#04 [2023/12.13]

せんぱいたちの、このごろ

人がどう思うかではなく、いつでも主語は「私」でいたいと思っています。

菊地理華さんRika Kikuchi

アーティスト・菊池理華さん「せんぱいたちの、このごろ」

こう語るのは、現在絵画教室で働きながら、アーティストとして自身の創作活動に取り組む、菊地理華さん、26歳だ。

幼いころから絵を描くことが大好きだったという菊地さん。

菊地さん:小さいころはあまり外に出ず、ずっと絵を描いていました。そんな私を心配した母が、近所の絵画教室のチラシを持って帰ってきてくれたことがきっかけで、本格的に絵を学ぶようになりました。実は今、スタッフとして働いている「発達障がいをもつ子どもたちが通う放課後等デイサービス」は、私がずっと通っていた絵画教室でもあるんです。

現在菊地さんがスタッフとして働く絵画教室

高校を卒業するまで一度も部活に入らず、絵画教室と学校の往復を繰り返していた彼女。一見、早くからイラストレーターになることを目指していたように思えるが、絵を描くことはあくまでも自分のための行為で、仕事にすることはさらさら考えていなかったという。しかし、大学時代のある出来事がきっかけで、アーティストとして活動したいという想いが明確に芽生えたそう。

絵は私の一部。
誰かとコミュニケーションをとる上でも
大事なツールだった

菊地さん:大学生になって、バイトや友人との予定など、絵を描く時間から徐々に離れつつあったのですが、ふと自分の生活を振り返ったとき、絵のない生活はぽっかりと心に穴が空いてしまったみたいで、すごく虚しかったんです。

その後、絵画教室でのアルバイトを始め、もう一度まっすぐに絵と向き合いたいと思うようになった菊地さん。大学4回生のときには、幼少期からこれまでやってきたことをカタチにしようと、初めて自身の個展を開催。たくさんの人に絵を観てもらう中で、もうひとつの大きな気づきがあったという。

菊地さん:個展を開くまで、「自分の作品を観て欲しい」という気持ちは、ある種エゴというか、他人から評価されたいという承認欲求なのかな?とも思っていたのですが、そうではなくて、私にとっては誰かとコミュニケーションする上で絵が大事なツールだと気づきました。もともと人と話すのが得意なほうではなかったのですが、絵をとおしてだと自分の伝えたいことが伝えられる。絵は私の一部になっているのだということが分かりました。

菊地さんは、絵を描きたくなるときのイメージをこう話す。

菊地さん:コップがあってそこに少しずつ水が溜まっていくイメージです。その水が溢れたら描きたくなるんです。溜まっていく水は、「お花がきれいだった」とか「今日は友だちと会えて嬉しかった」とか、そういった日常の中の些細な出来事。それが溢れたときにどうしようもなく描きたくなります。

感情が溢れたときに創作する。それは私が文章を書くことと同じで、ある人にとっては音楽を作ること、またある人にとっては詩を書くことなのかもしれない。自分をありのままに外に出していくために必要な道具、それが彼女にとっては絵を描くことなのだろう。

暮らしから絵を切り離すことは出来ないと気づいた菊地さんは、就職せずにイラストレーターになることを決意。周囲に「就職したら?」と言われたこともあったそうだが、軸をぶらすことなく貫けたのは、母の教えにあるのかもしれないと話す。

自分で自分のことを
決められるようになってほしい――
母の願いから芽生えたセルフラブ

菊地さん:母からはずっと「自分の意見がはっきり言える子に育ってほしい」と言われ続けてきました。自分で自分のことを決めるのが何よりも大事なんだよ、と。

知らず知らずのうちに、その教えは菊地さんの軸となり、誰かに自分の生き方についてネガティブなことを言われても、「自分のことは自分で決める」とそこまで深くは受け止めないという。

菊地さん:人がどう思うかではなくて、いつも主語は「私」でいたいんです。いい意味で自分が好きなのかも(笑)。ナルシズムと自己愛は似ているけれど全く違います。自分の考えや想いを肯定しないと軸が揺らいでしまうので、程よくみんな自分を愛することができればいいなと。そうすることで、自分がなにをすれば幸せになれるのか、おのずと分かってくると思います。

「自分を愛する」という言葉だけを聞くと、どこか自己中心的なようにも思えるが、そうではないということを今回菊地さんから教えてもらった。

もちろん社会の中では協調性が大事になる場面もあるが、一度きりの人生、もう少し自分を中心に考えたっていいのかも。他人の意見に流されず「自分はどうしたいのか」「自分はどうなりたいのか」、いつも心に問いかけることで、どんなときも心穏やかに暮らしていけるのかもしれない。

菊地さん:接する相手や属するコミュニティによって変化する複数の自分。それらは偽りではなく、すべてが本当の自分であると仮定して書かれた本です。
突然自分を好きになるのはむずかしいかもしれませんが、「この人といるときの自分は好き」とか「〇〇しているときの自分は好き」とか、自分のすべてではなくても、一部の好きを認識し、それが増えて行くことで本当に自分のことを愛せるきっかけにつながるかもしれません。みなさんもぜひやってみて!


STAFF
photo / text : Nana Nose