
常に新しいトレンドが湧きおこるニューヨーク。そんな街で今、じわじわと注目を集めているのが「さをり織り」。日本発祥のこの織物が、なぜニューヨーカーのクリエイティブな心をつかんで離さないのか。その答えを求め、スタジオ「Loop of the Loom」を訪れることに。ここでは、創設者の佐藤根 有可子(さとね ゆかこ)さんがプロアマ問わずさまざまな人種・年齢の方々に、さをり織りを通じて「自由とは何か」を問い続けています。今回は、織り機をさわったことさえない僕がクラスを体験し、さをり織りがニューヨークの人々にどのような影響を与えているのかを聞いてきました。

今で言うボヘミアンやミッドセンチュリーといったインテリアスタイルがもてはやされていた60〜70年代、装飾のためのタペストリーやモダンなテキスタイルアートが人気となり、手織り教室はニューヨークでも盛り上がりをみせていました。しかし時間とともにその熱は冷め、すべての織物教室がマンハッタンから姿を消してしまいました。そんな中、佐藤根さんが2000年に日本から持ち込んださをり織りが、この街に再び織物の火を灯すことに。

さをり織りの特徴は、織物を技術というより、自己表現の手段としてとらえていること。佐藤根さんは「創始者の城 みさをさんがおっしゃられていたように、さをり織りはスタイルではなく、哲学です。織っていくひとつひとつのプロセスを通し、自分自身と対話することが大事」と語ります。クラスではみなが「自分は何色、どんなテクスチャーが心地よいと感じるのだろうか」と自問自答しながら織り進め、この反復こそが瞑想となり、多くの人が本来の自分に気づいていくと言います。

佐藤根さんはもともとNYでデザイナーとして活躍していましたが、日本への一時帰国の際に受けたさをり織りの体験クラスがきっかけでそのとりこに。デザイナーの仕事とは異なる「正解」のない自由さと、個性が尊重される開放感に魅了され、NY・マンハッタンに「Loop of the Loom」をオープン。

クラスでは、それぞれが自由に織り、機械にはできない人間らしい不均一や無作為の美しさを発見しながら織り進めます。さをり織りの根底にある「There are no mistakes.」という考えは、多様性と好奇心旺盛なニューヨークという街にぴったり合っていると僕は感じました。

一年半ほどこのスタジオに通うエヴリンさんは「建築事務所勤務で、毎日『パーフェクト』を求められているのですが、その世界とは違う答えのない自由を求めていた私に、このさをり織りはぴったり。織り機も買ったけれど、ここの空間や人が好きで刺激を受けるから、スタジオには今後もずっと通い続けたい」と語ってくれました。彼女だけでなく、ここの多くの生徒さんが一様に「決まった型にはまらずに自由に織れるスタイルを探してここにたどり着いた」と言います。世界中にあまたある織物の技術は年々進化・複雑化していてそれは素晴らしいことですが、さをり織りのシンプルさは、逆に無限の表現の自由を提供し、織り手の感性や人間性をより作品に反映させることができるとも言えそうです。

日本とアメリカでの織物に対する姿勢の違いについて尋ねると、「日本ではつい正解を求めがちだけれど、こちらではそのようなことはない」と佐藤根さん。織りに限らず、そもそも人間の創造性に点数などつけられないのかもしれません。そうは言っても……僕も二時間の体験クラス中、「ここはやっぱり補色を入れた方がいいよな」「紫を入れると高級感が出せると習ったな」なんてつい色彩理論が頭をよぎってしまったんですけどね。でも不思議なことに、次第にそんなことはどうでもよくなってきて、しばらくすると佐藤根さんがおっしゃる「ゾーン」に入り、気づくと思うがままに織り機を動かしている自分がいました。織物は色やパターンなど視覚的な面だけでなく、手ざわりなど触感でも自分の感性を形にすることができるのがおもしろいですよね。


僕はNYで15年近くさまざまな日本文化のクラスを運営してきましたが、このスタジオでの体験から新たな学びを得ることができました。特に手芸ってついひとりの作業というイメージを持ちがちですが、このLoop of the Loomに来るとそんな考えは吹き飛びますね。異なるバックグラウンドを持つ生徒さんたちが、ふと手を休めては、お互いの作品についてワイワイと話し合う。こんな風に自分を自由にさらけ出し認め合うことができる空間は、日々あくせくと走り続けるニューヨーカーにとって、必要不可欠な心のオアシスなのでしょう。

ちなみに「ワイルドでいいね」と佐藤根さんがおっしゃった僕の作品ですが、仕事に追われ続けている日々のせわしさがにじみ出ちゃってますね。次はもっと心が落ち着いた時にスタジオに行って、大人の余裕が感じられるクールな作品を生み出したいものです。


池澤 崇
「好きなこと以外はやらない」というポリシーのもと、自由の国アメリカ・NYで日本文化スペースRESOBOXを運営中。趣味は登山と居合道とバイオリン。NYに住む日本男児3人でポッドキャスト「オールナイトニューヨーク」も配信中。ぜひ聴いてみてください。
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