先日友人から、「母の手芸用品使わない?」と味のある裁縫箱が届きました。「使っていたままで申し訳ないんだけど」と聞いていたとおり、開けると使いかけの糸や針、ハサミや道具がぎっしり。ひとつひとつ取り出してみると、長い間少しずつ使っていたらしき古い紙の糸巻きたちが出てきました。その中に金亀糸業の糸巻きを発見。「お母さんもこれ使ってたんだ~!」と私はうれしくなりました。

金亀糸業さんは創業明治26年(創業129年)の老舗糸メーカーです。私は今年で手芸歴25年になるのですが、今から10年くらい前にひょんなご縁で金亀糸業さんで商品企画のお仕事をしていた時期がありました。金亀さんは絹糸、綿糸、合繊糸から海外のミシン糸や刺しゅう糸など、それはもう多種多様な糸をお取り扱いされていて、それまで「糸は糸である」くらいにしか思ったことのなかった私の縫い糸に対する認識を大きく変えてくれました。
私が金亀糸業さんで驚いたことのひとつが、金亀さんの糸は使い終わると糸巻きにメッセージが出てくるということでした。これは隆盛期に当時の部長さんが発案されたそうで、「心のともしび」と題して41種類ものメッセージが隠されているというのです。『他人がしたら腹を立てる様な事を、自分は平気でやって居ます 静かに反省してみませう』『大切なことを忘れるのはむだなことに心を使いすぎるからです』少し古めかしい言葉遣いと、ちょっぴり手厳しい戒めのような、しかしどこかユーモアを含んだたくさんの言葉を糸巻きに印字しようだなんて、こんな楽しいことを思いついて実行されるとは、なんとおもしろい会社でしょう。和裁や洋裁がまだ当たり前だった昭和のころ、お母さんや職人さんたちが、使い終わった糸巻きを見てププッと笑ったりウンウンとうなずいたり、「こんなの出てきたよ」と誰かと楽しく話す様子などを想像し、「金亀さん、いいなあ……」と私はひとり心の中で盛り上がっていました。

それ以来、私は金亀さんの糸のファンで、特にあっぱれ亀(扇子をもった亀)のイラストが描かれた30番手の「つよい糸」という少し太めの綿糸を愛用しています。パッチワークなどシーチング生地の縫製にはメトラーの50番糸をよく使うのですが、ちょっとした繕いものや縫製をするときには若干細いと感じることもあり、そんな時「つよい糸」の太さに「やっぱりこれだな」とホッと安心するのです。私の浅かった手芸知識の底上げをしてくれた金亀さんでの貴重な日々など個人的な思い出も加味されて、なんだかもう勝手に遠い親戚のような気分で使っているのです。

「ボタンを付けたり繕いものをするのに使う糸は20㎝ほどかもしれない。でもその糸を使う心遣いが人と人を結びつけるとしたら、細い糸がもたらす価値は深く豊かなものである」これは私が金亀さんで出会った言葉です。友人のお母さんから譲り受けた糸たちを前に、そのバトンを受け継いで最後まで大切に使っていこうと思いを新たにしている今日このごろです。

ユキンコ
『クチュリエの種』創刊時から作品を担当。娘の成長とともに自分の時間も増えてきました。 「ユキンコの自遊きままな暮らしの手づくり」の連載もしています。ぜひ、お楽しみくださいね。
instagram:@yukinko_no_kurashi
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