#022 [2024/11.06]

わたしたちの、このごろ

年齢や職種、文化に関係なく、どんな人でもリラックスできる場所をつくりたい

大前颯希さんSoki Omae

こう語るのは、現在、人材派遣会社で営業担当を務める大前颯希(おおまえ・そうき)さん、24歳だ。

取材当日、最寄駅まで迎えに来てくれた彼の姿を見た瞬間、なぜか私の心がふっと緩んだのを感じた。

それは、彼のやわらかい笑顔や、どこか控えめで落ち着いた話し方からくるものだったのかもしれない。

しかし、彼のこれまでの人生の話を聞き進めるうちに、その安心感は彼の持つ「心の在り方」そのものから生まれていることに気づかされた。

弱虫だった自分を
サッカーと母が変えてくれた

大前さん:小さい時はなにか嫌なことがあったらすぐに泣いてしまう弱虫な子どもでした(笑)

4歳上の姉がいる家庭で、末っ子として生まれた大前さん。
温かい家族の愛に包まれて育った一方で、自分から進んで前に出ることには消極的で、どこか頼りない一面もあったそう。

それでも、小学校3年生の時から始めたサッカーが、大前さんの性格を少しづつ変えていく。

大前さん:仲間と一緒に勝つことを目指すサッカーを通じて、チームワークの大切さを学ぶうちに、だんだん弱々しい性格も変わっていったような気がします。

また、くよくよしてしまったとき、エネルギッシュな母が掛けてくれる言葉にも救われたと話す。

大前さん:すごく覚えているのが、小学校のクラス替えで、仲のいい友だちと離れてしまい、思わず「楽しくないわ……」と呟いたとき、「クラスが楽しくしてくれるんじゃなくて颯希が楽しくするんやん!」と声を掛けてくれて、ハッとさせられました。

だんだんと弱虫だった大前さんの姿は消え、クラスの中心でも活躍するような明るい少年へと変わっていったという。

こんな大人になりたい!
学校の先生を一途に目指していた

大前さんが初めて将来の夢を意識したのは、小学校5年生の時だった。

大前さん:今でも連絡を取り合う当時の担任の先生は、心もからだも大きくて、常に他人に寄り添い、一人ひとりの生徒に真摯に向き合ってくれる人だったんです。

先生の姿を見るうち、いつの間にか「自分もこんなふうに人を支えられる存在になりたい」と思うようになった大前さん。あこがれの人と同じように「教師になる」という将来の夢を見つけた。

大前さん:夢を見つけてからは、常に「どうやったら学校の先生になれるんだろう?」ということを考えて行動していました。勉強もサッカーもがんばりながら、クラスの学級委員長にも積極的になっていましたね。

中学生、そして高校生になってからもその夢は変わることなく、将来は教師になるということを信じて疑わなかったそう。そんな心に変化が訪れたのは大学に入学してからのことだった。

まだ小さな世界しか知らない。
もっと広い世界をみたい

教師になることを目指して、大学でも教育について学んでいた大前さん。
しかし、大学2回生のころに訪れたパンデミックが彼の人生に大きな影響を与えた。

大前さん:大学の授業はオンラインに切り替わって、どこにも遊びにいけないなかで、当時アルバイトをしていた塾で過ごす時間が増えていったんです。

塾講師として目の前にいる生徒の進路に深く向き合いながら、改めて自分自身の将来についても真剣に考える時間を持つようになったという。

とにかく地元・神戸が好き。右側に写っているのは雑誌の神戸特集。神戸のものを見つけるといつも買ってしまうという

大前さん:ずっと教師になることを夢見てきたけれど、生徒と話をしていると、まだまだ小さな世界しか知らない自分に気付かされることが多くて。もしこのまま教師になっても果たして自分はどれだけ生徒たちにいい影響を与えられるだろうと思ったんです。

そう考えたとき、大前さんは「もっと広い世界をみたい」という欲求に突き動かされた。

人生観を変えたゲストハウスとの出会い。
人の話を聞くことで自分の世界を広げたい

彼の人生に新たな風が吹いたのは、旅行先のゲストハウスでの経験だった。
年齢や属性など、すべてが違う宿泊者同士が、リビングルームで互いの生き方や考え方を共有し合う時間は刺激的だったと振り返る。

大前さん:ふだんは絶対に交わることのないような人たちがひとつの場所で話す空間で、自分の小さかった世界がどんどん広がっていく感覚がありました。物理的にどこかに行って世界を広げるのもいいけれど、人の話や人生を聞いて世界を広げていくことをやってみたいと思いました。

彼の人生を彩ってくれた人たちとの写真はいつも見えるところに飾っている

その後、「人の話を聞きたい」という思いにマッチする就職先を探し、現在働く人材派遣の会社と出会った。
時には辛いこともあるそうだが、「人と深く関わる仕事」には、やはりやりがいを感じる日々だという。

しかし、それと同時に今の彼には新たな夢が生まれつつある。
それは地元・神戸で、彼自身が心に迷いを感じていたときに救われたゲストハウスを、今度は自分自身がつくりたいというもの。

お気に入りのまち、塩屋町を案内してくれる大前さん

大前さん:年齢や職業、文化に関係なく、訪れる人が心からリラックスして、自分の人生について語りたくなるような、そんな場所をつくることが今の夢です。まだまだ準備しなければいけないことは山積みですが、少しづつ現実のものにしていきたいと思います。

編集部のまとめ

「もっと広い世界を知りたい」

そう願う大前さんの心は、周りの人々との出会いによってさらに豊かに、深く磨かれていった。彼はいつも人との出会いに導かれ、自分の進むべき道を見出している。
人生には、迷いや葛藤が幾度も訪れるもの。それでも焦らずに、目の前にある一つひとつの出会いや経験を大切にしていくなかで、自分だけの夢や道が見えてくるのかもしれない。
いつか彼がオープンするゲストハウスでも、きっとそんな素敵な出会いの連鎖が生まれるのだろう。

STAFF
photo / text : Nana Nose