講演録
第1部
ボディーワークで身体性を引き出す仕事
藤本さん:
今日は「未来を構想する“カラダのちから”」というテーマでお話ししますが、僕はこういうテーマで話すのが初めてなんです。今回フェリシモさんから「22世紀の願いは何ですか」という問いをいただいて、22世紀ってどうなるのかと自分で考えたときに、あまり何もふっと出てこなかった。日々生活していると、いろいろもやもやしていることなどが多いので、その先のことを考えるとなると、何か頭でこねくり回すみたいなことになってしまって、なかなか出てこない。まず自分の心と体を、ちゃんと将来を見渡していけるような状態にしないといけないと思ったので、このテーマにさせてもらいました。
僕はボディーワークを仕事にしています。あまり聞き慣れないかもしれません。整体やスポーツのトレーニングと近い部分はありますが、ちょっと違うんですよね。それを今日はご紹介してから、僕の専門としてはもともと自律神経の研究をしていたので、現代人が生きていくうえで自律神経がどう重要なポイントになるのかお話しして、そのうえで未来を構想するからだの力が生まれてくるのを、みなさんと一緒にボディーワークの体験を交えてやっていきたいと思いますので、ぜひご協力をお願いします。
ボディーワークをスポーツジムでやる筋トレなどと比較すると、筋肉を鍛えて強くするのがトレーニングだとしたら、筋肉を緩めて使いやすくするのがボディーワークです。いろんな人を見させてもらっていますが、スポーツ選手も結構います。僕がいちばんよく見ているスポーツ選手は、競輪選手です。競輪選手というと、筋肉むきむきの人たちが競いあっているイメージがあると思います。そういう意味では、競輪選手はトレーニングをやりつくしています。筋肉ぱんぱん、むきむきなのは当たり前で、そこからさらにその筋肉をどううまく使うかという勝負のところでお手伝いしているのが、僕の仕事であるボディーワークです。
そう言われても、まだあまりぴんと来ないと思います。この図はちょっとグロテスクですが、何だかわかりますか。太ももを輪切りにしたときの筋肉(太ももの断面図)なのです。赤い部分は筋肉、真ん中にあるのが骨です。トレーニングでは、赤い部分の筋肉を太く大きくしていくので、競輪選手などの筋肉はぱんぱんになっています。筋肉があるのが前提として、僕がやっているのは、図では白いすき間の部分にあたるところです。筋肉を包んでいる膜で「筋膜」といいます。そこに筋肉をうまく使うヒントがある。筋膜は、からだ全体を包んでいるし一個一個の筋肉も包んでいる。鶏肉の皮をむいたときに、いちばん表面に薄い膜みたいなものがありますね。これが筋膜です。この中に神経のセンサーが、すごい密度でいっぱいある。ここのセンサーをいかにうまく使うかが、パフォーマンスを上げるためにも、腰痛をよくするため、体をらくにするためにもすごく大事です。最近は結構、筋膜という言葉が使われるようになったので、何かよくわからないけれど聞いたことがあるなという方もいらっしゃると思いますが、そこをやっているのが僕の仕事です。
その筋膜の中でも、太ももの外側には、ぶあつい大きな腸脛靭帯(ちょうけいじんたい)というものがあり、競輪選手などはここが固まってしまう。ここの靭帯、まあ全部まとめて筋膜と考えてもらっていいのですが、それをうまく使えるようにする。ここは鍛えることができないです。でも逆に言うと、鍛える必要はなくて、うまく使えればいい。うまく使うとどういうよいことがあるかというと、この太ももの外の部分は固くなりやすいところですが、ばねみたいな弾性力がある。普通に歩いているときに、ぼよんぼよんとばねを使えたら、すごくらくに歩けるじゃないですか。このばねは、人間だとチンパンジーの15倍から20倍の弾性力があるといわれています。チンパンジーは運動能力が高いですけれど、二足歩行で長く歩くことはできないですよね。だから、ここのばねを使っているから人間だともいえます。ですけれども「ここのばねをうまく使おう」と思ったことがある人、いますか。筋トレをやればやるほど逆に硬くなっていくことがあって、腰痛が起きている人はほとんど、ここがかちかちになっています。ここのばねがいっぱい仕事をしてくれたら、そのぶん筋肉は緩んでらくになっていく。なので、ここのばねを引き出していくことを、仕事でお手伝いしています。
ボディーワークの特徴は、要するに、からだがもともと持っている力なんです。筋膜の弾力性、ばねの力というのもそうですが、特別に何か鍛えたりしなくても、もともと持っている力がちゃんと引き出されてきたら、そんなにがんばらなくていいんだということです。もちろん、鍛えるのはいいんですよ。でも鍛えるにしても、もともと持っている力を生かしたうえで鍛えたらもっといいし、そもそも普通に生活するぶんには鍛える必要など全然ないですよね。生活しているだけで、じゅうぶんからだは鍛えられる。
そういう、体がもともと持っている力を、僕は身体性という言葉で定義しています。「身体性が大事」みたいなことは、なんとなく聞いたことがあるかと思いますが、これはいわゆる「身体」という言葉とは別のものとして僕は定義しています。普通は身体、からだというと、お医者さんが言うところの西洋医学的な「健康」、心拍がどうだとか、トレーニング科学的な「運動能力」の高低といった、目に見えるものや定量化できるものであって、健康に気をつけるとか走って自分を鍛えるといった、自分の意思でちゃんとコントロールするようなものだとすると、僕が大事だと思っている身体性は、目に見えないものだし定量化できないもの、コントロールできないもので、どちらかといえば自分の内側からわきあがってくるような感じのものです。別の言葉で言うと、外から何か情報を受け取ったときに、自分がそれに対してどう感じてどう反応するか。もっと言えば、自分がそもそも何をやりたいか。これを作っていくためのベースになるのが身体性です。今の学校教育とかデジタル社会では、情報がいっぱい入ってくる。だからそれに対して、いちいちどう感じているかとか、どうしたいと思っている暇がないですよね。なのでもう、どんどん身体性が無視されていく状態です。それが今、みんなが心身のバランスを壊しやすくなっている原因だと考えてもらっていいかと思います。
あくび呼吸で横隔膜を緩める
