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「あのさ、生地にふれないで一日過ごしてみることってできると思う?」とつぶやく僕。あーうちの社長、また突拍子のないことを言ってるなという様子の部下……うちのオフィスでよく見られる光景です。こんな会話が生まれたのも、テキスタイルアーティスト、Victoria Manganielloさんとの出会いがきっかけでした。日常に欠かせない生地をさまざまなジャンルのコンテンツと組み合わせるヴィクトリアさんの視点が、僕にはあまりにも衝撃的だったのです。 今日はそんなヴィクトリアさんをご紹介したいと思います。
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昨年12月、 NY・ブルックリンで僕が携わった、着物生地のおひろめ会。このイベントの目的は、世界中からNYに集まってきたたくさんのアーティストに京都の職人が作った最高級の生地をさわってもらい、コラボレーションの機会を探ることだったのですが、僕が招待したえりすぐりの作家の中でも、特に異彩を放っていたのがヴィクトリアさん。
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彼女は、大学卒業後、世界中のテキスタイルの歴史や素材を深く研究し、作品を発表するやいなや注目を浴びました。2019年には30歳以下のすぐれた人材を特集したForbes誌「30 under 30」のART & STYLE部門に選出されただけでなく、世界トップクラスの美大であるNYUやParsonsで講義を担当するなど、教育者としてもひっぱりだこの新進気鋭の若手アーティストなのです。
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彼女の作品の根底にある考え方は、テキスタイルって誰もが日々直接ふれるものなのだから、これをコミュニュケーションのハブにすることで、さまざまな社会問題を解決していくことができるんじゃないの? ということ。この取材の最中にも「今、ちょっとまわりを見渡してみて。生地がまったく使われていないものってある?」こんな風にヴィクトリアさんは僕に問いかけるのです。
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この記事を読んでくださっているみなさんにもやってみてもらいたいのですが、見慣れている自分の部屋、持ち物、街や友人など……身近な生活のありとあらゆるシーンを生地の存在にフォーカスしながら見渡してみると、世界の見え方が違ってきませんか?
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作品制作にあたり、自らの手で生地にふれ続けることが何よりも大切というヴィクトリアさん。彼女は紡ぐ、織る、染めるといったさまざまな技法で素材から生地を作り出し、生地が関わるすべてのものが僕らの生活にどのような影響をもたらしているのかを日々考え続けているそうです。
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そんな彼女の思考を反映したアブストラクトな作品は、一見むずかしそうだなぁと感じるかもしれませんが、同時にアートに興味がなくてもスッと入り込めるプロジェクトも多く手がけています。例えば食器をほぼ使わず、テーブルに敷いた布に料理を直接並べる食事会を開催し、布に付いた野菜や果物の「食材の色」を通して気づきを与えてくれるアートプロジェクト「Mordant」。
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この食事会の動画が彼女のホームページに載っているのでぜひご覧いただければと思うのですが、これを見たら「こんな色のものを僕らはいつも口にしていたんだ」、「いつも何気なく口に入れている料理が、一旦お皿の外にあふれてしまうと一転、僕らは汚いものとしてふき取ってしまうのはなぜだろう?」などいろんな感情がわいてくると思います。布と食材の色を通した体験から、日々当たり前のように接している食材や食文化について考えるきっかけにもなるプロジェクトです。
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そのほかにも、プログラミングなど最新のテクノロジーを使いながら、電化製品と生地との関係やモノづくりの根底にある考え方を模索するワークショップ「ETextile」や、世界中のテキスタイルに関わる女性を特集したドキュメンタリー「Woman Interwoven」など現在進行中のプロジェクトがたくさんあって、テキスタイル好きにはもうたまらない、いや、注目しない方がおかしいとまで言い切りたい、池澤イチオシのアーティスト、ヴィクトリアさん。
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テキスタイルの話題になると際限なく話し続ける彼女ですが、 その口からは日本の伝統技法の型染、藍染、絣といった単語もポンポン飛び出し、日本の職人と会っていろいろと学びたいと言うのですから、なんだかうれしいですね。彼女が日本で活躍する日も近いかもしれません。
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Victoria Manganiello
www.victoriamanganiello.com
Instagram: @victoriamanganiello
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池澤 崇
「好きなこと以外はやらない」というポリシーのもと、自由の国アメリカ・NYで日本文化スペースRESOBOXを運営中。趣味は登山と居合道とバイオリン。NYに住む日本男児3人でポッドキャスト「オールナイトニューヨーク」も配信中。ぜひ聴いてみてください。https://www.resobox.com/
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