物語のはじまりは、金沢の工房から
こんにちは、日本職人プロジェクトリーダーの山猫です。
日本職人プロジェクトのひとつ、「 Stories (ストーリーズ)」は、たった1人の「好き」「欲しい」に寄り添い、物語のあるものづくりを大切にしています。
そんなストーリーズから新たに生まれた、WEB限定の「 Stories (ストーリーズ)」。8つのアイテムに込められた、8つの物語をご紹介します。
今回ピックアップするのは、金沢の時計工房と一緒に作った時計。日本画家でもあるアートディレクター牛島孝さんの監修による、人気シリーズの新作です。この新作企画のために、日本職人プロジェクトメンバーが金沢を訪れたところから、物語は始まります。
工房を訪ねて、牛島さんと数ヵ月ぶりの再会!
牛島さんと一緒に作った企画第一弾「藍月に見惚れる腕時計」が大ヒット。そのご挨拶と新作の打ち合わせのために、山猫とNISHIYAN、MOEの3人で金沢の工房にお伺いすることになりました。山猫とNISHIYANは2度目、MOEは初めての訪問です。大阪駅からサンダーバードに揺られること約3時間、我々3人は金沢駅に降り立ちました。金沢駅の大きさに圧倒されつつ、まずは腹ごしらえのランチタイム。いつもなら大盛りもペロリの3人ですが、緊張して、なかなか食が進まなかったことを覚えています。
金沢駅に降り立ったメンバー、MOEとNISHIYAN。威風堂々とした構えの金沢駅の建物は圧巻!
牛島さんに最後にお会いしたのは、コロナ自粛前。数ヵ月ぶりの再会でしたが、すぐに緊張もとけて企画の話が盛り上がります。
打ち合わせは、新作時計の色の相談からスタート。まずMOEが、新緑を思わせるグリーンを提案しました。これは、「コロナ禍でなかなか外出や旅行ができない時も、時計を見るたびに自然の中にいるような気持ちになってもらえたら」という思いから。自らも新緑の季節が大好きというMOEは、みずみずしいグリーンを表現して欲しいとお願いしました。
山猫からは「夜」を連想させるカラーをリクエスト。夜空を見上げた瞬間のあの空の広さを、小さなガラスケースに閉じ込めたい!と熱弁。夜は自分だけの特別な時間だから、そんな大切な時間を慈しめる時計を作りたいという思いでした。
イメージをお伝えするとともに、見本となるカラーチップをお渡しして、この日の打ち合わせは終了。牛島さんは私たちの話を静かに聞いてくださって、最後に「いいですね、一度チャレンジしてみます」とうなずいてくれました。
溜塗が描き出す、繊細なグラデーション
牛島さんが手がける時計は、文字盤の淡いグラデーションが特徴。これは、「溜塗(ためぬり)」という技法で表現されています。透明感のある絵の具を平筆にふくませ、さっとひと塗り。やり直しのきかない繊細な作業が描き出す、自然な濃淡が溜塗の魅力です。この表現は、絵の具の扱いに長けている牛島さんだからこそ。同じものがふたつとない、世界にひとつの仕上がりです。
絵の具が完全に乾くまで約2週間待ち、その後、文字盤に数字を入れる行程へ。小さな文字盤に、職人さんが一文字ずつ手作業で刻んでいきます。どこかあたたかみのあるやさしい文字も、魅力のひとつ。
手で塗り、乾くのを待ち、手で刻む。小さな時計がひとつ完成するまでに、多くの手間と時間がかかります。でもその労をいとわず、快く引き受けてくださるのは、牛島さんの作家魂なのだと山猫は思っています。
そして牛島さんはほとんど自慢話をしないので、あとから商品の仕様ですごい話を聞くことがあります。
例えば、桜をイメージした時計を作ったときにメールでやりとりしていると、「 文字盤の下地は純銀のメッキがかかっていて、透明度の高い絵の具を塗ることで、その銀が透けるんです。絵の具のやわらかい色彩が、光を受けてキラキラ輝くのも、桜の花らしいですよね」と返事が返ってきたことがありました。
実はそのときまで、僕らメンバーは純銀のメッキ仕様のことを知らず……。こんな感じで、後から想像を超えるこだわりが出てくるところも、牛島さんの魅力です。
想像の上をいく、完璧な色彩表現
打ち合わせからしばらくたって、リクエストした色のサンプルが上がって来ました。その色は、想像以上の美しさ。私たちの頭の中にあるイメージを的確に汲み取り、完璧な色彩感覚でさらにクオリティー高く表現してくださいました。
まずは、新緑色。「新緑の季節が一年で一番好き。あのみずみずしい緑は本当に特別な色」とMOEがこだわったフレッシュな緑が、そこにはありました。
文字盤のフレームはゴールドに、ベルトは自然を想起させるブラウンを合わせて、深呼吸したくなるような心地よさになりました。見るたびにすがすがしい気分になれるので、名前は「新緑に見惚れる腕時計」に決定。
ちなみにこのブラウンのレザーベルトは、表面をあえてヌバックのように起毛させてから、ワックスで抑えた加工が施されています。そうすることで、木肌のような自然なムラがあるベルトに仕上がりました。(ここも、牛島さんの素敵なこだわり!)
