Playfoolさんのアイデアからはじまった「森のクレヨン」作り。お客さまのもとにお届けできるかたちになるまで、たくさんの挑戦がありました。フェリシモのプランナー小倉が、開発の舞台裏をお話しします。
フェリシモ 小倉
「森のクレヨン」商品開発担当。以前から地元・神奈川県の伝統工芸である寄木細工など、色の違う木を使ったプロダクトに魅力を感じていたため、Playfoolさんの案に興味津々!
どうやって木を集めるか?
今回クレヨンを開発するにあたり、10種類の色とりどりの木材を用意する必要がありました。
クレヨンとして色のバリエーションを表現できるほどの種類、しかも、たくさん生産するのに必要な量の木材を、どうやって集めたらいいのかわからない……。
悩んだ末、Playfoolさんがクレヨンを考案するきっかけとなったプロジェクト「WOOD CHANGE CAMP」で、彼らの開発を手伝っていた「株式会社 飛騨の森でクマは踊る」(通称:ヒダクマ)さんに、木材を集めるお手伝いをしてもらえないかと相談したところ、快くご協力いただけることに。
株式会社飛騨の森でクマは踊る
森と人との持続的な関係を再構築することを目指し、岐阜県飛騨市を拠点に活動する会社。飛騨地域の多様な広葉樹を使ったユニークなプロダクト開発や、デジタルものづくりカフェである FabCafe Hidaの運営など、カフェ・ものづくり・滞在を通して森と人とをつなげる活動を行なう。https://hidakuma.com/
ヒダクマさんは、岐阜県の飛騨古川に拠点を持ち、デザイナーのプロダクト開発を支援したり、アーティストとコラボレーションして木材の新たな使い方を提案するなど、森のツアーやワークショップを通して、森と人の生活を結びつける取り組みをされている企業です。
実際に、フェリシモの「森のクレヨン」企画チームも飛騨の森へ行き、どのようにクレヨンの原料が生まれるのかを見せていただきました。
雪が降る直前の飛騨の森へ
11月末、雪が降る前になんとか間に合い、地面が落ち葉ですき間なく覆われた飛騨の森へ。
雨上がりの地面からはひんやり冷たさが伝わり、とても静か。人の気配もありません。
風が吹いた瞬間、耳をすますと、カサカサカサカサと風に乗って葉が舞う様子を音で感じることができました。
一緒に小鳥のさえずりも聞こえてきて、ふだんの生活とまったく異なる世界に、少しずつ気持ちも澄んでいきます。
鳥を探そうと上を見ると、そこには天まで届く勢いで力強く生える木々が。
これらもクレヨンに使われる原料と同じ木だと考えると、「森の恵みをおすそ分けしてもらっている」ということを、森に来る前よりもずっと強く感じるようになりました。
しばらく歩いてみると、自分の足よりも大きな葉が折り重なって地面に落ちています。
これは「ホオ」という木の葉で、クレヨンの中の1色にもなっている樹種です。
岐阜名物の「朴葉味噌」をご存知の方も多いのではないでしょうか? この大きな葉の上で味噌にネギなどの薬味や山菜を絡め、焼いて食べるそうです。
なんでも包めてしまいそうなくらい、本当に大きな葉ですね。
ほかにも、栗が転がっていたり、赤や黄色、色とりどりの落ち葉やどんぐりを見つけたり……少し足を進めるだけで、街ではなかなか出会えない、森ならではの発見がたくさん。
伐採されたばかりの切り株には、チェーンソーで切った後の木くずがそのまま残っており、明るいバニラ色からこげ茶色まで、同じ木の幹の中でも多彩な色が入り混じって、美しいグラデーションがあるのがわかります。
そして、荒々しい木の肌や、見たこともない鮮やかな色のきのこ、寒い中でも凛々しく緑の葉をつける針葉樹を見て、自然のパワーを大いに感じました。
森へ行く前には、スギの木のまわりにはスギばかりが集まって生えていると思っていたのですが、実際にはヒノキやナラ、ケヤキが一緒に生えていて、広葉樹と針葉樹が共生していることを知り、驚きました。
ヒダクマさんのお話によると、光が好きだったり陰が好きだったり、木の種類によって性格があるそうです。
広葉樹は紫外線の強い夏に大きく葉を広げて養分を蓄え、日差しの少ない冬は葉を落とし、エネルギー消費を抑えているのだとか。
反対に、針葉樹は季節を問わずに葉をつけている「常緑樹」と言われ、少しずつエネルギーを取り込んでいるのだそう。
確かに、葉を広げる木どうしが近くに生えていたら、お互いの葉が重なって日光が当たりにくくなってしまいますね。
このお話を聞いて、いろいろな種類の植物が共生している理由に納得しました。
次に製材所の見学へ
森で伐採された木は、枝を切り落とされ、丸太の状態で「土場(どば)」と呼ばれる製材所に運ばれます。
規格外のサイズや、節・割れ・虫食いなどで家具にはできない木材はここで選別され、はじかれたものは薪などの燃料やチップ材として活用されるそうです。
森のクレヨンで使用する木材も、大半は家具として使用することができないものを粉末に加工しています。
チェーンソーで節や割れ部分などをカット。
こちらは先ほど紹介した「ホオ」の断面。中心部が緑がかったグレー色をしています。
家具にならず、薪になった木材。
▼家具用の木材は、こんな加工工程をたどります。
丸太の側面に一周刃をあて、木の皮をはいでいきます。
今回のクレヨンには採用されませんでしたが、「キハダ」という木は名前の通り皮をはぐと、黄色い木の幹が出てきます。
(暗い皮の色もあいまって、焼き芋のような鮮やかな色です!)
