-第3回ことば追求会-
あたらしい日々への短歌を作ろう

フェリシモことば部の新たな取り組み『ことば追求会』
ことば部の部員がそれぞれ話したいテーマを持ち寄るこの企画。
第3回では、先日募集を開始した『あたらしい日々への短歌賞』にちなんで、
ことば部部員が実際に短歌を書いてみます。
短歌が好きな部員もいれば、これをきっかけに初めて短歌を詠んだ部員も。
ぜひお読みください!
※過去の追求会はこちらから
【プロフィール】
やまぐち
フェリシモことば部部長。
音楽・映画・テレビ、ジャンルは問わず色んなエンタメが好き。
好きな言葉に出会ったらメモするようにしている。お腹が弱い。
あんぱん
お笑い・ラジオ・アート・インテリアが好き。
心がザワザワしてきたときは、原田マハさんの小説を読んで落ち着かせている。
鼻が高く、「先端恐怖症だからこっちを見ないでほしい」と言われたことがある。
タケナカ
フィクション、ノンフィクションなんでも読むが重ための作品が好き。
フェイク・ドキュメンタリーを作りたい。
たっきー
現代短歌・小説・エッセイをよく読む。
映画・ドラマ鑑賞も好き。最近は、近所の商店街を散歩して開拓中。
退勤後のひとりラーメンにはまっている。
それぞれの”あたらしい日々”への短歌
ーやまぐち
3月17日(月)より、”ぼくらの短歌プロジェクト”「あたらしい日々への短歌賞」の募集を開始しました。テーマは”あたらしい日々”。
20代の3月と4月、学校を卒業して会社に就職したり、はじめての一人暮らしをしたり、そんな日々の不安やワクワクを拾えたらなと思っています。
今回はその短歌賞にちなんで、僕達部員でも短歌を作ってみよう!という企画です!
それぞれに1首考えてきてほしい(勢い余ったら2首以上も可)、とのお題を事前に出させてもらっていたので、僕から順番に発表していけたらと思います。
ータケナカ
やりましょう!
キャッチ―なサビでも歌詞でもないけれど
この転調が素晴らしいのだ
「このラジオおもろかった」と送るとき
ふと少しだけ、子どもに還る
ーやまぐち
最初は、僕が詠んだ2つです。
1首と言いながら2首書いてきてしまったんですが、僕自身が音楽もやっているのもあり、
音楽に絡めたものが書きたいな、と思って1首目を書きました。
今TikTokでバズるとか、CMやリールで切り取られる部分をキャッチ―にとか、どれだけ展開があるんだろう、みたいな曲がたくさんあって。
例えば、自分の人生を曲に例えたときに、キャッチーな人生なのかは分からないんですけど、自分の人生軸だけで見ると、20代でガクっと切り替わるというか。
大学まではこう、ちょっと自分のやることが見えてて、それに向けて頑張って、という流れだったんですけど、20代になるとやりたいことをし続けるもできるし、しないということもできる、選択肢がかなり自分に与えられて、なんだか人生が転調したな、という感じだったんです。
自分の好きな音楽も、とにかくキャッチーなサビとか歌詞とかじゃなくて、Bメロから急に転調したりとか、予想もつかない間奏が入った入りとか、そういう曲が好きで、自分の今までの人生の中で20代で感じるあたらしさは転調部分だな、と思って書きました。
ーたっきー
たしかに、急に切り替わりますよね。
ーやまぐち
そうそう。2首目もそれに近いニュアンスで書いていて。
大学まで実家にいたから、それまでは学校に行って、実家に帰る、みたいな毎日だったんですけど。
4月からは急に大学生じゃなくなって、入社して、実家も出る、その切り替わりが急だなあと思って。
数か月前まで、実家で大学生してたのに、自分のお金だけで生活するようになる。
大学生だった頃から少ししか経ってないのに、急に背伸びしてかっこつけるんですよね。
俺はもう社会人なんやで、大人やで、みたいな。
無意識のうちに全方向に向けて背伸びしてしまっていて。
親と元々頻繁にコミュニケーションを取るタイプじゃないんですけど、面白いエンタメみたいなのがあったときに親に共有したりしてて。
おすすめしたものを親が観てくれるのが、嬉しかったりして。
ータケナカ
良い関係ですね。
ーやまぐち
会社に行って、1人の部屋に帰って、俺は大人やから自炊したり、皿洗いしたりするで~、別に親にも連絡したりせず1人でやっていけるで~、もう社会人やで~みたいな、家に帰っても背伸びする毎日が続いてたんですけど。
面白いラジオがあったときに、ふと親に教えたくなって、LINEするときがあって。
