講演録
第1部
平岩さん:
みなさんこんにちは。元朝日放送アナウンサーの平岩康佑と申します。ちょうど1年前までは誰かを迎える立ち位置のことが多くて、迎えられることになかなか慣れませんが、今日はどうぞよろしくお願いいたします。
最初に自分の生い立ちというか、どんなことをしてきたかお伝えしたいと思います。私の出身は東京で、大阪の朝日放送に新人のアナウンサーとして入社しました。そこで7年間仕事をさせていただきました。主にはスポーツの実況、特にプロ野球ですね。阪神タイガースやオリックスバファローズの中継をメインとして、そのほかには夏の高校野球の実況、そしてJリーグ・ガンバ大阪の実況や、ちょうどイ・ボミ選手が全盛期だった頃の女子プロゴルフの実況などもさせていただきました。
番組でいうと「おはよう朝日土曜日です」という土曜日の朝の番組は3〜4年くらい、リポーターで出させていただきました。あまり得意ではなかったのですが、いわゆる食レポなどもやらせていただきました。
2018年6月に朝日放送を退社しました。その夏は大いに盛り上がったのですけれども、朝日放送渾身のというか、集大成でもある、夏の高校野球が記念すべき第100回大会でした。100年以上の歴史がある中で、本当に名誉ある夏でした。それを前に退社をさせていただいて、いろいろざわつくところもありましたけれども、形としては円満退社をさせていただきました。そして株式会社ODYSSEYという会社を自分で立ち上げて、今はeスポーツのアナウンサー、もっと言うとゲーム専門のアナウンサーとして、お仕事をさせていただいています。
■eスポーツとは
eスポーツとは何なのかというところからお伝えできればと思います。まずゲームの話をする前に、みなさんのゲームとのふだんのふれあいがどれくらいあるのかということを確認させていただきたいので、挙手でアンケートを取りたいと思います。今現在、ご自身のスマートフォンであるとか、ご自宅の家庭用ゲーム機、あるいはパソコンで、何らかのゲームが入っていて、プレイをしているという方は手を挙げていただいていいですか。
「#会場挙手」
結構いらっしゃいますね。その中で、ふだん、スマホ以外でゲームをすることがある方は?
「#会場挙手」
結構いらっしゃいますね。先日、経済産業省で偉そうに講演させていただきましたが、その時は手が挙がらなくて惨憺たる結果でした。今日は年配の方も含めて手を挙げていただきましたので、少し話しやすいかなと思います。
まずはeスポーツとは何かというところを簡単にお話しさせていただければと思います。最近よく聞くようになったeスポーツですけれども、定義としてはコンピューターゲームやテレビゲームで争うスポーツ競技、簡単にいうとゲーム大会です。いろんなゲームを使って、そのゲームの1番うまいチャンピオンを決めるというゲーム大会になります。その規模がどんどん広がっていて、スポンサードされているプロゲーマーという方が出てきたり、賞金が何億円にもなったりしています。日本で言うと、要はプロ野球やJリーグみたいなスポーツとして、興行にしましょうというのがeスポーツです。そのeスポーツが今どれくらいもう盛り上がっているのかをVTRに簡単にまとめていますので、見てもらいたいと思います。
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想像以上だと感じている方もいることが、みなさんの表情から受け取れますが、実はこのVTRは2015年3月に公開されたものです。4年半くらい前、世界ではもうこれだけ盛り上がっていたというのがよくわかります。では2019年、2020年を前にして、どのくらい盛り上がっているのかというのを見ていきましょう。こちらですね。
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■eスポーツの賞金
eスポーツといえば賞金ですね。これは2019年実際に開かれて、27億円が支払われた「Dota2」というゲームの、ザ・インターナショナルという世界大会です。この賞金総額が27億円。優勝チームが日本円にしておよそ14億円を手にするというゲーム大会でした。賞金が高いので、これが注目されることがすごく多いです。あれから4年経って、今、世界の大会では27億円も出るようになりました。この27億円という額は、各スポーツのそれぞれ1つの大会での賞金総額です。
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上から2番目に「2018年Dota2インターナショナル」と書いてあります。1番上にテニスのウィンブルドンがありますが、これが当時のレートでいうとおよそ50億円くらいです。ウィンブルドンが50億円というのもなかなか知られていませんが、実はその2番目まで来ています。そのあとにヨットの人だとか、おじさま方が大好きな全米オープンが12億円、ツールドフランスとか競馬の一番大きいケンタッキーダービーなどがありますが、下から3つめの「LoLチャンピオンシップ」っていうのもeスポーツの大会です。5億円程度が払われています。これが世界で2番目まで来ていますよというところでしたが、実は2019年、この棒グラフでもちょっとまだ足りませんが、これをさらに上回るこんな賞金を出したゲーム大会がありました。
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ここまで来るともういくらかだかよくわかりませんが、110億円です。お子さまがプレイしている方ももしかしたらいらっしゃるかもしれませんが、2019年「フォートナイト」というゲームのワールドカップ2019年大会がありました。決勝戦は9月にニューヨークで開催され、その予選などをすべて含めたワールドカップ一連の流れで、110億円という賞金が出ました。これは当然eスポーツでも史上最高額でしたし、今までのスポーツ大会でも、一番高額なウィンブルドンの倍を行く大会になりました。そこで優勝したのがアメリカのブーガ選手、16歳です。いろいろな部門がある中、彼は1人で戦う部門で優勝して、3億3,000万円という賞金を手にしました。予選も合わせると、彼は3億6,000万円くらいを手にしています。一発の優勝で3億3,000万円というのは、あのテニスのノバク・ジョコビッチ選手もタイガー・ウッズ選手もやったことがなくて、単独のスポーツの優勝賞品としては、ギネスに載る初めての快挙でした。しかも16歳です。16歳のときのタイガー・ウッズもジョコビッチも、一年間で3億円は稼いだことがありませんでした。
なぜこんな高い賞金がゲームの大会で出るのかということですが、さっきの「フォートナイト」は2億5,000万人のプレーヤーがいます。2億5,000万ダウンロードされているということですが、現在でも月に1億人以上が遊んでいる、本当にユーザーの多いゲームです。2億5,000万人というと、世界で4位の競技人口を誇るサッカーと大体同じくらいです。この「フォートナイト」というゲームだけで2億5,000万人で、他には3億人のプレーヤーがいるゲームもあります。いろいろなゲームがある中で、「フォートナイト」だけでサッカーと同じくらいプレイしている人がいるというのは驚きですね。
一番多いのがバスケットとバレーで、大体4億人ずつぐらいはいるといわれていますが、さらに驚きなのが、サッカーは歴史が長いですけれども、「フォートナイト」は2017年4月に発売されて、まだ2年とちょっとしか経っていない。それなのに、もうすでに2億5,000万人のプレーヤーがいるというところです。これだけプレーヤーがいるので、2018年の利益が3,000億円もありました。これは日産とか住友商事と同じくらいの規模です。「フォートナイト」はエピックゲームズというアメリカのゲーム会社が作っているのですが、他にもゲームを作っている中で、「フォートナイト」の利益だけで2018年はこのくらい上げてしまった。だから賞金を110億円も出せるということです。「フォートナイト」はプレーヤー数も多いので、マーベルで人気の映画「アベンジャーズ」とコラボしたり、アメフトリーグNFLとコラボしたりしています。しかも、向こうからコラボレーションさせてくださいと言ってくるそうです。このほかに、Neflixなんかともコラボレーションをしています。
■ゲームの種類
ここまで「フォートナイト」の賞金の話をさせていただきましたが、ではeスポーツでどんなゲームが競技になるのかということは意外に知られていません。
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ここに並べていますが、いろいろな種類のゲームがあります。わかりやすいように映像で見ていきましょう。まずこちら。
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みなさんなかなか、なじみがないと思いますが、「モバ」と呼ばれるマルチオンラインバトルアリーナという、簡単に言うと5人対5人で戦うゲームですが、それぞれのプレーヤーが1つのキャラクターを操り、試合中にキャラクターを育てながら相手の陣地を取りにいくものです。5対5というのがポイントで、5人のチームワークが非常に重要になるゲームです。
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映像だけを見ても、これは何をやっているのか、端から見てかなりわかりづらいです。ただ、このモバというのは日本ではまだまだ馴染みが薄いですが、世界では一大ジャンルです。冒頭の映像でも出ていた大きいスタジアムでゲームをやっていたのは、このモバのタイトルです。こんな感じで何をやっているか全然わからないのですが、だいたい1試合20分か30分で、それぞれがキャラクターを育てつつ、相手と自分の必殺技の様子を見ながら、チームワークで相手の拠点をくずしにいくというタイトルです。もう一つがシューティングゲームですね。
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これはもう少しわかりやすいと思いますが、相手を銃で撃つというものです。ちょっと物騒に思う方も多いかもしれませんが、非常に人気です。ここはあえて残酷な、たまに血も飛び散るようなシーンを選んでいますが、海外では地上波でも流れているようなゲームのタイトルです。ただ、子どもも見るので、残酷な描写はなるべく排除したうえで放送するようにしています。血の色を変えたり、血をそもそも出さなかったり、ダメージの数字だけが頭の上にポンポンとコミカルに出てくるようにしたり、そこは工夫しながらやっています。日本では問題ないですが、アメリカは銃の乱射事件もあるので、ここは向こうのeスポーツ業界もかなりセンシティブに動いています。YouTubeなどでも、eスポーツとしては一つの大きなジャンルです。自分自身から見た1人称視点の画面なので、ファースト・パーソン・シューティング、略してFPSと呼ばれています。
このほかには、カードゲームですね
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これはトランプの「大富豪」などと同じだと思っていただいて構わないと思います。お互いにターンを持っていて、自分のターンが終わったら、今度は相手に渡して相手が行動する。そしてまた戻ってくるというカードの出し合いで、それぞれ最善手をもって戦っていくものです。あとは格闘ゲーム。
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これは「ストリートファイター」ですが、画面の上に体力ゲージが出ていて、1対1で技を出し合いながら、相手の体力を先に削り切った方が勝ちというゲームです。あとはスポーツゲームですね。
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eスポーツというと、これを思い浮かべる方が非常に多いです。これもeスポーツのうちではありますが、実はあんまり主流ではありません。サッカーの試合は実際に見られますし、パワプロなどもゲームでやってはいますが、野球も実際に見られるので、eスポーツの中では割と小さいです。が、スポーツゲームというのもeスポーツとして行われています。
もう一つあるのが、バトルロワイヤルというものです。聞きなじみがないかもしれませんが、110億円という賞金を出していたさっきの「フォートナイト」も、バトルロワイヤルのゲームです。
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これは「PUBG」という別のゲームです。このように、同時に100人のプレーヤーが飛行機からパラシュートで無人島に降りていきます。そして100人がそれぞれ武器を拾ったり相手を拾ったりしながら、最後の1人になるまで戦い合うというゲームです。これはちょうど降りているシーンですが、こうして無人島があって、どんどん人数が減っていくので、敵とだんだん会わなくなっていきます。するとちゃんとエリアが狭まってきます。そして移動もしながら、最後の1人になるまで戦い続けるというのがバトルロワイヤルというゲーム形式です。日本では「荒野行動」というスマホゲームが非常にはやって、高校生などの間で大ヒットしています。さっきの「フォートナイト」もこの「PUBG」も、バトルロワイヤルという、eスポーツ中ではいま一番熱のあるジャンルです。ここまで、どんなゲームがあるのかちょっとご紹介しました。
■世界の現状
