#024 [2025/02.11]
わたしたちの、このごろ
視野は狭いかもしれないけれど、自分の選択が間違っていたと思ったことはありません
船引香歩さんKaho Funabiki


こう語るのは、現在神戸市役所に勤務し、まちづくりのハード面の業務に関わる、船引香歩(ふなびき・かほ)さん、23歳だ。
私がかほさんと初めて出会ったのは、彼女が大学2年生のとき。その当時から、「将来は公務員として神戸市で働きたい」と言っていたのをはっきりと覚えている。まだ多くの同級生が自分の進む道を模索している中で、彼女は迷いなくその目標を掲げていた。
あれから3年。その想いを実現させた彼女に、改めてなぜそこまで公務員になりたかったのか。そして今、どんな景色を見ているのかについて聞いた。
アンパンマンやドラえもんが苦手な
ちょっと変わった子どもだった
大阪府で、父が公務員として働く家庭に生まれたかほさん。両親からは「手のかからない子どもだった」と言われることが多いそうだが、幼いころからちょっと変わった正義感を持っていたと振り返る。
かほさん:アンパンマンやドラえもんが大嫌いだったんです。バイキンマンの行動に腹を立てたり、のび太くんの余計な行動にイライラしたり。とにかく悪いことをするキャラクターが許せなかった。幼稚園でアンパンマンを観る時間があったとき、嫌すぎて泣いていたのを覚えています(笑)。
ほかの子どもたちが楽しそうにヒーローを応援する中で、ひとりだけ違う視点で物語を見ていたかほさん。単純に「正義が勝つ」という構図ではなく、間違った行動をとるキャラクターに対する苛立ちが強く、納得のいかないことには違和感を覚える子どもだったそう。
その一方で、小学生のころにはキラキラした少女漫画やアイドルに興味を持つように。
かほさん:アイドルは今でも大好きで、私の元気の源になっています。

華やかな世界に魅了されながらも、幼いころからの「正しくいたい」という気持ちもあり、勉強や習い事にも熱心に取り組んでいたかほさん。与えられたものには、どんなことがあってもしっかりと向き合う彼女の性格は、中学校でも変わらなかった。
なにかに本気で取り組むことの
楽しさを知った中学時代
かほさんの中学時代を語る上で、常に真ん中にあったのは、テニス部での活動だった。
かほさん:勉強をがんばりたかったので、あえて「ユルさ」が評判だったテニス部に入部したんです。でも、私が入部したタイミングで顧問が代わり、いきなり方針が変わって「全国大会を目指す」と言われました。
そのタイミングで辞めるという選択も取れたが、「とりあえずがんばってみよう」と、変わった方針についていくことを決めたという。辛いこともあったが、新しい環境の中で、自分の限界を押し広げることにだんだんと楽しさを感じるようになったかほさん。

かほさん:試合に勝つために外部コーチを招いたり、強豪校と練習試合をしたり。結局、上には上がいて、最終的には近畿大会出場を賭けた試合で敗北してしまったのですが、技術もメンタルも鍛えられた。なにかに本気で取り組むことの楽しさを教えてもらいました。
また、部活をがんばることが勉強をがんばるエネルギーにもなっていたという。
かほさん:文武両道であることが、自分にとってポリシーになっていたような気がします。高校もちゃんとレベルの高い学校に行きたくて、早い段階から目標を決めて勉強していました。
答えのないことを勉強したい
テニスのプレイヤーとしては中学時代で燃え尽きた感覚があったため、高校では男子テニス部のマネージャーとして活動したかほさん。
かほさん:選手よりラクかなと思っていましたが、全然そんなことなくて(笑)。部員が多いのに、当初マネージャーは私ひとり。顧問の先生がやるような仕事まで私がこなさなければならず、本当に大変だったのですが、途中で辞めるのは自分に負けるような気がして、最後までやり切りました。
先の未来の目標を、いつも早いタイミングで決めるかほさんは、マネージャーの活動と並行し、高校1年生のころから大学ではなにを学びたいのか、具体的に考え始めたそう。
かほさん:ずっとひとつの答えのある勉強ばかりがんばってきたので、大学では答えのないことをもっと考えてみたいと思いました。そんなことを調べる中で興味を持ったのが、哲学的なことや社会現象の分析などができる「社会学部」でした。
このまちに貢献できることがしたい。
明確になった将来の夢
高校1年生のころにもった目標通り、関西学院大学の社会学部に入学したかほさん。
しかし、ちょうど入学したタイミングから時代はコロナ禍へ。大学2年生の前半までは、学校に通うことができず、オンラインでの授業が続いた。
かほさん:大学生になった実感があまり持てないまま、不完全燃焼な日々が過ぎていきました。
ようやく対面での授業が受けられるようになったとき、「インターミディエイト演習」という授業の中で、神戸の里山や里海を再生する活動を行う団体「Re.colab KOBE(以下:リコラボ)」の初期メンバーに誘われ、参加することを決めたかほさん。
かほさん:もともと、学生だからこそできる社会的な活動をやってみたいと思っていたんです。誘われるままに参加しましたが、「公務員として神戸市で働きたい」という夢は、この活動をきっかけに生まれたんです。

豊かな自然に囲まれた神戸で、放置された海や山の現状を知り、自分たちでアイディアを出し合い、再生に向けたさまざまな取り組みをする中で、「この街に貢献できるようなことがしたい」と考え始めたという。
かほさん:身内が公務員ということもあり、幼いころからぼんやりと私も公務員になれたらいいなというあこがれは持っていたのですが、具体的にどこでどんな仕事をしたいのかは決まっていませんでした。でもリコラボの活動が明確にしてくれた。
その後、その想いは薄れることなく、神戸市の公務員になるための努力を一歩一歩重ね、2024年から念願の神戸市役所に勤務している。

かほさん:業務は大変ですが、すごく充実しています。幼いころから目標を決めるのが早くて、周囲からは「もう少し視野を広く持ったら?」と言われることもありますが、これまで自分の選択が間違っていたと思ったことはないんです。これからも自分の信じる道をまっすぐ進んでいきたいと思います。
かほさんの人生は、常に「目標を決め、それに向かってまっすぐ努力する」ことの連続だった。
中学での部活、高校でのマネージャー経験、そして大学でのリコラボの活動。それぞれの経験を通じて、ただ流されるのではなく、常に「自分にとって何が正しいのか」を問い続けてきたのではないだろうか。
目標を決めたら一直線に努力する。それは、決して視野が狭いのではなく、「信念がある」ということだ。今後も、彼女のまっすぐな道が、神戸のまちづくりとともに、どのように広がっていくのか、楽しみに見守りたい。
STAFF
photo / text : Nana Nose