激しく飛び散った木の皮を拾ってみました。木の種類によって色もさまざま。
丸太を大きなのこぎりでスライスしているところ。
板になった木材は、製品になった後に反らないよう、乾燥させます。
木材は出荷され、それぞれのプロダクトになっていく
板になった木材は、建物や家具、雑貨などに形を変えていきます。
ヒダクマさんの工房でも、いろいろな機械を使って木を加工しています。
クレヨンの原料となる木くずも、電動カンナなどの機械をつかった時に出たもの。
もともとの、森の中に生えている姿が想像できないくらい細かくなりました。
木くずからクレヨンになるまで
今回のクレヨンのコンセプトとして、「木の色の違いを感じてもらいたい」という想いがあったため、着色料は混ぜずに木の幹の色だけでクレヨンを作ることにこだわりました。
果たして、色のバリエーションが出せるような木の種類は集められるのでしょうか?
ヒダクマさんに相談したところ、日本各地の林業関係者さんに声をかけてくださり、集まった木はなんと44種類!
森のクレヨンの商品化に対して、たくさんの方々が「おもしろい取り組みだね」と興味を持ってくださり、こんなにも多くの種類の木くずを集めることができました。
届いた木くずを並べてみると、同じ木なのに、ひとつひとつ色が違うことがわかります。森の中で見ていた木の表面からは想像できないカラフルさ。
強い赤色だったり、緑色に近いものや、白、黄色、こげ茶、グレーがかったものなど、木の色だけでこんなにカラフルなパレットができるんだ!と驚きました。
美しい木の色のグラデーション
ミカンはうっすら黄色かったり、ヤマザクラやツバキはほんのりピンクがかっていたりして、実や花のイメージ通りの色のものや、ヒノキやイチイなどよい香りの木、聞いたこともない名前の木もたくさん。
こんなにある中からサンプル制作ができる数に絞ることは、至難の業でした。
茶色ばかりに見えるグラデーションの中でも、赤っぽいもの、黄色っぽいもの、暗い色、明るい色など、色味の種類で分けて、発色のよさそうなものや身近に感じられる木をセレクトし、サンプルを作ることに。
木くずを細かい粉末状にして、米ぬか由来のライスワックスと米油という材料と混ぜてサンプルを作りました。
粉末化した木はこんな感じ。
木くずの時よりもやわらかい印象の色になりました。これだけ見ると、スパイスみたい。
▼クレヨンはこのような工程で作ります。
熱して溶かしたライスワックス・食用の米油・木粉を混ぜ合わせます。
混ぜ合わせた材料を、クレヨンの金型に流し入れます。
冷まして、固まったところを型から抜くと、きれいなクレヨンのかたちに!
果たして描き心地は?
はじめてできあがったクレヨンのサンプルで実際に描いてみたところ、思っていたような色は出ず、発色や描きやすさも種類によってバラバラでした。
どうして!?
急いでクレヨン業者さんに相談したところ、この段階での木の粉の粒度は80~100マイクロメートルという粗い粉だったため、うまく色が出なかったようです。
そこで、さらに木の粉を細かくする機械を通して、微粉末化することに。
おおよそ30マイクロメートルという、フェリシモで商品づくりをしていて今まで聞いたこともない単位の材料を使うことになりました。(ちなみに、抹茶で20マイクロメートルくらいだそうです。)
そして、今度はクレヨンのベースとなる材料をミツロウで作ってみました。
微粉末でつくったサンプルが18色出来上がり、きっと色が出るはず、と期待したのも束の間。
また描けません……。
ミツロウの粘り気のあるテクスチャが紙に引っかかってしまい「最初のサンプルの方が描きやすかったかも?」と思うくらいでした。
色の違いがわかりやすいもの、発色のよいものを選び、米油とライスワックスで再々チャレンジ。
結果、種類によって色の強弱の違いはあるものの、画用紙に色が乗るようになりました。
やっと「森のクレヨン」が完成!
木の粉だけで色を付けることにこだわったため、顔料を使った普通のクレヨンのようにはっきりとした色は出ませんが、自然の素材ならではのやさしい色合いに。
描く紙の質感によっても、色の乗り方は異なります。
黒い画用紙に描いても、それぞれ異なる雰囲気を味わっていただけます。
ちなみに、描き味が種類によってばらついていたのは、木の幹の硬さがそれぞれ違うため、細かい粉になりやすいものと、そうでないものがあるのだそうです。
木の種類によって、色だけでなく描き心地もさまざま。硬さにも木の個性が出ているなんて、いっそう木への愛着が湧いてきますね。
「生えている時はどんな姿だったのかな?」「どんな性格の木なのかな?」なんて想像しながら、それぞれの木の特徴をお楽しみください。
このように加工のプロセスや木の特徴、魅力を知ることで、クレヨンだけでなく建物や家具、雑貨の向こう側に、森の風景をイメージしていただけたらうれしいです。
パッケージデザインにもこだわりました
森の地面に小枝が重なって落ちているようなイメージでデザインしたパッケージに入れてお届けします。
ぜひ「森のクレヨン」をお手に取って、森の色彩の豊かさをお楽しみください!
※この記事は、2022年4月の発売時に、フェリシモWEBサイトに掲載された記事を、一部加筆修正して転載しています。
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