みなさんは何を目的にものづくりをしていますか? 「世界にひとつのものを作りたい」「技術を高めたい」「好きだから」……など、きっと理由はさまざま。僕にとっては仕事の合間の気分転換でしょうか。最近アメリカでは、脳や心を健康にするという視点で手づくりに注目が集まっているんですよ。ということで今回は、アメリカの大企業からもオファーがあるクラフト教室についてレポートしたいと思います。
僕自身も最近小さなブロックで、手のひらサイズのペンギンを作ったのですが、数時間ほどで完成すると思わず笑顔に。ちょっとした達成感に心が満たされました。
そんなふうに手づくりがもたらす心への影響に着目したクラフト教室を、NYのソーホーを拠点に展開する女性がいます。世界最大級のDIYファッション&編み物コミュニティー「Burda Style」の共同創業者として活躍した経験を持つ起業家のノラ・アブステイトさんです(以下ノラさん)。実際に手を動かす場を運営したいという思いから、彼女は3社目の起業となるクラフト教室「CraftJam」を2017年に創業。対面とオンラインの両方を活用し、編みものや刺しゅうなど、バラエティーに富んだクラスを提供しています。
彼女は「手づくりが脳や心を健康にする」と明言しており、目指すゴールは、手づくりに対する人々の考え方を、「趣味や特技として特定の人が行うもの」ではなく、「人間の健康にとって必要不可欠なもの」に変えること。
そんな彼女が手づくりのもつ心理的作用に着目したきっかけはコロナでした。オンラインのクラスを始めたところ、多くの受講者から「孤独感が和らぎリラックスできた」「ストレスを軽減できた」と、喜びの声が寄せられたそう。そこで「ものづくりが人体に及ぼす科学的な影響」について興味を持ち、論文や書籍を読んで研究し始めたと言います。中でも注目したのが、ヒーリングアートの国際的な第一人者であるキャシー・マルキオディ博士の提唱。博士は神経科学者のケリー・ランバート氏の、足や背中など人体の部位の中で、手を動かした時に問題解決や判断力を司どる前頭葉が最も活発になり、うつ病の症状をある程度改善するという発見を受け、特に手を使って形ある物を生み出す「ものづくり」は、精神的な充実感を高め、憂うつな気分を追い払うと発表しています。
「このメカニズムを分かりやすく構築し、受講者に届けたい」。ノラさんは臨床心理学者のダニエル・ラモ博士の協力を得て、手づくりのクラスが心身に与える「5つの要素」を言語化し、CraftJamの柱にしました。5つの要素とは、①今の自身と向き合う「マインドフルネス」 ②最後までやり遂げる「目的意識」 ③孤独を緩和する「つながり」 ④自分でゼロから考えて完結させる「自我コントロール」 ⑤作業を繰り返した先に目標を達成できる「反復作業」。これらを意識して手づくりすることでメンタルが整い、充実感を得られるといいます。CraftJamのクラスを受講すると、講師の自然な声がけで参加者同士が交流するなど、この5つの要素が網羅された時間が展開され、終わるころには心がやすらぎ、気分がすっきり。続けることでメンタル強化が図れると評判なのです。
評判は一気に広がり、マッキンゼーやハーバード大学など、多くの企業や団体から「リモートワーク中の社員にクラスを提供したい」と依頼が舞い込み始めました。例えばマッキンゼーは、編みものや革細工づくりのクラスをセレクト。参加者の約7割が「より穏やかで平和な気持ちになり、インスピレーションを得た」と回答し、「チームのメンバーと時間や感動を共有することで、結束力が増した」など、賞賛の感想も寄せられたとのことです。
ノラさんに今後の展望を尋ねると「世界中でクラスを展開し、手づくりをウェルネス(心身共に健康な状態)の代名詞にしたい。ヨガや瞑想のように、手づくりが人間の健康的な日常にとって不可欠なものであることを世界中に広めたい」と語ってくれました。
ひょっとしたら近い未来、「今日はストレスが溜まったから、編みものをしに行こう」といった会話が、繰り広げられるのかもしれないですね。
池澤 崇
「好きなこと以外はやらない」というポリシーのもと、自由の国アメリカ・NYで日本文化スペースRESOBOXを運営中。趣味は登山と居合道とバイオリン。NYに住む日本男児3人でポッドキャスト「オールナイトニューヨーク」も配信中。ぜひ聴いてみてください。
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