手を動かし続ければ、新しい風が吹く|アッチコッチバッチ高橋彩子さん【後編】

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世界中から集められた民族衣装の端切れや装身具などを組み合わせて、世界にひとつのバッチを作る、「アッチコッチバッチ」の高橋彩子さん。前編に続き、後編もものづくりへの思いをお届けします。

素材が纏う気配を切って、繋げて

アッチコッチバッチの素材は、高橋さんが世界中を旅して集めた民族衣装の端切れや装飾品のパーツ。完成品のドレスなどは、どんなに美しくても買いません。完璧ではないもの、手を入れる余白のあるものだけを選んでは、大切に持ち帰ります。


「中国の刺しゅうは繊細で美しく、メキシコの刺しゅうは陽気でおおらか。素材も国によってさまざまな個性があるのがおもしろいです。アッチコッチというなまえの通り、ひとつのバッチには2カ国以上の素材を使うようにしています。ひとりで素材と向き合っていると、『この人の針仕事はていねいだなぁ、繊細な人なのかな』『この人はちょっと大ざっぱだなぁ』など、素材の向こうにある作り手の気配が伝わって来る。それらを繋ぎ合わせ、新しいものとして生まれ変わらせる。感覚を研ぎ澄ませるバッチ作りは、まるで筋トレのような時間です」

「用途や目的を押し付けない、役に立たないものを作りたい」と明言する高橋さん。ミシンは使わず、手縫いのみ。糸は黒一色で、裏面のピンも大量生産の流通品です。

「バッチが気取りすぎてしまうのは嫌なので(笑)。素材が特別だからこそ、それ以外のパーツはどこでも手に入るものを選んでいます」

猫のメーはかけがえのない相棒。


風通しのいいものを世に出し続けたい

バッチ作りは一期一会の旅のよう。ラフも完成予想図も描かず、ひたすら手を動かしながら、感性のおもむくままに進めていきます。

思いついたこと、気になったことは絵にして壁に貼って。とはいえ、実際にこの通りにバッチが仕上がることはほとんどないのだそう。


「絶対に思い通りにはいかないし、天からひらめきが降りてくる……なんて経験も一度もありません(笑)。ふと気づくと、大きすぎたり長すぎたり。でも、それこそが私が作る意味だと思うから、『バッチってこういうもの』という固定観念には囚われないようにしています」


今までに8000個以上はバッチを作っていますが、手もとにはただの一個も残っていないという高橋さん。
「作ったバッチの中には、当然思い入れの強いものもあります。だからといって、自分で使おうとは思わない。布にハサミを入れて、何かが動き出したのを感じたことが私の原点。だからバッチには常に風通しよく動き続けていてほしい。私のところで停滞せずに、新しい場所でどこまでも自由でいてほしい。バッチにも、そのバッチを取り巻く場所にも、気持ちいい風が吹くといいな。そう思いながら、毎日バッチを作り続けています」

アネット・メサジェやシェイラ・ヒックスの作品集、ジェフ・ウィニングハムの写真集、メキシコの少数民族の文化に触れられる手作りの本など、何度も見返すお気に入りの本たち。

アッチコッチバッチ

高橋 彩子(さえこ)さん

「日常でも非日常でも、ここにいてもどこにいても旅を感じていたい」をコンセプトに、タイ、中国、インド、アフガニスタン、メキシコ、スペインなどで出会った世界中の布や装身具を組み合わせ、ひとつひとつ手縫いでバッチを作っている。相棒は猫のメー。


Instagram:bacchiworks_saeko

HP:www.saekotakahashi.com/

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