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おしゃれなパリジェンヌの家やカフェ、レストランやホテルでは素敵な壁紙=ウィリアム・モリスとされていて、その繊細なボタニカル画はパリでも人気。思想家であり詩人であり、19世紀イギリスから広まったアーツ&クラフツ運動を広めたウィリアム・モリスのフランスでの初めての展示があると聞きつけて、ベルギー近くの町まで出かけてきました。
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以前、ロンドンのヴィクトリア&アルバート博物館でウィリアム・モリスのテキスタイルを見て、なんて美しくてロマンティックなんだろうと恋に落ちてからというもの、私にとってモリスの世界観は特別な存在。だからメトロでモリス展のポスターを見つけたときには、胸がドキドキ! しかも行ってみたかったラ・ピシーヌ工芸美術館での展示なのです。美術館に行く当日は、まるで遠足気分!
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まずはパリの北駅からTGV(新幹線のような特急)に乗って2時間ほどでリールへ。 リールからは路面電車に乗りかえて15分ほどで、美術館のあるルーベに到着です。美術館までの徒歩10分ほどの間にも、アールヌーボーとベルギーっぽいレンガ造りがミックスされた街並みに、ワクワクがとまりません。
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このラ・ピシーヌ工芸美術館は、19世紀以降の布地、装飾美術、彫刻、絵画、陶器などの応用美術と美術を融合させた展示をしています。私が訪れた日も、リバティなどの生地展や、ピカソや現代作家が作った陶器をまじえた展示もあり、常設展もおもしろい切り口のものばかりでした。またこの美術館は建築家アルベール・ベールが手がけ、1932年に完成した市民プールの建物がもとになっているので、今もなんと美術館の中心にプールがあるのです。
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アール・デコでしつらえられたプールの姿は圧巻。更衣室だったところのタイル装飾など隅々まで美しいので、これだけでも見に行く価値はあります。
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いざ目的のモリス展に入ると「愛と仕事をください。私はこのふたつだけでいい」という言葉が。なんてシンプルで強い言葉なのかと、私はその場から動けなくなりました。
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詩人であり、思想家であり、アーツ&クラフツ運動を広めた人でもあるモリスは、アートをデザインに、クラフトを産業へと展開。産業革命による工芸品の品質低下を危惧し、職人による手仕事の復興を目指した彼の活動は、イギリスだけでなくフランス、ドイツ、ヨーロッパ諸国、欧米、日本にまでも影響を及ぼしました。その手腕を見ていると、彼は有能なビジネスマンでもあったのだと気づかされます。
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今回の展示では「しあわせの本当の秘訣は、日々の暮らしの中にあるすべてのものに、心から関心をもつことです」というモリスの言葉にも出会い、私は心の底からこの言葉に共感しました。
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しあわせは普通の暮らしの中にある小さなものだと思って生きている私にとって、とても励みになる言葉です。
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また彼は晩年、私家版印刷工房を作り本を制作していたようで、その活版印刷の美しさにもうっとり見とれてしまいました。「書物というものはすべて『美しいもの』であるべきだ」という彼の願いのもと、美しい活字を美しい用紙に印刷し、美しい装丁で製本することで、その願いを具現化していたと説明にはあり、また心を洗われたのでした。
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彼のテキスタイルは、いうまでもなく繊細で物語を奏でているような美しさがありますが、テーブルや棚をその空間に置いてこそ、さらに美しさが際立つということが、彼の美学だったのではないかとこの展示を見て感じました。
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この展示で受け取ったモリスのスピリットや美意識を持ち帰るべく、ミュージアムショップでたくさんのカードと素敵な折りたたみ傘を買って、今回の遠足の思い出に。いつかわが家の壁にもモリスの美しい壁紙を貼ることを夢見ています。
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TAKANAKA MASAE
雑誌や広告でファッションコーディネーター&スタイリストとして活動中。
パリに住んではや20年、毎日自転車でパリの街をパトロールしています。
Instagram 移動花瓶屋さん @cabin.e.paris パリの日常 @massaetakanaka
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