パッチワークが教えてくれた針と糸を持つ楽しさ、布と遊ぶよろこび〜後編〜
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前回に引き続き、パッチワーク作家の松浦香苗さんのお話をお届けします。
今も昔も変わらない布遊びの楽しさ伝えたい
ご自身のパッチワークキルトの仕事を、「布で遊ぶ」と表現される松浦さん。布を切る時間も、どの布とどの布を合わせようかと迷う時間も、気が遠くなるような大作の制作期間も、松浦さんにとっては、すべてが心ときめく布遊びです。
「私の仕事は、すべて『布が好き』という気持ちが原点。布からたくさんの大切なことを教わったから、今度は私がそれをほかの方々に伝えたくてキルトを作っているようなところがあります。なかでも布を切る作業は大好きで、一期一会で手に入れた布を切り刻みながら、『この布、どこでどう使おうかな』などと考えるのは至福のひととき。眠れない夜も布を切るし、嫌なことがあったときも布を切ります(笑)。パッチワークキルトは、たとえ同じ型紙を使ったとしても、布の組み合わせによって印象がガラリと変わります。ほんの1ヵ所違うだけでも別物になってしまうから、同じものは二度と作れない。毎回、世界でただひとつだけのものになる。そこが大きな魅力だと思います」
華やかながらも洗練された大人っぽさが漂う、松浦さんならではの色合わせは唯一無二。そこに何かルールのようなものはあるのでしょうか。「パッチワークのメインパーツをひとつ決めたら、その中からまわりに合わせる色を選ぶこと。具体的には、メインの色よりも目立たない色を選べば全体的に美しく調和すると思います。あれもこれもと欲ばってしまうと、最終的に強い色合いになりがち。それはそれでおもしろくていいのですが、私自身は、おだやかなトーンの色合わせが好みです。また、キルトは生活の中で使うものですから、ご自身のお部屋のキーカラーをキルトのメインカラーと考えてみるなど、作品が完成したあとの環境を視野に入れることも大切です。あとは、四辺をぐるりと囲む「額縁」もポイント。額縁の完成度によって、作品全体の印象が左右されることもあるので、もしも作品として誰かに見てもらうためにキルトを作るなら、どうぞ額縁まで気を抜かずに作ってみてください」
現在、東京と京都の2拠点でパッチワークの教室を開いている松浦さん。生徒の存在は、松浦さんにとって「いい遊び仲間」のようだといいます。「パッチワークには作り手の個性がそのまま出ます。たとえ同じデザインでも、作り手の数だけ違う作品ができる。だから私の教室では、みんなで同じものを目指してその仕上がりを比べるのではなく、それぞれが自分らしい作品を探し、見つけていくのを見届けます。『キルトはむずかしい』と思っている方も多いですが、小さなものから始めればトライしやすいし、達成感もしっかり得られます。私の方でも、そういう教材をいろいろと工夫して用意しています。布と遊ぶおもしろさをたくさんの方に知ってもらえたらうれしいです」
コロナ禍では、初めてのリモート授業にもトライ。昨年にはネットショップもスタートしたりと、常に新しいことに挑戦されています。「手芸には、実際にさわってみなければわからない要素もたくさんありますが、これからも布遊びの楽しさを多くの方にお伝えするためには、いろんな可能性を探っていくことも大切だと思うようになりました。もしリモートでキルト作りを教えることができれば、歩行が困難な方やお出かけがむずかしい方でも自宅でキルトが楽しめるし、ネットショップがあれば全国に私の選んだ布をお届けできる。デジタルの世界は勉強することが多くて大変ですが、いい刺激になっています」
20代のころから、ずっと第一線でパッチワークキルトの世界を引っ張ってこられた松浦さん。今、改めて創作と向き合う上で、どんなことを感じていらっしゃるのでしょうか。「この仕事を始めて50年、大作を作りあげる体力がなくなったこともありますが、10年くらい前から小さな作品作りがおもしろくなりました。昔に比べると縫い目も粗くなっているなと思うこともありますが今の自分にできることをマイペースに楽しむ日々はとてもよいものです。私がこれまで味わってきた針と糸を持つしあわせな時間を、ひとりでも多くの方に味わっていただけたらと思っています。私自身も、これからも新鮮な気持ちで針と糸に向き合い遊んでいきたいと思います」
パッチワーク作家
松浦 香苗(まつうら かなえ)さん
1979年に『わたしのパッチワーク』(文化出版局)を出版後、パッチワーク作家の先駆者として多数の作品を発表。現在、東京と京都で教室を開催。2022年、オンラインショップをオープン。最新刊に『松浦香苗のニードルワーク・コレクション』(グラフィック社)。
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