みなさんの中にはテレワークをされている方もいらっしゃるでしょうし、今までに比べると表を出歩かないで家にいる、静かに座っているような環境が多いと思います。そのときにいちばんストレスを受けている場所はどこか。なんとなく体が鈍っているとか重い、だるいことがあると思うのですが、それは表面の筋肉が弱っているというよりも、中の部分なのです。
この胴体の中が透けて見える図にあるクラゲみたいなのは、ふたつの筋肉です。傘みたいな部分が横隔膜で、呼吸をつかさどっている筋肉。そこからぶら下がっているのが大腰筋という筋肉で、姿勢をつかさどっている筋肉です。この横隔膜と大腰筋は、実はつながっている。だから呼吸が浅くなると姿勢も悪くなるし、姿勢が悪かったら呼吸も当然悪くなるという関係があり、すごく大事なのです。でもこれ、残念ながら鍛えられないですよね。ストレッチをしてもここは伸びない。なぜかというと、図で示したとおり、これは表面の筋肉とか内臓を全部取った、いちばん芯の部分にある。表面の筋肉をいくらストレッチしたり鍛えたりしても、ここには効かない。横隔膜は上に心臓や肺、下に胃があったりして、内臓の中に埋まっている。だから普通のやりかただと、なかなかよい状態にするのはむずかしいのですが、これを一気によい状態にするというのを、今日はみなさんと一緒にやってみましょう。
横隔膜の芯の部分には、この図のように「横隔膜の脚」があって、横隔膜の中でもいちばん奥のところですが、だいたい固まってしまっています。ずっと座りっぱなしで何かしたときとかストレスがたまったときは、みぞおちの奥の辺りがぎゅっと詰まるような感じがありませんか。もうずっと詰まっているから、詰まる感じがする感覚すらないかもしれないですが、ここがすっきりしていることが、あまりないと思う。そこの芯の部分を緩める方法が「あくび呼吸」です。
椅子に浅めに腰かけてください。胸の高さで両手を組んで、両腕を上に伸ばしてください。からだのわき(横腹)が口だと思って、「あー」と大口を開けてあくびの声を出しながら、手を組んで両腕をあげたままからだを横にたおしていく。(あくびの声出しをしながら、からだを左右にたおすことを繰り返す)もっと大きく口を開けて声も出しながら。「あー」「あー」(あくびの声出しを繰り返す)はい、ありがとうございます。
初めての体験なので、なかなかやりにくかったかもしれません。なぜかというと、我々は「人前であくびをしたらだめ」と教育されているからですが、でもあくびって、めちゃめちゃ大事な体の反応です。わんちゃんや猫ちゃんって、よくあくびをしているじゃないですか。あれでからだを整えている。今、頭はどうですか。さっきよりはすっきりしていませんか。ふっと抜けている感じというか。からだもふっとリラックスしているような感じになっていると思いますが、これは単にわき伸ばしの動きをしているだけではなくて、あごをすごく大きく開けて声も出しているので、のどを緩めることになっている。現代人は、あごやのどが緊張しているので、そういうところを緩める効果があくびにあるのです。それから、横に動く、横に伸ばすという動きが、我々の日常にはなかなかないのです。からだの横を伸ばすことで中の芯の部分が伸びて横隔膜が緩むので、意図的にやってあげる。30秒もあればできるので、ぜひ仕事や家事の合間にでもやっていただきたいです。この、何かすっきりするという感じが、ボディーワークの大事なポイントです。必死に筋トレなどをやって、はあはあと息があがるような感じではなくて、すっとして「もうちょっとがんばれるな」というような、そういう状態をつくっていきたいですよね。
現代人にはリラックスより「すっきり」が必要
藤本さん:
では、そのすっきりしている状態をどうつくっていくかを、僕の専門の自律神経の話で進めていきます。この図は「現代人の自律神経の状態」で、このようなグラフが出てくるとむずかしいと感じてしまうかもしれませんが、自律神経は緊張とリラックスの波を作ります。仕事をしたり活動したりする昼間は緊張方向で、夜寝るときとか休むときはリラックス方向に行く。別にどっちに行っているのがいいというわけではないですよ。緊張すべきときの波はちゃんと上に行って、休むときは下に行くという、なめらかな波があることが自律神経のよい条件です。自律神経の調子がもうひとつだと、なんとなくみなさんは自分で思っているのではないかと思いますが、では「よい自律神経」がどういう状態かというと、意外とちゃんとした答えがないですよね。今日はそこのヒントをお伝えしたいです。波が起こっているぶんにはいいのです。問題は、仕事をしすぎてすごく緊張したとして、家に帰ってもう寝ようかと思っていても全然リラックス方向に行かないで、ずっと緊張が抜けないまま朝起きて、また会社に行くから、どんどん緊張が高いところで止まってしまっているような状態。あるいは、ずっと何もする気が起こらなくてだらだらしていて、もう仕事をしないといけないとと思っても、それも面倒くさいからいいやとなって、ますますやる気を起こさなくなる。それがひどくなると、うつという状態なのですが、高いところでずっと止まっているか低いところで止まっているという、だいたいそのふたつのパターンになっていることが現代人には多いですよね。これを「神経系の凍りつき」と僕は呼んでいます。ご自身に問いかけてみると、高いところで止まっている人と低いところで止まっている人のどちらですか。
フェリシモ:
どちらかというと高いほうで止まっていると思います。
藤本さん:
ではなかなかリラックスしにくいですね。
フェリシモ:
リラックスしようと思っても忙しかったり、リラックスする時間を取れずに、忙しいまま寝て次の朝また会社に行ったりすることが続いてしまうことがあります。
藤本さん:
なるほど。じゃあ、その疲れがずっとたまっていくみたいな感じですか。ずっと波が上がりっぱなしだと、からだが成り立たないので、たぶんどこかでがくんと落ちているときはあると思うのですけれど、結構高止まりか低止まりかどちらかなのでしょう。僕は52歳で、バブルの最後を知っている世代なので、そのどちらでもないのです。バブルの世代というか、昔の人はどういう状態の人が多いかというと、めっちゃ上がって、でもめっちゃ下がるという、激しい波を描くのがバブル型の自律神経。徹夜で仕事して、その後の週末はずっと寝ていて、その後また徹夜でスキーに行ったりとかね。今は、徹夜でスキーなんて行かないと思います。でもバブル世代の人はそういう状態で人生を生きていっているので、それがいいのかどうかは判断がむずかしいですけれど、激しいから疲労はするのですが、ずっと止まっているよりは一応、波があるというので成立はするんですよね。だから自律神経で大事なのは、止まっている状態を動かしていってあげること、波をもう一度作っていくことなのです。
