フェリシモのファッションブランドMEDE19Fと京都服飾文化研究財団がコラボしたアイテムが「LOVE ファッション展 ー私が着がえるとき」の展覧会グッズとして販売されており、財団の活動の認知促進に寄与しています。
今回GO!PEACE!の特別コンテンツとして「LOVEファッション ー私を着がえるとき」の展覧会に、表現者として活躍するアオイヤマダさんをゲストにご招待。
キュレーターの筒井直子さんのご案内で、展覧会を巡っていただきました。
今回の展覧会は
Chapter.1 自然にかえりたい
Chapter.2 きれいになりたい
Chapter.3 ありのままでいたい
Chapter.4 自由になりたい
Chapter.5 我を忘れたい
の5つの章で構成されており、アオイヤマダが考えるこれらの5つの欲望に関するお考えについてもお伺いしました。
アオイヤマダ @aoiyamada0624
ダンサー/俳優。
東京2020オリンピック閉会式ソロパフォーマンス、ダムタイプ『2020』パフォーマンス、Netflixドラマ『First Love初恋』やヴィム・ヴェンダース 作品『PERFECT DAYS』に俳優としての出演や、宇多田ヒカル「何色でもない花」のMVを振付。
NHK『ドキュメント72時間』のナレーションなどに携わるなど、身体と声で活動を広げている。
ポエトリーダンスユニット アオイツキ、生き様パフォーマンス集団『東京QQQ』としても活動中。
日々、夫にお弁当を作っている。
筒井直子(つつい なおこ)
キュレーター
公益財団法人京都服飾文化研究財団
公益財団法人京都服飾文化研究財団(以下KCI)は、西洋の服飾やそれに関わる文献資料を収集・保存し、調査・研究する機関として、1978年に株式会社ワコールの支援を受けて設立された。
18世紀から現代までの衣装など服飾資料を約13,000点、文献資料を約20,000点収蔵。
それらを多角的に調査・研究し、その結果を国内外での展覧会を通じて公開している。
アオイヤマダと観た、LOVEファッション展 ー私を着がえるとき
Chapter.1 自然にかえりたい
筒井:今回の展覧会は服を着る人や創る人の愛情や情熱がテーマになっています。
その愛情や情熱を「ラブ」という言葉に託して、ラブファッションと展覧会名をつけました。
展覧会は全5章で構成していて、第1章は“自然にかえりたい”というテーマになります。
筒井:KCIが収蔵している18世紀から現代までの花柄にまつわるものをここに展示しているんですが、古いものですと18世紀の宮廷衣装の中に見られる花柄があります。
全部絹糸で作られていて、女性用のドレスはすごく精巧な織り柄で表現されています。
アオイヤマダ:すごいですね。男性の服も花柄が多いんですね。そしてどれも、当時のものですよね?
KCIがモデルになった小説「クローゼット」(著者:千早茜(ちはや あかね)2018年出版)を読んだのですが、その保管の方法がすごくって。
温度も湿度も一定にして保管していると知りました。
筒井:そうです。繊維の保存によいとされる温度20℃、湿度50%の環境を保って保存しています。
なので、ここの展覧会の会場も実はそれに近づけるような温湿度になっています。
アオイヤマダ:ここにある洋服は、みんな外に久しぶりに出てきたんですね。
筒井:こちらの靴は花柄の刺しゅうの靴です。
フェリシモさんでこの靴のポーチを作っていただき、今回の展覧会グッズになってます。
アオイヤマダ:1830年って、すごい。もうすぐ200年が経とうとしているんですね。
筒井:そうですね。
私たちは花に囲まれて暮らしたいとか、花柄を着て安らぎたいという気持ちを長い歴史の中で度々持って生きてきました。
アオイヤマダ:これは、当時本当に咲いてたお花なんですか?
