パッチワークが教えてくれた針と糸を持つ楽しさ、布と遊ぶよろこび〜前編〜
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日本のパッチワーク業界を牽引(けんいん)し続けてきた、作家の松浦 香苗さん。洗練された唯一無二の世界観と、豊富な海外取材経験で培われた手工芸に対する造詣の深さにファンも多く、著書は現在42冊。作家としての生き方から、愛してやまない世界の手仕事、そしてこれからの活動について、たっぷりとお話を伺いました。
旅を通して魅せられた世界の布と針仕事
幼少期から布遊びが大好きで、小学生のころには『ジュニアそれいゆ』を見ながらお人形作りを楽しんでいたという松浦 香苗さん。
「昔から『なぜ?』が多い子どもでした。『赤毛のアン』も、ストーリーそれ自体より、村岡 花子さんが訳する手芸作品のディテールが気になって。『継ぎ物』って、『アイルランドの鎖模様』ってなんだろう? 『枯れ草を詰めたサシェ』っていったいどんなものだろう?と思っても、当時の日本には同じものがなかったから、いくら想像してもわからない。あとから本で調べると、『継ぎ物』はパッチワーク、『アイルランドの鎖模様』はアイリッシュチェーン、枯れ草はドライフラワーのポプリのことで、よい香りがする素敵なものなのだということがわかりました。こうして少しずつ知識を得ることはとても豊かで楽しく、ますます手芸への興味が深まっていきました」
さまざまな手芸を経て、パッチワークキルトの世界へと没入していった松浦さん。『SO-EN』『ミセス』などの雑誌で多くの連載に企画から加わり、数多くの作品を発表します。独特の感性が光る松浦さんのパッチワークキルトは評判を呼び、日本におけるキルトブームの先駆けに。また、『ノンノ』では世界各国の手仕事を取材。ご自身も造詣を深めながら、多くの読者に世界の手仕事の豊かさを伝えていきました。
「蚤の市を見てまわったり、作家を取材したりと、得がたい経験をさせていただきました。もちろん仕事ですから、ときには自分が好きなジャンルではないものも扱うのですが、そのおかげで自分の創作の幅がさらに広がったように思います。今でも、蚤の市めぐりはいちばんの趣味。私は美術館のガラスケースに展示されているような工芸品にはあまり興味がないんです。それよりもどうしようもなく心惹かれるのは、市井の人々の暮らしから生まれたささやかな手仕事。ぎこちない針跡や、ハギレをつなげた素朴なキルトを見ていると、それを作った人や使った人の過ごした時間が伝わってくる気がします」
世界の手仕事と出会う旅は、その後も松浦さんのライフワークに。アメリカでは小麦粉や飼料を入れていた布袋「フィードサック」に出合い、その独自性に夢中になったり、ヨーロッパでは階級制度に起因する手仕事の在り方の違いを肌で感じ、布の色や素材、柄など、あらゆる要素が密接に歴史と関わっていることを改めて実感したり。
布に対する新たな気づきや学びを重ねる中、旅先で出会ったヴィンテージの布の数々は、ひとつひとつに思い入れが詰まった宝物。そして帰国後は、パッチワークキルトの大切な材料として、松浦さんの感性のフィルターを通し、新たな作品へと生まれ変わります。洗練された独特の色合わせの中に漂う不思議なあたたかみは、まるで松浦さんの布に対する深い想いそのもののようです。
「旅先では、100年も前に作られたすばらしいパッチワークキルトにたくさん出会いました。上手下手は関係なく、眺めていると、キルトを作るよろこびや当時の暮らしの息づかいまでもが伝わってくる。私も先人たちのように、大切に集めた大好きな布と遊びながら、キルトを作る時間を楽しく過ごしていけたらと思っています」
続きは、後編にて。
パッチワーク作家
松浦 香苗(まつうら かなえ)さん
1979年に『わたしのパッチワーク』(文化出版局)を出版後、パッチワーク作家の先駆者として多数の作品を発表。現在、東京と京都で教室を開催。2022年、オンラインショップをオープン。最新刊に『松浦香苗のニードルワーク・コレクション』(グラフィック社)。
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