では、ずっと上がっている人がいたとして、リラックスしてください、温泉へしばらく行ってください、ソファーで今日は一日ごろごろ休んでいてくださいと言われたとしても、意外とリラックスできないものです。逆に、ずっとやる気がしないという人は、がんばれがんばれと言われても、かえってやる気がしなくなるんですよね。だから凍りつきを解いていくために、緊張しているのを休めたり、全然やる気がしないのをがんばって無理やり緊張を上げようとしても、それは無理なのです。自律神経について、世の中に今ある情報としては「みんな過敏で緊張しすぎだから休みましょう」といった話が多いのですが、それはバブル時代の人にとっては有効だったけれど、今の人たちに有効な対処法ではない。そういう凍りつきを解くにはどうすればいいかというと、さっきみなさんがあくびしたときに体験した、すっきりした感じです。これはちょっと専門的な言葉で言うと「覚醒」という、すっきりと目覚めている状態。それをつくっていくのが大事なんです。
これは「自律神経系の活性度と脳神経系の覚醒」の図です。横軸が自律神経、縦軸が覚醒です。一般的に、目覚めて頭を働かせているときはからだが緊張するし、ぼうっとしているときはリラックスしている。この象限にみんないるのですが、そうじゃなくて、リラックスはしているけど頭はすごくさえているという状態に、我々はいきたいわけじゃないですか。ですが現代人は、からだは結構緊張して、すごくがんばっている雰囲気なのに、頭も働いているかといえばぼうっとして回っていないという、ある意味最悪の状態です。それをなんとかしていくためには、リラックスしてもあまり改善しないのですよね。それよりも、すっきりしていくことを、ひとつのきっかけにしていくというのを、僕はいろいろな人を見ながら働きかけたり実験してデータを取ったりして研究しています。
覚醒をつかさどっている場所が、脳幹です。脳のいちばん芯のところで、ここが実は自律神経と覚醒に非常に重要な部分です。脳幹から下に降りていく経路が自律神経(図では青)で、ここから内臓を制御したりしています。そして脳全体を目覚めさせていくのが、覚醒の経路(図では黄色)。ですから、この脳幹に働きかけたいのですが、脳幹は体のいちばん深い部分にあって、もみほぐしたりはできない。ではどうすればいいかという話です。
この図はまたグロテスクで申し訳ありませんが、後ろから見た脳幹です。横に細い線が出ているのは神経の繊維で、左右全部で12本あります。目・鼻・口・耳(視神経、動眼神経、滑車神経、外転神経、三叉(さんさ)神経、嗅神経、顔面神経、副神経、内耳神経、舌咽神経、舌下神経)と、内臓をつかさどっている神経(迷走神経)です。だから脳幹に働きかけるには、目・鼻・口・耳と内臓に働きかけをすればよいというのが、ひとつの答えになります。先ほどあくびをしてあごを開いたのは三叉神経という経路に作用するし、のどに迷走神経という自律神経があるのを制御することにもなる。あくびをするというのは、こうした神経にものすごい働きかけをしていて、脳幹レベルでの調整力を高める働きがあるのです。
割りばしワークであごを緩める
藤本さん:
いくつか、ワークをご紹介します。ボディーワークを、未来を構想する力ということにつなげていきたいのでもうひとつお話をしますと、何か「もやもや」することはありませんか。大体もやもやしていて、そんなにすっきりしているときってないですよね。特に今のこのような世の中の状況だと、何かわからないけどもやもやしているということがある。それは心の問題でもあるし、からだの問題でもあり、さらには心とからだの関係の問題であるといえます。このもやもやに対して「もう、ちゃんとしないとあかん」「そんな、もやもや心配していてもしかたない」などと思っても、やはりそのもやもやは残ります。なぜなら、頭で整理して何とかなる問題じゃなくて、からだの問題だから。もちろん、気持ちを切り替えることも大事ですが、やはりからだから働きかけることがとても大事なんですね。もやもやが、ふっとなくなる方法を体験してもらいたいと思います。その前にまず、実験に時間を取ります。今ある自分の心配事とか、「あれをしないといかん」「あの会計が終わっていない」「めっちゃ腹立つやつがいる」とかね、そういう自分の中のもやもやした感情を30秒ぐらい、思い浮かべてください。(ベルを鳴らして30秒経過。再度のベルで終了合図。)はい、ありがとうございます。いろんなもやもや、苦手な人の顔や心配事など、何かが思い浮かんだことと思います。今日はそこまではやらないのですが、紙に書く方法もあります。
次に、ある働きかけをからだにしたとき、同じようなことを思い浮かべるとどうなるか、やってみましょう。みなさんに割りばしをお配りしています。割りばしワークといって、割りばしを奥歯でちょっと挟むようにしてかむワークです。今の(みんながコロナ予防にマスクを着けている)世の中的に気になる方は無理なさらないで、この会場ではやれる範囲にして、ご自宅に戻ってからぜひやっていただきたいと思います。このワークは本当にすごい、絶対これだけはやってほしいもので、僕もしょっちゅうやっています。今もう、とにかくストレスが多いじゃないですか。ストレスが外の世界にあるときに、我々は身構えて防御する。防御するときにいちばん守らなきゃいけないのは、脳幹。人間の生命にいちばん大事なところなので、そこを守ろうとするから歯を食いしばるのです。からだを突然どんと押されたら、たぶん、ぐっと歯を食いしばると思います。しかし今はみんなが常に歯を食いしばりすぎて、食いしばっていることも忘れている状態です。歯ぎしりは、自覚がある人もいらっしゃると思いますが、自覚がなくても今は半分ぐらいの人が歯ぎしりをしているといわれています。だから寝ているときに、あごの緊張が抜けていない。そうすると睡眠の質も悪くなるので、あごを緩めるのは大事なのですけれど、なかなかあごを緩めるってむずかしいですよね。むずかしい理由は、そこにそういう筋肉があるという感覚、自覚があまりないからです。