そのLINEをしてるとき、それを親が聴いてくれた時、その瞬間だけは、背伸びをやめて、子どもに戻ってるんですよね。
その時に、自分は親にそういう部分で大切にされてきたんだな、とか、背伸びしてたんだなってことに気付けて、そのことを書いた1首ですね。
信号を待つここまで全部薄もやで
振り返った時の間よ 間よ。
ーヤマグチ
これはタケナカくんの1首やね、どういう歌なんやろう。
ータケナカ
そうですね、これはあたらしい生活の悩み、っていうか。
僕、たまに会社行く時に気づいたらここで信号待ってたみたいなことがあるんですよ。
自分が電車乗った記憶もないし、鍵ってしめたっけ?みたいな。
これって慣れというか、まあ良いことでもあると思うんですけど、あまりに日常化しすぎてて全然記憶がないみたいな、この経験がめっちゃ怖いんですよ。
あまりにも暮らしになじみすぎて、境界が無くなってる気がして。
そういうときに後ろにある溝というか隙間を書きたいなと思って書きました。
なんだか字余りの感じもよいのかな、と思って個人的に気に入っている1首です。
ーやまぐち
「間よ 間よ。」って凄くいいね、リズムが変拍子というか、しっとりしてる感じ。
ーあんぱん
あたらしい日々に対して、”怖い”っていう感覚があるのもいいですね。
この街に馴染んでる気がするわたし
ずいぶん増えた地図上の星
ーやまぐち
この歌は、たっきーやね。
ーたっきー
はい。私は去年入社して、神戸に引っ越してきたんですけど、今までは和歌山とか京都に住んでて。
いつも地図アプリで、行ったお店を星マークでつけてたんです。
だから住んでたところの地図は色塗りしたみたいになって。
神戸に来た時の街の印象が、やっぱり何も知らないから白黒な感じがしたんですけど、
住んでるうちに、行ったことのあるお店が増えて、地図の上にも星がポンポンって増えてきて。
街の印象もどんどん色づいてくる感じがして、その気持ちを歌にしようと思って書きました。
もうすぐ社会人2年目になるので、去年のワクワクやドキドキ、新鮮だったなっていう気持ちを思い返すことが最近多くて。
その時の不安な気持ちとかも一緒に、「私はこの街にけっこう馴染んでるよ、大丈夫よ」ってその時の私に言ってあげたいみたいな気持ちもこめてます。
ーやまぐち
いいなあ、地図上の星っていうのがいいね。
自分の気持ちと一緒に地図がどんどん色付いていく様が、凄くいい。
ータケナカ
「わたし」と「星」で終わってるのが、ことば的にも気持ちよくていいですね。
「何者だ?」ざわつく道がそのうちに
わたしの足もいつもの奴に
山田さん、目の下ホクロ。
加藤さん、下がり眉だね。よし、インプット。
ーやまぐち
あんぱんさんも2首詠んでもらいましたが、1首目はどういう歌でしょうか。
ーあんぱん
初めて会社に行くときって新しい道を通るじゃないですか。
でも通勤路になるから、これからずっと通る道でもある。
初めてはその瞬間だけ。実は、この歌には道側の気持ちも入ってて。
「あれ、知らないやつ通ったな」みたいな。
道側も最初はちょっとざわざわしてるけど、そのうち「あ、またいつものやつね。」ってなる。
あたらしい道にそわそわする私の気持ちと、わたしに踏まれる道の気持ちを入れています。
ーやまぐち
1つの歌にいろんな視点があるんですね。
ーあんぱん
2首目は、まあ、読んだままなんですけど。フェリシモに中途入社して、こんなに人がいっぱいいる会社って初めてで、人の顔と名前を覚えるのが難しくて。
だから話しかけられたりするたびに、ノートの端っことかに顔や特徴を描いていて。
タケナカくんに会ったら、きっと髭を最初に描くと思う。(笑)
ーやまぐち
髭がね、印象的ですから。
ータケナカ
「よし、インプット」って言ってね。(笑)
ーあんぱん
そんなあたらしい日々で、覚えるために顔を描く様をそのまま歌にしました。
ーやまぐち
凄く新鮮で、主人公が浮かびますね。
”あたらしい日々”というひとつとっても、軽やかなものもあれば、靄がかってるものもあって、面白いなと思いました。
次は、そこから派生して、”あたらしい日々”ってなんだろう。という話もしたいなと思います。
次回は”あたらしい日々”について
次回は部員それぞれの”あたらしい日々”の印象やとらえ方について。
短歌の中にも、部員それぞれの”あたらしい日々”に対する想いはそれぞれでした。
今回の『あたらしい日々への短歌賞』にも、あなたの思う”あたらしい日々”をぜひのせてみてください。
応募はこちらから
talk:ことば部部員
text:やまぐち(ことば部部長)