ドラマティックな染色毛糸で人気のYONY / ニューヨーク散歩

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これまでさまざまな作家さんをこの連載で紹介してきましたが、今回はそのような作家さんの創作活動を支えている毛糸の存在に着目してみようと思います。NYには染色をほどこしオリジナルの毛糸を作っている毛糸メーカーがいくつかあるのですが、今回はその中でも特に評判の高いYarn Over New York (以下、YONY) のオーナー、Jessie Ksanznakさんにインタビューをすることに。有名サーカス団のマネージャーとしても多忙な彼女からどのようなお話がうかがえるのかワクワクです。

PHOTO:Zachary Chin

僕がYONYに出会ったのは、アッパーウエストにあるクラフトショップ「Knitty City」を訪れた時。店員さんと何気ない雑談をしている時に、ふと毛糸コーナーに目を移した僕に「うちは地元のクリエイターを応援したいからNY産の糸を多く扱っているんだ」と、いくつかのブランドを紹介してくれたのです。その中でYONYの独特の色味に魅了された僕は、数分後にはYONYにコンタクトをとっていました。

NYの人気クラフトショップKnitty City。Jessieさんの糸を買うならここ。ご本人によるポップアップも定期的に開催されている。

YONYのオーナーであるJessieさんは、NYの糸作り作家として知られる一方で、NYで有名なサーカス団のステージマネージャーも務める異色の経歴を持つ人。5歳の時に母からもらったかぎ針をきっかけに編み物にはまり、サーカスの仕事で滞在していたマカオやシンガポールでも編み物コミュニティーを主催していたとのこと。サーカスの仕事で日本を訪れた時には、「オカダヤ」が彼女の定番スポットだったそうです。

そんな編み物愛好家の彼女はある日、友人から糸の染色の仕方を紹介され、その魅力に取り憑かれすぐに大ハマりしてしまったとか。自分が求める糸を作るため試行錯誤を繰り返した結果、糸で部屋が埋め尽くされるほどに。しかし捨てるのも忍びないのでSNSで「誰かもらってくれませんか?」と呼びかけたところ、予想以上の反応がありました。これを機にNYの手芸店と取り引きを始め、YONYを立ち上げることになります。その後数年してコロナ禍が到来。サーカスの公演はすべて中止となってしまいましたが、NYでは手芸に関心を持つ人が一気に増え、YONYの糸が一躍話題となります。「複雑な気持ちではあったけれど、人々が手芸に癒やしを見い出し、私の糸がその一部になれたことはうれしかった」と彼女は振り返ります。

特にエシカルに対応したペルー産のメリノウールやアルパカ、シルクを用いて、NYにあるご自身のスタジオで自らひとつひとつ手染めしているそうですが、彼女が糸作りにおいて最も大切にしているのは、「同じ質や柄を再現すること」と「完成品の色柄を予測して仕上がりをコントロールすること」。また、時に意図せずできた模様が美しい作品になることもあり、その偶然の楽しさも大事にしているそうです。

YONYで人気の糸のひとつ「ドラムライン」の染色工程

「Yarn Over New York 」というブランド名の由来を聞くと、Yarn Over(かけ目)のように、ニット、かぎ針編み、デザイン、染めといった一見分断されている編み物の分野に糸を通し、横断的につなげる存在になりたいという想いが込められているとのこと。そしてそのために特に彼女が重視しているのはお客さまとの距離感。「サーカスの仕事で昔は世界を飛び回っていたので、多くの人と接して大きなビジネスをすべきだと思った時期もありますが、コロナ禍を経て、今は私は自分の持つエネルギー、あたたかみが届く範囲の方々を大切にする、私の糸のよさを理解し、愛してくれる ローカル、パーソナルなコミュニティーを糸を通して築いていくことが大切だと気づいたんです」とJessieさんは語ります。

ドラムラインの染色工程であまれたショールを身につけるジェシーさん

YONYの糸はオンラインでも購入でき、現在オンラインイベントの企画も進行中とのこと。それでもJessieさんは「ぜひNYに来て、私のイベントに遊びに来てほしい」と言います。その言葉から、彼女が毛糸作りを通じて人とのつながりを大切にしていることが伝わってきます。興味のある方は、彼女のウェブサイトやインスタグラムをチェックして、NYを訪れる際にはぜひ彼女のイベントに参加してみてくださいね。

Knitting City

web:www.knittycitynyc.com
Instagram :@knittycity

Yarn Over New Yorak(YONY)

web:https://yarnovernewyork.com/
Instagram :@yarnovernewyork

池澤 崇

「好きなこと以外はやらない」というポリシーのもと、自由の国アメリカ・NYで日本文化スペースRESOBOXを運営中。趣味は登山と居合道とバイオリン。NYに住む日本男児3人でポッドキャスト「オールナイトニューヨーク」も配信中。ぜひ聴いてみてください。

https://www.resobox.com/

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