筒井:様式が色々と変わるタイミングがあり、例えばアジア風なテイストが欧州へ入ると、それを図案化してみることもあったので、実在した花かどうかはわからないんです。
アオイヤマダ:和装の着物展へ行った時は、アジアの花、日本の花、中国の花、ヨーロッパの花とで全然柄が違っていて。
現代は何でも取り入れられるから混在していることが多いですが、こういう時代のものって面白いです。
筒井:面白いですよね。現代にはみられない花柄の表現があったりして、みとれてしまいます。
アオイヤマダ:本当に、どれもきれい。
アオイヤマダ:これが男性用の服ですね。男性の方が実は刺しゅうが多かったと本で読みました。
筒井:そうなんです。これは男性用のベストで「ウエストコート」や「ジレ」とも言います。
刺しゅうによって描かれる人物や風景にストーリーがあって面白い作品もあります。
筒井:“自然にかえりたい”のセクションでは、素材として毛皮を挙げています。
昔はリアルなものを使うことに抵抗がありませんでしたが、最近ではエコロジーの観点からフェイクファーやエコファーが使われるようになっています。
こちらはマルタン・マルジェラの作品ですけれども、ワンピースに髪の毛をプリントして毛を表現しています。
筒井:こちらの映像は、ジャンポール・ゴルチェのショーなんですけど、毛皮使用反対のプロテストをする人がランウェイに飛び出してくる映像です。
この頃はこういった抗議運動がすごく激しかった時で、他のショーでも卵を投げつけられたりすることもありました。
筒井:これらは19世紀末から20世紀前半にかけての帽子ですが、珍しい鳥の羽根を飾ることが大流行しました。
珍しければ珍しいほどおしゃれと認められたので、頭が付いた鳥の剥製が使われていたりもします。
アオイヤマダ:本当に今じゃできない。
でもとても素敵な帽子で、着ることに対してちゃんと責任を持っている感じもします。命を纏うっていうことに対して。
筒井:1匹の鳥のように見えますけれど、いろんな鳥を掛け合わせて1匹に仕立てているんです。
珍しいものを飾ることは昔の時代から好まれた装飾でした。
アオイヤマダが “自然にかえりたい” と思うとき
私はほぼ毎朝、一時間程散歩をします。何も持たず、ただ花と木を見ながら。
そして太陽で身体が温まる。あぁ、自然の力は偉大だと、改めて実感します。
昨日まであの木で揺れていた葉っぱが、今朝はない、どこかへ行ってしまっていて、歩いていると、足元で落ち葉が模様のようになっている。
落ちて出会えた落ち葉たち。風の揺らぎに身を任せ、出会い、別れ、土に還っていく。
私もあの葉っぱのように生きたいなと、毎朝思います。
Chapter2. きれいになりたい
筒井:第2章では「形」がテーマになっています。
私たちはからだを加工して美しいからだになりたいとずっと思い続けてきました。
それは下着、ダイエット、写真の加工技術などですが、いかに美しく見せるか常に気を配ってきた歴史があります。
1860年代ですと、円すい型のスカートの膨らみ、1880年代ぐらいですと、お尻の部分をことさらに強調する時代でした。
アオイヤマダ:結構立体的で、からだがきれいに見えますね。
筒井:コルセットがこちらにありますけど、ウエストが細いのはもちろん、胸を上に押し上げてウエストの余った肉を下に押し下げて、からだのメリハリが強調されています。
19世紀は上流階級も下層階級の人もコルセットをつけていました。