両耳の穴に両手を置いて、口を開け閉めすると、ぽこぽこ動く感触が指に伝わるところが、あごの関節です。あごの関節の奥にある筋肉(外側翼突筋、内側翼突筋)は、口の中に指を入れないとふれられない筋肉ですが、そこがかちかちになって、顎関節症(がくかんせつしょう)などの原因になっているのです。顎関節症だけならまだいいのですが、自律神経などにも全部、これが影響する。ここにこういう筋肉があることを意識するだけで、結構緩むのです。
奥歯に割りばしの太いほうを縦にして挟んでください。こうすると、くわえたぶんだけあごが開くから、くわえている側は、逆の側に比べて、開いている感じがすると思います。この感覚を味わってください。だいじょうぶですよ、カメラには写らないですからね(笑)。そこで軽く、遠くを見ながら呼吸してください。新しく開いたスペースに呼吸が通っていくようなイメージをして。そうするとあごが広がって、さらにはほお、首筋、もしかしたら肩の辺りまで緩んでいく感じがするかもしれません。これはあごが緩んでいくという状態で、セルフケアとしてはとてもよいことです。いったん割りばしを取ってみたら、どうですか、左右違う感じがしませんか。
フェリシモ:
割りばしをかんでいた側のほうが、ふだん閉じてしまっていた奥歯がちょっと開いたような気がします。
藤本さん:
ちなみにこれは、首・肩の緊張が取れて、眠りによいほかに、顔のリフトアップ効果もあります。あごの筋肉が緊張していると、顔の筋肉全部、あご側に引き下げられてしまうからです。あごが緩むと、顔のフェイシャルエクササイズなどしなくても、勝手に顔は上がってリフトアップする。ですから割りばしワークをやってもらいたいのですが、今日の本題はそこじゃない。こういう目的で寝る前とかにはぜひやってほしいのですけれども。もう一度、割りばしを右でも左でも好きなほうでくわえてもらっていいですか。その状態で、ちょっと遠くを見ている感じで、先ほどと同じように、自分が今もやもやしているなということを考えてみてください。(ベルを鳴らす。30秒後、再度ベルで終了合図)はい、ありがとうございました。さっきと比べて、どうですか。
フェリシモ:
口を開けて考えごとをするというのが、ふだんはない状況だったので、何かどうでもよくなったような気分になりました。
藤本さん:
いい意味で、何か頭が白くなるというかね。「もう、腹が立つ」とかずっとあるものが、あごが緩んで脳幹がリセットされると、あまりもやもやしなくなるんですよね。僕はこれが大事なところだと思うのです。仕事でメールのやり取りをしていると、ややこしい変なこともあるじゃないですか。僕がよく使うのは、それでけんか腰になりそうなときにこうしていると(割りばしをくわえてみせる)(会場笑)、「まあ、いいかな」となる。本当ですよ、これで僕はずいぶんいろんなビジネス上のトラブルを未然に防いでいます。だからぜひやってもらいたいなというのがあります。
耳ひっぱりワークで自律神経の中枢をニュートラルに
藤本さん:
こういうワークがほかにもいくつかあります。「耳ひっぱり」というワークは、耳をひっぱるのが目的ではなくて、頭骸骨の目の奥にちょうちょのような形をした蝶形骨(ちょうけいこつ)があり、蝶形骨に目・鼻・口の筋肉などが全部くっついていて、蝶形骨の上に視床下部という自律神経の中枢があるので、ここをニュートラルにするのが大事なのですが、こんなところにはさわれないじゃないですか。この頭蓋骨模型では、黄色い骨をピンクの骨が横から挟んでいますが、このピンクの骨に耳が付いている。だから耳にちょっとふれてあげることで、蝶形骨の両わきにあるピンクの骨が少し開いて、中の骨がよい位置になります。本当はひっぱっているというより軽くふれているぐらいの感じです。
中指と親指で、耳の付け根の部分を持つように。そして遠くを見てください。まっすぐ、自分の目の高さの遠くを見て。両耳をぐっとひっぱるというよりも、両耳のあいだに布のようなものがぶらさがっていて、それを左右で持っている感じです。遠くを見ていると、そんなに怖い顔はできないと思います。ふわっとしたやさしい感じになってきて、頭の真ん中に空間が広がるみたいに自然になってくるのですけれども。(ベルを鳴らして合図)はい、ありがとうございます。どうですか。
フェリシモ:
頭の中がひっぱられる感覚が新鮮でした。広がったような。
藤本さん:
これをやっているときも、あまり考えごとは起こらないですよね。はぁんって、いい意味であほみたいなというか(笑)無邪気なところに、リセットできるのです。耳ひっぱりは、耳の中の内耳神経などの活性化につながる効果がありますが、これも30秒でできて簡単じゃないですか。大事なポイントは、遠くを見ることです。なぜ目の高さの遠くを見るのがいいかというと、眼球がいちばん休まる場所なのです。でもだいたい、みんな生活の中では下しか見ない。スマホとかね。そこを一回、10秒でもいいからやってあげることで、脳の中のほうがリセットされるので、ぜひやってもらいたいです。
副鼻腔呼吸のワークで頭がさえる
藤本さん:
次は副鼻腔(ふくびくう)。鼻が詰まっているときは、だいたい頭がぼうっとします。鼻呼吸が大事などと言いますが、鼻呼吸でみんなが意識するのは鼻の穴ですね。鼻の穴はもちろん大事ですが、もっと大事なのは中のほうです。鼻の穴から空気が入って、眉間、ほお、こめかみの辺りとか、いろんなところにある空洞みたいな空気の通り道全部にきれいに空気が通ることで頭がさえていくしくみがあるのですが、だいたいそこも詰まってしまっているのですよね。なので、この副鼻腔呼吸のワークをご紹介したいです。
めがねをかけていらっしゃる方は取ってください。まず薬指を小鼻に、中指を眉毛の真ん中に置いてください。親指をこめかみに。仮面をつけているみたいですが、これでまた目の高さの遠くを見てください。これをやっていると、不思議とまわりを見渡したくなる動きが自然に起こります。遠くを見て。(ベルを鳴らして合図)これどうですか。
フェリシモ:
何か不思議な気持ちです。
藤本さん:
たぶん、目がちょっとらくになる、すっきりする感じがすると思います。視野が広くなったり、頭もすっきりすると思います。これは何かを見ながらでもできるので、ぜひ副鼻腔の通りをよくするというのはやってもらいたいと思います。
片目のワークで視覚からのストレスを解消
