#03 [2023/11.21]

せんぱいたちの、このごろ

今あるものに自分で手を加えながら暮らすって、私にとってはすごく気持ちのいいことなんです。

青野洋介さんYosuke Aono

こう語るのは、日本のあらゆる工芸の技法を用い、生活雑貨の企画や製造を行う会社で、プロダクトデザイナーとして働く青野洋介さん、29歳だ。

秋晴れの日の昼さがり、お邪魔した部屋に並べられた家具やうつわ、小物たちを見れば、その言葉の意味が少し分かる気がした。大きさや見た目に関わらず、そのどれもが主役のようで、誇らしげな顔に見えたからだ。

手先が器用で、
ものづくりに対する憧れがずっとあった

幼いころから手先が器用で、ものづくりに対する憧れがずっとあったという青野さん。その中でも、手仕事の文脈に興味を持ち始めたのは、プロダクトデザインを学んでいた大学時代の経験からだった。

青野さん:はじめは手仕事のものづくりというより、多くの人のニーズに応える大量生産型のデザインについても学びを深めていました。でも、もともと手工芸や民芸品など、クラフト系のものが好きで、木工作家経験のあるゼミの先生の下でさまざまな制作をするうちに、手でつくるものづくりに自然と関心が向いていきました。

ゼミの活動の一貫で訪れた、陶芸家の「河井寛次郎記念館」は、青野さんが手仕事にのめり込んでいく大きなきっかけとなったそう。

青野さん:河井寛次郎のかつての住居兼仕事場がそのまま記念館になっているのですが、その空間がとにかく美しかったんです。さまざまな素材を取り合わせた部屋の中には、彼自身の作品も使われていて、すべてが調和しています。モノへの深い愛と敬意が感じられました。暮らしから仕事が生まれ、仕事が暮らしをかたち作る。地に足のついた実直な仕事と暮らしの中に、自然と美しさが生まれる光景が見て取れて、心に深く響きました。人が本来あるべき姿を垣間見た気がします。自然の素材と人の手から生まれるものの良さを実感するきっかけになりました。

また、大学3・4回生でスタッフとして参加した『京都ふるどうぐ市』での出会いも、手仕事に対する興味をさらに強固なものへと変えていったと話す青野さん。

青野さん:商売以前に、そのものや手仕事が、ただただ好きでたまらないという人たちと沢山出会いました。そのものの良さを伝えるために、社会の常識にとらわれず人生をかけてそこにいる人たちがすごくかっこよく見えたんです。

古くから伝わる日本の手仕事を、
自分にできるやり方で後世に残していきたい

青野さんの中にだんだんと芽生えたその想いを実現できる場所を考えたとき、今の会社とマッチしたという。

青野さん:日本の手仕事の技法を取り入れながら、生活にまつわるものづくりを大きな規模感でできて、全国に販売できる販路も持っている。私のやりたいことをこの会社以上にできる場所はないと今でも思っています。

入社してから今年で6年。短いスパンで多くの商品を生み出し続けることへの苦しさやむずかしさを日々実感しながらも、自分が考案した商品のサンプルが上がってきたときの喜びはなににも変えがたいという。

うまくいかないことも含めて
「人間ぽさ」を楽しんでいる

青野さん:学生のころは自分でデザインして、作るのも自分でしたが、今は自分でデザインしたものが他の人の手に渡って形になって帰ってくる。デザインをするって、やっぱり人との関わりがあってこそなんですよね。自分の意思をメーカーさんが汲んでくれたり、反対にメーカーさんのやりたいものづくりが見えてきて違う提案をしたり。自分のアイデアだけでは生み出せなかったものがメーカーさんの知見や経験を組み合わせることでよりよいものになっていく。

ときには「こうきたか!」というリターンもあるそうだが、うまくいかないことも含めて、その人間ぽさを楽しんでいると話す青野さん。デザインする人もつくる人も、お互いにいい気分で仕事ができる落とし所を見つけるのも大事なこと。

青野さん:やっぱり私は、ひたすら合理化を追求するのではなく、人の至らなさや弱さも含めた人間らしさを包括したところに、美しさや愛らしさが生まれると思っています。だから、ものをつくる上での人との関わり合いは重要視していることのひとつですね。

青野さんは、自身の暮らしの中で使う道具についても、少しの知恵と工夫を使って「人間らしさ」を反映させたものに変えていくらしい。

消費するだけでなく、
自分で手を加えたり作ったりすることが
自分らしく生きるコツだと思う

青野さん:今ってなんでも便利なものが売っているし、量販店に行けば人のニーズに答えられるものはだいたいそろっていますよね。でもそこにあるものを消費するだけではなく、自分で手を加えたり作ったりすることが自分らしく生きるコツだと思います。やってみると案外なんでもできるものです。壊れても直して使ったらいいし、服の丈が合わなければ自分で詰めればいい。自分に合わせて作り替えたり自分でものを作ったり、そういうことを暮らしの中でも大切にしています。ヘタでもうまくいかなくてもいいんです。自分でやってみると作った人のすごさもわかるし、失敗も含めて愛着がわいてきます。やってみることに価値があるんです。その延長線上に、自分に最もフィットする暮らしを見つけることができると思っています。

(左)大学の同級生で、インテリアデザイナーの奥さま

会社の中、SNSの中、あるいは家族の中……。
私たちはふだん、人の意思を見たり聞いたりしながら、知らず知らずのうちにものごとの良し悪しの判断までを、他人の意思に委ねてしまうことがあるのではないだろうか。

しかし、今回伺った青野さんのお話から、自分の意思、ひいては「人間らしさ」を尊重したものを暮らしの中に少しずつ取り入れることで、「生きている」という実感が湧き、どんなに忙しない日常をも乗り切ることのできる、絶対的な安全地帯をつくれるのかもしれないと思った。便利さや簡単さを少し切り離した先に、「豊かな暮らし」のヒントは隠れている。

青野さん 社会人になりたてのころに読んで、料理するモチベーションに繋がった本です。料理をするって、自分の暮らしを自分でつくっていく一番身近なところにあるもの。世の中に与えられたものではなく、自分で作ったもので生きる、その原点です。自分で作ったものを食べるという行為は安心にも繋がります。この本は料理の型をつくってくれるような本で、どういうことをすれば十分なのか、なにを食べていたら安心なのかが分かると思います。新社会人は、自分の暮らしを自分でつくっていく第一歩。そういうタイミングのみなさんにぜひ読んで欲しい一冊です。

STAFF
photo/text: Nana Nose