ではeスポーツがどんな人に、どのように見られているかご紹介します。いまはYouTubeなどネット上のプラットフォームが強いのですが、それも変わりはじめています。
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これはブリザードというアメリカの会社のゲームですが、その放映権をディズニーが取得して、地上波のスポーツネットワークESPNで毎週中継をしています。野球やサッカーと同じように、アメリカでは地上波のテレビでeスポーツが見られるようになっています。ディズニーはこの放映権の取得に100億円を出したと言われていますが、大会は非常に盛り上がっています。
このディズニーが放映権を買ったリーグ、いろいろなチームがありますが、新しいチームを作るのに35億円かかります。これがネックになっていて、日本にはチームがまだありません。いま韓国にはソウルダイナスティなど4チーム、中国も6チームほどあります。韓国ではワールドリーグを運営していて、それがテレビで流れています。アメリカではフィラデルフィアやロサンゼルス、ニューヨークなどにチームがあります。ロンドンのチームもあります。
アメリカはやはりこういったショービジネス、スポーツビジネスが非常にうまくて、このゲームの専用スタジアムも最近できました。ちょうど先週くらいにこけら落としがあったのですが、これはフィラデルフィアフュージョンというチームの専用スタジアムです。
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いわばニューヨークのヤンキースタジアムと同じで、このゲームをするためだけのフュージョンのホームスタジアムとして作られました。いま全米各地のチームがこういうスタジアムを作って、eスポーツのチームを応援しようとしています。このようにアメリカではいま、メジャーリーグやNFLなどを追うような形で、eスポーツを盛り上げていこうとしているわけです。あれだけ多くの人に見られますので、こういった世界的な企業が大会やチームのスポンサーに入っています。
ではどれだけの人が見ているのかというと、いまは月間で1億6700万人。2022年にはさらに1億人ぐらい増えると言われています。この数字だけではピンと来ないと思うので、グラフを出します。
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衝撃的なことですが、いま月間でeスポーツを見ている人の数はすでにメジャーリーグを見ている人の数より多いです。これはゴールドマンサックスの資料ですが、MLB(メジャーリーグベースボール)よりeスポーツのほうが上を行っています。このまま行くと、アメフトのNFLより月間で見る人の数が増えるという予測がなされています。これは2017年の少し古い資料ですが、さっき賞金ランキングを出したそれぞれの大会をどれだけの人が見ているかというと、全米オープンなどは意外に少なくて910万人しか見ていません。そしてさらに上では、さっき27億円という賞金を出しているとご紹介した「Dota2」が1,500万人で3位。圧倒的なのが、「LoLチャンピオンシップ」という大会がありまして、これが1億人以上と、どのスポーツよりも圧倒的に多く見られています。
2018年はどうだったかというと、リアルタイムで見ていた人数が9,960万人、およそ1億人いました。この9,960万人という数ですが、アメリカのメジャーリーグ最後の世界一決定戦であるワールドシリーズと、NHL(ナショナルホッケーリーグ)の最後のチャンピオンシップ、そしてNBAのファイナルをすべて足した数より、こちらのほうがずっと多かったという結果が出ています。ワールドシリーズは2,350万人が見ていますが、やはりeスポーツのほうが見られています。
しかも、これからeスポーツはまだまだ伸びると言われています。というのも、いまインターネット人口が計36億人ぐらいいて、そのうちまだ1.7億人しかeスポーツを見ていないからです。95%の人は、インターネットにつながってはいるものの、まだeスポーツは見ていない。eスポーツを見る文化がないのか、まだ知らないのか、知っているけど見ないのかはわかりませんが、これだけのパイが残されているということで、まだまだ伸びる余地があるという予測がされています。
■日本の現状
世界の現状をお伝えしましたが、では日本でどれだけ盛り上がっているかというと、サイバーエージェントの子会社でサイバーゼットという会社があり、「RAGE」という大会をやっています。私も実況していますが、エイベックスとテレビ朝日とサイバーエージェントの3社で行っている大会です。
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実は日本も、もうこれだけ賞金を出しています。さっきと比べると小さく見えるかもしれませんが、1億1,000万円です。2018年の大会では、この日本人のふぇぐ選手という大学生が1億1,000万円を獲りました。優勝して1億1,000万円という賞金は、世界的にもけっこう大きいです。この大会は2019年12月にもありますが、賞金額がだいぶ上がって、盛り上がってきました。これは2018年の優勝者の様子です。あとはみなさんご存じかもしれませんが、「モンスターストライク(モンスト)」という、もう6〜7年目になるミクシィさんのスマホゲームがあります。これも賞金額は1億円出しています。
これからまた賞金総額1億円でプロツアーが始まりますが、そのチャンピオンシップはご覧のような企業にスポンサードされています。Google、トヨタ、スポーツ雑誌の『Number』、コカコーラ、三井住友カードなど、ゴルフのトーナメントや野球の日本シリーズみたいな感じで注目されています。実際にここにお金を出しているスポンサーの方に話を聞いてみると、とにかく若い人がたくさん来ることが大きいということです。この大会も2日間でイベントとしては8万人ぐらい来ましたが、ほとんど10代とか20代の前半の子たちです。こういった人たちがこれだけ熱意を持って集まってくれるイベントは、いまなかなか日本にありませんから、ゲーム会社の人たちも、そしてスポンサードしている人たちも、若い人へのプロモーションという意味でかなり注目しています。同じように、いまNPB(日本野球機構)もeスポーツを始めました。
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これは「パワプロプロリーグ」という野球ゲームを使ったeベースボールのリーグです。阪神タイガースやオリックスバファローズなどが、それぞれプロゲーマーを3人ずつ雇って彼らを戦わせるという感じです。ペナントレースから、最後は日本シリーズまであって、非常に盛り上がりました。阪神タイガースはゲームでも弱くて、セ・リーグ5位で終わるという非常に残念な結果になりましたが。さらに、子どもたちの間で非常にヒットした「スプラトゥーン」というおもしろいゲームがありますが、そちらでもプロ野球機構は2019年にリーグをやっていました。野球がシーズンインしたときに野球ゲームをやってしまうと、自分たちのリアルの野球と共食いになってしまうので、夏の間は「スプラトゥーン」でリーグをやるわけです。NPBの人に話を聞いたところ、いま野球場でも観客は増えているのですが、若い人はやっぱり減っています。プロ野球機構もそこにすごく危機感を感じていて、若い人が来るような興行をしたいということで、2018年からeスポーツも積極的に始めたということです。あとは2019年、国体でeスポーツをやったという話題もありました。
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また、eスポーツの場所として、コナミさんたちが銀座にeスポーツスタジオというこんな大きいビルを建てています。このほか、慶應義塾大学でeスポーツ論という授業が始まったり、関西では近畿大学でeスポーツサークルが非常に盛り上がっていて、私も実況しに行きました。
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eスポーツの専門学校もでき始めています。これは東京アニメ・声優専門学校というところと、大阪の本町にあるデザイン& IT専門学校というところで、プロゲーマーになるような選手たちを養成する学校になっています。高校を卒業した人たちが2年間行く専門学校ですが、これがすごい。東京アニメ・声優専門学校は募集が50人だったのですが、問い合わせが1万件来て、急遽全国5校にeスポーツ専科を増やし、教室の希望も5倍にしました。それでもまだまだ足りなくて、拡大を続けているということです。いま東京だけで1学年200人ぐらいの生徒さんがいるみたいですね。
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こちらは、東京の御三家に入る麻布高校や、神戸でいうと灘高校などといった、偏差値の高い名門高校生のアンケートです。これからの新しい職業の中で興味のあるものとして、eスポーツプレーヤー、プロゲーマーというのが3位に入っています。1位のデータサイエンティスト、2位のオンライントレーダーについでの3位です。イメージ的には意外かもしれませんが、頭のよい生徒たちのゲームへの取り組み方は非常に前向きです。本人たちに聞いてもわかりますが、彼らは頭がいいので、足の速い子たちが体育の授業で輝くように、自分の戦略性や思い描いていること、考えていることをゲームの場でうまく表現できるのです。「俺はこんな戦術をとれるんだ」とか「こんな戦い方ができるんだ」とか、みんなすごく楽しんでやっています。チームでプレイすることも多いので、みんなのチームワークで頭を使いながら戦うというところにも、やりがいを感じている子が多いですね。
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2019年の夏、コカコーラさんが主催した「STAGE:0」という高校生の大会がありましたが、応募が1,475校ありました。第100回の夏の甲子園の出場高校が3,781校でしたが、初回でこの半分近くくらいまで来ているんです。やはり若い子たちのeスポーツあるいはゲームへの前向きな姿勢というのはすごく強いということが、現場でも、そして数字でも、感じることができます。
若い人を中心にしてこれだけ盛り上がっているeスポーツですが、そのおこぼれの一部をもらおうと考えたのが、この人ですね。
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私です。これはちょうど朝日放送を辞めたときの記事です。さっき紹介したようにスポーツの実況をしていたのですが、これを辞めて、2018年からeスポーツのキャスターをやっております。
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これは海外の大会ですが、向こうのeスポーツキャスターと一緒に実況しました。
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これは本田翼さんと一対一でトークショーをさせてもらったときの写真です。自慢の一枚でもあります。
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三代目 J SOUL BROTHERSのELLYさん。ELLYさんはすごくゲームが好きで、コカコーラの大会の解説と実況を一緒にさせていただきました。その時の放送席の写真です。ELLYさんを間に挟んで2人のプロゲーマーが前列にいて、後ろにアンガールズの田中さんと、みちょぱさんと、日向坂46のみなさんがいて、楽しくやっています。芸能界でもゲームの好きなタレントさんがチームを作ったり、こういうところにゲストで来たりと、eスポーツを一緒に盛り上げようとしてくれています。さんまさんと共演させてもらったこともありましたし、有吉ジャポンに出してもらったり。eスポーツが注目を浴びているので、いろいろと出させていただく機会も多くなっています。
■ODYSSEYの活動
ここまでeスポーツについてお伝えしてきましたが、ここで私の会社が何をしているかを、簡単に説明したいと思います。
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うちのODYSSEYは、こういうゲーム会社とかYouTubeとかを相手に仕事をさせていただいています。これは取引している企業の一部ですが、任天堂さん、コナミさん、ミクシィさんとか、AbemaTVのように配信するところとも仕事をさせてもらっています。
1年でこれだけの仕事をさせていただいているのは、当時、僕と同じ仕事をしている人が一人もいなかったからです。ここには戦略性もありました。eスポーツのイベントが幕張メッセなど、どんどん大きいところでやるようになっていたのですが、現場で解説、実況、MCをやっていたのが、もともとユーチューバーだったり、プロゲーマーを目指していた人たちばかりで、プロの喋り手というのが一人もいませんでした。彼らはゲームのプロではありますが、喋ることはプロではありません。僕もゲームの配信を見ていて、ここにチャンスがあるだろうなと思っていました。