藤本さん:
あとはシンプルですが、片目のワーク。あほみたいですが、これも結構効果があるんです。今、両眼で見ているときの感じを覚えておいてください。そして、どちらでもいいから片目を閉じる。片目になるだけで、ふっと力が抜けませんか。何か自分に戻るみたいな。今はたぶん人前にいるから緊張しているのが、落ち着いた感じになると思います。これはとても効果があるのですが、パソコンを見ながらでもできますね。フェリシモ社内でやっていると怒られるかどうかわからないですけれど(笑)。疲れたら片目になるだけで、落ち着いて集中もできます。
なぜかというと、ふだん当たり前に両目で見ていること(両眼視)が、実は構造的、機能的にストレスなのです。右目で見る像と左目で見る像は違うわけで、違うからこそ立体的に物を見られるのですが、いちいち右目はこう、左目はこうと、両眼視するためにがちゃがちゃやっている。今はだいたい、みんな左右の目のバランスが悪くなっています。見ているだけで、変な情報が常にここでごちゃごちゃしているのです。だから一回それをやめて片目だけにしてあげたら、そのがちゃがちゃがなくなって、頭がすごく静かになる。これは本当に簡単なことです。ぜひ、やってもらえたら。しゃべっている途中にやられたら、いやかもしれないけれど。両眼視はものを立体的に見るためなのに、我々が今見ているもののほとんどはパソコンやスマホの平面です。平面をずっと見ているのに両方の目で見ていること自体、人間のからだにとってはあまり自然なことではない。だからこのワークは、ひとつの解決のきっかけになります。
記憶をすっきり処理して新しいことを考えられる状態へ
いろいろワークをご紹介しましたが、なぜすっきりが大事か。すっきりすると未来を構想する力が生まれるというのが、僕が実は今日いちばん言いたいことです。これは複雑な話になりますが、記憶に関係する問題です。もやもやしている理由って、だいたい過去を引きずっているからなのですよね。いやなことを言われたとか。そこで記憶の処理の話をしたいのですが、例えば車にぶつかられたという、いやな記憶があったとします。それは車にぶつかられたという思考・内容の記憶と、ぶつかられて怖かったという感情の記憶と、ぶつかられたときにからだが硬直して固まった身体感覚の記憶。つまり何かひとつの体験をしたときには、頭・心・からだ三つの記憶がある。記憶を処理する脳の中ではそれがセットになって、過去の記憶となっていくのです。
例えば今言った交通事故のように大きなストレスが掛かったときは、からだがつらすぎて、からだとほかの記憶を三つセットに結合させることができなくなってしまう。要するに、ばらばらになってしまう。特にいちばん残りやすいのが、硬直したという身体感覚の記憶です。2、30年前に起こったことでも、いまだに残る。交通事故にあった体験は、思考・感情・身体感覚がセットになって初めて記憶のたんすにしまわれるからです。「今ここ」の自分の机(記憶のワーキングデスク)があるとすれば、ちらかった机が全部きれいになってこそ、また新しいことも考えられる。まっさらな机の上で、今ある自分の状態を自分で体験すること。そこから初めて未来のことがクリアな状態で考えられるようになるわけです。
三つの記憶の要素は、特に身体感覚、身体性につながる話ですが、そこにもやもやしたものがいっぱい残っているので、きちんと脳でもう一度くっつけるために、すっきりが必要なのです。すっきりというのは脳がクリアに働いている状態なので、そのときに、ばらばらの記憶、もやもやした感覚を、がちゃんがちゃんとくっつけて記憶のたんすの引き出しに収納すれば、全部きれいになって向き合える。まずその状態になっていないと、未来を構想するとか22世紀はどうなるかと言っても、不安しかないですよね。すっきりと未来を考えられる状態をみんながつくっていくことについて、アイデアを提供していくのが僕の仕事かなと思っています。
うがいのワークで元気になる
藤本さん:
ちょっとむずかしい話だったので、次は「人生が“27倍”楽しくなるうがい」のワークをやってみましょう。家に帰ったらぜひやってもらいたいのですが、これは、のどの全域をすすぐということです。先ほど、頭がすっきりするためには神経の中でも、のどがとても大事だという話をしました。のどが緊張している自覚はあまりないと思いますが、みなさん、すごく緊張しているんです。言いたいことが言えないのをぐっと我慢して、のどで全部止めているからです。言いたいことを全部言ったら生きていけないので、こらえている。生活していると、そういうことの連続です。だから緊張している。でもそれは先ほどの割りばしをくわえるのと同じで、のどにもいろんな細かい筋肉がたくさん付いているので、そこをちゃんと意識させてあげたいですよね。
うがいをするのはそれを緩めるのにいいのですが、たぶんみなさんがうがいをするときに意識するのは、のどの一点だけだと思います。それだと、自分が知っている「のど」の、このポイントというだけでしかうがいをしないから、そこの筋肉しか使わない。この図でいうと、のど全部が本当は9だとしたら、5でしかゆすいでいない。ちょっと前までは、この図の9ます全部を埋めるようにうがいをしてくださいと言っていましたが、最近は図を立体にして、縦横斜めをそれぞれ3にしたら全部で27ですね。そのど真ん中でうがいをしようと言っています。つまり、いつも自分が意識していないところにも水を入れてうがいするというということです。
やっていいですか。みなさんは家でやってくださいね。(紙コップに入った水を口にふくみ、頭とからだをそらせたり前後左右にゆらしたりしながら、大きく声を出してうがいするデモンストレーション。水を吐き出して終了し、会場拍手)これ、めっちゃ気持ちがいいんですよ。声をむちゃくちゃ出しやすくなって、今日の講演前にやっておけばよかったと思います。ごめんなさいね、僕だけ気持ちよくなって。絶対、家に帰ってやってください。すっとさえて、まず声がすごく出しやすいし、元気になって5歳ぐらいは若返った感じになります。うがいだけではなく声を出すときも、のどでは声帯というところで音が出ていますが、一点でフラットに(小さな声で単調に)「こんにちは」と話すのではなく、(抑揚を大きく、はっきりと)「こんにちはー」と、のどのいろんな部分を27倍使うように話す。特に今はみんなマスクを着けているから、声の出し方がどんどんフラットになって、当然あごも固まりますし、のども固まっています。
