ボタンは服づくりにとって縁の下の力持ち的な存在です。毎回どのボタンを使うか悩むのですが、白シャツはシンプルなだけにボタン選びには特に力が入ります。そんなボタンの製作現場を今回取材させていただきました。おじゃましたのは、栗や黒豆で有名な兵庫県丹波市にある「関西釦株式会社」さん。近年では、分業制で生産するボタン屋さんが多いのですが、関西釦さんはボタンのもとになる板材から磨きまで一貫生産されていて、取材では四代目社長の林さんに樹脂ボタンの作り方を教えていただきました。今回のシャツで使っているのは、ポリエステル樹脂で作った貝調ボタン。天然貝を使ったボタンはナチュラルで魅力的なのですが品質の安定がむずかしく、割れやはがれなどの問題も起きやすい。それでも昔は自然な色合いに惹かれ使ったりしていましたが、技術が向上し天然と遜色ない樹脂ボタンを作れるようになってきて、最近はもっぱら樹脂の貝調ボタンを使っています。さて作り方ですが、ベースの白のほかに赤・青・緑と色素をそれぞれ混ぜた4色の原料を何層にも分けながら、年輪のように重なった板材を作ります。その板材が完全に固まる前に、クッキーの型押しみたいにボタン状の原型を抜きます。次に原型を削ってボタンに成形するのですが、その時に原型を斜めにセットして削り、年輪のような断面を浮き上がらせることで、貝ボタンのような虹色の色ムラを表現します。そして、ここからの磨き作業が大切。天然貝のような光沢を出すために、まずは水と砂と細かい石を入れたバレルの中で、一晩かけてじっくりと研磨。さらに今度は竹のチップとワックスを使って、また一晩かけて磨き上げることで、本物の貝ボタンのような光沢が生まれます。製作工程はいっしょでも、板材を作るときの色の調合やどのくらいの厚みで層を作っていくかは職人さんの腕次第。また磨き工程でも、気温や湿度によって輝きが変わってくるので、石と砂、竹チップとワックスの配合バランスは経験をもとに変えています。創業から今年で90年目を迎える関西釦さんの経験と知識、そして職人さんたちの匠の「業」によって作り出された貝調ボタンの輝きを、ぜひ手にとって感じていただけたらと思います。