#07 [2024/04.16]

せんぱいたちの、このごろ

やっぱり出会いが大事だから。人・モノ・コトをつなげて、目の前の人が喜ぶ姿が見たいです。

早瀬智子さんTomoko Hayase

こう語るのは、出版社やカフェでの勤務を経て、イベントやものづくりのコーディネーターとして活動している早瀬智子さん、29歳だ。

自分の“好き”が見つかったのと同時に、
大きな挫折を味わうことに

早瀬さん:幼少期はピアノ、習字、ドラム、劇団など、習い事をいろいろさせてもらって。今もそうなんですが(笑)活発で、やりたいことで忙しくしていました。

とりあえずやってみる精神を大切にしてきた早瀬さん。中学時代には応援団とピアノの伴奏を経験することで、チームで何かをすることが好きだと気づく。高校生になると、その“好き”にブレーキをかけるような出来事が…….。

早瀬さん:高校ではダンス部に所属しました。全国大会へ向けた選抜オーディションがあって、当時3年生だったから最後のチャンスでした。それなのに、まさかの落選。本番に弱いタイプで、緊張のあまり力を発揮できず、そんな自分が嫌になりました。振り付けを知っていても、鏡の前に座ってそろっているかどうかを確認するだけ。もどかしさを感じながら悶々とした日々を送っていました。それでも辞めずに繋ぎ止めることができたのは、仲間が大事だったから。

ダンス仲間とは今でも仲がよいというから、団結力が強かったことがうかがえる。

大学の記憶のほとんどがゼミ。
社会人になってからも、好奇心の赴くままに

興味の幅が広い早瀬さんは、大学入学後、商品開発やイベントを開催するゼミに所属したという。印象に残っているエピソードを聞くと、考える間もなく話し始めた。

早瀬さん:ある企業さんとシュークリームを開発することが決まって、企画書を持ち寄ったところ、私が考案した「えだまめクリーム」が採用されたんです。それを形にしていただいて、自分たちの手で販売できたことがすごくうれしかったです。大学はゼミがいちばん楽しかったと言い切れるくらい、濃い時間を過ごしました。ほかに記憶がない、と言っても過言ではないです(笑)。

就職活動時はもちろんのこと、社会人になって「大学時代に何をしていたか」と問われるとゼミの話をするのだとか。そんな早瀬さんが新卒入社したのは意外にも出版社だった。​​はたから見たら、学生時代にやってきたこととは異なる仕事に就いたと思ったが、話を聞くと「いろいろなことを経験したい」と思う気持ちには変わりないことがわかった。

早瀬さん:最初からメディア業界しか見てなかったです。当時はそこまでしっかり考えてなかったけど、いま思うと、いろんな人に会って、いろんなことを知りたかったのかも。雑誌を見て心を動かされて、実際に足を運んだことがあって。私がそうなったように「人の心と足を動かす仕事」がしたくて出版社を志望しました。

特にグルメや旅に関する仕事が多く、カフェやおでかけが好きな彼女にとって適職だった。取材を終えたらオフィスにこもってひたすら原稿と向き合う日々を送っていたそう。

早瀬さん:まったくもって苦ではなかったし、楽しかった。とにかくがむしゃらでしたね。ただ、読者との接点が皆無に近くて物足りなさを感じることが増えました。反響があったとしても、自分の耳に届くことはごくわずか。自分にとってのモチベーションは何かと考えたときに、目の前の人が喜んでいる顔を見ることができて、ダイレクトにリアクションを感じることだと気づいたんです。

もっと魅力的に伝えたくて、
多角的な視点で店舗を分析

出版社を約3年半で退職。彼女が出会ったのは、カフェに限らずマルシェも開催している「TOMO CAFF’E(トモカフェ)」だった。

早瀬さん:最初は外注でPRとして入る予定だったところ、ご縁があって就職することに。調理の手伝いはもちろんのこと、すべてのセクションを経験させていただきました。何年も勤めているパートさんをはじめ、皆さんに信頼してもらいたい気持ち一心で、こまめにコミュニケーションを取るようにしていました。

百花繚乱のカフェ。中でも発酵食品やからだにいい食材をたっぷり使ったごはんと、自然の甘みのあるスイーツを味わうことができる同店のよさを前面にPRしたいと考えた早瀬さん。

早瀬さん:リブランディングに向けていろいろと提案させてもらいました。例えば、ほかのお弁当との違いを伝えたくて「TOMO弁当」から「発酵弁当」へ、名前を変えました。前職で得たリサーチ力を、ここで活かすことができたと思います。

「置かれた場所で花を咲かせる」から卒業。
憧れもあって独立を決意

「TOMO CAFF’E」のオーナー・友子さんの背中を見てきた早瀬さんの思考は、少しずつ変わっていく……。

早瀬さん:“食”の大切さを考えるきっかけ作りがしたくて50歳で起業した友子さん。私にとって憧れの女性です。何歳からでも挑戦していいんだと、背中を押してもらった気がします。ずっとそばで働いていたからですかね。もともと独立する気はなかったはずが、徐々に自分も何かがやりたくなって独立しました。これまでは「置かれた場所で花を咲かせる」という感じだったから。ちゃんと自分と向き合いたいと思います。

誰か、何かと出会うことで化学反応を起こして、前に進むことができる。人生はその繰り返しだから、やっぱり出会いは大事だなと思うんです。これからは「出会いを作ってつなぐ人」として、企画したりコミュニティを形成したりしていきます。

思考を整理するためのノートたち

企画の内容について尋ねると、初回を振り返りながら話してくれた。

早瀬さん:第一回目は「SOME/サム」(古着屋)さんとのコラボ企画。テーマは「ファッション」でした。ファッションは自己表現のツールです。流行やパーソナルカラーに左右されて自信をなくしてしまうのはもったいないから。もっと気軽に楽しめるように、という思いを込めてイベントを開催しました。来場者の方と一緒に「似合う」を探すことができて、いい表情が見れて、友達同士がその場で仲良くなって……その全てがうれしかったです。これからも人・モノ・コトをつなげて、目の前の人が喜ぶ姿が見たいです。

キャリアを変遷しながら、少しずつ“自分”を見つけることができている早瀬さん。それはきっと、心の声に耳を澄ませて、その声を大事にしているから。無理に自分探しをしなくてもいいと、そう思わせてくれた。一歩ずつ前に進もう。

早瀬さん:いまの時代、SNSのおかげで簡単に人とつながることができますが、輝かしい姿だけを切り取って、比較して「自分なんて……」と気落ちすることも。そんな私を救ってくれた本です。人それぞれ花が咲く時期があって、自分を示す舞台を探しながら進んでいるのだと教えてくれて、そう思うと心が軽くなりました。

STAFF
photo / text : Re!na