優美なきらめきに目も心も奪われるビーズ刺しゅうの世界

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オーダメイドで洋服を仕立てるクチュリエールとして、上品な輝きを放つビーズ刺しゅうの作家として、幅広く活躍されている平井 けいこさん。美しい光が降り注ぐアトリエで、多くの人を惹きつけてやまない作品の秘密について、また日々の創作について、いろいろなお話をうかがいました。

 

シックな輝きに魅せられて

姉妹でおそろいのワンピース。大好きなぬいぐるみのお洋服。お気に入りのポシェットに入れてもらった刺しゅう……。平井けいこさんの幼少期はいつも、洋裁好きだったお母さまの作品とともに思い出されます。 「母の影響で自然と私も洋裁に興味を持つようになり、中学生のときには見よう見まねでジャンパースカートを作ったり。私は母がミシンをかけている姿を見るのがとても好きでした。高校生の冬にクリスマス柄のブラウスを縫ってもらって、ご機嫌で学校に着ていったら目立ってしまい、先生に注意されたこともありました(笑)」

 

「クマのプーさん」に登場する「イーヨー」をモチーフにした刺しゅう入りのしおりは、小学生時代の作品。

大好きなファッションを仕事にしたいという思いを胸に、短大卒業後はアメリカ留学を経てロンドンの小さなファッションスクールへ。そこでリュネビル(特殊なかぎ針を使う、フランス発祥の伝統刺しゅう)の授業を受けたことが、平井さんとビーズ刺しゅうの運命的な出会いとなりました。

「当時の日本ではビーズ刺しゅうはあまりポピュラーではなく、私自身も豪華絢爛な舞台衣装のイメージしかありませんでした。シックで繊細なリュネビルを知って、こんな世界があるんだ!と強く印象に残りました」

 

英国ではじめてリュネビルの授業を受けたときのテキスト。

留学中は基本のステッチを学んだところまでで授業は終わり、自分の作品を作るところまではいきませんでしたが、このときの感動が忘れられず、帰国後は本格的にビーズ刺しゅうの作品制作をスタート。カラーアナリスト(お客さまに似合う色を提案する仕事)や服飾系専門学校の講師などの仕事を経たのちに、2012年に自身のブランド「Kei Ferida」をスタート。現在は、オーダーメイドで洋服を仕立てるクチュリエールとして、ビーズ刺しゅう作家として、講師として、幅広く活躍しています。

 

アトリエの一角に作品を並べて。花や虫など、美しくてデザインしやすいモチーフが好みだそう。

「ビーズ刺しゅうの魅力は、やっぱり独特の輝きにあると思います。教室で、いよいよビーズをつけますよ、という段階になると、生徒さんたちの顔がぱっと明るくなるんです。私自身も、ビーズの輝きを前にすると心までうきうきと華やかになる。人って、本能的にきらめくものに惹きつけられるところがあるのかもしれませんね(笑)。かわいすぎるキラキラ感は年齢を重ねるとしっくりこなくなることもありますが、ビーズの輝きは上品なので、いくつになっても楽しめるのがいいところ。個人的には、キラキラしているけれどギラギラはしていない、シックな雰囲気が好きなので、ハレの日というよりはふだんの生活になじむデザインを心がけています」

 

ひと針ひと針に思いを込めて

上品にきらめく花々や、ニュアンスのある色遣い。繊細な平井さんのビーズ刺しゅうを眺めていると、なんとも言えない高揚感に包まれます。

「基本のテクニックはわりと限られていますし、ビーズ刺しゅうは技法によっては、必ずしもむずかしいというわけではないんです。そのぶんパーツ選びや色合わせに奥深さがあって、例えば同じビーズでも、そこに通す糸の色が変われば印象ががらりと変わってしまう。いったん刺してみて、違うなと思ったらほどいてやり直して……という作業を、今でも毎回繰り返しています」

 

自然光じゃないとビーズ本来の色が確認できないので、色選びや配置決めは明るい時間に。
ビーズや糸は、ひと目で分かるようにクリアな容器に収納。

平井さんの軸となっている、クチュリエールの仕事とビーズ刺しゅう作家としての仕事。それぞれはどう影響を与え合っているのでしょうか。

「洋服のお仕立てはお客さまのオーダーがあって成り立つものなので、完全なる職人仕事。高い技術や精神力が必要になりますし、毎回生地もパターンも初めての一回勝負です。気に入っていただけて、後日、お召しになっている写真を見せていただけたときは本当にうれしいです。対照的に、ビーズ刺しゅうの作品制作は完全に自分発信。ポーチやケースなどの小物は手もとで作業ができるし、新しいことも気軽に試せる自由さが楽しいですね。もちろんご希望をいただければ、お仕立てしたお洋服にアクセントとしてビーズ刺しゅうを入れさせていただくこともあります。どちらにせよ、デザインのアイデアが空から降ってくる……なんていう経験は皆無で(笑)、毎回四苦八苦していますが、どちらの仕事も、ひと針ひと針思いを込めて、真摯に祈るような気持ちで向き合っています」

アーティスト・森村泰昌さんの作品に衣装を提供したときのデザイン画。
お客さまや教室の生徒さんからいただいたお手紙は宝物。箱にしまって大切に保管しているそう。
絵画から創作のインスピレーションを得ることも。こちらはヴィルヘルム・ハマスホイの画集。

平井さんに監修いただいた「ビーズ刺しゅうで草花の輝きを添えるプリント済みきんちゃくの会」は、繊細で美しいビーズ刺しゅうがデコレーション感覚で楽しめる人気のキットです。

 

「いちばんこだわったのは、ビーズのセレクト。華やかだけど甘すぎず、大人に似合うシックな素材を厳選しています。『どこで買ったの?』と聞かれそうな本格的なデザインながら、図案は印刷済みにするなど、初心者の方でもトライしやすい工夫をちりばめました。きんちゃくに仕立てて持ち歩けるので、自分で作ったものを使う喜びも味わっていただけたら。少し根気のいる部分もあるかもしれませんが、無心で集中するうちに少しずつ完成に近づいていくワクワク感は刺しゅうならではの醍醐味。ぜひ、ビーズの上品なきらめきにふれながら、豊かな刺しゅうの時間を楽しんでみてくださいね」

 

ビーズ刺しゅう作家・クチュリエール
平井 けいこさん
英国の専門学校で服飾とビーズ刺しゅうを学び、ファッション関係の仕事を経て自身のブランド「KeiFerida」を立ち上げ。ひとりひとりに向き合いオーダーメイドで洋服を仕立てるクチュリエール、ビーズ刺しゅう作家、オートクチュールビーズ刺しゅう教室講師、キットの監修、アーティストへの衣装提供など幅広く活躍中。

WEB:https://keiferida.exblog.jp/

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