアイデアが出るとすぐ、片岡さんの携帯に時間を気にせず電話します。片岡さんは「なるほど!ではこういったものでしたら、できるかもしれません!」とアイデアを重ねながら、実現レベルまで試作品を何度もチャレンジしてくださいます。そんな片岡さんだからこそ、素敵なアイテムが生まれてきます。今回も「うちの母がね、昔つけていた時計を今作れたら、、、いいと思うんですよね~。ほら、物がない時代の愛らしいフォルムのフレームとか、見やすくてかわいらしいボンボン時計の数字とか。ノスタルジックをうまくまとめたら、ワクワクしませんかな? ところで貝文字盤とかって得意ですか?」と山猫が聞くと、「いいじゃないですか~~~!!めっちゃ~いいのできるかもです~」と片岡さんは、こちらがうれしくなるくらいのテンションでお返事してくださったのです。
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何度もやりとりを重ね、山猫の思い出の中の時計を形にしてくださった時計職人の片岡さん。
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今回はプランナーMOEが初めてアトリエにお邪魔したので、中をいろいろ説明してくださいました。オリジナルのバックルの銀メッキをする前の状態や、鮑(あわび)貝の文字盤シートや、時計のベルトに使う色とりどりのイタリアンレザーのストックなども見せていただきました。
片岡さんは工房にあるさまざまなパーツを組み合わせながら、試行錯誤を繰り返します。山猫も工房に足を運んで細かくすり合わせをし、そのたびにサンプルを上げてくださいました。難しい部分も「いったん考えてみます!」と妥協せず、苦戦しながら何度もトライしてくれた片岡さん。そしてついに5回目の試作で、思い描いていた懐かしくて温かみのある時計が完成しました。
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見る角度によって変わる虹色の光沢は、ツヤ感にこだわって鮑貝を使用。ホログラムみたいに輝いて、見るたびにうっとりするような美しさです。
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時間を示す数字は、振り子時計をイメージしたレトロな書体。絶妙に懐かしいディテールを再現してもらいました。金色の針は時間がちゃんとわかりやすくて、でも愛嬌があるものを合わせています。
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このレトロな書体の再現性はお見事! 学校やホールの大きな時計も彷彿とさせます。
付け替え可能な細いレザーベルトは、信頼のイタリアンレザー製。肌なじみのいいベージュと、キリリと手もとを引き締めるブラックの2色です。時計ベルトのバックル(留め金部分)はオリジナルのスクエア型を採用。腕にフィットするように少しカーブを付けています。アクセサリーも手掛ける片岡さんだから、ちゃんと今の着こなしに似合うよう、スタイリッシュに仕上げてくれました。
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懐かしくて、あったかくて、でも今っぽさもある。片岡さんががんばってくださったおかげで、素敵な時計になりました。
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ちなみに懐中時計も腕時計も、「ミネラルガラスレンズ」を使ってくださっています。このミネラルガラスというのは傷がつきにくく、また非常に透明性があるので文字盤を視認しやすいという特徴があります。「無機ガラス」とも呼ばれますが、正式には硼珪酸(ほうけいさん)ガラスという名称。モース硬度(引っかいたときの傷のつきにくさ )はおよそ「4~5.5」 で家庭用の窓ガラスと同じような素材です。現在では安価な時計に多く使用されていますが、1970~80年代のミドルクラスの時計にも多く使われていたそうです。
時間の流れを味わえる時計
時計って時間を見るためだけのものではなく、記憶や思い出と直結するもの。だからこそ、便利や効率よりも、時間の流れを味わえる時計を作りました。本当に時計工房の職人・デザイナーのみなさまのおかげ。ぜひたくさんの方に手に取っていただきたい逸品です。
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あわただしく過ぎてしまう時間の流れが、ちょっとだけゆっくりになったらいいなと思います。新しい春の始まりに、これからの時を一緒に刻む時計を見つけてください。
次回は、スタイリスト・村上きわこさんとのコラボシリーズ最新作! 人気アイテムの復刻版など、たっぷりご紹介します。お楽しみに!
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滋賀の時計工房と作った アールデコ調の懐中時計〈シャンパンゴールド〉
¥20,350(税込み)
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滋賀の時計工房と作った 貝文字盤のクラシック腕時計〈ベージュ〉
¥17,380(税込み)
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滋賀の時計工房と作った 貝文字盤のクラシック腕時計〈ブラック〉
¥17,380(税込み)
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