トゲトゲとした葉を持ち、花も筒状花のため触るとチクチクしそうな見た目でちょっと近寄りがたい印象の野アザミ。でも、実は食用や薬用にも用いられるし、花が咲くと蜜を目当てに蝶や蜂たちが寄ってきます。アザミの花から採れたはちみつはさっぱりとした味わいだそうです。そんな野アザミの花を特殊な手法を用いた刺しゅうで表現してみました。今回刺しゅうをお願いしたのは以前からお世話になっている広島県にあるピリカさん。昭和56年創業の老舗刺しゅう工場です。そんなピリカさんに「手刺しゅうでしかむずかしい表現をなんと機械ですることはできないでしょうか?」と相談し、方法を考えてもらいました。このアザミ刺しゅうでいちばんむずかしいのが糸調子の調整。機械のセットアップが特殊なため、ピリカでもべテランの職人さんにしかできないそうです。花弁の部分をハサミが入る程度にうまく糸が浮くよう調整し、刺しゅう後にカットして立体的な花にしています。花びらとほかの部分の糸調子が全然違うので、きれいな刺しゅうに仕上げるには、微妙なさじ加減ができる匠の『業』が必要不可欠です。そのほかにも、身生地を傷つけずにカットする技術や、糸が抜けないような刺しゅうデータを作るなど、今回の刺しゅうには40年以上刺しゅう一筋でやってきたピリカさんの知恵が詰まっています。