いじらしくていとおしい、世界にひとつだけの縫いぐるみ〜前編〜

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ほんのりとぼけてて、ちょっぴり切なくて、なんとも言えず愛くるしくて。その個性豊かな表情と唯一無二の存在感で多くの人から愛され続ける、そぼろさんの縫いぐるみたち。静かなのに不思議とにぎやかなアトリエで、創作にかける想いについてお聞きしました。

絵を描くように、手を動かす。

しょぼしょぼとした目もとに、やわらかな口もと。じっと見つめているとぎゅーっと胸が締め付けられるような、いとおしい表情とたたずまい。そぼろさんの手から生まれる縫いぐるみは、どの子も世界にただひとつ。似ているようでそれぞれ異なる、豊かな個性をまとっています。SNS上で定期的に開かれる「お迎え会」という名の販売会では、毎回お迎えを熱望する声が多数集まるため、抽選で「お迎え主」を決定する流れが定着しています。

右)そぼろさんの出張に同行することもあるコアラの「きのこ」。チェックのウールパンツがお似合い。

オーダーを受けてから作るのではなく、縫いぐるみが完成してから、その子たちひとりひとりの個性をていねいに紹介し、その上でお迎え先を募るスタイルです。「流れ作業的にはせず、一体完成したら、また次の一体へと取りかかります。集中力が必要だし、心が乱れていたら作れない。何度もやり直せない素材のときは、どこまで工程が進んでいようが、一度でも間違えればボツ。また一からやり直すので、とても時間がかかってしまいます」。

東京藝術大学で油画を専攻していたそぼろさん。縫いぐるみ作家としては異色の経歴です。向き合う対象は違っても、縫いぐるみをこしらえるという作業は、絵を描くときとよく似ているのだそうです。
「創作には、熱量はもちろんですが、ある程度の冷静さや客観性も必要です。惰性で作ることはないため、共通のセオリーのようなものはありません。毎回、頭の中に浮かんだイメージを現実のものにするために、『こういう表情にしたいからこの糸や生地を使おう』『刺しゅうの1針目はこの場所に刺そう』など、経験から生まれたたくさんの選択肢からその都度選び取っていきます。縫いぐるみの数だけこの作業が必要なので、起きている間はずっと考え続けていないと、数ある選択肢に直面したときに対応ができないんです」。

食卓にもさりげなくかわいい子たちが。奥の木枠は、かつて油絵を飾っていたもの。

たくさんの人を魅了してやまないそぼろさんの縫いぐるみ。均一ではない、趣深いニュアンスをたたえた表情や佇まいには、正解が用意されていないからこその美しさのようなものを感じます。

「私たちがそうであるように、ここで生まれる縫いぐるみたちも、それぞれ違ういびつな個性を持っています。たとえば私が作り続けている小さな縫いぐるみのシリーズに『埃星人』というものがあるのですが、彼らはゴミや糸クズのように、世間ではすみに追いやられそうにも見える、一見いびつな存在で。メインストリーム側にあるものばかりが重要視されがちな今の世の中に対しての反抗心のようなものも含めた表現として生まれたシリーズなのですが、彼らをSNSで紹介してみたら想像以上にたくさんの方から反響があり、愛していただけて。私がこしらえた埃星人たちが、お迎えして下さった方の感覚にふれて、その方の日常に潜り込んでいく。それがとてもうれしくて……。縫いぐるみは家電のように機能を追求するものではないけれど、私の中では日々アップデートしています。それは過去に比べてよりすぐれているという意味では決してなく、私が変わってゆく限り、生まれてくる子たちもまた変化していくということ。これからどんな子たちが生まれてくるのか自分でもわかりませんが、とても楽しみなことでもあるんです」。

後編では、そぼろさんのアトリエの様子をご紹介します。どうぞお楽しみに!

縫いぐるみ作家 そぼろ

1983年生まれ。東京藝術大学美術学部絵画科油画専攻卒業、同大学院修了。卒業後に「そぼろ」として活動を開始し、『そぼろのおとぼけぬいぐるみ』(誠文堂新光社)を出版。休業を経て、2017年ごろから現在の作風に。最新刊に『そぼろのふわもこ縫いぐるみチャーム』(文化出版局)。

Instagram:@sobokoara

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