もちろん高校野球の100回大会もやりたかったです。2018年の夏、eスポーツの仕事をしながら、先輩たちが100回大会の実況をしているのを聞いて、すごくうらやましいなと思いましたし、後悔も正直ありました。でもやっぱり、一人もいないところに身を置くことで、それだけ強くなれるという自信がありました。スポーツ実況のアナウンサーって、フリーの人も合わせて日本全国で1,500人くらいいます。その中で一番を狙っていくのは大変ですし、その中で、じゃあオリンピックしゃべれるのか、いい仕事を取れるのかとかいうところには大変な競争があるし、年齢の、年功序列的なところもあります。でもゲーム業界には一人もアナウンサーがいなかったので、入った瞬間にもうオンリーワンであり、ナンバーワンになれるチャンスでした。だからもうこれは身を移すしかないと思いました。もちろん元からゲーム好きだったというのもありますが、そういう戦略をとって辞めました。
そのことをYahoo!ニュースのトップに上げていただいたこともあって、初日で仕事の依頼が40件あり、さらにその最初の1週間で100件の依頼があるという本当にうれしい誤算の中、スタートを切ることができました。事前に一応インタビューを受けていたものの、それがどれだけのニュースになるのかというのは、出るまでわからない。僕はふだんお酒を全然飲まないのですが、このニュースが出る前の日には心配で、弟としこたま酒を飲みました。やっぱり怖くなってきちゃって。「本当にニュースになるのか?」「辞めちゃったけど大丈夫かな?」という気持ちがあったんですが、昼ごろ弟に起こされて「Yahoo!ニュースでトップになってるよ」と聞かされたところからこれだけの仕事をいただくことができて、本当に人生変わったなと言う瞬間でした。弊社、株式会社ODYSSEYですが、eスポーツのキャスター事務所ということで、タレント事務所のeスポーツ版だと思っていただければ一番わかりやすいと思っています。
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いま実況者ではこの柴田くんと大和くんという2人がいまして、実況者は3人でやっています。柴田はもともと静岡でアナウンサーをしていて、彼もゲームが大好きで、私のニュースが出て2カ月後くらいに連絡をくれました。「どうするの? 会社辞めるの?」と聞いたら、「もう辞めました」っていう答えが返ってきて。もう辞めたと言うので、採ってあげるしかないなということで、うちの所属にしました。いまはいろいろなゲームに大活躍で、昨日も今日も東京の現場で実況をしております。
大和くんは大阪出身の子ですが、アナウンサーの経験はありません。高校卒業とともに上京し、ゲームの実況をしている元プロゲーマーの方に弟子入りして、実況をしていました。アナウンサーの経験はありませんが、この子がとにかく実況がうまくて、センスがあったので、「これは絶対うちに入れたい」と思って、こちらから声をかけて入ってもらいました。彼もいまゲーム業界で大活躍している一人です。ABCにもこんな若手が入ったらいいなと思いますすが、大和くんは本当に実況がうまいです。
このほか、最近はイベントのMCなどをやる女性タレントも増えてきました。ゲームが好きなので、それを生かして、好きなゲームのイベントのMCをしたり、そこから派生して違うゲームに入っていったりしています。どちらかというとこちらのほうが需要があって大きくなり、いまうちには女性が7人いて、計10人でやっております。
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あとはeスポーツの中継番組制作があります。もう大きいところがたくさん入っているので、うちは小規模です。「eスポーツをちょっと体験したい」とか、「会社で社内大会をやりたい」とかいう声がけっこうあるので。スライドは、こんな感じで手作り感がありますが、名古屋の商工会議所の集まりです。「ちょっとeスポーツやりたいです」と言うので、うちの実況者を出して、そしてその大会の技術的な運営などを含めて、うちで全部やりました。このように、「eスポーツってこんなもんだね」とか「みんなで真剣にゲームやって、それを見てもらうのって意外におもしろいね」というところを理解してもらうような活動もしています。これは予算もすごく抑えていますので、もし機会があれば、ぜひお声掛けいただければと思います。本当に安価でやっています。
あとはありがちですが、eスポーツで何かやりたいと言うところへアドバイザーとして入ったりするコンサルティング事業や、専門学校のプロデュースをさせてもらったりとか、eスポーツと絡んでそういうこともしています。
■eスポーツ実況の様子
みなさんちょっと眠くなってきた頃だと思うので、eスポーツの実況ってどんな感じなのか、実際見てもらおうかと思います。用意したのは、私が実況した「大乱闘スマッシュブラザーズ」という任天堂の大人気タイトルです。最初の1作はもう20年前、僕らが小学校の時に出たんですが、その世界大会が先日京都でありました。
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これがその世界大会です。左にいるザクレイというなまえの子が日本人の17歳の高校生で、日本ではエースとして扱われている選手です。右のMkLeoという選手が2018年の世界チャンピオンで、もう世界の大エース。すでに伝説として扱われるような選手で、サッカーでいうメッシみたいな感じですかね。
右が世界選抜チームで、世界のいろいろなところからいい選手を呼んできて作ったチームです。左が日本代表のチームで、日本代表対世界選抜の決勝戦になりました。いま世界選抜に2本取られて、2-0とありますが、もう後がありません。ザクレイが絶対勝つしかないという、そんな大事な一戦です。
この「スマッシュブラザーズ」というゲームを簡単に説明すると、真ん中にステージがあって、相手のキャラクターをこの画面の端に飛ばすか、こっちの上とか下とかの画面外にはじき出すと勝ちです。下にダメージがパーセンテージで表れていて、こちらが40%、向こうは赤くなっていますが、115%。ダメージが大きければ大きいほどよく飛びます。だから左のザクレイは、ちょっと危ない状況ですね。でもMkLeoは残り1体、ザクレイは残り2体というシチュエーションです。あとは何となくで大丈夫なので、実況だけ聞いてもらえればと思います。
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平岩さん:ザクレイ戻る。
解説者:まだ大丈夫。
平岩さん:***で戻ります。ニュートラル重ねて、さらに重ねて。
解説者:おおっと。
平岩さん:ルキナは危ないぞ。ここは速い。ドルフィンガスでした。さあそして空中***。これがルキナの復帰阻止。さあ結局最後のジョーカーまで引きずり出されましたザクレイ。
解説者:*****ですね。
これ最後のお互い一機ですね。残り一体しかいません。
平岩さん:さあここは、MKLeoレオが下にいる。
白いコートを着ているキャラクター、いま上に浮かんでいるんですけど、これがザクレイです。相手の世界選抜が、剣を持った紺色の女性のキャラクター、これが相手です。
平岩さん:早く降りたい。ただMkLeoがそうはさせない。空中、上からニュートラル。*****まで狙っている。ザクレイ、反撃に転じることができるか。投げを通して、119%。これはルキナにはつらい距離だぞ。
解説者:おおおおお。
平岩さん:最後しかも空中***を突き刺していきました。世界よ、これが日本の若きエース、ザクレイだ。
解説者:そこで復帰阻止に行く。
平岩さん:行かなくてもいいのに。
解説者:ええ、参りました。
平岩さん:これがザクレイです。
解説者:素晴らしいです。
雰囲気的にはこんな感じです。野球やサッカーの実況に極めて近い、本当にスポーツの実況としてやっている雰囲気を感じてもらえればなと思って出しました。
■eスポーツの課題
次に、eスポーツの課題を簡単に説明したいと思います。
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eスポーツ、これだけ盛り上がってはいるのですが、むずかしい点がいくつかあります。まず、サッカーとか野球って、権利は誰にも帰属しません。サッカーという競技、野球という競技そのものは、誰のものでもないわけです。僕らがその辺でサッカー大会をやっても、サッカー連盟にお金を払ったりしないじゃないですか。グランドの使用料は払いますし、ボールとかはもちろん買ってきますが、サッカー協会にお金を払うわけではないです。でもeスポーツの場合は、競技そのものが任天堂のマリオですよとか、カプコンのストリートファイターですよとか、競技イコール誰かの持ち物なのです。
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これですね。いわゆる知的財産、IPといわれるもので、これがむずかしいところです。野球やサッカーだったら、簡単に大会ができる。ただeスポーツの場合は、例えば任天堂の「スマッシュブラザーズ」を使って京セラドームを埋める3万人のイベントを打ち立てたとする。そして1枚5,000円のチケットを3万枚即完売した。そこで「さあやりましょう任天堂さん」と言っても、もし任天堂から「いやそれはちょっと、うちの趣旨と合ってないんでやめてください」と言われると、大会はできません。チケットが売れたとしても。それがeスポーツのすごくむずかしいところで、やっぱりタイトルを持っている、この知的財産権を持っているゲーム会社さんの許諾が必要なわけですね。
ゲーム会社さんも、タイトルによっては50億円も100億円もかけて作った渾身のゲームですので、第三者がそれを使って利益を生み出すっていうのは、やっぱり許せないですよね。ゲーム会社の存在はもちろん、その許諾なくしてはeスポーツの発展はないというのがむずかしいところです。さらに言うと、誰がゲーム業界を率いるかというのが一つのポイントになっています。
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世界中の主要なゲーム会社を上げるだけでも、これだけになります。すると、これらを取りまとめる存在というのが必要になって、日本にはいまeスポーツ連合という一般社団法人があります。政府や政治家の方々などもかなり近い存在ですが、でも海外含めて、大きな企業でも入っていないところがあります。ゲーム業界全体が一丸としてなってやる仕組みっていうのがまだまだできていないのです。
あとは専用スタジアムというのが必要になってきます。いま関東では幕張メッセや東京ビックサイトでやっていて、大阪では南港のATCホールという大きい施設がありますが、要は空の箱なので、何もないんですよね。で、そこにステージを作る、照明を作る、映像の機材も運ぶ、配信する設備もインターネット回線も持ってくるとなると、ものすごくお金がかかってしまって、たくさんお金のあるところしか大きなeスポーツの大会ができないのです。
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ただ、さっきスタジアムを出しましたが、韓国やアメリカでは(状況がちがいます)。これは韓国のLOLPARKというeスポーツ専用スタジアムですが、フルで入っても多分500人くらいの規模で、商業施設の2フロアくらいを使った施設です。しかしこれは専門施設なので、ゲームだけ持ち込めば、それで大会ができるようになっています。LEDとかも多いので、装飾なども画像のデータだけ貼ればそのゲームっぽくなるという専用スタジアムがありますが、日本もやっぱりこれを作っていかないと、簡単にイベントを開くことができないということです。
あと、来年は東京オリンピックがあるので、場所が取れないのです。本当に場所がなくてすごく大変で、映画館を使おうかというような話も出ていますが、みんな試行錯誤しながら、どこでやろうかって悩んでいます。
しかしこれは、専用スタジアムがあれば解決する話です。関西も含めてこういう場所があると、平日のナイターなんかもできますよね。イベントみたいにステージから何から作らなくてもいいし、あまり人数が入らなくても大赤字にはならないので、じゃあとりあえず平日のナイターもやってみようかとかいうことが、お金がない人やイベント会社でもできる。こうなるとまた一気に盛り上がるし、簡単にeスポーツを見たいなというときにも、遠くまで行かなくてもいいので、専用スタジアムの建築はかなり待ち望まれています。
■ゲーム業界の現状と展望
ちょっとしゃべりすぎて時間もなくなってきたので、最後にゲーム業界の話をさらっとします。いま世界のゲーム人口は22億人いると言われています。さっきのサッカーが2.4億人でしたので、いかに競技人口、遊んでいる人の数が多いかというのがわかるかと思います。で、いま世界での市場規模というのが15兆円です。ファミリーコンピューターというのが1983年にできて、「スーパーマリオブラザーズ」が始まってから、実はゲーム業界って一度も落ちてないんですよね。横ばいの時期はあったのですが、基本的には右肩上がりで成長し続けていて、よし悪しはあるかもしれませんが、非常に受け入れられている。市場も望まれていて、特にこれから育っていく子どもたちがすごく積極的に接してくれているというのが、ゲーム業界の現状です。日本も1.5兆円ということで、サイズ感としては非常に大きな市場を持っています。
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これはテンセントという会社です。みなさんなかなか聞きなじみがないと思いますが、海外へ行くとWeChatというメッセージアプリがあって、それをやっている中国の会社です。実はこの会社、世界で一番大きいゲーム会社になっています。売上が4兆円で利益が2兆円という無茶苦茶な規模ですが、いまではGoogleやアマゾンなどに次いで、世界7番目の時価総額の会社になりました。