筒井:こちらは、シルヴィ・フルーリーの「フィッティング・ルーム」という作品です。洋服を試着する時のワクワク感とか。きれいになりたいって思う時の変身の場所ですね。
アオイヤマダ:確かにこれ見ただけで、着がえる手前の感情がわっと蘇ってきますね。不思議。面白いです。
筒井:こちらは1997年のコム・デ・ギャルソンです。このコレクションでは伝統的な身体美とは違った提案することによって、本当に美しいからだって何なの?ということを私たちに問いかけました。
生地が2重になっていてその中にパッドを押し込めて着用します。
外すこともできて、自分の好きな場所を膨らませることができる構造になってます。
アオイヤマダ:転んでも安全で、頭が守れそう。もしその様な本能が強かったら、この様な形が美と捉えられそうですね。
こんなにいびつだけれども、すごくきれい。いびつさが違う造形になって、彫刻的な美しさがありますね。
いかにふだん美に対して、思考が固まっているのかがすごいわかります。
素敵です。
筒井:アーティストの澤田知子さんの「ID400」という作品で、メイク・髪型・服装・表情を変えて400人の自分を表現しています。違う自分になることと共に、400人いても中身は1人の自分だっていうことの裏返しでもあります。
アオイヤマダ:私もふだん撮影でヘアメイクや着替えを終えて鏡を見たとき、毎回全然違う自分なので、ちゃんとこうやって撮っとけばよかった。本当にヘアメイクと洋服の力ってすごいなと、いつも思います。
でも、逆に変わらないものも目立ってきますよね。毎日、ここだけは変われないという部分が。
アオイヤマダが “きれいになりたい” と思うとき
ある旅人の友人が言った。
「豊かな皺と、そうでない皺がある。」
彼女が見せてくれた世界中の女性達と木の写真。
木にも、女性にも、沢山の皺が刻まれていたが、豊かな皺というのは、美しかった。
その旅人の彼女にあってから、私にとっての”きれい”の概念がぶち壊された。
私も豊かな皺を刻みたい。
Chapter.3 ありのままでいたい
筒井:第3章は「ありのままのからだをどう肯定していくか」がテーマになっています。
下着ルックを中心に扱っていて、例えばこの2着のピンクの下着は左が1920年代のもので右が1990年代のプラダです。
筒井:こちらはネンシ・ドジョカの作品で最近注目されているデザイナーさんです。
ふくよかな人でも、痩せている人でも合うようにこの服を設計しています。
アオイヤマダ:ということは、どんなからだ形の人が着てもきれいに着られるんですか?
からだ形が違う友だちと買い物に行って、同じもの見れたらすごくうれしい。
交換とか、プレゼントにもしやすいですね。
筒井:そうですよね、今のボディポジティブ、ボディニュートラルという時代背景にすごくマッチするデザイナーさんです。
筒井:こちらはヘルムート・ラングの2000年代初頭の作品になっています。
彼もニュートラルなからだに似合う服を提案した人で、性別・年齢に関わらないアイテムをたくさん発表して注目を浴びました。
アオイヤマダ:そういえば私、中学生の時にお父さんからトレーナーをもらったんですが、どうしてもブカブカすぎてどうしようかって思ったあげく、こういう形に切ったんです。
こんな風にシャラシャラにして着てたのを今思い出しました。
私が中学生でやっていたこと、ヘルムート・ラングさんといっしょであれば、合ってました。
からだになじむ感じでした。また真似しようかな。
これはどうやって着るんですか?
