
ユニークなモチーフ選びと、個性的な色遣いが魅力で人気のニット作家 山下 ひとなつさん。もともとは「編み物が苦手だった」という山下さんが、いかにして編み物に魅了されたのか、そしてその独特の感性はどのように培われたのか、たっぷりお話をうかがいました。
“いたずら”から始まった数奇なる編み物人生

「もう必死に片づけましたよ~!」と言いながら、自宅の一角に設けたアトリエに招き入れてくださった山下ひとなつさん。大きく「AMIMONO GA SUKI」とプリントされたオリジナルTシャツを着て、出迎えてくださいました。

山下さんが最初に編み物にふれたのは10歳のころ。レース編みの先生だったおばあさまにすすめられて、夏休みの宿題にパイナップルレースに挑戦しました。ところが、「すごく細いかぎ針と糸で編むから、ぜんぜん進まなくて。挫折しました」。中学・高校時代に家庭科で再び編み針を手にするも、ミトンの親指の付け方を間違えて「何回編んでも両方左」になってしまったそう。それなのに、なぜニット作家に……?という疑問をぶつけてみたところ、「最初は、友だちへのいたずらだったんです」という意外な答えが返ってきました。

美術館で働いていた山下さんは、友だちの誕生日に、そのとき展示していたモアイ像の形のポシェットを作ろうと思い立ちます。フェルトなどの素材を試すもののうまくいかず、「立体なら編み物だ!と思って、編んで贈ったんですよ。そしたら、すごく喜ばれちゃって」。

それから誰かの誕生日のたびに、「いつもおしゃれで高級な服を着てる友だちには、かわいいけど毛が抜ける毛足の長い犬ポシェット。おでんが嫌いな友だちには、大根おでんの小物入れ」などを編んでプレゼントするように。特におでんは超大作だったそうで、「立体にするためにラフを描いて、編み目を計算して、わからないところは技術本を読んで」ひたすら勉強。

ただただ「友だちを驚かせたい」という一念で編みまくるうち、スキルがどんどん上達し、海外のECサイトで作品を販売するまでになったと言います。そのうちにギャラリーなどから展示の話が来るようになり、いつの間にか編み物作家に。パイナップルレースの挫折からは考えられない未来が待っていました。
「好きとか欲しいとか」、執念(笑)を編み込みで表現

動物や食べものなど、さまざまなモチーフの編み込みが作品の特徴。デザインソースになるのは「身近なもの」だと言います。「お店で見たアメリカンチェリーのケーキが、すごく高かったんですよ。ひと切れ900円とかで。たっかー!って言いながら編みました」。ほかにも、近所の犬、水族館で見たアシカ、暑い日の冷奴など、「かわいーとか、きれいだなーとか、食べたい!とか。執念(笑)ですよね、好きとか欲しいとか、そういう気持ち」を編み込みで表現。そして何より、友だちにいたずらを仕掛けていた時代と同じく「編んだものを、誰かにおもしろいって言われたい」という思いが原動力になっているそうです。

個性的なモチーフはもちろん、ドット絵のような雰囲気や色遣いに、どこかレトロ感がただようのも魅力。ところがご本人は、「ぜんぜん意識してないんですよ」とのこと。むしろ、レトロと言われることに違和感すらあったそうです。「でも、最近わかったんですよ。私、昭和の生まれなんですけど、昭和レトロが最新なんです。今っぽいものを作ってるつもりでも、自分の中の最新が昭和だから、結果レトロになるんだと思う。根底にある好きなものからは、逃れられないですね」。
誰でも最初は初心者! 失敗してもあきらめない

山下さんは現在、作家活動だけでなく、ワークショップの講師なども担当。自分で編む以上に、生徒さんに教えることがとてもおもしろいと言います。「作り目もできなかった人が、一年後にすごいむずかしい編み図を持って『先生教えて』って来てくれたときは、『もうあなたに教えることはなにもない』ってなりますね」。教室では生徒さん同士の仲がよく、お互いに編んだ作品を見せ合ったり、作家さんの情報交換をしたり、「みんなでワイワイやってて、私のこと、ほったらかしなんですよ」。

先生として大切にしているのは、続けてもらうこと。「できないってあきらめちゃったらそこで終わりなので。失敗するのが当たり前だから、みんな最初は赤ちゃん! 誰でも最初は初心者! って言いながらやってます」。失敗したときの編み直しも、上達には欠かせないと言います。「嫌なのはわかります、私もえ~んってなるから(笑)。でも編み直すと勉強になるし、絶対に成長します」。
時間の有効活用&自分で編むとかわいい

いま山下さんが心を砕いているのが、「編み物人口を増やすこと」。編み物をはじめ手芸をする人が減少していることに対し、「こういうカルチャーがなくなってしまうのがもったいなくて、勝手に使命感を抱いてます。誰かが作ったものを買うのもいいんだけど、ものを作る基本を知らないと、大切にしなかったり、雑に扱ったりしちゃうと思うんですね。SDGsとかそんな大げさなことじゃないけど、手芸はものを大切にするひとつだと思ってます」。
編み物人口を増やすためには、次の楽しみを見つけてもらうことが大切とのこと。「編んで終わりではなくて、次は編み込みに挑戦したり、編み込みがむずかしければメリヤス刺しゅうをしてもいいし。ダーニングをしたり、ぽんぽん付けてみたり、いろいろな楽しみ方があるんです。次はこんなのもあるよ、こんなこともできるよ!っていう楽しみ方の展開を、もっと伝えていけたらいいなと思います」。

編み物を気軽に楽しむ入口として、〈まっすぐ編みクラブ〉を主宰し、部長として活動。まっすぐだけで編めるアイテムを教えるワークショップの開催や、SNSでの発信などを行っています。「目を減らしたり増やしたりするのが、ハードルが高いんですよ」という言葉は、ご自身も編み物に挫折経験があるからこそ。「必要なのは作り目・表編み・裏編み、この3つだけ。これさえできれば、あとはいろいろできますから」と言います。
山下さんご自身は、編み物のどこに魅力を感じているのでしょうか。「時間をすごく有効活用できるんですよ。SNSとかゲームも全然いいし、私もやりますけど、でも編み物は時間がつぶせる上に、完成するから成果が見えるんですよ。しかも、電源とかいらないし」。実際に山下さんはテーマパークのライドの待ち時間、真夏の炎天下で汗だくになりながら靴下を編み、約2時間で1本完成させたそうです。「それになにより、作ったらかわいいじゃないですか。すごいのできちゃった!ってなるから。今も編み上がるたびに、かわいい!!!!って500億回くらい言ってます」。

ニットデザイナー/編み物作家 山下 ひとなつさん
2014年から作家活動を本格的に開始し、ギャラリーでの展示、雑誌や書籍への編み物提供、キット監修などを中心に活動。ワークショップの開催や、編み物教室の講師も務める。著書は『た・の・し・い編み込み図案と小物(グラフィック社)』。〈まっすぐ編みクラブ〉部長。
Instagram:sun_n_summer
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