ゲーム会社というのはいますごく儲かるので、あんな110億円という賞金も出せますし、いろんな大きなサイズのことをできる。その力はこれからもどんどん強くなるので、ゲームとのちゃんとした付き合い方というのを考えて、eスポーツもいろいろな人に見てもらえる興行になっていくのが大事かなと思います。ゲーム業界は成長を続けて、いまは15兆円ですが、2020年には20兆円に伸びることが予想されています。スライドの話としては以上になります。
■ゲームは悪いものではない
ここからはですね、みなさんが多分心配している、「ゲームは悪いものなんじゃないか」とか「お子さんがやり続けるとよくないんじゃないか」という話です。私はアナウンサーを辞めてゲームの仕事をしているので、ゲームへの誤解を解くような活動もなるべくするようにしています。例えば関西だと、「そこまで言って委員会」という番組に出演して、「eスポーツはスポーツなのか」というテーマで、頭の固いおじさま方と討論しました。あとは、何かしらゲームが揶揄されたり叩かれたりするようなところへ行って、「いやいや違うんですよ」というような活動もしています。
けっこう誤解されていることが多いのですが、まずは日本ではなぜここまでゲームによいイメージがないのかという話です。子どもには一日1時間しか絶対にやらせないとか、子どもには買ってあげないとか、中学生になるまでやらせないとか、そういう人も多いと思います。
大人になってやらなくなる人もけっこう多いですよね。さっき手を挙げてくれた方はけっこう多かったですが、海外だったら割合としてもっと高いはずです。海外では大人の人も、趣味としてけっこうゲームをやるんです。おばがイギリス人と結婚して、私にはイギリス人のおじさんがいるんですが、そのおじさんはいつもパソコンでゲームをやっていて、それが普通です。
私は15年前くらいに大学生でしたが、当時まだ、「休みの日に何やってるの?」って聞かれて、「ゲーム」って言えなかったんですよね、恥ずかしくて。僕らの世代は、小学生のときにポケモン、中学生のときにプレイステーション2が出て、ゲームがすごく盛り上がっていました。でも、高校生の終わりから大学に入るくらいのタイミングで、みんなやめちゃうんです。だから、ゲームというと「子どもがやるもの」というイメージがありました。大学生の私は本当に好きで、もちろん毎日やっていたのですが、ちょっと隠していたような時期もありました。昔はもっとそうだったと思いますが、でも僕が社会人になっていく中で、それが少しずつ変わりはじめたりもしました。社会人になってからもゲームやっているという同期が、朝日放送にいたりとか。
遡ってみると、1983年にファミリーコンピューターが出たとき、当時お父さんやお母さんだった世代には、子どもたちが悪魔に取り憑かれたようにゲームをやめなかったという記憶があります。書道だろうが、スイミングスクールだろうが、読書だろうが、絵を描くことだろうが、それまでそんな取り憑かれたように何かに集中することはなかったのに、ゲームはみんなやめなかった。一日1時間(というルールを作っても聞かず)、一日1時間半にしてもやめない。最後は怒鳴って「もう洗濯機でファミコンを洗う!」というようなことを言い出したうちのお母さんみたいな人もいましたが、もうそれくらいやめない。そんな記憶がどうしても残っているんじゃないかなということを、個人的には思っています。あの父母世代のむずかしいのは、子どもたちがそれだけハマって楽しんでいるファミリーコンピューターを、本人たちはやったことがないので、そのよさとか中毒性の高さとかがわからないということです。(そうして子どもたちとの距離が)どんどん離れてしまったところにむずかしさがあると思っています。
ですが、私もこういう立場なので、いろいろと調べています。例えば、「ゲームをすると目が悪くなる」という定説のようなものがありますが、そのことを医学的に証明した論文はまだ一つもありません。もっと言うと、テレビを見すぎたり、暗いところで本を読むと近視の原因になると思われがちですが、実はそのこともまだ根拠づけられていません。簡単に言うと、基本的に近視というのは軸性近視といって、年をとって目の形が変わっていくことから起こります。そしてその変形する度合いは遺伝によってちがってくる。つまり基本的にはもう全部遺伝だということです。近い距離で物を見続けると、そこに短期的に筋肉が凝り固まって近視になるケースもありますが、それは1カ月程度治療すると治るというのが、眼科の先生たちの見解です。実はゲームそのものには、目が悪くなることとの因果関係がないのです。
また、さっき映像を出した、人を撃つようなゲームについても、みなさん懸念されているかもしれません。しかし、ゲームの暴力性と、それをプレイする子どもの暴力性との間には因果関係がないということも、オックスフォード大学の研究で最近導き出されています。これはオックスフォード大学が1,100組の親子を7年間見続けたうえで出した結論だったのですが、いくら暴力性のあるゲームをやったとしても、子どもの性格が暴力的になることはないということです。これはやはり、ゲームが大きく誤解されているところではないかと思っています。
さらに心配なのが、ちょうど2018年、テレビでeスポーツが盛り上がったとき、それに歯止めをかけるようにWHO(世界保健機関)がゲーム依存症を疾病認定しました。どうしてそんなことするんだろうと思いましたが、(規定されている症状などを見ると)依存症というのは本当に重度です。睡眠障害になるくらい、一日20時間のゲームを1年間やめなかったというようなプレイ時間なのです。
アルコールやタバコも同じですが、アルコールやタバコ自体に問題があるのではなくて、実はその本人たちに問題があるということも、研究結果としてけっこう出ています。これも最近オックスフォードが出した結論ですが、ゲーム依存症もゲームにそのものに問題があるのではなく、プレイして依存症になってしまった人の心の問題であるとか、身体的な問題だということです。本当にゲームに偏りすぎた生活を送っている人が依存症になる危険性はないとは言えませんが、いろいろ調べた結果、家で普通に数時間ゲームをやめないくらいの子どもなら全く問題はないし、あんまり心配しなくていいのではないかなと私は思っています。
■ゲームの教育効果
偏差値の高い高校の高校生がプロゲーマーになりたがっているというアンケート結果をさっき出しましたが、勉強との関連性でいうと、ふだんからゲームのプレイ時間の長い学生と、そうでない学生のテスト結果を比べた研究がありました。すると、ゲームをしている子たちのほうが、テストの点数がよかったんです。みなさん絶対に信じられないと思いますし、私もこれはなかなかすごい結果だなと思って見ていました。
これについては、最近ビジネスではやりかけているPDCA(プラン・ドゥー・チェック・アクト)、要は計画を練って、実行して、その結果を見て修正して復習して、そして最後にもう一回やり直すというPDCAサイクルというのがあるんですが、それをゲーマーの子たちはよく回しているんです。例えば、「スーパーマリオブラザーズ」の1-1を思い出してもらうとわかりますが、マリオが歩いていくと、右からクリボーが来ますよね。で、クリボーにそのまま当たったら、死んじゃいます。するとその次、もう一回やるときは、クリボーが来たら横に逃げるなり、ジャンプするなり、何かしようと思いますよね。そしてうまくクリボーが踏めたとして、次に行くと、今度は階段みたいなのが出てくる。そこでどうやって上がるのかなと考える。その次はキノコが出てくる。これは取ったほうがいいのか、取らないほうがいいのか。実は、そうしてどんどんやっている中で、「どうして先に進めないんだろう?」という思考をすごく巡らせているんです。
そうした思考する習慣というのを、特に子どもは、人に教えてもらわなければなかなかできません。例えば学校で宿題をもらってきても、自分で授業を受けていても、「これはどうしてこうなんだろう?」と考えることは、大人になるまで意外にないと言われています。それを自動的に回してくれるのがゲームです。「ドラゴンクエスト」などはわかりやすいですが、何回も同じボスに負けて、「どうして勝てないんだろう? じゃあ次は違う武器で行こうかな」「もうちょっとレベルを上げてから行こうかな」「ボス戦では違う技を使ってみようかな」とか、そういうプランをどんどん立てている。ちゃんとPDCAを回しているんですね。
それが勉強にも当てはまるので、ゲームをやっていた子のテストの成績が、やっていない子たちより上だったという結論というのも(うなずける話です)。思い返してみると、自分もゲームでそのPDCAを回していたなと思います。仕事もそうですが、普通に仕事をしていると、PDCAのどこかが抜けたり、平均的にしっかりとはなかなかできなかったりします。感情的な部分もあって、例えば営業先に嫌なクライアントのおじさんがいたりすると、計画は立てても、実際に実行する段階でくずれてしまって、ちゃんと反省しなかったり、反省点を生かしきれなかったりすることがあります。疲れているせいか、仕事をしている時間が長いせいかはわかりませんが、実際に仕事を始めるとなかなかむずかしかったりするんですよね。ただ、それがゲームの場合はうまく回せているなということは、自分でも気づいていました。子どもたちもそこにしっかり気づいて、学んでいけるのではないかと思います。
ゲームにはPDCAを回すための根幹的なモチベーションというのもあります。どうして勝てないのか、なぜ負けてしまうのかといった、すごく大きなモチベーションが根底にあります。いまのゲームというのは、負けたらもちろん悔しいようにできています。じゃあ次にうまくやるために、ちゃんと勉強しなきゃなっていうモチベーションがしっかりあるので、そういうところは生かしてやっていければいいのではないかと思います。
だから、ゲームをやめないお子さんには、例えば「一日1時間まで」というルールなら、じゃあ「2時間やっていいから、その代わりにゲーム用のノートを用意して、そこになぜ負けたのか、1行でいいから必ず理由を書いていきなさい。お母さんが見るから」と。そして、ゲームをやる前には必ずそれを読んでからやるように言っておくと、やっぱり考えるんですよね。「どうして勝てなかったんだろう」「なぜいつも同じ相手に負けちゃうんだろう」「なぜオンラインでやってもいつも同じクラスの○○君に勝てないんだろう」といったようなことを考えることで、ゲームとの付き合い方も変わってくると思います。
テストを受ける前でも、「テスト1週間前だからゲームはダメよ」って言うくらいなら、もう一回、そのノートを見てもらうんですよ。そうすると、ゲームで回しているPDCAというのが、テストにもけっこう応用できるんです。「どうして俺は算数でいつもケアレスミスをするんだ」とか、「偉人の名前は出てくるんだけど、その人が何をしているのか、どうして覚えられないんだ」とか、「どうしてテストでは毎回65〜70点どまりで、80点が取れないのか」とか、そういうことを考える癖がつく。そこがゲームのいいところだと思うんです。
ゲームを我慢しながらたくさん勉強して、テストを受けたとしても、そのテストが返ってきたころにはもうゲームができるから、普通ならテストの復習なんかしないですよね。優秀な子はするかもしれませんが、私はしていませんでした。そこで、次のテストに向けて「何かをする癖」というのを、ゲームではつけることができると思います。テストのときにはなぜ復習しないかというと、モチベーションがないからです。これが受験前だったら、みんなしますよね。高校1年生の夏休みか、2年生に入ったときとか、人によってちがいますが、「そろそろ受験勉強をしていかないと、模試のこの点数のままではやばいぞ」というので、初めてモチベーションと明確な目標ができて、PDCAを回すわけです。それが遅い人もいますし、「癖」がないので、そこでも回せない人もいます。すると、「こんなに一生懸命がんばって過去問もやっているのに、点数が取れない」ということになってくるんです。でも、小さいときからゲームでそういう「癖」がついていれば、それはスポーツにも生かせると思います。部活でそれをやっている人は、ゲームに生かしたらいいと思いますし、勉強にも生きると思います。ゲームは「自分で考える癖」というのを、すごくいいモチベーションとともに与えてくれます。お子さんがいる世代の方もいらっしゃると思いますので、そういう方はぜひ実践していただければと思います。子どももうれしいでしょうしね。
「子どもがいつまでたってもゲームをやめない」とよく言われるのですが、これは「一日1時間」程度でルール設定をしているためではないかとも思います。「お母さんはもう何も言わないから、三日間、ずっとゲームやっていいよ」って、一度言ってみてください。どれだけゲーム好きな子どもでも、「好きなだけやっていいよ」と言われて、三日三晩もやれば大体飽きるんですよね。そこで、「これで飽きるんだったら、あなたはそこまでゲームが好きじゃないんだから、一日○時間くらいにしなさいね」というアプローチがあると思うんです。同じゲームをやり続けることには根気と集中力がかなり必要で、大体の子はもう4日目には絶対違う遊びをしていますから。外に遊びに行くとか、友達の家へ行くとか、別のゲームやるとか、言い出すと思います。これがもし4日目も血眼になってかぶりつきでやっている子がいれば、その子はプロゲーマーの才能があると思うので、逆にそちらを考えてもいいくらいです。