これはのどだけではなく、例えば目もそうです。みんな「私の目は一点だ」と思っていますが、こうやって(目や上半身を動かして)27倍で、表情豊かになるように見る。バブル時代には、それがいいか悪いかは別ですが、女性が話をしているときの表情がすごく豊かでしたが、そういうのは好きになっちゃうんですよね(会場笑)。生命力があるということだから。だから、一点ここだということでなく、少なくとも27倍には可能性を広げられるので、まずはのどからやってみて、その効果を感じてもらえたらいいかと思います。
時には自然体験で頭をすっきり
もうひとつだけ、すっきりするためのヒントとして、こういうワークをいろいろやるのもいいのですが、実はもっと簡単な方法があります。それは自然体験。僕は東京で疲れきったビジネスマンを自然の中へ連れていって、そこでいい状態にすることをやらせてもらっています。例えばラフティングして川を下ったり、冬なら雪の上をそりですべったり。からだを揺さぶられて脳が活性化し、すっきりするのです。でも別にそんな特別なことをしなくても、とりあえず自然の中に行くだけでいい。山の中などにいるときは、頭が結構すっきりクリアになります。そういうふうなことはヒントになりますね。
この図は、すっきり状態を体験するための自然ツアーを実施したときの心身の状態の変化を表したグラフです。赤い線は自律神経系のリラックスか緊張、青い線は脳神経系の覚醒の、ぼうっとしているかすっきりしているかを表しています。最初に現地に着いたときは、ちょっと緊張していて、頭は結構ぼうっとしています。本当に多くの人が誤解していて、緊張していると頭もすごく使っていると思っているけれど、ぜんぜん頭は働いていなかったりする。それがラフティングなどをして帰るときには、すごくリラックスして、かつ頭がすごくすっきりして働ける状態に、自然の中にいただけで導かれる。でも我々は自然の中にはしょっちゅう行けないので、自然体験もやれる範囲でやりながら、そこの体験を日常に持ち帰れるように、耳をひっぱったり割りばしをくわえたり、うがいをするといったことをやっていただけると、自分自身がリセットされて自然に空っぽになり、すると自然と将来のことを考えていけるので、結果として、これからの未来がどうなっていくのか構想できる力が生まれる。今日はそんなお話でした。
第2部
からだに働きかけながら思考してすっきりする
お客さま:
ボディーワークは行動しながらすっきりとした状態にさせますが、思考だけでもすっきりする方法はありますか。
藤本さん:
いちばん効果があるのは、何かワークをしながら思考することですね。どちらも両方同時にやる。先ほど僕は、からだから働きかけるほうがいいと言いました。もちろん、からだから行ったほうがリセットしやすいのですが、同時に何か考える。今日の晩ごはんは何にしようというのがなかなか決まらないのが、耳をひっぱりながらだと、これでいいとすぐ決まったりする。両方からやることが、いちばん速くすっきりするための方法になります。頭だけでごちょごちょ思考を働かせていると、そこに過去の感情とか身体感覚がふっと出てきてしまうのです。今ここのものを考えたいのに、過去のいろんなものが混じってきたら、なかなかすっきり考えられない。やはりそこは、からだからの働きかけも併せてやると、より思考も働きやすくなります。
腎臓を健やかにする方法
お客さま:
内臓の働き、肝臓腎臓を健やかにする方法があれば教えてください。
藤本さん:
腎臓に関しては、自分で自分にするなら、例えばタオルを巻いてたたんだものを「腎臓枕」にして、仰向けに寝ます。疲れたなというとき、だいたい背中側の、肋骨のいちばん下辺りに手を置きますね。この下辺りに腎臓があります。
臨床の経験上、右の腎臓のほうが反応しやすいのが知られているので、その辺りにタオルなどを枕のように置いて仰向けで寝る。ちょうど肋骨のいちばん下のきわは固まっているところなので、少し持ち上げてあげることで、その辺りの骨や筋肉が動きやすくなり、中の腎臓もいい状態になって動きやすくなり、リラックスするのでおすすめです。
もしご家族などいれば、腎臓の辺りを(前後から)持つような感じでふれてあげるのも、いちばん早いです。2、3分でぽかぽかしてきます。
ポジティブな休息の必要を見極める
お客さま:
何もしたくない日はありますか。
藤本さん:
ありますか?
フェリシモ:
ありますね。
藤本さん:
じゃあ何もしたくないから何もしないで今日は過ごせばいいと思っても、でもやらなきゃとも思っているわけですね。それはストレスです。今日は何もしなくていいとちゃんと自分でわかって何もしないというのは、ポジティブな休息になります。それを見わけるのが大事ですね。それがリセットするということです。朝起きて、せっかくの休みなのに今日は何もしたくないなと思ったときに、それが耳ひっぱりか割りばしか、うがいかわからないけれどやってみると、ちょっとそこがわかってくるはずなんですよね。そのうえで、今の自分のからだが何を本当にしたがっているのかを問いかける。何もしたくないときに「とりあえず外に出て散歩してみよう」なんて、できないじゃないですか。でもとりあえず、耳はひっぱれるでしょう。割りばしはくわえられるじゃないですか。そんなことを手掛かりにして、いちばん小さな一歩を踏み出す。そこで本当にからだが休みたかったら、休めばいい。それは納得した休みだから、本当に休息になる。その見極めをやっていける工夫ができればと思います。
うがいワークのさまざまな作用
お客さま:
うがいワークによって、からだの中ではどのような作用が起きているのでしょうか。
藤本さん:
まずひとつには、のどを一か所でしか認識していなかったのが、認識する点がいっぱい増えるから、のどが緩んで活性化しますよね。のどには迷走神経があり、自律神経のようにリラックスするための経路で支配されています。そこが動き出して変化が起こるのは、リラックスの波が起こりやすくなる。もうひとつには、僕がうがいのデモンストレーションをしたときには、水をのどのいろんなところにあてるために頭を揺らしていました。あれは平衡感覚の刺激になっている。平衡感覚は、耳の奥にある内耳神経がつかさどっていますが、そこは脳の覚醒に影響している。自然の中に行く話のところで、川下りのラフティングや雪山をそりで滑るのに効果があると言いましたが、それも実は平衡感覚の刺激なのです。体を揺さぶるような刺激は脳を覚醒させるので、その効果もありますね。だから目がぱっちりしたりします。
