『あたらしい日々への短歌賞』
木下龍也さんインタビュー

フェリシモことば部が20代に向けた短歌賞として開催している”ぼくらの短歌プロジェクト”
その一つ『あたらしい日々への短歌賞』の募集を3月17日より開始しました。

今回の開催に際して、ことば部部員から審査員の木下さんへ、短歌のこと、あたらしい日々のこと、様々なことをお聞きしました。

元々短歌に触れていた方、そしてこれから短歌に触れる方にも。

ぜひ、お読みください。


遠くの方に光が見えそう。
そんな日々でした。

ー今回のテーマは”あたらしい日々”ですが、木下さんは”あたらしい日々”にどんな印象がありますか

めんどうで、不安で、ちょっと楽しみで、胸がさわぐ。僕にとってはそんな印象です。就職、転職、退職、入学、卒業、引っ越し、髪を切る、服を買う、爪を塗る、積読本を開く、未開拓のお店に行く、左右違う靴下を履いてみる。”あたらしい日々”への入口は日々のなかに現れることもあればつくり出すこともできます。ファンファーレは聞こえなくても、生きることそのものが”あたらしい日々”への入口なのかもしれません。短歌のテーマとしてはものすごく大きくて広いですね。

木下さんにとって、20代はどんな日々でしたか。

失敗も挫折も嫉妬もしました。だれかを傷つけたこともありましたし、恥ずかしいこともたくさんしました。短歌を始めたのも、長く付き合うことになる短歌の友人や編集者さんに出会ったのもその頃です。目の前には常に不安や緊張や焦りがあって、けれど、遠くの方に光が見えそう。そんな日々でした。

ー募集している季節についてもお聞きしたいです。木下さんにとって、3月・4月はどんなイメージがありますか。

3月はさらば、4月はおいで、って手を振っているようなイメージ。

ー木下さんご自身が、最近気づいた”あたらしい”はありますでしょうか。

舞茸のおいしさ。


現代短歌の魅力

ー小説や歌詞など、ことばに関するアプローチが様々ある中で、現代短歌の魅力を教えていただきたいです。

普段から57577でしゃべっている、書いている、という人はおそらくいないと思います。だから短歌って不自然で遅いんです。例えば映画を観て、ストーリーや感想をだれかに伝えるなら、制限なくしゃべったり、書いたりしたほうが自然で速い。わざわざ57577で伝える必要はない。でも、不自然だからこそ、遅いからこそ、捉えられるシーンや心の動きがある。大きく括るのではなく、細分化して深く掘ることができる。短歌を通さなければ、見逃したり忘れたりしたはずの光景や感情やアイデアに気付くことができる。それを保存しておくことって、自分を大切にすること、自分に向き合うことでもあると思うんです。それができれば、自分の向こうにある世界や他者にも優しくなれる気がしていて、つくり手として僕が感じる短歌の魅力はそういうものですかね。うまく言えているかわかりませんが。

ー現代短歌にルールなどはありますか?例えば、字あまりなど、どこまで許されるのでしょうか。

短歌のフォーマットは57577です。僕は57577にかなりこだわる方ですが、字余り(音数を5や7よりも多くする技法)を使うことも稀にあります。そのとき意識しているのは、だれかに許されるか/許されないか、ではなく、自分で納得できるか/納得できないか、です。納得できれば字余りをしますね。


今回応募される方へ

ー今回の短歌賞では今まで短歌に触れたことのない方にも、歌をお寄せいただきたいなと思っております。そんな方に短歌の始め方など、アドバイスをいただきたいです。

可能であれば、短歌をつくる前に歌集1冊分くらいの短歌を読んでみてください。お近くの書店でお買い求めになるでも、図書館で借りていただくでも、ネットで検索してみるでもいいと思います。1冊分読めば、57577のリズムに慣れてきて、自分の内側にある風景や感情やアイデアをどのように外側へ出すか、を以前よりは掴めるはずです。それから1首つくってみる。そして、自分が読んだ短歌と自分が詠んだ短歌を並べて、何が違うのかを考えてみる。必要があれば言葉を選び直したり、語順を変えたりしてみる。短歌には前例が無数にありますので、歌集というバトンを受け取ってから、走り出してみてください。

ー最後に、応募される方へのメッセージをいただきたいです。

”あたらしい日々”という大きくて広いテーマですが、大きくて広いことを短歌として捉えようとしなくても大丈夫です。みんなの話をしなくていい。あなたの話をしてください。伝わりやすさや届きやすさのために薄めるくらいなら、濃いままのひとりよがりをください。全力で受け止めます。よろしくお願いいたします。


『あたらしい日々への短歌賞』募集は、2025年4月17日(木)まで。
ぜひご応募ください。

応募はこちらから。


木下龍也(きのした・たつや)
1988年生まれ。歌人。歌集は『つむじ風、ここにあります』『きみを嫌いな奴はクズだよ』『オールアラウンドユー』『あなたのための短歌集』。その他、短歌入門書『天才による凡人のための短歌教室』や谷川俊太郎との共著『これより先には入れません』など著書多数。近刊は『すごい短歌部』。2025年4月よりNHK Eテレ「NHK短歌」選者。
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