いまゲームはあれだけ複雑になっているので、集中力も要るし、考えなくてはいけないし、考えなければ負け続けるから嫌になってやめるしで、やり続けるのは本当に労力の要ることでもあるんです。だから、一度そういうアプローチをしてみてもいいかなと思います。すると多分、自分でも「俺やっぱりそんなにゲーム好きじゃないのかな」と気づくこともあるでしょうし、子どもたちのまたちがった姿も見られると思います。
私なんかも一つのゲームを一日何十時間もずっと続けるというのは無理なタイプですが、プロゲーマーたちって、やっているゲームによってはもう10年以上続いているので、一日18時間を10年間、毎日欠かさずやっているんですよね。それはもう本当にすごい労力だと思いますし、普通の人は絶対できない。一部の才能のある人しかできないので、そういうのを対比して見せてもいいと思います。すると、「じゃあちょっとルールを守って、ゲーム以外のこともやってみようかな」ということになるかもしれません。ですから、「一度好きなだけやっていいよ」と言って様子を見るのもいいんじゃないかなと、個人的には思っております。
■生きがいを持つことの大切さ
ここまでゲームの話をしてきましたが、今回のテーマが「開け 新しい私」ということで、そういう人間性というか私の生き方のようなものを、ちょっとお伝えしたいと思います。こんな若輩者が伝えていいのか、ためらいもありますが。
一つ伝えたいのは、いろいろな人に言っているのですが、生きがいを持って生きてほしいなということです。みなさんには「このために生きている」という生きがいがあるかということを、ちょっと考えていただきたいです。これはお子さんとか、ご家族とか、ペットの犬とか猫とかではなくて、一人で打ち込めるもの、もちろんオンラインでもいいんですが、そういう趣味のようなものです。
日本の方はすごく仕事熱心ですし、やっぱり仕事は大変なので、会社員として働いている方は特に、ふだん生きている一日の中で一番しあわせな瞬間は「仕事が終わったとき」という人がすごく多いと思うんです。ABCにつとめていたサラリーマン時代、私もそういう瞬間が多くて、「ああ、仕事が終わった」っていう、仕事から解放されたときが一番の楽しい瞬間だったというのがけっこうありました。でもそれは仕事にとらわれている人生なので、ちょっともったいないなと思います。優秀なサラリーマンの方って、仕事を趣味にできるんですね。例えば営業に行くことや、営業先の人とゴルフに行くことが好きだったりとか、社長の顔色をうかがうのが好きだったりとか、スケジュール管理をするのが好きだったりとか。それも才能だと思うので、それは素晴らしいと思います。人付き合いもすごく上手だし、仕事もできるし、処理能力も高い。「出世する人」になるんですかね。でもその人は、仕事を趣味にしています。だから、休日も仕事のための本を読んだり、何ならそのまま仕事をしたり、仕事のためのゴルフに行ったり、会食をセッティングしたりとかする。そういう人たちって、定年になった後に何をしていいかわからないんですよ。さあいざ定年になった。たくさん働いて、たくさんがんばって出世して、ある程度給料もらえるようになった。じゃあ60歳からフリーですっていうときに、やりたいことがない。そういう人たちがいらっしゃるのをけっこう見てきたんです。人生の先輩なので何とも言えところはありますが、仕事が終わった瞬間に憑きものが落ちたようにモチベーションがなくなってしまったり、何をしていいのかわからなくなったりする方が多くいました。そういうのはやっぱりつらいと思います。いま仕事をしている人でも、休日やフリーの時間に「これをやりたい」「これをやっているときだけ自分は輝けるんだ」「ワクワクできるんだ」というものを持っていてほしいなと本当に思っています。
それは家族や子ども以外のことでと言いましたが、なぜかというと、他人にあんまり依存するのはよくないと思うんです。子どもは大きくなって、独立したいタイミングになると、自分から離れていきます。それで生きがいを失うわけですから。家族もそうです。そういうところではなくて、趣味として、例えば園芸でもいい、もちろんゲームでもいい、鉄道模型でもいいし、絵画を見るとか描くとか、物を書くのもいい、本当に何でもいいと思うんです。自分はこれだけは人より知っているとか、人よりすぐれているとかではなくて、これだけは必ず人よりワクワクするっていう何かがあると、人生はまったく変わってくると思うんです。お子さんもいて、仕事もあって、両親、奥さま、旦那さんの両親やママさん友達との付き合いもあって忙しいんですが、それが忙しくなくなったとき、空いた時間にすぐ「これをしたい」というものを、何かしら少しずつ温めていってもらえると、すごく素晴らしいのではないかと思います。
しかし、それが例えばAmazon Primeを見るとか、Netflixのドラマを見るとか、受動的なところになったらダメなんです。能動的に動いてほしい。Amazon PrimeやNetflixのドラマを見続けること自体は、もちろんいいんです。すごいクリエイターさんが作っている作品なんで、見れば楽しいし、ワクワクする。でもそれは、大多数の人がするんです。そこではなくて、例えば作品のレビューを書いてみようとか、ブログを書いてみよう、Twitterを始めてみよう、Netflixの感想だけを書く SNSを立ち上げてみようとか、自分のアウトプットも同時にすることで、生きがいになる能動的な趣味というのを作ってもらいたいんです。すると、もしNetflixが立ち行かなくなってなくなったとしても、全く別の新しい映像のプラットフォームが出たときに応用できる。Netflixで感想のサイトをやっていて、人もけっこう見に来てくれるようになったから、ちょっと別のものにしてみようかなとか。そんな「書く癖」もついていきます。
そういう生きがいのようなものがどんどん出てくると、いまの仕事もきっとはかどると思います。これからは仕事の部署の枠や、もっと言えば会社と会社同士の枠なども、どんどんくずれはじめます。ソフトバンクのような大きな会社でも副業を認めたりしていますが、そこで自分の趣味と親和性があるものを見つけることもできます。いままで誰よりもNetflixのドラマを見てきて、誰よりも詳しいという人なら、それで仕事ができるかもしれません。「こんなコラボでレーションができるんじゃないですか」とか、「この人知っていますよ」とか、新しいつながりもできると思います。そんな、何かしら「これだけは自分が一番ワクワクしている」という生きがいを見つけて生きていただけるといいのではないかと思います。
私の場合はそれがゲームだったんですが、1年間仕事にしても、やっぱり嫌いにはならなかったですね。会社もやっているし、ついてきてくれる部下もいるし、それはもちろん嫌なこともたくさんありますが、やっぱり楽しみにしていたゲームを初めて起動する瞬間の気持ちなんかは、子どもの頃から変わりません。こんなことを言うと変な人だと思われるかもしれませんが、私はおもちゃがすごく好きで、海外に行ったときなんかにトイザラスとかを見つけると必ず入ります。それはそこにいる子どもを見るのが好きとかいうのではなくて、完全に子ども目線で、「こんなおもちゃが出たんだ」とか「このパッケージかっこいいな」とか言いながら見るのがいまでも好きなんです。そういう誰にも譲れないワクワク感みたいなものは、ご自身の中のどこかに必ず眠っていると思うので、それを呼び起こして人生をより豊かにしていただけるといいのではないかと思います。
いまはインターネットもあるので、例えば寝る前の15分を使ってYouTubeを見るくらいのことなら、家にいてもできます。すると、その最初の小さな灯みたいなものが、どんどん大きくなっていくと思います。そして、子どもが中学校に入った、大学に入った、就職したとか、悲しいですが奥さんと別れてしまった、仕事をやめた、定年になったとか、自分の時間がたくさんできたときに、そこで初めて何をするのか考えるのではなくて、若いときから少しずつためてきた「自分の大好きなもの」の花を一気に咲かせたりすると、すごく楽しいのではないかと思います。
■読書をしよう
この生きがいというものに、いまもう既に出会っている人というのはすごくしあわせだと思うんですが、新しく見つけるのは実はすごく大変です。みなさんお忙しいこともあって、簡単には見つからないんです。そこで、「こんなことをすると生きがいが花開きやすいし、仕事もうまくいきますよ」ということがあるのでご紹介します。
まず一つは、非常にありきたりなんが、読書をしていただきたいなということです。いまの若い人は本当に本を読まなくなってしまっています。若い人たちの中には、「俺は本も読まないし、テレビも見ない。全ての情報はネットから得ていてかっこいいぜ」なんて思っている人もいるんですが、そんなことはありません。新聞は個人的にどちらでもいいと思っていますが、読書はしていただきたい。
なぜかというと、本には著者の人生の最大限の要約が込められているからです。例えば私が80歳で末期ガンになって、もう死にますという病床にいるときに、「じゃあ平岩さん、これだけeスポーツの実況をやってきたので、一冊本を書きませんか」って言われて書いたとします。すると私はその一冊に、eスポーツ実況に関する私の人生を全て込めるわけですよ。本というのはそういうもので、ずっと政治をやってきた人、日本史について研究してきた人、日本料理について研究してきた人、スティーブ・ジョブズの自伝なんかもそうですが、その人の人生を全てその一冊にそそぎこむわけです。そしてそれを、われわれは4〜5時間で吸収できるんですよ。その人が何かに費やしてきた、素晴らしい数十年の人生を、たったそれだけの時間で吸収できる。いまの世の中でこんなに効率のよい、これだけ時間のコストパフォーマンスが高いものは、少なくとも僕は他に知りません。
読書の力というのは、まだまだすごく大きいものがあります。読書の習慣がある人とない人がいますし、特に若い人はない人も多いと思いますが、おすすめの読書法は、知り合いが読んでいる本や、おすすめの本などは聞かないこと。自分で大きな本屋さんへ行って、何時間かけてもいいから、自分が心から読みたいという一冊を手に取って買うことです。そしてそれを読んで、最後の20ページぐらい、あと2日間ほどで読み切るくらいのところまで来たら、またその本屋さんへ行って好きな本を探すということを、繰り返しやってほしいです。これは活字に慣れるためなので、雑誌と漫画でなければ何でもいいと思います。小説でもいいし、どんな本でもいいので、必ずちゃんとした書籍を買って、次にまた買いに行く。
それを繰り返していると、ある日突然、ずっと小説を読んでいた人が、だんだん飽きてきて、経済関係の本を手に取ってみたりすることがあると思うんです。ビジネスばかり読んでいた人が、小説を取ってみたり、料理の本を取ってみたり。それというのは、その人の人生の幅がすごく広がる瞬間だと思うんです。そこには、それまで全然知らなかったよさがあるわけです。自分の新しい生きがいなのかもしれない。新しい趣味に出会うことかもしれない。会ってみたい人ができたりするかもしれないし、見たい映画が出てきたりするかもしれません。その人の人生の幅がすごく広がるところなので、読書というのはぜひ習慣づけてください。カバンに常に一冊入れておくと、せっかく買ったし読まなきゃなというプレッシャーにもなります。スマホを持つのを一瞬我慢して、電車の中で本を読んでください。関西の電車は満員になることもそれほどないと思いますし。
いま電車の中で本を読んでいる人は、本当に少なくなってしまいました。大人の方でも少ないですよね。それはやっぱり残念だと思います。大人になると寝る前に読むこともできるんですが、若いときはどうしてもYouTubeを見てしまうと思うのでむずかしい。僕は個人的に、電車の中がやっぱりオススメかなと思います。どこでもいいので、本を読んでいただきたいです。
■インプットとアウトプットのハブになる
そしてもう一つ、アウトプットをしていただきたいなということがあります。何でもいいので、人に何かを伝えることをやめないでほしいですね。簡単に言うと、いろいろな人に会ってほしいということです。
人に何かを話したり、何かを伝えたりするためには、常に何かインプットをしなくてはいけません。でもそれがテレビを見た情報とか、ネットニュースのグノシー、別に批判するわけではないですが、グノシーの情報とか、スマートニュースの情報では薄いです。本で読んだ知識とか、自分が行ったところとか。「最近こんなところに行ったんですけど、この田舎にあったお蕎麦屋さんが意外においしくて」っていう話だとか。そういうことを伝える癖をつけておいてほしいと思います。
よいアウトプットをすると、相手からもよいアウトプットが返ってくるんです。ひけらかすわけではありませんが、いい知識を伝えると、相手だって「俺もこんなこと知っているから、教えてあげたい」という気持ちになって、よいアウトプットが飛んでくる。それは自分にとってよいインプットなんです。そして、相手から伝わってきたよい話、自分の中に入ってきた新しい話は、もう自分のものにしてしまえばいい。「最近こんな人からこんな話聞いたんですけど、すごくないですか」って他の誰かに話すんです。するとその相手から、また新しい話が返ってくる。そうして聞いた話を、読書のインプットなどと一緒にぐるぐる回していると、自分がアウトプットとインプットのよいハブになるんですよね。すると、自分にはよい情報だけが残ることになります。話す相手も、会社の同僚や部下だけでなく、違う仕事をしている新しい人や、ちょっと嫌な取引先の人なんかと飲みに行ってみたりするといいです。相手が意外といいことを知っていたり、意外に趣味が合ったりすることがありますから。
