みなさん、アーミッシュという言葉は聞いたことがありますか? 今から250年ほど前、ヨーロッパからアメリカへ移住してきたキリスト教の一派で、共同体を形成して基本的には自給自足をしながら、質素で簡素な生活を大切にしています。今回はそんなアーミッシュのコミュニティに長年受け継がれてきた美しい伝統工芸品であるアーミッシュキルトをひと目見ようと、ペンシルベニア州に赴き、たくさんのキルトショップを訪れてきましたので、みなさんにもその魅力をおすそわけしたいと思います!
州都のフィラデルフィア市から電車で1時間ほどで、ランカスター郡に到着。のどかなとうもろこし畑が広がるエリアに、全米最大級のアーミッシュのコミュニティがあります。多くの魅力を宿すアーミッシュの生活の特徴に、馬車での移動や最小限の電気の使用、控えめな色調の服装などが挙げられますが、彼らの生活様式の美しさが最も際立つもののひとつとして、アーミッシュキルトが挙げられます。
その日は、アーミッシュの生活を垣間見るツアーに参加することにしたのですが、電化製品の大半を排除した質素な生活は、一見不便そうに思えるものの、そこで生きる人々の笑顔からはそんなことは微塵も感じられません。旅行中であってもつい仕事のメールを頻繁にチェックしてしまう僕ですが、せめて今日だけは、とスマホの電源を消すことにしました。
ガイドさんの紹介で立ち寄ったお土産屋さんで、早速お目当てのアーミッシュキルトを発見。まず最初に感じたのが、そのデザインのシンプルさ。19世紀にアメリカ全土で起きたパッチワークキルトブームの後、派手なデザインのキルトが人気を博すようになっても、アーミッシュキルトは「ゲラーセンハイト」と呼ばれる、謙虚・簡素であることを大切にするアーミッシュ独自の価値観を反映し、配色は3~4色程度に限定。かつ伝統的な幾何学模様のデザインから大きく逸脱するものはほとんどありません。
とはいえ、さまざまなキルトショップで何百もの作品を鑑賞する中で気付いたのは、アーミッシュとひとくちに言っても無数のグループがあり、それぞれが異なる価値観をもっていること。「アーミッシュキルト」というひとつのジャンルの中でも、各キルターが個性を出して作品を作っていて、たとえ似たデザインでも手に取った時の感触が異なる点はおもしろいなと思いました。
また、デザインもさることながら、僕がアーミッシュキルトからみなさんに感じてもらいたいのは、それぞれの作品からにじみ出る「あたたかさ」。アーミッシュキルトは単に美しい工芸品というだけでなく、今でもコミュニティの絆やコミュニケーションのツールとしての役割を果たしているとのこと。「キルティングビー」と言われるそうですが、友だちが集まって共にキルトを作り、その過程でたくさんの会話や交流が生まれる。キルトはアーミッシュの人たちにとって、生活雑貨を作る手段というだけでなく、人々の絆を深める手段として存在しているということですね。この話を聞いたときに、「あぁ、やっぱり手芸のもつあたたかさって、こういった人と人とのつながりから生まれるものなんだな」と改めて感じました。
最近のキルトの展覧会では、写真かとみまがうほどに、人物や動物を精巧に描き出した芸術的な作品も多く、その作家の技術力の高さと情熱に感動することもしばしば。それは素晴らしいことなのですが、このアーミッシュキルトのような、人間同士のふれ合いの中で生まれてきた作品にこそ、キルト本来のあたたかみを感じるのは自然なことなのかもしれませんね。
この日僕が訪問したキルトショップの中でも「Log Cabin Quilt Shop」は、伝統的なセンターダイヤモンド形などを中心に、ダイヤモンドの形が配置されたキルトはもちろん、立体的なデザインのものや裏地を凝ったものなど、アーミッシュキルトの過去から現在まですべてを網羅。何時間いても決して飽きることはないオススメのお店でした。
みなさんもぜひランカスターまで足を運び、アーミッシュの簡素な生活哲学、コミュニティの絆や歴史、信仰が深く刻まれているこの美しい手芸文化を、現地で味わっていただけたらと思います!
池澤 崇
「好きなこと以外はやらない」というポリシーのもと、自由の国アメリカ・NYで日本文化スペースRESOBOXを運営中。趣味は登山と居合道とバイオリン。NYに住む日本男児3人でポッドキャスト「オールナイトニューヨーク」も配信中。ぜひ聴いてみてください。
関連記事
最近読んだ記事
手芸(ハンドメイド)したくなったら、
クチュリエショップへ
ショッピング
おすすめコンテンツ
手芸・手づくりキット、ハンドメイド雑貨のお買い物はこちら