割りばしワークによいタイミング
お客さま:
私は忙しい時期に歯を食いしばりすぎて奥歯がめり込んでしまい、歯医者泣かせの大変なことになっています。割りばしワークは寝る直前がいいでしょうか。
藤本さん:
歯ぎしりが激しい方は、寝る直前にするといいですし、いつやってもいいです。寝る前なら寝転がった状態でくわえたらいい。仕事しながらくわえてもいい。よく一日何回、何分ぐらいやればいいですかと聞かれるのですが、好きなだけやればいいです。ただし、昔の武士のくわえ楊枝みたいな感じでやるのは逆効果というか、やりすぎると感覚が慣れてしまって効果がなくなっていきます。割りばし自体に意味があるわけではなく、からだに思い出させてあげることに意味がある。ただ、自分にとって心地よいという感覚があれば、好きなだけやってもらえばいいです。ストレッチや瞑想、ヨガなどをしておられる方は、割りばしをくわえながらやってみたら、からだがなめらかに動きやすくなり、柔軟性も高まります。
就寝中の眉間のしわを防ぐには
お客さま:
最近私は寝ているときに、眉間に力強いしわができているよと主人に言われます。寝ているときだけに、どうすれば治るのかわかりません。何か方法はありますでしょうか。
藤本さん:
ひとつには、あごの緊張と眉間の緊張には関係があるので、あごを緩めると効果があります。耳をひっぱるのもすごくいいです。副鼻腔呼吸もいいですし、今日やったワークは全部いいですね。寝ているときに眉間にしわが寄るのは、脳が感情とか身体感覚などのいろんな記憶を寝ているあいだに処理しようとしているのです。けれども、過去の記憶を消去しようと働きすぎるから、ちゃんとした睡眠にならないので、今日のようなワークを起きているときからやる。あとは先ほど質問コーナーの冒頭で言ったように、ワークをしながら考えるのにはとても効果があります。思い出したくもないような過去の出来事を、ただ思い出しているだけだともやもやして、心も体も気分悪くなってくるのですが、今日ご紹介したようなワークをしながらやると、結構うまく引き出しにしまっていけるので、やってみるといいかもしれないですね。
坐骨神経痛の症状を和らげるワーク
お客さま:
長年の坐骨神経痛(ざこつしんけいつう)で、左足にいつも筋肉痛や、しびれがある状態です。痛みやしびれをすっきり和らげるワークなどがあれば教えてください。
藤本さん:
坐骨神経痛は、おしりのつけ根の筋肉が硬くなって、神経の通り道が圧迫されて痛みが起こるのですが、おしりの深いところにある筋肉なので、なかなか緩めるのがむずかしい。後ろ側のおしりのいちばん深いところの筋肉と、前側の鼠径(そけい)部というか股関節のいちばん深いところの筋肉がひっぱりあっているのです。そのため、後ろ側を緩めるには前側をちょっと使うと効果がある。
ちょっとやってみましょう。みなさんも、よかったらやってみてください。いすに浅めに座って。右側からやるといいですが、質問者の方が痛いのは左足ですから、僕は左側からいきますね。鼠経部の辺りに手を置いてください。そして、左側の膝を上げる。上げないほうの足はしっかり床にまっすぐ着いて。このままできるだけひざを高く、背筋はまっすぐ。結構、(上げている太ももの筋肉が)ぷるぷるすると思うのですが、にこにこしながら遠くを見てください。あまりふだん感じたことのない筋肉が(股関節の深いところに)ありますが、それがおしりのいちばん深いところの筋肉とひっぱりあっている。無理しないで、ゆっくりゆっくり戻していく。ちょっとすっきりした感じがしませんか。座りやすくなっていると思います。
逆もやりましょう。今度は、僕は右側をやります。鼠径部の深いところにある筋肉を刺激して目覚めさせてあげます。こつは、遠くを見てにこにこしていること。そうしないと筋トレになってしまう。これは鍛えるのではなく、目覚めさせたいだけなので。(鼻歌を歌いながらやってみせる。会場笑)下ろすときが大事です。ばたんと下ろさないように(鼻歌を歌いながら、上げた脚をゆっくり床に戻してみせる)。どうですか。
フェリシモ:
何かすっきりした気がします。
藤本さん:
本当ですか。ここの筋肉は大腸とくっついています。今は便通が悪くなっている人が多いのですが、そこの内臓の刺激にもなる。今は座りっぱなしの生活が多いから、坐骨神経痛にもいいし、胃腸の具合も整えるのにもいいものなので、ぜひやってください。
「もの」を使うワークは習慣化しやすい
お客さま:
ワークがなかなか日常で続かないので、習慣化するよい方法があれば教えてください。
藤本さん:
今日ご紹介したワークは全部簡単なものばかりでしたが、効果があるのはやっていたら実感してもらえると思います。けれども続きやすいのは、割りばしワークです。なぜかと言えば、ものがあったほうがやりやすいからです。僕が知っているサラリーマンの方は、会社のデスクにいつも割りばしと、今日はご紹介していないストロー呼吸というのもあるので、ストローも置いている。とりあえずくわえるだけだから。耳をひっぱるのは自分でやらないといけないので、努力が例えば5必要としたら、割りばしをくわえのるは1ぐらいの努力でできる。ものがあると、対象があるので取り組みやすいですよね。一人で耳をひっぱっているのは、なんだかあほみたいじゃないですか。割りばしがあれば、ものと出会うインタラクションがあるということで、習慣化にはものがあると、すごく助けになると思います。
かむことは、もやもやの解除方法
お客さま:
自分はもやもやの言語化が好きで、何かがあると分析していました。そのときに必ず、芋ケンピのような硬いものを食べていたのですが、奥歯で強くかむという動作には何か身体的な意味があるのでしょうか。
藤本さん:
あるんじゃないでしょうか。おもしろいですね。それこそガムをかむのも、そういう作用ですよね。でもガムは今、売れなくなっているのです。なぜだと思いますか。スマホがあるからです。もやもや、いらいらしたときに何か刺激を与えたいというので、ガムはそのひとつの解消方法だった。今はもやもやしたとき、みんなスマホにいってしまう。でも、スマホを見るのはからだの刺激ではなくて、さらに頭を使ってからだを無感覚にする方法なので、よけいに凍りつきを激しくしてしまう。悪循環といえば悪循環です。ですから結論としては、芋ケンピは素晴らしい。
