あふれ続ける好奇心ごと編みこんで~前編~

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自作の赤いニットと、太陽のように明るい笑顔がとてもお似合いな今村曜子さん。ニット作家として多方面で活躍しながら、画家としての顔も持つ多才なアーティストです。歳を重ねるごとにますます旺盛になってゆく好奇心と、「時間さえあれば何かを編んでしまう!」という編み物への熱い思いについて、たっぷりと伺いました。

歯を磨くように編み物をする日々

「朝起きたら、もう手が何かを編みたくてウズウズしているの。だから、まずは小さなものをひとつ編んでみる。私にとっては、歯磨きやストレッチと同じ感覚なんです」と笑いながら、取材チームに編んだばかりのミニきんちゃくをプレゼントしてくださった今村さん。アトリエのいたるところに作品が飾られていて、ひとつひとつが生き生きとした存在感を放っています。

 

300枚ものモチーフをつないだ大作のニットジャケット。

幼いころから、手芸が得意だった祖母に教わって、お人形の洋服を作ったり、古い洋服を切ってバッグを作ってみたり。型紙付きの洋裁雑誌を絵本代わりに眺めて育ち、中学生になるとクラスメイトから制作を頼まれるほどの腕前に。「ご飯を食べるように編み物をしていた」という少女時代をへて、卒業後は個人でオートクチュールメンズニットのブランドを立ち上げます。「着る人の顔の色に合わせて糸の色を選ぶ」というこだわりようで、「不思議とこのニットを着ると顔色がよく見える」「流行を気にせず着られる」と大ヒット。そんなとき、「技術はある程度身についたので、今度はセンスを磨きたい」と、心機一転アメリカへ。カリフォルニアで絵を学び、ニューヨークでは画家として活躍。13年という滞在期間をへて、再び日本へ。山あり谷ありの激動の人生で、どんなときも今村さんを支え続けたのは、大好きな編み物でした。

 

集中しすぎて時間を忘れてしまうことも多い、編み物用の作業机。

創作拠点を東京に移し、現在はニット作家として意欲的に活動中。クチュリエとのコラボレーションも多々あり、現在は「レース編みで咲かせる愛らしい花々 立体お花ドイリーの会」「編んで植物採集 ボタニカルモチーフかぎ針きんちゃくの会」など、新作からロングセラーまで4つのキットを監修しています。


仕事でデザインを考えなくてはいけないときも、あらかじめ編み図を用意することはいっさいなし。「私の場合、計画性よりも衝動性が大切。だから、まずは編んでみないと始まりません。編みながら考えるというよりは、手を動かしていると自然と新しいアイデアが湧いてきて、それを試すことで思ってもみなかったものが見えてくる。こうして完成したデザインは、自分にとっても新鮮で、すごくワクワクするんです」

 

書籍用に提供したデザインバッグや、個人的に制作したモチーフバッグがずらり。

心がけているのは、「これを自分でも作ってみたい!」と思ってもらえるような魅力を持ったデザインであることと、やさしいテクニックを効果的に使ったデザインであること。ひと目見て「かわいい!作りたい!」と思えるビジュアルと、パッと見はむずかしく思えても、「挑戦してみたら意外とできた!」という技術的な達成感。このふたつのポイントが、今村さんが監修するキットの人気の秘密なのかもしれません。

仕事でも、仕事でなくても、ほぼ毎日編み物をしているという今村さん。「編み物は自由表現。毛糸で自由に絵を描くような感覚です」と言うとおり、今村さんにとっては毎日が実践の場。「気に入った編み柄は何度も繰り返し編みたくなるので、周りからすればずっと同じものを編んでいるように見えるかもしれない。でも実際は同じものはひとつもないし、毎回新しい発見がある。とにかく楽しくて仕方がないんです」

 

コロンとしたフォルムが愛らしいミニきんちゃくは、すき間時間についつい編んでしまう最近のお気に入り。

多種多彩なアレンジを自由に楽しんでいる今村さんですが、決して忘れてはいけないのが基礎技術の大切さだといいます。 「自由表現の世界に入るためには、基礎を身につけることが大前提。私自身も、ニットのデザインを始める前に、まずは本に載っている伝統的なニットを編み図の通りに100着編みました。そして完全に技術をマスターしたと思えたときに、初めて自分流のアレンジに挑戦しました。無闇に伝統を壊さないこと、クラシックを大切にすること、これは何の分野においても大切なことだと思います。もちろん今でも、少しでも気になるところがあれば基礎から勉強し直します。先日も、基本の「一目ゴム編み」の勉強をしたところなんですよ」

続きは、後編へ。

ニット作家/アーティスト 今村 曜子
幼いころから手づくりに慣れ親しみ、1985年よりオリジナルニットの制作を始める。1989年に渡米し、カリフォルニア美術大学で美術を学ぶ。ニューヨーク滞在をへて帰国し、ニット作家として多数の作品を発表。著書に『メリヤスこま編みのあみこみバッグ』(アップルミンツ)ほか多数。

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