そういうことをぐるぐる回しているうちに、何か自分にしかできないことが見つかると思います。例えば、お互いに全然知り合いではないAさんとBさんという人と、別々に飲んだりお茶したりして、いろいろ話を聞いたとします。すると、AさんとBさんのよい情報を両方知っているのは、自分だけということになります。すると、趣味でも仕事でもいいですが、「ちょっと待てよ。俺のやっているこの仕事と、AさんとBさんの話を全部合わせたら、すごくおもしろいことができるんじゃないか」とかいうことが出てきます。
思い返してみれば、自分もABC にいた1年前、テレビ局とは全然関係ないゲーム会社の人と仲よくしていて、ご飯もよく一緒に行きました。そこでいろいろ話している中で、「ゲーム業界にアナウンサーの需要って、めちゃめちゃあるんじゃないか」と気づいたんです。実際に聞いてみても、「確かにゲームをわかっているプロの喋り手はいないね」ということだったので、これはもうやるしかないなと思ったわけです。
そんなインプットとアウトプットの繰り返しが、とても大事なことなんです。仕事で疲れた後に新しいチャレンジをするというのはすごくエネルギーの要ることですが、そういうことが好きな人たちとっても、そこはけっこう同じだったりします。僕も誰か新しい人と会うのはすごく好きですし、講演の場などでもそう言いますが、実際に会う日になってみると、「ああ、今日は家に帰ってゲームやりたいなあ」って思うこともたくさんあります。それでも行くと、やっぱり楽しいし、新しい発見もある。いろいろな人がいますから、正直、大して実のない飲み会もありますが、それでもやっぱり、これによって人生が豊かになったことの方が多いです。
そのためには、特に自分より立場が上の人であるとか、物をよく知っている人であるとか、仕事ができる人とか、憧れの人とか、そういった人たちに自分のよい情報をちゃんとアウトプットできるよう、ふだんから読書して準備しておけばいいと思います。誰かと話をして、いろいろなところへ行って、いろいろな経験をして、インプットをして、それをどこかで出すと、よりよいのがまた返ってくる。それがぐるぐる回っていくのが、すごくいいと思うんです。そしてその中から、「私はやっぱりこれが好きだ」とか、「私はこんなことをしたいなあ」とか、そういう生きがいのようなものが生まれてくる。それは大事なキーになるので絶対に離さずに、追い求めていただければなと思います。
■趣味や生きがいを無理に仕事にすることはない
仕事を趣味にするのはよくないと思いますが、趣味を仕事にする、生きがいを仕事にするのは、楽しいことなのでいいと思います。でも僕は無理に奨励はしていません。趣味や生きがいというのは、利害関係がないフィールドでもあります。別に自分がどれだけ下手くそな絵を描いても、売るわけではないし、展覧会で見せるわけでもない。自分が楽しければそれでいいじゃないですか。そういう資本主義的なところが絡まないのも、趣味や生きがいのよいところなので、それは自分の安息の地として守ってもいいと思います。
もし仕事にしたいのなら、私みたいに思い切って転身するのもいいと思いますし、むしろ私はそういう人を応援したいです。でも、年齢の制限もあるでしょうし、家族や金銭的な制限もいろいろあると思うので、別に無理に趣味を仕事にする必要はありません。
■自分だけのしあわせを見つける
最近「ユーチューバーをやりなよ」とか言う人も多いですが、それは別にどちらでもよくて、本人がやりたいならやればいいし、やりたくなければやらなければいいだけだと思います。ただ、生きがいは見つけないと、自分だけのワクワクがないと、例えば浮気をしてしまったりするんですね。彩りのない人生の中に、急に入ってきた新入社員のかわいい女の子が声をかけてくれたりして、そこでワクワクしてしまうとダメなんです。
そうじゃなくて、「いや、俺は会社が終わったら、帰ってどうしてもやりたいことがある。今日はこれができる時間があるんだ」という瞬間を増やすと、すごく楽しく生きられると思いますし、仕事に向かう憂鬱な電車の中でも気分が全然違うと思います。「今日はこんなことをしてみようかな」と考えていると、仕事への取り組み方も変わってきます。そういうところを強く求めていくことです。
ゲームがやめられないという若い人たちも多いですが、それはすごくしあわせなことだと僕は思っています。彼らには生きがいがある。「何に代えてもこれをやりたい」というものがある。いまの時代において、それはすごくしあわせなことです。これまでの日本でしあわせと定義されていたことが、これからどんどんくずれてくると思うので。最近、経団連の会長もトヨタの社長も言っていましたが、終身雇用の時代が終わる。すると、いい会社に入ることがしあわせな時代が終わる。いい大学に入る必要もなくなってくる。「じゃあこれから、何をすれば一番しあわせになれるんだ?」という時代が、けっこうすぐそこまで来ていると思います。
最近10年で世界は見ちがえるように変わりました。ちょうどiPhoneが11年前ぐらいに出ているんですが、最初のiPhone 3Gが出るまで、スマホなんて誰も持ってなかったですよね。いまからすると、これは考えられないことです。当然ドローンもないし、VRもなかった。インターネットだって、LTEも3Gもなかった時代が10年前です。そう考えると、これから10年先がどうなるのかというのは、誰にもわからないんです。だから、みんながいいと思っていることは別に置いておいて、自分だけがいいと思う「何か」を見つけていくと、すごく楽しい人生になるし、新しい自分を開けるのではないかなと思います。
そこにおいての生きがいは、やっぱり人の目を絶対に気にせず、世間的にどうだとかは関係なく、「自分がいい」と思えるものです。犯罪めいたことはダメですが、どんな小さなことでもいい。例えば爪楊枝でお城を作ったりする人がいますが、素晴らしいと思います。あれだけ大きいお城をつくる情熱が自分の中にあるなら、それが何よりの価値ですから。別にお金にならなくてもいいんです。それのためにふだんの仕事ができる。それが生きがいだから、すべてのことがうまくいく。そんなものが一つあれば、すごく強く楽しくしあわせに生きられる世の中に、これからはもっとなっていくと思います。
読書とアウトプットをしながら、楽しく生きていただければなと思います。私はまだ32歳ですが、こんな短い人生で生意気なことをたくさんしゃべらせていただきました。今日はご静聴いただき、ありがとうございました。
第2部
質問1
お客さま:
平岩さんが一番好きなゲームは何ですか。その理由も教えてください。
平岩さん:
僕は元々、ジャンル的には「洋ゲー」と言われる、海外のゲームが好きでした。今でこそ世界中で同じゲームをやっていますが、昔はアメリカにしかないゲーム、日本にしかないゲームと、けっこう明確に線引きされていました。リージョンコードという地域的な制限があって、海外のゲームは日本のゲーム機で動かなかったんです。だから私は、海外のゲーム機とソフトを買って、家で遊んでいました。「ドラクエ」とか「FF」とか、みんながやっているゲームはやっていなかったので、友達と話は合わないし、話についていけずにいました。海外のゲーム屋さんに行くと、宝島みたいな感じでした。半分くらい知らないゲームなので、もう隈なく見て、自分のお小遣いの範囲で至極の3本を選んで、その3本で1年間くらい遊ぶという。けっこう変わっていましたね。
フェリシモ:
どういった基準で選ばれていたんですか。
平岩さん:
どれだけワクワクするかじゃないですか。中を開けてみて、全然おもしろくないのもありましたけどね。慣れてくると、説明書を見ただけで「あーこれだめだな」とかわかるようになってきたりして。海外のゲームって、当時は「スターウォーズ」とか「ジュラシックパーク」とか、映画をテーマにしたゲームがすごく多くて、大好きでよくやっていましたね。日本にそういうのはあんまりなかったんで。
質問2
お客さま:
関西はいまいちeスポーツの盛り上がりが弱いと思いますが、今後は盛り上がってきそうですか。
平岩さん:
関西というか、特に大阪の人って、新しいものがあんまり好きじゃなくないですか。受け入れる文化がなくないですか。まず関西の人って、東京の人が嫌いじゃないですか。もういいですよ、隠さなくても。私は知っているんで。私は7年間大阪に暮らしましたが、「どこ出身なん?」って聞かれて、「東京です」と言うと、0.1秒ぐらい嫌な顔されるんです。向こうから聞いてきたのに、「ああ、そうなん」で終わるっていうのが通例でしたから。ライバル心を持ってくださっているのかもしれませんが。
まあそんな冗談はさておき、いろいろなツアーでも、関西だけなかったりすることがありますね。どうしてなんでしょう。東京のイベントには関西の人たちもよく来てくれているので、理由は明確にわかりませんが、一つにはホールのような場所がないことですかね。南港にATCという大きいホールがありますが、そこでやるくらいで。あと関西では、神戸のファッションマートで一時期やっていましたね。決して盛り上がっていないことはないんですが、イベントは少ないですね。だからこれから、スポンサードしてくれる企業の方がいれば、変わっていくのではないかなと思います。ゲームをやっている方は多いですし、プロゲーマーにも関西の子たちがけっこう多いんですよ。なので、これからなんじゃないかなと思います。
質問3
お客さま:
クリスマスプレゼントに、子どもからNintendo Switchをお願いされています。2019年は見送るつもりでしたが、お話を聞いて再検討しようと思います。このゲームをぜひやってほしいという、おすすめを教えていただきたいです。
平岩さん:
いいですねー。ぜひあげましょう。「Nintendo Switchをせがまれているんですが、どうですか」っていうの、よく聞かれますよ。いいと思いますけどね。やり続けてごらんって言っても、どうせ諦める子が多いし、さっきも言いましたが、論文上でも、僕の体感としても、どんなゲームをやろうと悪影響はないので。時間はもちろん取られるので、タイムマネジメントだけはちゃんとしてあげて、勉強や他のこととのバランスが悪くならないようにさえしてあげればいいと思います。
ソフトは子どもが一番やりたいのがいいんじゃないですか。任天堂さんが全部ちゃんと管理されているので、Nintendo Switchに変なソフトはないです。それこそ過度に暴力的なゲームとか、任天堂さんは絶対にパブリシングさせないようにできているんで。「フォートナイト」がいますごく人気で、日本だと「フォートナイト」は無料ダウンロードなので、Nintendo Switchだけ買えば、ソフトは買わなくてもいいんです。一応課金はできるんですが、課金しても強さは変わらなくて、着せ替えみたいに見た目が変わるだけです。1円も課金しなくても世界チャンピオンになるところまでは遊べるようにできているので、本体だけ買えばいい。お財布的にも健全です。あとは、さっき実況でちょっと出させていただいた「大乱闘スマッシュブラザーズ」も人気です。もちろん血も出ないし、ハッピーなゲームでもありますし、親御さんも一緒にできます。
「フォートナイト」はゲームとしてむずかしいんですよ。普通のシューティングゲームで、撃ち合って戦うんですが、すごく柔軟な頭が必要なのです。「建築」といって自分でその場に櫓を立てたり、階段や壁を作ることができるのですが、それが非常にむずかしい。だから、私を含めて、おじさんたちはみんなついていけなくて、やめちゃったんですよね。いまはもう若い子しかやってないです。子どもたちは頭がやわらかいから、階段とか矢倉をぐるぐる作って、戦い合うんですよね。上を取っているほうが有利なので。だから、言葉は安いですが、頭の体操にもなるだろうし、すごく頭を使うゲームなので、「フォートナイト」はすごくオススメですね。
ゲームでよく言われるのは、子どもが「死ね、死ね」とか言うことですが、チャンバラごっこみたいに棒切れを使って外で遊んでいても、子どもは「死ね、死ね」って言いますからね。大人になっても「死ね、死ね」って発狂し続けている人には指導が必要かもしれませんが、子どもの場合は、彼らが「うんこ、うんこ」とか言い合っているのと同じで、共通言語なので、僕は気にしていません。それで暴力的になって、子どもが殺人犯になったらどうしようっていうのは、見当ちがいだと思います。本当に危ない人は、注目されたくないので、そんな「死ね、死ね」って言いませんからね。
質問4
お客さま:
eスポーツの実況者は、そのゲームに精通していないと務まらないものなのでしょうか。お忙しい中で、平岩さんが新しいゲームを実況するときは、どのように準備をされているのですか。
平岩さん:
すばらしいご質問ですね。eスポーツが普通のスポーツとちがってむずかしいのは、いまeスポーツを見てくださっている人というのが、みんな競技者だということです。つまり、ゲームを遊んでくれている人たちです。甲子園へ行って野球を見ている人で、現役のプレーヤーは6%ぐらいしかいないと言われています。94%は、いまもう野球をやってない人たちです。サッカーも大体その前後で推移しているそうです。ただ楽しくお酒を飲みたい社会人の方や、友達と楽しくワイワイ騒ぎたい学生の方たちなどが主流でやっているわけです。
でもeスポーツの場合、競技者が見てくれているので、彼らのリテラシーがすごく高いのです。ゲームに詳しいんですよ。若者用語なのかネット用語なのかわかりませんが、遊んでいるように見せかけて、実はそのゲームについて全然遊んでいない人を揶揄する「エアプ(AirPlay)」という言葉があります。だから、こっちが中途半端なにわか知識だけだと、「あー、このアナウンサーはエアプだな」ってコメントで叩かれることがけっこうありますが、そう言われないようにしなくてはいけません。