大腰筋を伸ばせば姿勢がらくに
お客さま:
首から上のリラックス、今日からぜひ続けていきたいと思います。良質な睡眠のために、寝る前にしたらいい、ほかのリラックス方法も教えていただけたらうれしいです。
藤本さん:
先ほどの腎臓枕は、寝る前にやるものとしてはいいですし、割りばしワークもいい。意外と、仰向けの姿勢がらくではない、落ち着かないという人って、結構多いですよね。原因は、大腰筋が縮んでいると腰が持ち上がるからです。子どもなどは、すごくらくにぺたんと大の字になって気持ちよさそうに寝ていますが、大人になればなるほど、仰向けに寝るのがなかなかしんどくなります。おなかの中の大腰筋の状態を伸びやかしてあげると、らくに寝やすくなるのでご紹介します。
(フェリシモ司会者に)お手伝いしてもらっていいですか。舞台にあるホワイトボードを右手で持って、舞台下手を向いてください。左足を後ろに上げてもらっていいですか。遠くを見て。そうすると、(左側みぞおちの下から下腹、太もも付け根の間辺りを、手を上下させて示して)ここが伸びるのがわかりますよね。それが大腰筋です。ここからが大事で、上げた足をそのまま戻すのでなくて、伸びた感じがした(胴から太ももにかけての)部分をさらに伸ばすようにして(腰を立て、太もも付け根を曲げないで)戻してくることはできますか。もう一度上げてもらっていいですか。後ろに伸びていますよね。さらに伸びるように。そうすると、左足のほうが長くなっていくような感じがしませんか。これは壁とか何か持っていたほうがやりやすいですね。左右逆もやりたい感じですか。
フェリシモ:
やってみたいです。
藤本さん:
では今度は右足を後ろに。伸びているのをゆっくり感じて、さらに伸びるようにしてください。もう一度後ろに上げて、伸びているのをさらに伸ばすようにしてゆっくり戻す。これは腰痛の人にもすごくいいので、ぜひやってもらいたいです。これは何かに似ていませんか。クラシックバレエの人は、こういう動きでからだを使います。要するに体を長く伸ばすようにして使うということですが、これを我々は全然やってないですよね。特に大腰筋を長く伸ばすようにして使うのは大事です。やってみると、たぶん1、2センチ背が高くなっているはずです。大腰筋が縮まると背も縮んでしまいますから。これを寝る前にするなんて、と思うかもしれませんが、大腰筋を伸びやかにしておくほうが寝ている姿勢自体がらくで、いいワークなので、ぜひやってください。寝る前だけでなくいつでもよくて、デスクワークをして座っているのがしんどいときにもいいです。フェリシモの社内だったら、これをやってもだいじょうぶですか? これも全然、時間がかかりません。筋トレではないですから、(苦しそうな声色で)足を上げた姿勢のままあと5分、とかいうのでなくて、伸びている感じをさらに伸ばすだけなので、やればやるほどどんどん伸びて、背が高くなっていくのですが、ぜひやってください。
筋肉は鍛える前に、伸ばしてリセット
お客さま:
脚の筋力がないからか、しゃがんだら立ち上がれません。今日のお話では、あまり筋肉をかちかちにしないほうがいいということでしたが、私は反対に筋肉を付けたいです。
藤本さん:
しゃがんだ状態から立ち上がれないということは、大腰筋が縮まりすぎて、それを伸ばすのがからだにとってむずかしくなってしまっているので、今やったように大腰筋を伸びやかにしてあげると周りの筋肉が働きやすくなります。すごく高く足を上げるという場合には筋肉が必要ですが、しゃがんでから立ち上がるというのは、ほとんど筋肉の力を使わなくても、それこそ今日の冒頭でお話しした、ばねのちからみたいなものでいけるはずです。もちろん筋トレが悪いわけではないのですが、大腰筋を伸びやかにしてから、例えばスクワットをやってみるといったほうが、からだをより整える方向で筋肉も付けられる。大腰筋が縮こまった状態で必死に筋トレをしても、かえって腰を痛めたりしますので、それだけは気をつけていただければよいかと思います。鍛えたりするうえでは、いい感じにリセットしてからのほうが、安全かつ効果的であるということです。
自分自身の人生を生きよう
フェリシモ:
まだまだたくさんのご質問にお答えいただきたいところですが、終了のお時間が近づいてまいりました。最後に私から藤本さんに、神戸学校を代表してご質問いたします。改めまして、一生かけてやりとげたい夢について教えていただけませんでしょうか。
藤本さん:
自分自身が自分の人生を生きるということをしたいし、それをからだを通して、特に若い人に伝えていきたいというのが、僕が一生かけてやりとげたいことです。僕は大学で教えたりもしていますが、今は情報がありすぎるし、情報を集めて「こういうのがよさそうだ」となっている。それは結局、誰かがつくった「いい就職先」「いい人生の歩みかた」で、どんなにいい会社やいい仕事につけても自分が本当にやりたいことでなかったら意味がない。だからそこは、本当の自分の人生を歩むということ。
でもそれには、やはりむずかしい部分がある。我々人間は弱い状態から生まれて、大人のみんなに育ててもらう。親に育ててもらい、学校の先生に教えてもらって、大人の中で生きてくるから、親の人生、先生の人生、社会の人生を大人になるまでは歩むわけです。でもいつから自分の人生を歩めるのかというと、それは自分で意識しないではできないと僕は思う。中には「おれはこれがやりたいんだ」ということが出てくる人もいると思いますが、僕が見ている限り、若い人たちには明らかにそれが減っているんですよね。だから、どれが世の中にとっていいとか有利という話ではなく、本当に自分の中からやりたいと思うこと、これが自分の人生だと思えるようなこと、誰かの人生でなくて自分の人生を歩むことを、もちろん僕自身もそうしたいですし、みんなにそうなってほしい。
もっと言うならば、今日の問いの「22世紀がどういう世の中になったらいいか」というのが、頭のいい人がつくった理想的な社会をみんなで目指すということであれば、僕に言わせれば違和感がある。そうではなくて、みんながみんな自分の人生を生きていくこと。それができるような状態になったときに、それはどんな世の中なのかと考えたほうが、僕としてはおもしろいですね。