手づくりがお好きな方がパリ来訪の際にぜひ訪れていただきたいのが、5区にあるクニュリー中世美術館。訪れた方もいらっしゃるかもしれませんが、ここにある『貴婦人と一角獣』のタペストリーは必見です。今回は、クニュリー中世美術館の帰りにぜひ立ち寄っていただきたい、おすすめのタペストリー専門店『Annie Bouquet』をご紹介したいと思います。
フランスの美術館やお城を訪れると、絵画のようにタペストリーが飾られているのですが、その始まりは11 世紀、十字軍が東方の産物として手織りじゅうたんを持ち込んだことでした。そのじゅうたんがあまりに美しいので足で踏むのは忍びないと壁に掛けたところ、部屋の装飾や防寒にもぴったりだったことから、タペストリーは広まっていったそう。当時の王や貴族たちは、タペストリーを丸めて別荘や旅先にも持ち運んでは壁に掛けて楽しみ、絵画以上に貴重な工芸品として大切に扱いました。1960~70年代には庶民の間でも人気を博し、今も蚤の市でそのころのタペストリーを見つけることができるんですよ。ピカソやミロ、コルビュジエなどのアーティストも制作していたと言います。
現在のタペストリーは、Canevas(カヌバ)と呼ばれる格子状の硬い生地にプリントされた絵柄に沿って刺しゅうをしていく、フランスの伝統的な手工芸のひとつだそう。生地の織り目を目印に、クロスステッチとはまた違うプチ・ポワンと呼ばれる技法で、刺しゅう糸や毛糸で刺しゅうをほどこしていくものです。
さて今回、素敵なタペストリーのお店があると友人に聞いて行ってきたのは、老舗のタペストリー専門店「Annie Bouquet」。パリのオペラ座近くにあります。タペストリーのアトリエで専門職として働いていたアニーさんがオーナーを務め、1996年のオープン以来、伝統的なタペストリー専門店を守っています。
アニーさんにお話をうかがってみると、 「お店にあるタペストリーのデザインは、アーカイブなどを含めると2000点にも及びます。そのすべてが妹と私の手で描いたもの。古いソファや椅子の修復用のタペストリーのオーダーがあると、そのためだけに型紙をひいてそこに希望の絵柄を描くんですよ。刺しゅうをほどこすのはお客さまで、半年から2年くらいかけて刺しゅうをして完成させます」とのこと。
また、このAnnie Bouquetで扱っている糸はすべてオリジナルで、フランス・アブソン地方で手染めされているとのこと。繊細な色がたくさんあるので、すべて手に入れたくなってしまい、うれしい悲鳴をあげてしまう私に、アニーさんがとても印象に残るお話をしてくれました。「息子さんが軍の仕事で亡くなって悲しみに暮れていた方が、『よいメディテーション(瞑想)になるから刺しゅうをしなさい』と精神科のお医者さんにすすめられて、私のお店にいらっしゃったんです。最初は小さな作品からスタートして、できあがれば美しさに感動する。それがまた次の作品を作る希望につながる。そうして続けているうちに悲しみは半減したと聞いて、刺しゅうすることはメディテーションの役割にもなるんだなと私自身も気づかされました。きれいな糸を何色も使って、美しい絵柄を仕上げていくことには達成感がありますよね。そしてできあがったら作品の美しさと自分の手仕事に感動をする。これは本当に素敵なお話。 刺しゅうをすすめたお医者さんは素晴らしいですよね」
このお話にいたく感動した私は、この冬の部活動と素晴らしいメディテーションワークのために、小さなキットをひとつ買って仕上げてみたくなりました。ユニコーンのデザインにしようかな? なんて考えるだけで、ワクワク楽しい毎日です。
Annie Bouquet
7 Rue des Moulins,75001 Paris
TEL:01 42 60 65 67
火〜金/10:30〜18:30 休/土・日・月
TAKANAKA MASAE
雑誌や広告でファッションコーディネーター&スタイリストとして活動中。
パリに住んではや20年、毎日自転車でパリの街をパトロールしています。
Instagram 移動花瓶屋さん @cabin.e.paris パリの日常 @massaetakanaka
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