彼らはそのゲームが好きで、わざわざ遠くまで足を運んで応援してくれているわけで、eスポーツ業界で最初のお客さまです。まずは彼らが盛り上がってくれないと、ライトユーザーは絶対寄ってこない。だからわれわれは、何よりまず見ている人たちに向けて、真摯にゲームに取り組まなくてはいけないということを、会社としてちゃんと指導しています。うちの会社ですと、新規のゲームの実況をお願いされたときは、そのゲームをマストで100時間プレイするようにしています。100時間って、言葉で言うと簡単なのですが、一日3時間で30日やらなくてはいけません。でもそうすると、そのゲームのおもしろさやコアが大体わかります。その後、実況練習といって、「ここはこうした方がいいんじゃないか」とか、「ここはもうちょっとキャラクターについてふれたほうがいいんじゃないか」とか、「ここは選手の話をしようか」とか僕が指導しながら実況の資料を作って、いざ本番というステップを踏んでいます。そうしないと、ゲーム会社の方に「このゲーム、好きじゃないのかな」とか「勉強してくれてなかったな」って思われるのは、うちの会社としてもやっぱりダメージが大きいですしね。
僕が始める前に、東京のフリーアナウンサーもeスポーツのイベントにけっこう挑戦していました。でもやっぱり、ゲームが好きじゃないせいか、ただeスポーツが盛り上がりそうだから来ているだけのせいか、全然ダメで、それこそエアプだって叩かれて、ゲーム会社さんにも次から断られる方が多かったです。うちも最初は元アナウンサーを採ってゲームの知識を入れようと思っていたのですが、さっき見せた大和くんみたいに、いまはゲームが好きな子にアナウンサーの能力を教えてあげるやりかたに切り替えていますね。そちらのほうが一番形になるなと思って。だから、ゲームが好きだというのはうちも第一条件に置いていますし、その気持ちは絶対忘れないようにやっています。
質問5
お客さま:
テレビなどの元アナウンサーがプロのeスポーツ実況者になるのと、一般のゲーム実況者がプロのeスポーツ実況者になるのとでは、どちらが筋がよさそうですか。また、向き・不向きなどを感じていることはありますか。実際にプロ実況者を目指している方々の実情や、育成の観点から、平岩さんの考えをお聞きしてみたいです。
平岩さん:
ちょうど直前に喋っていたことですが、やっぱり僕はゲームが好きなことを一番にしておきたいです。その上で、喋り手として適性があるかどうかを見てあげるのが一番よいかと思います。というのも、例えば「ここは強めに喋ろう」とか、「ここは早口で喋ってみよう」とか、「ここはちょっと落ち着いたトーンで、取材した情報をしんみり出そう」とかいうのは、命令すれば理解できるのですが、「お前、このゲームをもっと好きになれよ」という命令は理解できないですよね。それは先天的なものというか、本人の問題なので、むずかしいんです。それを考えると、やっぱりゲームが好きな子に喋りの能力を授けるほうが、圧倒的によい実況者になるんじゃないかと僕は思います。
ゲームへの愛があると、それがやっぱり実況に出るのです。野球や高校球児への愛がある実況もそうですよね。例えばどこかの田舎から出てきて、この夏、甲子園の大観衆の中で野球をやるという高校球児に、恥はかかせたくないでしょう。ABCもそうですが、われわれが高校野球の実況をするとき、エラーをした選手のなまえは言わないのです。その子はエラーをしようと思ってしているわけではもちろんない。だから「ショートのエラーです」とか、もっと広げたら「内野のエラー」、もっと言ったら「守備のミスがありまして1点失いました」とか、やんわりと表現を変えています。これはやっぱり高校球児への尊敬や愛があるから出てくる表現で、そういうものは教えても伝わらなかったりします。「18歳の高校球児として、人生のハイライトでがんばっているのだから、もっといたわろうよ」って言っても、わからない人はやっぱりわかりません。
ゲームでも同じことが起こり得ます。ゲーマーへのリスペクトがなくて、「1日12時間もゲームやってるんですか!?」なんていう感じがどこかで出たら、それがもう致命傷なのです。アナウンサーとしてダメ。勝負どころで噛むとか、なまえを間違えるとかいうのはもう一回言い直せばいいだけの話ですが、致命傷のほうは、愛がないことから生まれてしまうのが実況です。一度しゃべってしまうと、もう二度と取り返せないのが実況のむずかしさですが、やっぱり何かをすることに対するリスペクトや愛があるほうが、最終的には結果もうまくいきますね。
質問6
お客さま:
私はゲーム実況動画をよく見るのですが、ゲーム実況者とeスポーツプレーヤー、eスポーツ実況者の似ているところと、相容れないところはどういうところがあるのでしょうか。
平岩さん:
いまゲーム実況者という人がすごく多くて、YouTubeで見られる方も多いと思いますが、eスポーツ実況はあれと全く別です。彼らは自分でプレイしながらしゃべっていて、要はユーチューバーとして配信するのがメインの仕事です。一方僕らは、プロがプレイするのを見てしゃべる。これがすごく大きなちがいです。
彼らはユーチューバーとして稼ぎが大きかったりしますが、活動としては小規模で、自分のファンに向けて喋っています。HIKAKINさんがゲームチャンネルをやっていますが、それは主にHIKAKINファンが見ているのです。僕らの場合は、ゲームや、そのゲームをやっているプロゲーマーのファンに向けて出しているのであって、別に僕のファンに向けて実況しているわけではありません。一番の主役はもちろん選手ですし、一番の大舞台はそのゲームの大会で、自分のためのフィールドではない。だから、そのイベントや選手たちが、より輝くように実況をします。スポーツ実況に近いですね。ラジオに近いというか。自分のファンに向けてしゃべっているゲーム実況者の方々も僕らはすごいなと考えていますし、おもしろくて普通に見てもいますが、やっていることは全くちがいます。プレイするゲームも全然ちがったりしますね。彼らは一人でプレイできるゲームでも配信になるので、一人で進めていく物語のRPGなどもできますが、eスポーツは基本的に対戦なので、プレーヤーが複数いて、試合を見て、しゃべるというのがわれわれの仕事です。
質問7
お客さま:
実況しておもしろくなるゲームや、その要素はどんなものでしょうか。
平岩さん:
どうかなあ・・・。でも、われわれの実況がつけば、どんなゲームもおもしろくなります! 間違いないです! そういう仕事ですから。例えば「テトリス」とか「スーパーマリオブラザーズ」でも、大々的な競技にはなっていませんが、リアルタイムアタックというジャンルがあって、マリオを何分で全クリアできるかという競技シーンがあります。そういうのは、実況をつけたらそれだけでもおもしろくなるというか、おもしろみを見出せるものです。「ここでこのノコノコをうまく踏めないと、前のプレーヤーを超えることができません! 踏んでいったー!」みたいな感じで、いくらでもできるので。
われわれは基本的に、動いているものだったら何でも実況できるんですよ。最近では小学館さんの無茶ぶりで、漢字ドリルを実況しろと言われたことがあります。漢字ドリル実況というのは、YouTubeでも出ていますが、間違えやすい漢字を書かせて、「さあここで不要な点を打つか? 打つか? 打ってしまったー! 大人もよく間違えるこの穴にはまりました!」という感じでやるわけです。他には、ペン回し実況をしてくださいという依頼もありました。ペン回しのプロの人がいるのですが、「ダブル・アラウンド・ザ・ワールド」みたいな謎の技名を教えてもらって、「どの部分がこの技ですか」とか、「どこからがこの技ですか」とか、聞きながらやっていました。このように、動くものは何でも実況できます。
それをどうおもしろくするか、そのおもしろみを探す作業というのが、さっき言った100時間のゲームです。そして、例えば「大乱闘スマッシュスマッシュブラザーズ」のどこが見所なのかを探す作業というのは、別にそれがペン回しになろうと漢字ドリルになろうと、僕らは変わらないと思っています。ゲームでもペン回しでも、「ここだよね」という味噌が必ずあって、好きな人たちはやっぱりそこを見たいので、必ず抽出して伝えます。そして、それをどう伝えるかが、料理のしどころというか、腕の見せどころだと思っています。
質問8
お客さま:
いままでで、「これは一番うまくいった」という実況の場面はどんなときでしたか。
平岩さん:
実況というのはむずかしくて、野球だったら3時間くらい、延長12回の勝負がつかない試合だと5時間くらいしゃべりますが、原稿がありません。何をしゃべるかはもちろん決まっていなくて、自分で喋らなければいけない。特にラジオですね。テレビだと映像が映ってくるので、ピッチャーが映っているときはピッチャーの話をしようかとか、お互いにやりとりがあるのですが、ラジオだと何を喋るか自分で全て選んだ上で、解説の人も巻き込みながら、一つの中継を一緒に作っていかなくてはいけない。だから、満点の実況というのはなかなかなかありません。滑り出しがどれだけうまくいっても、どこかでミスが出るかもしれないし、試合終了の瞬間にどれだけうまく喋れても、必ずどこかに課題が残る。満点に近いような実況ができたとしても、それは試合自体が伝説的な名試合だったりして、自分たちとしても、これは試合のおかげだなという解釈になる。そこがむずかしいところです。
eスポーツで言うと、自分が放送でふれることができてよかったなという場面が一つあります。2018年、「シャドウバース」というカードゲームを使った、「シャドバ甲子園」というイベントがありました。先鋒・中堅・大将の3人の高校生が学校別のチームになって争うものです。優勝したのは大阪の寝屋川高校だったのですが、全国からけっこうな校数が出てきて、最後に日本一を決めるという戦いです。東京のスタジオでやったその決勝大会のベスト8で、あるチームが、1人の子の明確なミスで負けてしまったのです。チーム戦なので、自分のせいで負けたというのは本人も当然わかっているのですが、そこまで勝ち上がっているので、終わった後、負けた子からもインタビュアーが一言聞きます。でもインタビューしても、その子は悔しかったから一言もしゃべれませんでした。もし口を開くと、多分泣き出してしまったでしょう。だから、「さあインタビューです。○○選手に来ていただきました。いかがでしたか」と聞いてもずっと無言で。自分のせいで負けたんだからしゃべれないという状況で、悔しいのもわかるし、やっぱりそこまで真剣にやっているんだなということもわかったので、「なかなか言葉をしぼり出すこともできないですね。でも、お疲れさまでした」と送り出しました。そのとき、悔しすぎて喋れなかったその彼が、勝った選手の肩をたたいて、握手して降りていきました。そんなことは誰も促していないし、そんな手順も決まっていなかったのですが、彼が自分の心からやったのです。ミスして負けて、悔しい思いをしているのに、彼はそんなスポーツマンシップを見せたのですね。僕はたまたまそれが画面越しに見えたので、「ああ、○○選手、勝者の肩をたたいて、自分から握手を求めて降りていきました」って言ったのです。そういうときって、やっぱりスポーツだなあ、そういう熱い心があるんだなって思う瞬間なので、ちゃんと配信に入れられたことはすごくよかったと思いました。
そういうシーンを見逃さないというのは、実況アナウンサーにとってすごく大事なことだと私は思います。例えば、高校野球でめった打ちにされた1年生のエースがベンチに下がる。そして、そのエースがいたからエースナンバーを背負えなかった最後の夏の3年生ピッチャーが、点差の大きく開いた、もう絶対に勝てないマウンドに上がる。その交代のとき、泣いている1年生エースの頭を、3年生がポンポンとたたいた。そういうのは、僕らは絶対に言いたいんですね。それが高校野球の全てだし、一番の魅力だし、野球のルールやおもしろみがわからない人でも、すごく引き込まれる瞬間なので、そういうところは僕らは絶対に逃さないように見ています。
だから、広い視野を持っていなければいけない。朝日放送のアナウンサーとしては最後のほうで取得した技ですが、「一番いいところで、のめり込むのをちょっと避ける」ことです。歴史に残るような、それこそ松坂大輔さんが決勝戦でノーヒットノーランを達成したような瞬間にも、入り込まずに、ちょっと引いていなければいけない。そこで監督はベンチでどんなしぐさをしているのか、相手の監督はどうか、アルプススタンドはどうか、キャッチャーは、ピッチャーはどうかといったところを全部見て、その中で一番ドラマが詰まった、選手たちの一番伝えたいところを探さなくてはいけない。「さあ松坂、ノーヒットノーランなるか」だけではダメです。この「本当は最前線でもっとかぶりついて見たいけど、ここは一歩引いていろいろなとこを見なくては」というのは、やはり年齢とキャリアを重ねてきた結果かと思います。多分そういう癖があったから、そのインタビューのときにも彼が肩をたたいているのが見えたのです。カメラはそのシーンを追えていなくて、画面には出ていませんでしたが、僕は言葉でフォローしました。
ゲームだろうがスポーツだろうが、囲碁だろうが将棋だろうが、本気でやっている人たちの戦いにはすごく美しい部分があるので、そこは見落とさずに伝えていくのが自分の仕事です。だから、一番うまくできたときというのは、やっぱりそういうところを逃さなかったときですかね。自画自賛ではありますが、そこを伝えられない実況者は、ゲームだろうとスポーツだろうと、僕はダメだと思っています。プロではない彼らが勇気を持って出てきてくれて、18歳でも17歳でも、そこが人生のハイライトになる子もたくさんいる。その魅力を最大限引き出すのは大事なこと。そんなことを考えながら実況していますね。
