#09 [2024/07.08]

せんぱいたちの、このごろ

豊かさとは「時間」。人それぞれ、自分に合った時間の使い方を見つけられたら

出口峻佑さんShunsuke Deguchi

こう語るのは、岐阜県・美濃加茂市で誕生した人気スイーツ「壺芋ブリュレ」の発起人の出口峻佑さん、26歳だ。

日常生活におけるストレスが原因で
「豊かさ」について考えるように

中学時代を振り返ると、「ただ生きていく、という当たり前の生活に憧れを感じていた」という。

出口さん:毎日家に帰るのが億劫で、ストレスを感じることが多かったです。というのも、両親間で喧嘩が絶えなくて。当時リーマンショックがあって、仕事の話もよくあがっていたので、仕事は生きていくために大事なものなんだなと。気づけばビジネスのドキュメンタリー番組を見ていました。どの人も目の前の課題と向き合って熱心に解決していく姿がカッコよくて、会社を作って自力で状況を変えていきたいと、思うようになりました。

社会人であればひとり暮らしをするという選択肢があるが、自分で身の回りの環境を変えることができない状況に歯痒さを感じたそう。それからというもの、人生のテーマとして「人々の生活を豊かにすること」を掲げたという。そんな出口さんが、学生ながらもできることといえば社会貢献だった。

出口さん:世の中の問題に無意識に向き合うことが多くて、愛知県の高校生が集まる活動団体に参加しました。例えばイベントを開催したり、ボランティアをしたり、ときにはデモや募金活動なんかもありました。どれも重要だけど、何かが大きく変わるわけではなかった。漠然と、社会にインパクトを与えられるのは事業なんだと考えるようになりました。

そう簡単には社会を変えることはできないと感じた出口さん。まずは自分の手の届く範囲から始めて、社会に対してアプローチしたいと思ったという。

行動の根本にあるのは知的好奇心
学んだことを活かして、もっとこうしたい!と提案

大学時代、アルバイトに注力していた出口さんは、ある行動を起こす。

出口さん:肉バルで働いていたときのことを今でも覚えています。全店舗の売上集計にExcelを使って、各シートを往復しながら仕入れ値を入力していたので、非効率さを感じていました。そこで、VBAの本を買ってきて簡略化するためのプログラムを組み、導入を提案しました。確か3万円くらいの報酬で買い取ってもらえたんです。

その後、偶然目にしたグルメのキュレーションメディアで「インターン募集」のバナーを見つけたそう。大学でまちづくりを学んでいた彼にとって、まちづくりにも接点がある同メディアは興味の対象となった。インターン生として加入してまもないころ、お店作りの手伝いで縁もゆかりもない美濃加茂へ。

地元、名古屋を離れて美濃加茂へ移住。
レンタルスペースと民泊の運営に努める

出口さん:ここで生活している人は何を考えているのか、生まれ育った名古屋とどこに違いがあるのか。興味があって、実際に住むことで知りたいと思いました。ここなら「豊かさ」の答えが見つかる気がして……。

もともと大学院に進もうと考えていた出口さんだったが、美濃太田駅近くに作ったレンタルスペース「MINGLE」の運営を引き継ぐために休学。そして、取材場所である、この古民家に引っ越した。これから!というタイミングでコロナ禍に突入してしまう……。

出口さん:レンタルも、民泊として貸し出すことも、だんだんと休止せざるを得なくなってきました。それでも活動を続けようと企画を立ち上げて奮闘しましたが、実現には至りませんでした。心は折れかけましたが、辞めるか否かは何か結果を出してから考えようと踏ん張りました。

テーマは“芋”。
はじめてブランドを立ち上げる。
まちの人のためにできることを探して

季節は秋へと移って「芋を使ったスイーツを作る」という課題を与えられた出口さん。お店(MINGLE)のスペースや構造上、テイクアウト前提で考えていた矢先、岐阜県・大垣市にあるつぼ焼きいも専門店と出会う。

出口さん:水分があって甘くて、本当にプリンみたいでめちゃくちゃおいしかった。あるクレープブリュレから着想を得て、中にクリームを入れてみようと思いました。わざわざ足を運びたくなる、ここでしか提供できないものを作りたくて。お客さんの目の前で炙るパフォーマンスなど、見え方に工夫を凝らしたら遠方からもきていただけるようになって、風向きが変わってきました。

その名は「壺芋ブリュレ」。発売当初、Instagramのリール機能が始まったばかりだった。動画を撮ってアップしてくれた人にはサービスしたり、インフルエンサーマーケティングにも挑戦したり、テレビや雑誌などのメディアに取り上げてもらったり。売り上げ規模が拡大していくこと以外に、どんな変化があったか聞くと、うれしそうに話し始めた。

出口さん:これまでのお客さんはもちろん、まちの人や、美濃加茂出身だけど地元を離れた人とか、本当に多くの人に喜んでもらえるようになりました。それに、「お芋」が代名詞になることで地域や自分の背景に興味を持ってもらえる機会が増えたのも大きかったです。

そんな彼は今、豊かさについてこう考えているそう。

出口さん:時間、ですかね。自分に合った時間の使い方を見つけることが豊かさにつながっていくはず。それと、人の意思決定って、正確に計算されたものというよりかは、結構曖昧なものなんじゃないかな。「ここじゃなきゃ」と「ここで十分そう」を行ったり来たりしながら探していきましょう。

出口さん:事業を始めて1年目くらいのころ。「これを読むといいよ」とお客さんにいただきました。たびたび読み返してフィードバックの仕方を学んでいます。

STAFF
photo / text : Re!na