ガラス玉まち針の魅力を探る

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手づくりをするうえで欠かせないまち針。
このまち針を手づくりの主役に!とがんばる、広島県のまち針メーカーを訪ねました。

豊かな自然に恵まれた瀬戸内海に面した町、広島県呉市。森川製針は創業から75年、ここ呉市でまち針を作り続ける会社で、なかでも人気なのが頭部がガラス製のガラス玉まち針。プラスティック樹脂よりも耐熱性にすぐれ、アイロンをかけても溶けないのが特徴です。

現在、日本国内でガラス玉のまち針を作る会社は、数社しかないそう。ガラス玉まち針は専用の機械で作られ、熱をともなうので作業部屋はむせ返る暑さです。色とりどりに色づいたガラス棒をいったん溶かし、鋼の針に溶着しながらガシャンガシャンと輪転していく様子は、一般ではなかなかお目にかかれない光景。

1000℃超で溶けたガラスの色は、夕方のたそがれ時に見る濃い夕焼けのようでとても情緒があります。だんだんと冷えていくにつれて、ガラス玉はもとの色を取り戻し、こうして1日1台あたり4万本もの量が作られるのです。

ここで作業するのは、2代目社長であり職人でもある泰博さん。先代の仕事を受け継いでから35年以上経っても、いまだに「一人前ではない。発見することがある」と言います。機械の振動やずれ、エアコンの風向きや風量が炎のゆらぎに響いてしまうそう。「今日は調子がいいなぁ」なんて言いながらも、機械を見守る目はまさに職人の目。職人技が光るのが玉の大きさの調節で、感覚的に火の質、速度、ガラスの量をわずかに調節しているそうで、機械に目盛りがあるわけではなく、長年の経験だというから驚きです。

その職人技から生み出された、2色の色遣いがなんともかわいらしいガラス玉まち針があります。2色が溶け合って美しい球体を作り、光に透かしてみればそれは、幻想的な海にも、空にも、花にも、宇宙をも彷彿とさせます。もともとは海外からの旅行客向けに作ったそうですが、昨今は国内でも贈答用や観賞用として人気が高まっています。カラーの豊富さで、デザイナーや手芸作家さんからのオーダーも受けており、気づけば100通り以上も作ったとか。

泰博さんの息子の翔平さんは、6年前にUターンして現在は森川製針のPRや企画を担当しています。そして、「手づくりでまち針が主役になれないか」の問いに果敢に挑戦を続けています。その試行錯誤の中で生まれたのが自社ブランド「TUKUMO」のまち針ストリングアートです。

「刺す・貼る・糸をかける」動作で完成する「まち針ストリングアート」

まち針を主役にしたアート作品で、経験や年齢を問わずに楽しむことができるクラフトです。きっかけは、「姉の結婚式で母がまち針をたくさん使ってアート作品を作ったんです。ゲストがそれをすごくほめてくれて。こんなに反響があるし、これならまち針が主役になれるんじゃないか!」と閃いた翔平さん。まち針の存在が「仮止めするもの」から、「見ていて楽しい」「使って楽しい」になってくれたらと、アイデアを生み出すその原動力は、長年製造してきたガラスのまち針の魅力を数多くの方に知ってもらいたい、という強い使命感からなのです。「TUKUMO」というブランドを立ち上げ、従来のまち針のパッケージデザインもわかりやすく改良しました。

現在、「TUKUMO」の取り組みがテレビで取りあげられるなど、その活動は確実に成果をあげつつあります。その翔平さんの活躍ぶりを父、泰博さんは、職人としては「まだまだよ」と言いながらも、見守るその目はうれしさとやさしさに満ちています。老舗に生まれた、父と息子の今後の活躍がますます楽しみです。

(有)森川製針
森川 泰博 さん、 翔平さん

1947年創業。広島県の地場産業でもある手芸用の針メーカーとして、製造・卸販売・OEMなどを手がける。泰博さんが代表取締役で2代目社長、長男の翔平さんがブランディング企画を担当。

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