質問9
お客さま:
前から聞きたかったのですが、スポーツ実況もeスポーツ実況も、女性のアナウンサーがほとんどいません。それがなぜなのかを知りたいです。
平岩さん:
確かにいないですね。実はけっこうチャレンジはされていて、ニュースゼロに出ている有働さんも元NHKでやりました。あとABC時代の先輩の赤江珠緒さんも、高校野球の開会式を実況しました。最近では、2018年NHKで高校野球にチャレンジした方もいました。ただ、やっぱり女性の高い声に聞き慣れがないのか、クレームみたいなのが来るらしいです。ホームランのときの男性アナウンサーの、がなった声とかに聞き慣れすぎてしまっているんですかね。例えばみなさんも、うぐいす嬢が男性の野太い声だったら違和感あるじゃないですか。それと同じはずなんですね。
でも、eスポーツから変わろうとはしていて、海外では「スマッシュブラザーズ」のキャスターで、めちゃくちゃうまくてかっこいい女性がいます。2018年のNHK高校野球の女性の方はちょっと話題になったので、私も聞きましたが、押さえるところはちゃんと押さえていて、すごくうまかったです。女性がやっている実況のクオリティーは間違いないので、あとは聞く側が女性の声をどう受け入れていくかというだけの問題だと思いますね。
eスポーツって、陸上みたいに男子と女子とが分かれていないのです。パラリンピックとオリンピックも分かれていない。みんな一緒にやります。ヨーロッパでは、大きな大会で女性が優勝してすごい話題になったこともありました。すごくジェンダーレスでボーダレスな、この世で初めて全員が平等に大会に出られるスポーツでもあります。キャスターの問題もそういうところは同じだと思うので、eスポーツから偏見なく変わっていく可能性は十分あるのではないかと思っています。
質問10
お客さま:
企業のゲームに依存する競技なので、選手が得意としているゲームの寿命と選手生命がイコールのように受け取れますが、そうなのでしょうか。
平岩さん:
またいい質問来た! それはおっしゃるとおりで、いまゲームが儲かるのはどこの会社もわかっているので、新しいゲームがバンバン出ます。商品の消費サイクルがすごく早いですね。大きいタイトルは開発の期間もお金がかかりますが、いまは世界ではやるトップゲームを作るのに、100〜200億円を1年半〜2年かけて作るというのが大体のスパンです。昔は2年に1本くらいでしたが、いまは1年に1本ぐらい出ています。
ゲームのサイクルが短くなっているので、一つのゲームについて、「このゲームのプロになっていいのか」というのは、選手もちょっと迷ったりするところがあるようです。そのあたりはこれから変えていかなくてはいけないなと思っています。ある程度ゲームの市場が固まってくると、さっきのテンセントみたいに、ものすごく大きいサイズの会社が出て来ます。すると、「結局どのゲームもテンセントの傘下だ」というようなことになって、ゲームをリリースする時期などもコントロールできるようになってくるので、少し落ち着いて、どのゲームもちゃんとヒットするようにする流れができるのではないかと思います。
あと、ゲームもある程度はやるまではプレーヤーもいないし賞金も出ないので、大会も開催できません。プロゲーマーも、ゲームの発売と同時に出てくるわけではなくて、大会やツアーがあって初めて生まれてくるというプロセスがあります。だから選手もある程度、うまく見極めながら出てくる感じになってきているので、そのへんはこれからどんどんよくなってくるかと思います。
これはよく驚かれますが、ゲームって選手生命がめちゃくちゃ短いのです。いまは16歳から23歳がピークと言われています。これはゲームがとにかくシビアな反射神経を要するためです。さっきご紹介した、3億円獲ってタイガー・ウッズを超えたというブーガ君が16歳でしたが、トップで戦っている選手もそれくらいの人が多いです。これも論文で人間の反射神経について調べていて見つけたことですが、例えばペットボトルが落ちたのを見て、自分で拾おうと判断して、拾い上げるまでの速度が、年齢とともにどんどん変わってきます。16歳と26歳の間では、0.063秒ぐらい差があるそうです。あれだけ激しいゲームをずっとやっていると、1秒間に何度も何度も判断して、タスクを繰り返しています。するとその0.063秒が積み重なって、20分の試合では30秒くらいの差になってしまいます。その30秒というのは、試合の中ではもう一生かかっても取り返せないくらい大きな意味を持つわけです。「だから、年をとると勝てない」というロジックがいま一番有力ですし、実際に若い子がやっぱり強いです。
プロ野球でもそうですが、いまはセカンドキャリアが問題になっています。選手として終わった後はどうするんだという問題です。とはいえ、お伝えしたとおり、ゲームがうまい子や、何かにすごく打ち込んできた子というのは、どんな仕事をさせても高い能力を発揮すると思います。実際いま、企業名は言えませんが、ある大きなキャリアサイトみたいなところと一緒に、ゲーマーを採用する企画をやっています。コミュニケーション能力はあまり高くものの、処理能力はとても早いといったような、ちょっと特化した人材ですね。ゲームにすごく詳しいとか、PDCAをすごく回せるとか、計算がすごく早いとか、マルチタスクに長けているとか、もちろんコミュニケーション能力に長けている人もいると思いますが、僕はそういう人がけっこう好きというか、押したいのです。全員が全員、均質的な能力を持っていても仕方がない。全部の能力が平均的に分布しているのではなくて、何かがポンと抜けている子たちをうまく扱えるほうが、これからは会社もうまく回ると思います。とにかく、人生をゲームにかける人がこれから増えれば増えるほど、セカンドキャリアも問題になってくるので、そちらもうまく取り組んでいきたいと思っています。
質問11
お客さま:
eスポーツをビジネスとして考えた場合、チームや選手たちは複数のゲームを制覇できたり、次世代のインターフェースに対応しながら進化したりして、生き残っていくものなのでしょうか。
平岩さん:
いまの選手たちは、プロゲーミングチームといって、プロゲーマーのチームに所属しています。チームにはもちろんオーナーがいて、そのオーナーがチームにスポンサーを連れてきます。最近だとアディダスのようなところをスポンサーにつけるくらい大きくなっています。最初は選手として賞金も獲れないし、YouTubeで配信しても誰も見ないので、給料を払います。そうしてゲームに集中させて、活躍させてあげる代わりに、賞金の何割かをもらったり、あるいはYouTubeの配信のお金の何割かをもらうというのが、いまのプロゲーミングチームのビジネスモデルです。「フォートナイト部門」とか、任天堂の「スマッシュブラザーズ部門」とか、部門を分けて生存戦略的にチームが作られています。
そのへんはチームのマネジメントもすごく大事で、テレビなどのメディアに強いチームがあったり、とにかく大きいスポンサーばかりを連れてくることができるチームがあったり、スタイリストをつけてスタイリッシュにやっているチームがあったりとかします。「フォートナイト」のプロゲーミングチームで「クレイジーラクーン」というのがありまして、僕はそのオーナーともすごく仲がいいのですが、彼らはけっこうスタイリッシュで、見た目もかっこいいですね。最近も彼らのファンイベントをやったのですが、5,000円のチケット代で、800人が来たんですよ。すごくないですか。いまのアーティストとかでもなかなか呼べないくらいの規模です。ファンイベントもチームの一つのイベントとしてやっていますが、そういうところにもすごくチャンスがあるだろうと思います。
ゲームのイベントというと、むさ苦しい男のオタクばかりが来ていると思うかもしれませんが、半分以上、7割くらいは女性です。高校生や女子大学生が多くて、歓声ももうキャーキャー言われるような。ゲームの腕というよりは、どちらかというとその選手を見に来ているような感じですが、韓国なんかではファンが選手のボードやウチワを持っていたりして、もっと進んでいます。本当に選手を見に来ているという文化で育っていますが、これから日本もそうなっていくのではないかと思います。
質問12
フェリシモ:
平岩さんが一生をかけてやり遂げたい夢について、教えていただけますか。
平岩さん:
先のことをあまり考えないタイプの人間で、来年とか来月とか、もっと言えば明日のことで精一杯なくらい忙しくさせてもらっていますが、一生かけてやりたい夢というと、やっぱり自分の人生を支えてくれて、いま仕事にもなったゲームを、これまで楽しんでいなかった人にも楽しんでもらうことです。これはゲーム会社がやることでもありますが、端的に言うと、おじいちゃん、おばあちゃんにeスポーツを見てもらいたい。そこまで行きたいというのが一つの夢です。まあこのまま行けば、多分20年くらいで実現できるのではないかなとも思いますが。
さっきも言いましたが、十数年前の日本は自分がゲームをしていることを口にするのも恥ずかしいような社会でした。でもいまは変わってきて、プロゲーマーのイベントにもたくさんの女性がお金を払ってきて来てくれたり、親御さんが応援に来てくれた大会もありました。こうしてだんだん認知されていく中、最後まで「いやいやゲームなんて俺は見ないよ」と言っているような人たちでも思わず熱狂してしまうような試合や、空気作りや、実況とかを、最終的にはやりたいと思っています。これは別に世の中のためとか、ゲームの地位向上のためとかいう格好つけたことではありません。新しい技術や、自分がいま一番やっていることとかを、年齢が上の人に認めてもらったり、楽しんでもらったりすることが、個人的に好きです。「こんなに便利なんですよ。もうテレビじゃなくて、Netflixやアマゾンを見てください。千円で映画もこんなに見られるんですよ」とか、「スマホってこんなに便利ですよ」とか、私はそういうのを押していくのが好きな人間なので。その魅力をぜひ、最後まで抵抗している人に見させたいですね。のめりこませたいです。周りにもそういう人、最後までガラケー使っているおじさんとか、いるじゃないですか。でも、「俺はガラケーなんだ」ってがんばっている人も、絶対スマホ使うんですよ。「スマホ便利やんけ」とか言いながら使うようになった人が、先輩のアナウンサーにもいました。「だから言うたやん!」みたいな。それは彼らのポリシーなので、別に悪いとは思いません。でもそういう人たちに対して、「いやいやちょっとお父さん、eスポーツ見てみてくださいよ。ちょっとおもしろくないですか。熱くないですか。高校野球みたいでしょう」って伝えてよさをわかってもらうのが、いまやっているビジネスのビジョンであり、ゴールですね。
若い人はみんな、思ったより早くやってくれています。2018年、私がODYSSEYを立ち上げたときのことをお話しすると、海外のeスポーツスタジアムで、それまでオタクと言われてきたような人たちが、立ち上がって、手を突き上げて応援しているのを見ました。それまで見たことのない光景でした。彼らは多分サッカースタジアムにも行かないし、クラブで踊ったり、飲んで騒いだりもしないけど、やっぱりそういうのをやりたいっていうエネルギーというか、フラストレーションのようなものがあって、それがゲームの応援という形で噴出していた。これを見て、日本でも絶対に実現したいなと思って、会社を立ち上げたのです。
すると、想像以上に早くいろいろな人たちがついてくれて、追い風も強くなりました。もちろん僕の力ではないですが、そういうことが世間的に本当に早く実現できた。だからこれからは、最後まで抵抗している人もeスポーツ側に引き込んで、「eスポーツええやんけ」って言わせたい。すごく大きな壁を何度も越えなくてはいけないでしょうが、それがやっぱり理想ではありますね。短期的な目標としては、「興行としてプロ野球を超える」ということをインタビューなどではよく言っています。
ゲームを馬鹿にしているとまでは言いませんが、「大人になってゲームなんかやってるの?」って言っている人たちが熱狂的に応援するところまで来たら、自分のゲームに対する思いはの一つは成し遂げられたのではないかと思っています。なので、やっぱり新しいことに人を引き込んでいかなくてはいけない。古いものがいいと思っている人たちに新しいものを提案して、そこに労力と、何より大事な時間を割いてもらうことになるので、エネルギーは要ると思いますけどね。みなさんもぜひ今日をきっかけに、ゲームへの誤解を一つでも解いていただいて、壁を低くしていただければと思っています。
どんなことでもそうですが、新しいものを受け入れて、より楽しくなったり、より利益を享受できたりするタイミングというのが必ずあります。例えば、スマホをいち早く使い始めた人たちは、いま多分、一番新しいビジネスをしていたりします。何でもかんでも使いこなしてすごく便利に生きている人というのは、いわゆるアーリーアダプターと言われる、人より早く踏み込んでいる人たちです。だから、ゲームやeスポーツに関してもあまり重く考えず、「ゲームの大会、なんかおもしろそうじゃん」とか、「子どものゲームの大会、見に行ってみようかなあ」とか、そんな感じで本当にいいと思うので、飛び越えてみてください。そうしていただくと、ガラケーおじさんを説得する私の夢の実現も早まると思うので、ぜひみなさんよろしくお願いいたします。今日はありがとうございました。