次は、山猫リクエストの夜色。真っ黒ではなく、溜塗で表現された濃淡のある黒は、まさに夜の空の色です。
黒のグラデーションが描き出すこの小さな夜空にちなんで、「夜空に見惚れる腕時計」と命名。自分だけの大切な時間をいつくしむような気持ちになれる、そんな時計になりました。
そして、大好評で生産が追い付かず予約期間中に売り切れてしまった「藍月に見惚れる腕時計」の金色枠バージョンも登場。手間と時間がかかるのでなかなか大量には作れないのですが、少しずつ追加生産なら対応できます、と言っていただき、今回ご紹介することができました。
牛島さんによると、この金色の枠は、ステンレス鋼にイオンプレーティングという特殊なメッキを施したもの。1950年代にアメリカのNASAで開発されたメッキ方法で、皮膜の耐久性がとても高く、メッキの剥がれといったことが全くと言っていいほどないそうです。金色のチタンをコーディングしている状態なので、金属アレルギーも起きにくいとのこと。ベルトの金具も金属アレルギーへの配慮から、アルミ製のものが使用されています。
そして実は、時計本体だけでなく、レザーベルトもこちらの工房で作られています。色、幅、金具の色など、文字盤に合わせた最適なベルトが着けられるのが魅力。しかも、手首に直接ふれる革の裏面は、化学物質を使っていないフルベジタブルタンニングレザー(植物性タンニン鞣しのヌメ革)が使われていて、肌へのやさしさと耐久性を兼ねたベルトになっています。
「末永く安心して使っていただけるように」という牛島さんの心遣いは、こんなところにまで。見た目の美しさはもちろん、使う人のことを想う気持ちも美しい、本当に他にはない時計だと思います。
時計の鼓動と一緒に、人生を歩いていく
小ぶりの文字盤と、細いレザーベルトの組み合わせは、絶妙のバランス。手首にしっくりなじみ、手元を華奢に見せてくれます。眺めているだけでも美しいのですが、つけた時の美しさも抜群です。
しかも、とにかく軽い!つけているのを忘れそうなほど。ふだん時計をしない方も、これならきっとストレスなく使ってもらえると思います。
時計は、手にした日から、一緒に時間を刻んでいくもの。毎日をともに歩んでいく存在だから、時間と手間をかけて、丁寧に作られるものを持つことが素敵だな、と思います。
自分の時間を愛おしみ、大切に過ごすパートナーとして、ぜひお気に入りの時計を選んでください。
ちなみに、金沢で時計の打ち合わせを終えた後。「日本職人プロジェクトで楽しいのは、新しい土地を訪ね、情熱を持っている人に出会い、そこで生み出されるメイドインジャパンの素敵な可能性を知ることだよね」。そんなことを話しながら、我々3人は名物の金沢おでんを食べ、お土産を買って帰りました。素敵な人との出会いが、素敵なプロダクトにつながっていくことを、改めて実感した旅でした。
車麩は、金沢おでんの定番の具材だそうです。しゅうまいもおでんの具材になっていてびっくり。
次回は、福岡の鞄作家さんによる次世代のお財布3点をご紹介します。お楽しみに!
金沢の時計職人が手掛けた 藍月に見惚れる腕時計〈紺青色〉
1個 ¥20,900(税込み)
金沢の時計職人が手掛けた 藍月に見惚れる腕時計〈白銀色〉
1個 ¥20,900(税込み)
金沢の時計職人が手掛けた 新緑に見惚れる腕時計〈木肌色〉
1個 ¥20,900(税込み)
日本のモノづくりを通してたくさんの素敵な物語を伝えるために続けてきた「日本職人プロジェクト」。2004年のスタート以来、様々な魅力的な方の想いと共に「物」語るアイテムを誕生させてきました。
プロジェクトリーダー 山猫