筒井:首にかけて、ちょっとアクセサリーっぽい感じですね。
Tシャツから切り出したような形で、コーディネートに1つ入れるだけでグンとおしゃれになるアイテムです。
アオイヤマダ:かわいいし、格好いいです。
アオイヤマダが “ありのままでいたい” と思うとき
生きていると、考え方、容姿、癖、苦手なこと、どうしても周りと合わせられないことが出てくると思います。
私もそういうことが沢山ありました。
どうして自分はいつもこうなんだろう。そうやって悩む時もありましたが、よく考えてみれば、みんな人生初めまして。
なわけで、答えなんてないんだと思った。
全てできることが良いとは限らないし、自分自身の良いところを見つけてあげる。
自分自身が親友だとおもって接してあげることが大切だと思います。
落ち込んだ時には、そうやって自分に声をかけています。
Chapter4. 自由になりたい
筒井:第4章はコム・デ・ギャルソンと『オーランドー』という小説がテーマになっています。
オーランドーは1928年にバージニア・ウルフという女流作家が書いたものです。
主人公のオーランドーは16世紀に生きた貴族の男性で、トルコに赴任した時に自分が女性になっていることに気がついて、300年間、女性として生きるという荒唐無稽なお話になっています。
その中で自己との葛藤、家父長制の問題など抑圧されているさまざまなことを経験しながら物語が展開していきます。
その小説が2019年にウィーン国立歌劇場でオペラになりました。
スクリーンで投影されているのがその様子ですが、その舞台衣装をコム・デ・ギャルソンの川久保玲さんがデザインしています。
同シーズンのコム・デ・ギャルソンのテーマもオーランドーに設定されていて、特にこのメンズがジャンパースカートを履いていたりパールのネックレスをしていたりと、性の越境をオーランドーと重ねてデザインされました。
アオイヤマダ:洋服だけ見ても、本当に性別がわからないですね。
アオイヤマダが “自由になりたい” と思うとき
ちょっと違う話になりますが、
私達が普段目で見ている事や物は、かつて誰かが空想し、想像し、創造したものだと、私の相方が教えてくれました。
だから、本当に”自由になりたい”と思うときは心を解放させないと、なかなか自由になれません。
外の世界に自由を求めても、自身の”自由”には辿り着けないのだと思いました。
私は寝るところにも、食べるものにも困っていないのに、どうして気持ちが苦しくなる時があるのだろうと悩んでいた時、そんな風に心の”自由”というものを考えてました。
Chapter.5 我を忘れたい
筒井:最後の第5章は非日常的な装い、あるいは自分とは別の何か、誰かになりたいという欲望に着目しています。
アオイヤマダ:すっごくキラキラ。
筒井:クリスタルガラスを使ったソマルタの作品です。
これと同じタイプのものをレディー・ガガが着てパフォーマンスをしていました。
アオイヤマダ:こっちは細胞みたいですね。
筒井:こちらは透明樹脂で作られたヤドカリのおうちで、世界各国の都市を模した透明の「宿」です。
AKI INOMATAというアーティストの作品です。
アオイヤマダ:うわあ。すごいかわいくてきれい。
あ、これが東京。東京ってすぐにわかりますね。
都庁もあるし、東京タワーもあって、あとはこの密集感がとても東京っぽい。新宿の特徴がでている気がします。
筒井:この章では何か別のものになる、あるいは何かに身体が乗っ取られるということもテーマになっていますので、こういった人を超越したようなものもいくつか展示してます。
その中の1つである、岡崎龍之祐(おかざき りゅうのすけ)の作品です。
アオイヤマダ:東京2020日本フェスティバル「わっさい」で岡崎さんの洋服を着させてもらったのですが、そのときに洋服を作っているというより、美術品を作っているとおっしゃっていて。
本当にこの章は全部服というより、美術作品ですね。鎧みたい。
アオイヤマダが “我を忘れたい” と思うとき
私は、パフォーマンスしている時間が一番我を忘れられます。
地位やお金や時間を置いて、浮遊する魂の粒子として存在できる瞬間です。
また、お芝居も、自分ではない何者かになれます。
この時間も、我を忘れられる時間です。
ただ、忘れる=思い出す、帰ることができるというのも魅力の一つだと思います。
アオイヤマダから展覧会へのメッセージ
ファッションは、時代と密接にあるものだと思います。
流行ではなく、歴史の一部であるファッションを目で観てほしいです。
また、この様な貴重な資料やお衣装を観ることができる環境、学芸員さん、補修士さんたちには頭があがりません。
ありがとうございました。
Styling:アオイヤマダ
Hair&Make:TORI
Photo:斎藤弥里
Item:トップス/MEDE19F、その他/アオイヤマダ私物
【展示会情報】
熊本会場=熊本市現代美術館
2024年12月21日(土)~2025年3月2日(日)
東京会場=東京オペラシティ アートギャラリー
2025年4月16日(水)~6月22日(日)
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